10 / 11
下校
しおりを挟む
私たちは保健室へ向かい、保険医の先生にフォルテの怪我の手当てをして貰いました。
真っ赤になったフォルテの顔を見て、先生は驚いた顔をされましたが、流石本職の方です。すぐに手慣れた様子で必要なものを室内から集め、手当てをしてくれました。
幸い、フォルテの怪我は打撲で済んだので先生に打ち身に効く軟膏を塗って貰いました。
「歯が折れなくてよかったわねぇ」と言う先生の言葉にひやっとしつつも、安堵しました。怪我をしないことが一番なんですけどね。
その後は先生に報告するために職員室へ行きました。
担任の先生はフォルテの顔を見るとぎょっとして「何があった?」と尋ねてこられましたので、正直にお話ししたところ、「またか」という顔をされました。今朝、硝子の件でご相談したばかりでしたからねぇ。
心配もしてくださって、今回の件は今朝の件と違って犯人の顔がわかっているため、すぐに見つけると仰ってくださいました。
私たちは女子生徒の特徴を伝えると、会釈をして職員室を出ました。
今はフォルテと並んで廊下を歩いています。
「フォルテ、痛くないですか?」
「大丈夫だよ。薬が効いてきてそんなに痛くない。明日には腫れも大分引くって。よかったよ。こんな面白い痕つけて登校したら皆に笑われるところだった」
私に気を使ってくれているのか、笑い話のように軽い調子でフォルテは話しています。
「今日はもう帰りましょうか」
「まだ硝子の犯人見つかってないけど、いいの?」
「ええ。今日は──少し疲れてしまいました。また明日にします」
悪意を向けられた悲しみと、犯人探しの疲れと、突き飛ばされた衝撃と、フォルテの怪我。
一日で春夏秋冬の激しい移り変わりを経験したようで、私の精神は大分疲弊していました。
「聞き込みは効率が悪いですね。明日からはやり方を少々変えてみます」
「変えるってどんな?」
「うーん・・・・・・帰ってから考えます。今、頭働いてません」
「そっか。俺に出来ることあったら言って」
「ありがとうございます」
犯人がライの周りの女の子の可能性が高いなら、私だと気づかれないようにしてこっそり紛れ込んで話題を振るというのも手ですね。明日、鬘でも持ってきましょうか。
等と考えていると、正門まで辿り着き、よく知った声が遠くから響いて来ました。
「おーい!」
「ユイナ」
「フォルテも一緒? って、うわ!? どうしたのその顔!?」
「色々あってね」
「猫車に轢かれでもした?」
「ユイナの中の俺は猫車に轢かれるような奴なの??」
駆け寄ってきたユイナがフォルテの顔を見て驚き尋ねました。
「じゃあどうして?」
ユイナがきょとんと首を傾げます。
私とフォルテは顔を見合わせました。
ユイナは凄くいい子です。
優しくて友達思いの子です。だから、友達に関することだと起こりっぽくなってしまいます。
そんなユイナにさっきのことを話したら──
どうなるかなんて火を見るより明らかです。
かと言って話さないのも。
「? なんで教えてくれないの? 私には言えないようなこと? 私だけ仲間外れ!?」
ああ、頬を膨らませて拗ねてしまいました。
こうなるとユイナは大変なのです。
「違うって。ただ、話したらユイナが怒るかなーって」
「私が怒るようなことがまたあったの!? なら尚更話しなさいよ!」
物凄い剣幕で迫られたフォルテが、怖じけつつもさっきの出来事をかいつまんで説明しました。話せば話す程に、ユイナの目は吊り上がっていきました。
フォルテが説明を終えると、ユイナはふるふると体を震わせ、叫びました。
「何それ────────!!!?」
あまりの大声にびっくりした近くの木の枝の小鳥が飛んでいきました。
「ほんと何なの!? どいつもこいつもどれだけエレインを困らせたら気が済むのよ! あの男も訳わかんないし!」
「まぁまぁ」
怒髪天を突いたユイナに手で押さえる仕草をしながら、落ちついて貰います。ん? あの男?
