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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

主導権

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 HPが足りない。
 目の前の光景を見て、そんなことを思った。

「あーあ、どっかの誰かさんのせいで体が痛いんですけど」
「まぁ。人の婚約者を奪うような女に痛覚があったなんて驚きね」
「何それ。血も涙もないとか言いたいわけ?」
「ついでに礼儀もないと」

 私を挟んで口論を繰り広げているマリス嬢とリンス嬢。
 マリス嬢が何か言えば、リンス嬢が皮肉気味に返し、それにまたマリス嬢が噛みつく。以下、エンドレス。
 正直、とりつく島もない。

 あー、お腹すいたなぁ。
 結局、胃が痛くてお昼ご飯もスイーツも食べられなかったし。回復アイテムも休憩スポットも挟まずにボス戦は無理ゲーじゃない?
 うぅ・・・・・・帰りに医務塔寄ろう。カルム先生に胃薬を処方して貰おう。
 暫く胃を労ろうと決めた私は改めて目の前の修羅場に向き合う。
 一晩経ってある程度冷静になったのか、マリス嬢とリンス嬢は部屋に入ってきて顔を見るなり、ガンつけ始めたけど掴み合いにはならなかった。
 一先ず、第二のキャットファイトは防げた。これで第一関門は突破したと言っていいだろう。
 けど、話は進まない。
 二人は一向に言い合いを止める気配はないし、さっきから口を挟もうとしてるけど、スルーされてる。
 んー、どうしたものか。
 私が腕を組んで頭の中で木魚をポクポク叩いている間にも二人は勝手にヒートアップしていく。

「もー、腹立つ! アンタがゲーム通りの悪役令嬢だったら嫌がらせをネタにしてどうとでも出来たのに! やたらギリギリのラインをねちねちねちねち攻めてきて!」
「ふん。そんなバレたら速攻終わるような真似をするわけがないでしょう。私はゲームのリンス程阿保じゃないわよ」
「人前でビンタかましといて何言ってんのよ! お陰で面倒な事になったじゃない!」
「やり返して来たんだから、お相子でしょ。貴女こそ厄介なところに飛んで行ってるんじゃないわよ」
「投げたのはアンタでしょーが!!!」

 ぎゃいのぎゃいのと姦しい。
 女が三人寄ればなんとやら。騒いでるのは二人だけど。
 てーか、厄介なところって私のことかい。酷い言われ様だなー。まぁ、私じゃなかったらもう少しましな状況だったろうから否定はせんが。

 しかし、ふむ。これは使える。
 二人の話を聞いて、私は簡単に二人に割り込む方法を見つけた。
 会話の主導権を握るには相手の不意をついて、自分のペースに引き込むのがいいってお父様も言ってたし、その際に相手がこちらが知らないだろうと思っていることを話題にするのが効果的って下のお兄様が言ってた。

 そして、私にはそれがある!
 こっからは私のターンだ! こういう台詞言ってみたかった! いや、言ってないけど。脳内だからいいよね!

「あのー、マリス嬢、リンス嬢」

 声を掛けてみる。

 ぎゃーぎゃー!

 うん、聞こえてない。まずは聞いて貰える声量調整だな。

「おーい」

 ぎゃーぎゃー!

「おーいっ」

 ぎゃー! ぎゃー!

「おおーいっ」

 ぎゃんぎゃん! わんわん!

「おおーいっ!」

 がー! ぐあー! こけこっこー!

 んー、ダメか。よし、もう一声!

「もしもぉおおおし!!!!」

「「何よ!」」

 二人が鬼の形相でこちらを向いたが、このチャンスに怯むわけにはいかない。

 私はこほんと、咳払いをしてから二人によぉく聞こえるように言った。

「『祝愛のマナ』」

「「!」」

 それを聞くと二人がピタリと止まった。
 目を見開いてこっちを見ている。
 ふふふ、流石に三人目がいるとは思ってなかったな?
 私はこれだけでも内心勝ち誇ってた。よっしゃあ! ぶっちゃけ、私はこれで満足したけど、いい加減本題に入らなくてはならない。
 私は二人がぽかーんとしている内に間髪入れずに続けた。

「お心当たりがありますよね? ずっとそのお話をしていたのですから。ところで、そろそろ私も会話に混ぜて下さいませんか?」

 完璧お嬢様スマイルでそう言い、二人を見る。
 なんとか会話の流れを変えることが出来た。
 さぁ、ここから本番だ。
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