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婚約破棄と求婚

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「お前との婚約は破棄する!」

「じゃあ、俺と婚約しない?」

「「うわっ!?」」

 婚約者から婚約破棄を突きつけられていると、脇から突然現れた男に求婚された。

「え? 王子殿下?」

「な、殿下! 取り込み中ですので、今は──」

「うん。だから、婚約破棄するんだろう? だったら俺と婚約してよ」

 王子が彼女の手を取って言う。

「いいですよ」

「おいっ!?」

 あまりにもあっさりと受け入れたため、婚約者が目玉が飛び出しそうな勢いで思わずつっこむ。
 その様子に彼女は半眼になった。

「何ですか、婚約破棄したいんでしょ?」

「あ、ああ」

「ならいいじゃないですか。貴方は婚約破棄出来て、私は玉の輿に乗れる。どっちもハッピーでしょ?」

「いや、そうだが・・・・・・」

「じゃあ、行こうか」

「はい。王子様」

 あははうふふと笑いながら、二人は去って行った。
 最初の威勢はどこへやら。ぽつん、と取り残された婚約者。

「何なんだ・・・・・・何なんだこれはぁああああああっ!!?」

 疾風怒濤の急展開に、完全に置いてきぼりにされた婚約者は、そう叫ぶことしか出来なかった。










「ありがとうございました」

「ん? 何が?」

 婚約者の姿が見えなくなった場所まで来ると、彼女が王子にお礼を言う。

「私が恥をかかないように、あんな無茶苦茶なこと言ってまで助けてくれたのでしょう? ありがとうございます」

 婚約者に他に女がいることは知っていた。学内で噂になっていたから。
 だから、このまま婚約破棄をされれば、彼女は婚約者に捨てられた女と影で笑われていただろう。
 しかし、今となってはあの王子の求婚までの一連の流れの方が衝撃的すぎて、婚約破棄の話題など霞んでしまうだろう。
 王子に求婚された時には驚いたが、すぐさまこれは助け船だと理解した彼女は、王子の話に乗った。
 おかげでこうやってあの場から逃げ出すことが出来た。

 その筈なのに、何故か王子は豆鉄砲を食らったような顔になっていた。

「えーと、ひょっとして冗談に思われている?」

「はい? ──殿下?」

 王子の次の動作に、彼女は目を瞠った。
 一国の王子が、自分の前に膝をついていたから。

 跪いた王子は、彼女を見上げると、その目を真っ直ぐに見つめて彼女の手の甲へ口づけを落とした。

「──っ! な、何を──」

 その甘い行為に、彼女は体を跳ね上げ驚いた。

 林檎のようになった彼女に、王子は告げる。

「俺は本気だよ。俺と結婚してください」

「──ふぇ?」



 その後の彼女の記憶は曖昧で、自分が王子の本気の求婚にどう答えたかは覚えてないそうだ。

 ──ただひとつ言えるのは。



 翌日、彼女は一つの婚約破棄と、一つの婚約をしたと言う話である。
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