「あの男って、どの男性ですか?」
「・・・・・・あ」
途端にユイナが口ごもります。話しづらそうにしてますし、言いたくくないのであれば言わないでよいのですが、直感的にライのことではないかと思いました。
「ひょっとして、ライですか? 何かありました?」
ユイナは元々ライのことを良く思っていませんが、今の怒り方は実際にライとの間に何かあったような気がするのです。
目をきょろきょろさせているユイナは、少しうんうん唸ってから肩を落として説明してくれました。
「さっきたまたま会ったのよ。それで口喧嘩になっちゃって」
「どうせユイナから突っ掛かったんでしょ」
「だって、エレインが散々な目に合ってるっていつのに、素知らぬ顔してて腹が立ったんだもの!」
「けど、喧嘩は駄目ですよ」
「そうだけどぉ」
皆、仲良くは無理かもしれませんが、争いはない方がいいです。
がっくりと落とされたユイナの肩をぽんっと叩き励ますと、ユイナが私をじっと見てました。何だか、何か言いたげな瞳です。
「どうしました? 私の顔に何かついています?」
「ううん・・・・・・ねぇ、エレイン」
「はい」
「・・・・・・いや、何でもない」
思案を重ねた末に話すことを止めた様子でユイナは視線を逸らしてしまいました。何かあったのでしょうか?
「ユイナ。言いたくないなら無理に言う必要はありませんが、悩みがあるなら相談してくださいね」
「うん、ありがとう。大丈夫」
うーん、いつも通りのユイナですし、心配は不要でしょうか?
何だかいつもと違う気がしましたが、すぐにユイナはいつもの調子に戻りました。
「それにしても犯人の奴らは許せなーい! 明日こそ絶対捕まえてやるー!」
夕空にユイナの決意表明が響きました。
真っ赤になったフォルテの顔を見て、先生は驚いた顔をされましたが、流石本職の方です。すぐに手慣れた様子で必要なものを室内から集め、手当てをしてくれました。
幸い、フォルテの怪我は打撲で済んだので先生に打ち身に効く軟膏を塗って貰いました。
「歯が折れなくてよかったわねぇ」と言う先生の言葉にひやっとしつつも、安堵しました。怪我をしないことが一番なんですけどね。
その後は先生に報告するために職員室へ行きました。
担任の先生はフォルテの顔を見るとぎょっとして「何があった?」と尋ねてこられましたので、正直にお話ししたところ、「またか」という顔をされました。今朝、硝子の件でご相談したばかりでしたからねぇ。
心配もしてくださって、今回の件は今朝の件と違って犯人の顔がわかっているため、すぐに見つけると仰ってくださいました。
私たちは女子生徒の特徴を伝えると、会釈をして職員室を出ました。
今はフォルテと並んで廊下を歩いています。
「フォルテ、痛くないですか?」
「大丈夫だよ。薬が効いてきてそんなに痛くない。明日には腫れも大分引くって。よかったよ。こんな面白い痕つけて登校したら皆に笑われるところだった」
私に気を使ってくれているのか、笑い話のように軽い調子でフォルテは話しています。
「今日はもう帰りましょうか」
「まだ硝子の犯人見つかってないけど、いいの?」
「ええ。今日は──少し疲れてしまいました。また明日にします」
悪意を向けられた悲しみと、犯人探しの疲れと、突き飛ばされた衝撃と、フォルテの怪我。
一日で春夏秋冬の激しい移り変わりを経験したようで、私の精神は大分疲弊していました。
「聞き込みは効率が悪いですね。明日からはやり方を少々変えてみます」
「変えるってどんな?」
「うーん・・・・・・帰ってから考えます。今、頭働いてません」
「そっか。俺に出来ることあったら言って」
「ありがとうございます」
犯人がライの周りの女の子の可能性が高いなら、私だと気づかれないようにしてこっそり紛れ込んで話題を振るというのも手ですね。明日、鬘でも持ってきましょうか。
等と考えていると、正門まで辿り着き、よく知った声が遠くから響いて来ました。
「おーい!」
「ユイナ」
「フォルテも一緒? って、うわ!? どうしたのその顔!?」
「色々あってね」
「猫車に轢かれでもした?」
「ユイナの中の俺は猫車に轢かれるような奴なの??」
駆け寄ってきたユイナがフォルテの顔を見て驚き尋ねました。
「じゃあどうして?」
ユイナがきょとんと首を傾げます。
私とフォルテは顔を見合わせました。
ユイナは凄くいい子です。
優しくて友達思いの子です。だから、友達に関することだと起こりっぽくなってしまいます。
そんなユイナにさっきのことを話したら──
どうなるかなんて火を見るより明らかです。
かと言って話さないのも。
「? なんで教えてくれないの? 私には言えないようなこと? 私だけ仲間外れ!?」
ああ、頬を膨らませて拗ねてしまいました。
こうなるとユイナは大変なのです。
「違うって。ただ、話したらユイナが怒るかなーって」
「私が怒るようなことがまたあったの!? なら尚更話しなさいよ!」
物凄い剣幕で迫られたフォルテが、怖じけつつもさっきの出来事をかいつまんで説明しました。話せば話す程に、ユイナの目は吊り上がっていきました。
フォルテが説明を終えると、ユイナはふるふると体を震わせ、叫びました。
「何それ────────!!!?」
あまりの大声にびっくりした近くの木の枝の小鳥が飛んでいきました。
「ほんと何なの!? どいつもこいつもどれだけエレインを困らせたら気が済むのよ! あの男も訳わかんないし!」
「まぁまぁ」
怒髪天を突いたユイナに手で押さえる仕草をしながら、落ちついて貰います。ん? あの男?
