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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

物置部屋の二人

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 謹慎生活をエンジョイしている人を初めて見た。
 ギーシャ王子はくしくしとハムスターみたいに顔を擦って足を床に下ろした。

「それで用件はなんだ」
「単刀直入に言いますけど、ギーシャ王子達の処罰を私が決めることになりまして、まぁ、事情聴取しに来ました」
「ふーん」

 ギーシャ王子はまるで他人事のように私の話を聞いている。

「ギーシャ王子、真面目に聞いて下さい! マリス嬢とリンス嬢の私闘は王子がいきなり婚約破棄を宣言したことにあるんですよ」

 私が語気を強めてそう言うと、ギーシャ王子はきょとんとした。

「何故、それがマリスとリンスがあんなことをすることに繋がるんだ?」
「・・・・・・は?」

 この人、今なんて言った?
 ギーシャ王子は心底不思議そうな顔をしている。その表情は演技でもなんでもない。

「なんでって、本当に分かってないのですか?」
「だから何がだ」

 ああ、ダメだ。この人は何も分かっていない。

 う~、頭が痛い。でも、うん。ギーシャ王子はこういう人だったよなぁ。
 ギーシャ王子は何も変わっていない。
 久しぶりに話してそれを実感した。

「リンス嬢は貴女の婚約者なんですよ」
「知っている。リンスも可哀想だな。侯爵令嬢というだけで俺なんかと婚約させられて。けど、俺はマリスと出会えて、あの子を好きになることが出来たから、もう大丈夫だ」
「な──」

 何も大丈夫じゃない!
 そう怒鳴りそうになって、限界ギリギリのところで留まる。

 あー! なんでそうなる!?
 ギーシャ王子の頭の中どうなってんの!?
 なんで婚約破棄することがリンス嬢のためみたいに言ってんの!?
 え? ひょっとしてリンス嬢からの好意に気づいてない? あんだけ秋波送られてたのに?
 ぐあーっ、でもギーシャ王子なら絶対あり得るー!

「はぁー」
「どうしたんだ?」
「いえ、ちょっと精神統一を」

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
 冷静に、冷静に。
 何事も順を追って解決しなくては。

「ギーシャ王子はマリス嬢が好きなのですよね?」
「ああ」
「だからリンス嬢との婚約を破棄しようとしたんですよね?」
「その通りだ」

 うーん。まあ、そうなんだよなぁ。
 あの時ギーシャ王子がしたのは婚約破棄宣言だけ。
 あとはキャットファイトに注目も話題もかっ拐われてたし。

 他に何を訊けば──。

 あ。

 私はふと、一つの疑問を思い出した。
 それは前世から、ずっとギーシャ王子に抱いていた疑問。
 私はそれをギーシャ王子に訊ねてみることにした。

「ギーシャ王子は何故、マリス嬢を好きになったんですか?」

 ずっと不思議に思っていた。
 ゲーム内でマリス嬢──というか、ヒロインと初めて出会った時、ギーシャ王子はヒロインに対して全く興味を示していないように見えた。
 といっても、立ち絵だったし、表情とかが読めたわけじゃないけど。
 でも、初対面の時は結局ギーシャ王子は一言も喋らなかった。
 なのに次の登場時には普通に話してくれてた。
 その間にギーシャ王子の心情に一体どんな変化があったのだろうとプレイしてた時に首を傾げたものだ。
 そして、ゲーム同様にギーシャ王子はヒロイン──マリス嬢に好意を抱いた。
 何故、マリス嬢なのか。
 それを訊くことはある意味、婚約破棄の根底に触れることだと思う。

 ギーシャ王子は私の問いに迷いも淀みもなく答えてくれた。
 私は内心、顔やヒロイン補正的な理由だったらどうしようと思ってたけど、ギーシャ王子から返ってきた言葉は私の想像の斜め上をいくものだった。

「マリスは──ギルハードに笑いかけてたんだ」
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