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追いかけっこの勝者
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「待ってください!」
この世に待てと言われて待つ方が、どれくらいいらっしゃるのでしょう?
それでも私はそう叫ぶしかありませんでした。
流石と言いますか、学園中のお掃除をしてらっしゃる清掃員さんは、校内の構造をよく把握されているようで、すいすいとアメンボのように素早く駆け抜けて行きます。休日というのもこちらには災いしました。生徒のいない校内には走るスピードを緩めるような障害物はありません。
このままでは校外へ逃げられてしまいます。
「待って────!」
「しつけーな・・・・・・おら!」
「え? わっ、きゃあああっ!」
なかなか撒けないことに業を煮やされたのか、清掃員さんはなんと、こちらに向かって油を撒いてきました! 常備してるんですか、油!?
なんて言ってる場合ではありません!
私の足は油で出来た水溜まりに思いっきり嵌まってしまい、そのまま足を滑らせてしまいます。
このまま転倒して犯人には逃げられてしまい、よもやこれまで! と思いましたが、ここで奇跡が起きたのです。
「はっ! これでもう──って、は? はぁっ!?」
「きゃあああああっ!!」
「うわぁあああああ!?」
偶然にも油で滑った私の体は高速スピンをしながらも転倒することなく、むしろスピードアップして清掃員さんに迫り、最終的に清掃員さんを弾き飛ばしてしまいました。
なんたる奇跡! これは大チャンスです!
──と、言いたいところなのですが──。
「あ・・・・・・あぅ・・・・・・めが・・・・・・目が回ります~」
勢いよく回転し過ぎたせいで目が回ってしまいました!
清掃員さんも倒れ伏してますが、私も起き上がれません。
あ、ああぁ、天井が回っているようですし、床が揺れているような気がして、船の上にいるかのようです。
はっきり申し上げまして、船酔いに似た感覚でとっても気持ち悪いです。
「う、ぐぅ・・・・・・! こんなところで捕まってたまるかよっ」
あ! 清掃員さんが肘をついて起き上がろうとしています!
「っ! おいコラ! 放せ!!!」
逃がす訳には参りませんと、私も清掃員さんの足首を掴んで起き上がるのを阻止すると、清掃員さんが足をジタバタさせて暴れだします。
「くぅ・・・・・・! 絶対に、放し、ません!」
休校日の校内の廊下で油まみれでわちゃわちゃしている大人と子供。そこには異様な光景が広がっておりました。
「この! いい加減にしやがれ!」
「っ!?」
片方の足を振りほどかれ、清掃員さんの靴裏が私の顔に飛んできました!
避けるのが難しい体勢だったので、蹴られるのを覚悟で目をぎゅっと瞑りました。
「こら! うちの娘に何してくれてんの!」
「ぐえっ」
お母様の声がして、それから鼻づまりのカエルさんみたいな呻き声が聞こえたので、目を開くとそこには清掃員さんの背中の上に両足を乗せられたお母様がまっすぐに立ってられました。
「お母様!」
お母様が勝ち誇ったお顔で頷かれ、親指を立てられた手を突き出してこられたので、私も同じようにお返ししました。
この世に待てと言われて待つ方が、どれくらいいらっしゃるのでしょう?
それでも私はそう叫ぶしかありませんでした。
流石と言いますか、学園中のお掃除をしてらっしゃる清掃員さんは、校内の構造をよく把握されているようで、すいすいとアメンボのように素早く駆け抜けて行きます。休日というのもこちらには災いしました。生徒のいない校内には走るスピードを緩めるような障害物はありません。
このままでは校外へ逃げられてしまいます。
「待って────!」
「しつけーな・・・・・・おら!」
「え? わっ、きゃあああっ!」
なかなか撒けないことに業を煮やされたのか、清掃員さんはなんと、こちらに向かって油を撒いてきました! 常備してるんですか、油!?
なんて言ってる場合ではありません!
私の足は油で出来た水溜まりに思いっきり嵌まってしまい、そのまま足を滑らせてしまいます。
このまま転倒して犯人には逃げられてしまい、よもやこれまで! と思いましたが、ここで奇跡が起きたのです。
「はっ! これでもう──って、は? はぁっ!?」
「きゃあああああっ!!」
「うわぁあああああ!?」
偶然にも油で滑った私の体は高速スピンをしながらも転倒することなく、むしろスピードアップして清掃員さんに迫り、最終的に清掃員さんを弾き飛ばしてしまいました。
なんたる奇跡! これは大チャンスです!
──と、言いたいところなのですが──。
「あ・・・・・・あぅ・・・・・・めが・・・・・・目が回ります~」
勢いよく回転し過ぎたせいで目が回ってしまいました!
清掃員さんも倒れ伏してますが、私も起き上がれません。
あ、ああぁ、天井が回っているようですし、床が揺れているような気がして、船の上にいるかのようです。
はっきり申し上げまして、船酔いに似た感覚でとっても気持ち悪いです。
「う、ぐぅ・・・・・・! こんなところで捕まってたまるかよっ」
あ! 清掃員さんが肘をついて起き上がろうとしています!
「っ! おいコラ! 放せ!!!」
逃がす訳には参りませんと、私も清掃員さんの足首を掴んで起き上がるのを阻止すると、清掃員さんが足をジタバタさせて暴れだします。
「くぅ・・・・・・! 絶対に、放し、ません!」
休校日の校内の廊下で油まみれでわちゃわちゃしている大人と子供。そこには異様な光景が広がっておりました。
「この! いい加減にしやがれ!」
「っ!?」
片方の足を振りほどかれ、清掃員さんの靴裏が私の顔に飛んできました!
避けるのが難しい体勢だったので、蹴られるのを覚悟で目をぎゅっと瞑りました。
「こら! うちの娘に何してくれてんの!」
「ぐえっ」
お母様の声がして、それから鼻づまりのカエルさんみたいな呻き声が聞こえたので、目を開くとそこには清掃員さんの背中の上に両足を乗せられたお母様がまっすぐに立ってられました。
「お母様!」
お母様が勝ち誇ったお顔で頷かれ、親指を立てられた手を突き出してこられたので、私も同じようにお返ししました。
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