「あの男って、どの男性ですか?」
「・・・・・・あ」
途端にユイナが口ごもります。話しづらそうにしてますし、言いたくくないのであれば言わないでよいのですが、直感的にライのことではないかと思いました。
「ひょっとして、ライですか? 何かありました?」
ユイナは元々ライのことを良く思っていませんが、今の怒り方は実際にライとの間に何かあったような気がするのです。
目をきょろきょろさせているユイナは、少しうんうん唸ってから肩を落として説明してくれました。
「さっきたまたま会ったのよ。それで口喧嘩になっちゃって」
「どうせユイナから突っ掛かったんでしょ」
「だって、エレインが散々な目に合ってるっていつのに、素知らぬ顔してて腹が立ったんだもの!」
「けど、喧嘩は駄目ですよ」
「そうだけどぉ」
皆、仲良くは無理かもしれませんが、争いはない方がいいです。
がっくりと落とされたユイナの肩をぽんっと叩き励ますと、ユイナが私をじっと見てました。何だか、何か言いたげな瞳です。
「どうしました? 私の顔に何かついています?」
「ううん・・・・・・ねぇ、エレイン」
「はい」
「・・・・・・いや、何でもない」
思案を重ねた末に話すことを止めた様子でユイナは視線を逸らしてしまいました。何かあったのでしょうか?
「ユイナ。言いたくないなら無理に言う必要はありませんが、悩みがあるなら相談してくださいね」
「うん、ありがとう。大丈夫」
うーん、いつも通りのユイナですし、心配は不要でしょうか?
何だかいつもと違う気がしましたが、すぐにユイナはいつもの調子に戻りました。
「それにしても犯人の奴らは許せなーい! 明日こそ絶対捕まえてやるー!」
夕空にユイナの決意表明が響きました。
8
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!
灰銀猫
恋愛
6歳で幼馴染の侯爵家の次男と婚約したヴィオラ。
互いにいい関係を築いていると思っていたが、1年前に婚約者が王女の護衛に抜擢されてから雲行きが怪しくなった。儚げで可憐な王女殿下と、穏やかで見目麗しい近衛騎士が恋仲で、婚約者のヴィオラは二人の仲を邪魔するとの噂が流れていたのだ。
その噂を肯定するように、この一年、婚約者からの手紙は途絶え、この半年ほどは完全に絶縁状態だった。
それでも婚約者の両親とその兄はヴィオラの味方をしてくれ、いい関係を続けていた。
しかし17歳の誕生パーティーの日、婚約者は必ず出席するようにと言われていたパーティーを欠席し、王女の隣国訪問に護衛としてついて行ってしまった。
さすがに両親も婚約者の両親も激怒し、ヴィオラももう無理だと婚約解消を望み、程なくして婚約者有責での破棄となった。
そんな彼女に親友が、紹介したい男性がいると持ち掛けてきて…
3/23 HOTランキング女性向けで1位になれました。皆様のお陰です。ありがとうございます。
24.3.28 書籍化に伴い番外編をアップしました。
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果
京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。
ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。
妹を叩いた?事実ですがなにか?
基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。
冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。
婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。
そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。
頬を押えて。
誰が!一体何が!?
口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。
あの女…!
※えろなし
※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09
【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!
たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」
「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」
「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」
「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」
なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ?
この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて
「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。
頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。
★軽い感じのお話です
そして、殿下がひたすら残念です
広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる