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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
中庭談話
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「全く、てへっじゃないだろう」
「は~い」
呆れて嘆息する兄騎士を前にしてもキリくんは態度を崩さない。
「もう少しずれていたらミリア嬢に当たっていたんだぞ。反省しなさい」
「えー、謝ったんだからいいじゃないですかぁ・・・・・・ん? あれ? 僕謝ったっけ?」
キリくんはあれれ? と、自分の記憶を辿っているよう。
うん、君謝ってないからね。
キリくんも気づいたらしく、最敬礼よりも深々と頭を下げてきた。
「謝ってませんでした。ごめんなさい、ミリア先輩。許して?」
そう言ってキリくんは胸元で手を組んで、上目遣いでキラキラビームを送ってくる。
かわいいな、こんにゃろ。
一歩間違えば御陀仏確定のとんでも事件だったけど、仕方ない。許してあげよう。かわいいは正義だからね。
「何事もなかったわけだし、いいよ」
「ミリア嬢、私の教え子が失礼をしました」
「いえ、気になさらないでください。驚きましたけど、見ての通り無傷ですから」
申し訳なさそうにしているギルハード様の前でくるりとターンをする。ドレスの裾がふわりと浮かび上がってきっと綺麗だろう。着ている身だから見れないけど。そうして見せたのは当然ドレスを見せるためではなく、ドレスも体も破けたり、傷ついてないと伝えるため。
槍はギリギリとはいえ、私の真正面に降って来たんだから、損傷なんてあるはずがない。
平気だと伝わったようで、ギルハード様も心なしか安堵の表情を浮かべているように見える。
その隣では謝ったからおしまいといったふうにキリくんがけろりとした顔で刺さったままだった槍を抜こうとしている。
「ほら! やっぱりミリア先輩は罪悪感抱いたフリしなくても普通に謝っただけで許してくれるから楽でいいですねー。楽チン先輩です! んしょ! 兄騎士様ぁ~、この槍全然抜けませんー!」
楽チン先輩・・・・・・。ひょっとして私はディスられているのだろうか・・・・・・?
というか、罪悪感抱いたフリって、フリって。
はっきり言っちゃったよ。
キリくんはんっしょ、んっしょと槍を抜こうとしているが一向に抜ける気配がない。
槍は十字の形をしているため、口金部分に足をかけて槍を斜めにして自重で刃を地面から取り出そうとしてるけど、見た目通り体重が軽いのだろう。びくともしない。
「お前は大して腕力がないのにどうして、さっきいた場所からここまで槍を飛ばせたんだ」
そう言いながらギルハード様は、視線でキリくんに退くよう促してから、黒い革手袋に覆われた右手で槍をあっさりと引き抜いた。
おお、すごい! キリくんがあんなに苦戦してたのに、片手でいともあっさりと!
「さっすが、兄騎士様ですねぇ。よっ、レイセン王国一!」
キリくんが天晴れと言わんばかりの拍手喝采をギルハード様におくる。
ギルハード様は気にせず、槍をキリくんに手渡した。槍はキリくんの身長よりも大きく、更に剣などよりも重いため少しよろけていた。
「わ、わわっ!」
「大丈夫?」
槍を抱えたまま後ろに倒れそうになったキリくんの肩を掴んで支える。お、結構ずしって来たから、あの槍相当重いな。
「はぁい。大丈夫です! ありがとうございます。ミリア先ぱ──あ」
「あっ」
「・・・・・・」
キリくんが振り向いて私にお礼を言った瞬間、キリくんの手から槍が飛んでった。
何をどうしたらそうなるのか。前世の世界の科学者が見たら目を回しそうなくらいに高く飛んだ。
放物線を描きながら落下していく槍をギルハード様が無言でキャッチする。
ナイスキャッチ! これで第二のびっくり犠牲者は防げた。
にしても──
「何をどうしたらこうなるんだ」
「何をどうしたらこうなるの」
ギルハード様とぴったり息があった。
本当になんであんなに飛ぶんだろう?
「それはこっちが訊きたいです」
キリくんが一瞬真顔になってそう答えた。
目がどこか遠いところを見ている。
本人も武器が手からすっぽ抜ける謎体質には悩んでいるのだ。
キリくん、将来は絶対に騎士になりたいっていつも言ってるもんね。この体質はそのための弊害にしかならない。
武器が飛んでっちゃう体質は乙女ゲームでも描かれていた。ヒロインや他の攻略対象が餌食になって、ギャグチックに悲鳴をあげる定番の日常シーン。その時は正直、攻略対象とかの反応に笑ってたけど、リアルだと全然笑えない。
何かしてあげられたらいいんだけど、この謎体質についてはゲームで何も言及されなかった。
「どうして、正直持つのもキツいでか槍があんなに飛ぶんでしょー?」
「わからんな。にしても、槍は飛び道具としても使えるが・・・・・・お前の場合、意識的に投げると全く飛ばないからな」
「腕の筋肉もあまりないですしー」
意識的に投げれば飛ばず、無意識で投げればどこに行くか分からない。どっちにしろ今のままでは戦闘で使えないだろう。
キリくんは力こぶを作るポーズで二の腕を触って、がっくりと肩を落とす。幼い少年のような体つきはキリくんくらいの年の男の子にとっては喜ばしいものではないのだろう。
「お前は人より体の成長が遅いからな。まだこれから伸びるだろう。筋肉だって鍛えればつく。今度、整体学者のグルド先生にキリにあったトレーニング法を教えてもらおう」
「兄騎士様もついて来てくれますか?」
「お前の兄騎士として私も聞いておくのは当たり前だろう」
「やったー!」
ギルハード様の励ましにキリくんがバンザーイと嬉しそうな声が上がる。
相変わらず仲いいなぁ。
「そういえば、ミリア嬢はどちらへ? この先は蕾宮ですが・・・・・・ひょっとして、ギーシャ王子の元に行かれるのですか?」
「はい。所用がありまして」
それだけ言って、後は微笑んで見せる。
詳細は敢えて伏せた。だって、ギルハード樣はギーシャ王子の騎士だからね。私がギーシャ王子達の卒業パーティーの件で処罰を決める役を任されたとは言いにくい。
ギルハード様のギーシャ王子に対する忠誠心はダイヤモンドより固く、揺るがない。
学生の身でありながらすでに騎士の称号を持ち、騎士団でも恐れられているギルハード様がギーシャ王子に剣を捧げた時は王都がひっくり返りそうなほどの大事として暫く噂になった。
いずれ、かの三剣聖を越える逸材と呼ばれながらも、強面と特異な体質のせいで誰も声をかけられず、主君を持たなかったギルハード様が第三王子の騎士になった。その経緯は今だ明かされていない。
ギルハード様はとても真面目な方だから私の進路を邪魔してくることはないだろうけど、やっぱり教えない方がいいと思ったので口をつぐんだ。
「そうですか」
恐らく、ギルハード様の耳にも先日の件は耳に入っているのだろう。
少し怪しまれているのかもしれない。
けれどギルハード様はその件に触れて来ないので私はお嬢様スマイルを崩さず、このまま誤魔化すことにした。
しかし、ここには先日の一件を知る者がもう一人いたのだ。
「ひょっとして昨日の卒業パーティーでのマリス先輩とリンス先輩の私闘の件ですかー? 確かあれってギーシャ王子がリンス先輩との婚約破棄を宣言したから起こったんですよね?」
キリくんが両手の人差し指をマリス嬢とリンス嬢に見立ててあの騒ぎの内容を簡潔に説明してくれた。
「キリくんもあの場にいたの?」
「はい。だって美味しいものいっぱい出るじゃないですかー。あ、勿論、先輩におめでとうって言おうとも思ってたんですよ? でも、ミリア先輩僕がご飯食べてる間に気絶しちゃったから言えなかったんです。だから今言いますね。ミリア先輩、ご卒業おめでとうございます」
「・・・・・・ありがとう」
辛うじてお礼の言葉を言うことが出来た。
正直、現状なにもめでたくないけどね。
正式な式典であり、全校生徒の出席が義務づけられている卒業式と違い、卒業パーティーは自由参加型だ。一二年生も出入りは自由。だからキリくんがいても不思議じゃないけど、私が気絶した時にご飯食べてたって・・・・・・あのキャットファイト中も食べてたんだろうなぁ。メンタル強い。
「でも、ちょっとびっくりしまたしたね。マリス先輩って取っ組み合いの喧嘩をするような人には見えなかったから」
「キリくん、マリス嬢のこと知ってるの?」
「知ってますよー。何度か校内で会ってお喋りしました。正直苦手だったんですけど」
珍しくキリくんが苦笑いをしている。
誰に対しても態度を変えないでマイペースに接するキリくんが苦手意識を持つなんて珍しい。
マリス嬢とは一体どんな御仁なのか?
「なーんて言うか、時々行動を読まれているんじゃないかって気がして不気味なんですよね。それになんか一緒にいるともにょもにょするっていうか──あー! 上手く言えない! 痒いところに手が届かないみたいで気持ち悪いー! あ、兄騎士様もマリス先輩と話したことありますよね? だったらこの気持ち分かりませんかっ」
「確かに、足を運んだ先にマリス嬢がいたということは何度かあったが・・・・・・いつも軽い世間話をしただけだし、偶然だろう。確かにマリス嬢には他の者と違うものを感じることがあるが──それはマリス嬢固有の魔力によるものじゃないか?」
「そうですかねー?」
キリくんが納得がいってないように頭を捻る。
私はギルハード様の言葉が気になった。
「待ってください。ギルハード様もマリス嬢とお話したことがあるのですか?」
「はい。高等部の敷地やギーシャ王子に会いに王宮に来られた際に何度か」
成程。今まで観察してたけどマリス嬢がギルハード様と話した姿は見ていないと思ってたけど、高等部や王宮でのことだったのか。なら見覚えがないのは当然だ。流石にストーキングしてまで観察はしていないから。
でもキリくんだけじゃなく、ギルハード様まで。
いや、立場上ギーシャ王子のルートにギルハード様は出てくるから、この場合はキリくんとの接触に違和感を感じる。
転生者のヒロインが攻略対象に接触する。その心は・・・・・・逆ハー狙いとか?
や、確かにゲームではそのエンドもあったけどね?
個性的なキャラクターが勢揃いしてユーザーの間では混沌ENDとも呼ばれてたけど。
んー、そういやクラスメイトの攻略対象とも親しげに話しているところを見たなぁ。やっぱそうなのかな?
マリス嬢の真意を測りかねているとキリくんが口を開いた。
キリくんのマリス嬢に対する印象を聞いた後での言葉だったから、私の心の中には一つの言葉しか浮かばなかった。
「でも、マリス先輩って少しミリア先輩に似てますよねー」
・・・・・・解せぬ。
「は~い」
呆れて嘆息する兄騎士を前にしてもキリくんは態度を崩さない。
「もう少しずれていたらミリア嬢に当たっていたんだぞ。反省しなさい」
「えー、謝ったんだからいいじゃないですかぁ・・・・・・ん? あれ? 僕謝ったっけ?」
キリくんはあれれ? と、自分の記憶を辿っているよう。
うん、君謝ってないからね。
キリくんも気づいたらしく、最敬礼よりも深々と頭を下げてきた。
「謝ってませんでした。ごめんなさい、ミリア先輩。許して?」
そう言ってキリくんは胸元で手を組んで、上目遣いでキラキラビームを送ってくる。
かわいいな、こんにゃろ。
一歩間違えば御陀仏確定のとんでも事件だったけど、仕方ない。許してあげよう。かわいいは正義だからね。
「何事もなかったわけだし、いいよ」
「ミリア嬢、私の教え子が失礼をしました」
「いえ、気になさらないでください。驚きましたけど、見ての通り無傷ですから」
申し訳なさそうにしているギルハード様の前でくるりとターンをする。ドレスの裾がふわりと浮かび上がってきっと綺麗だろう。着ている身だから見れないけど。そうして見せたのは当然ドレスを見せるためではなく、ドレスも体も破けたり、傷ついてないと伝えるため。
槍はギリギリとはいえ、私の真正面に降って来たんだから、損傷なんてあるはずがない。
平気だと伝わったようで、ギルハード様も心なしか安堵の表情を浮かべているように見える。
その隣では謝ったからおしまいといったふうにキリくんがけろりとした顔で刺さったままだった槍を抜こうとしている。
「ほら! やっぱりミリア先輩は罪悪感抱いたフリしなくても普通に謝っただけで許してくれるから楽でいいですねー。楽チン先輩です! んしょ! 兄騎士様ぁ~、この槍全然抜けませんー!」
楽チン先輩・・・・・・。ひょっとして私はディスられているのだろうか・・・・・・?
というか、罪悪感抱いたフリって、フリって。
はっきり言っちゃったよ。
キリくんはんっしょ、んっしょと槍を抜こうとしているが一向に抜ける気配がない。
槍は十字の形をしているため、口金部分に足をかけて槍を斜めにして自重で刃を地面から取り出そうとしてるけど、見た目通り体重が軽いのだろう。びくともしない。
「お前は大して腕力がないのにどうして、さっきいた場所からここまで槍を飛ばせたんだ」
そう言いながらギルハード様は、視線でキリくんに退くよう促してから、黒い革手袋に覆われた右手で槍をあっさりと引き抜いた。
おお、すごい! キリくんがあんなに苦戦してたのに、片手でいともあっさりと!
「さっすが、兄騎士様ですねぇ。よっ、レイセン王国一!」
キリくんが天晴れと言わんばかりの拍手喝采をギルハード様におくる。
ギルハード様は気にせず、槍をキリくんに手渡した。槍はキリくんの身長よりも大きく、更に剣などよりも重いため少しよろけていた。
「わ、わわっ!」
「大丈夫?」
槍を抱えたまま後ろに倒れそうになったキリくんの肩を掴んで支える。お、結構ずしって来たから、あの槍相当重いな。
「はぁい。大丈夫です! ありがとうございます。ミリア先ぱ──あ」
「あっ」
「・・・・・・」
キリくんが振り向いて私にお礼を言った瞬間、キリくんの手から槍が飛んでった。
何をどうしたらそうなるのか。前世の世界の科学者が見たら目を回しそうなくらいに高く飛んだ。
放物線を描きながら落下していく槍をギルハード様が無言でキャッチする。
ナイスキャッチ! これで第二のびっくり犠牲者は防げた。
にしても──
「何をどうしたらこうなるんだ」
「何をどうしたらこうなるの」
ギルハード様とぴったり息があった。
本当になんであんなに飛ぶんだろう?
「それはこっちが訊きたいです」
キリくんが一瞬真顔になってそう答えた。
目がどこか遠いところを見ている。
本人も武器が手からすっぽ抜ける謎体質には悩んでいるのだ。
キリくん、将来は絶対に騎士になりたいっていつも言ってるもんね。この体質はそのための弊害にしかならない。
武器が飛んでっちゃう体質は乙女ゲームでも描かれていた。ヒロインや他の攻略対象が餌食になって、ギャグチックに悲鳴をあげる定番の日常シーン。その時は正直、攻略対象とかの反応に笑ってたけど、リアルだと全然笑えない。
何かしてあげられたらいいんだけど、この謎体質についてはゲームで何も言及されなかった。
「どうして、正直持つのもキツいでか槍があんなに飛ぶんでしょー?」
「わからんな。にしても、槍は飛び道具としても使えるが・・・・・・お前の場合、意識的に投げると全く飛ばないからな」
「腕の筋肉もあまりないですしー」
意識的に投げれば飛ばず、無意識で投げればどこに行くか分からない。どっちにしろ今のままでは戦闘で使えないだろう。
キリくんは力こぶを作るポーズで二の腕を触って、がっくりと肩を落とす。幼い少年のような体つきはキリくんくらいの年の男の子にとっては喜ばしいものではないのだろう。
「お前は人より体の成長が遅いからな。まだこれから伸びるだろう。筋肉だって鍛えればつく。今度、整体学者のグルド先生にキリにあったトレーニング法を教えてもらおう」
「兄騎士様もついて来てくれますか?」
「お前の兄騎士として私も聞いておくのは当たり前だろう」
「やったー!」
ギルハード様の励ましにキリくんがバンザーイと嬉しそうな声が上がる。
相変わらず仲いいなぁ。
「そういえば、ミリア嬢はどちらへ? この先は蕾宮ですが・・・・・・ひょっとして、ギーシャ王子の元に行かれるのですか?」
「はい。所用がありまして」
それだけ言って、後は微笑んで見せる。
詳細は敢えて伏せた。だって、ギルハード樣はギーシャ王子の騎士だからね。私がギーシャ王子達の卒業パーティーの件で処罰を決める役を任されたとは言いにくい。
ギルハード様のギーシャ王子に対する忠誠心はダイヤモンドより固く、揺るがない。
学生の身でありながらすでに騎士の称号を持ち、騎士団でも恐れられているギルハード様がギーシャ王子に剣を捧げた時は王都がひっくり返りそうなほどの大事として暫く噂になった。
いずれ、かの三剣聖を越える逸材と呼ばれながらも、強面と特異な体質のせいで誰も声をかけられず、主君を持たなかったギルハード様が第三王子の騎士になった。その経緯は今だ明かされていない。
ギルハード様はとても真面目な方だから私の進路を邪魔してくることはないだろうけど、やっぱり教えない方がいいと思ったので口をつぐんだ。
「そうですか」
恐らく、ギルハード様の耳にも先日の件は耳に入っているのだろう。
少し怪しまれているのかもしれない。
けれどギルハード様はその件に触れて来ないので私はお嬢様スマイルを崩さず、このまま誤魔化すことにした。
しかし、ここには先日の一件を知る者がもう一人いたのだ。
「ひょっとして昨日の卒業パーティーでのマリス先輩とリンス先輩の私闘の件ですかー? 確かあれってギーシャ王子がリンス先輩との婚約破棄を宣言したから起こったんですよね?」
キリくんが両手の人差し指をマリス嬢とリンス嬢に見立ててあの騒ぎの内容を簡潔に説明してくれた。
「キリくんもあの場にいたの?」
「はい。だって美味しいものいっぱい出るじゃないですかー。あ、勿論、先輩におめでとうって言おうとも思ってたんですよ? でも、ミリア先輩僕がご飯食べてる間に気絶しちゃったから言えなかったんです。だから今言いますね。ミリア先輩、ご卒業おめでとうございます」
「・・・・・・ありがとう」
辛うじてお礼の言葉を言うことが出来た。
正直、現状なにもめでたくないけどね。
正式な式典であり、全校生徒の出席が義務づけられている卒業式と違い、卒業パーティーは自由参加型だ。一二年生も出入りは自由。だからキリくんがいても不思議じゃないけど、私が気絶した時にご飯食べてたって・・・・・・あのキャットファイト中も食べてたんだろうなぁ。メンタル強い。
「でも、ちょっとびっくりしまたしたね。マリス先輩って取っ組み合いの喧嘩をするような人には見えなかったから」
「キリくん、マリス嬢のこと知ってるの?」
「知ってますよー。何度か校内で会ってお喋りしました。正直苦手だったんですけど」
珍しくキリくんが苦笑いをしている。
誰に対しても態度を変えないでマイペースに接するキリくんが苦手意識を持つなんて珍しい。
マリス嬢とは一体どんな御仁なのか?
「なーんて言うか、時々行動を読まれているんじゃないかって気がして不気味なんですよね。それになんか一緒にいるともにょもにょするっていうか──あー! 上手く言えない! 痒いところに手が届かないみたいで気持ち悪いー! あ、兄騎士様もマリス先輩と話したことありますよね? だったらこの気持ち分かりませんかっ」
「確かに、足を運んだ先にマリス嬢がいたということは何度かあったが・・・・・・いつも軽い世間話をしただけだし、偶然だろう。確かにマリス嬢には他の者と違うものを感じることがあるが──それはマリス嬢固有の魔力によるものじゃないか?」
「そうですかねー?」
キリくんが納得がいってないように頭を捻る。
私はギルハード様の言葉が気になった。
「待ってください。ギルハード様もマリス嬢とお話したことがあるのですか?」
「はい。高等部の敷地やギーシャ王子に会いに王宮に来られた際に何度か」
成程。今まで観察してたけどマリス嬢がギルハード様と話した姿は見ていないと思ってたけど、高等部や王宮でのことだったのか。なら見覚えがないのは当然だ。流石にストーキングしてまで観察はしていないから。
でもキリくんだけじゃなく、ギルハード様まで。
いや、立場上ギーシャ王子のルートにギルハード様は出てくるから、この場合はキリくんとの接触に違和感を感じる。
転生者のヒロインが攻略対象に接触する。その心は・・・・・・逆ハー狙いとか?
や、確かにゲームではそのエンドもあったけどね?
個性的なキャラクターが勢揃いしてユーザーの間では混沌ENDとも呼ばれてたけど。
んー、そういやクラスメイトの攻略対象とも親しげに話しているところを見たなぁ。やっぱそうなのかな?
マリス嬢の真意を測りかねているとキリくんが口を開いた。
キリくんのマリス嬢に対する印象を聞いた後での言葉だったから、私の心の中には一つの言葉しか浮かばなかった。
「でも、マリス先輩って少しミリア先輩に似てますよねー」
・・・・・・解せぬ。
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