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予想外の言葉

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 利き手を怪我したとは言え、フォルテがしっかりと手当てをしてくれたおかげで授業は恙無くうけることが出来ました。
 本日最後の終鈴の音を聞き終え、放課後。

「さぁ! 硝子仕込んだ犯人を探しに行くわよ!」

 私よりも張り切っているユイナが拳を上へ突き上げ、意気軒昂と息巻いています。ですが。

「二人にはお昼休みの付き合って貰いましたし、放課後の時間までいただくのは申し訳ないので、私一人で聞き込みしてきますよ」

 ユイナもフォルテも本当に親切ですが、二人にだって都合というものがあるでしょう?
 私のせいで貴重な時間を潰させる訳にはいきません。
 なので、放課後の協力は遠慮すると猛烈な反対に合いました。

「何言ってるの! 今犯人見つけること以上に大切なことなんてないでしょう!」

「そうだよ。それに今朝の出来事なんだから、あまり一人で行動しない方がいいと思うよ」

「心配してくれるのはありがたいのですが・・・・・・けれど、二人共宿題は大丈夫なのですか?」

「うっ」

 二人が言葉に詰まり、気まずそうに視線を左右に逸らします。
 フォルテは写生、ユイナは文章作成、それぞれ苦手分野がある宿題ですものね。

「だ、大丈夫(だ)よ・・・・・・」

「そんな冷や汗かいて言われましても、説得力ありませんよ?」

 気持ちは嬉しいのですけれどね、学生の本分はお勉強です。

「待って頂戴、エレイン。来週が期限の写生が苦手がフォルテはともかく、私のは発表までに間に合えばいいんだから、私は手伝えるわ!」

「ちょ、ユイナずるい!」

「うーん・・・・・・」

 どうしましょう。どちらも退いてくれません。
 いっそ、今日の放課後は中止します?
 いえいえ、目撃者の記憶が鮮明なうちに聞き込みはしておきたいですし──。

「なら、一時間だけお願いします。その後は二人共、自分のことを最優先に考えてくださいね。これ以上は一歩も譲歩しませんよ」

「・・・・・・」

「そんな顔をしても駄目なものは駄目です」

 それぞれ何か言いたそうな顔をしていましたけれど、私が意外と頑固なのは二人がよく知っています。
 なので、二人には放課後の一時間程手伝って貰うことになりました。
 たかが一時間、されど一時間。
 私のために、本当に申し訳ないです。

 結局のところ、一時間ではそれらしい目撃者の発見には至らず、二人は直前になって食い下がりましたが、私が「約束は約束です」と笑顔で言うと、背中を丸めて各々中庭と図書館へ行きました。
 さて、一人になってしまいましたが、頑張りましょう。
 靴箱付近に控え、通りかかる生徒に声を掛けます。

「申し訳ありません、お時間よろしいですか? 少々お訊きしたいことがありまして──」

 そのように数名に尋ねてみましたが、結果は芳しくありません。困りました。

「あら?」

 ふと、視点を変えてみましょうかと辺りを見渡すと、向かいの校舎の階段の窓からこの靴箱がよく見えることに気づきました。
 もしかしたら、昨日階段を通っていた方が何か見てるかもしれません。
 そう思い、私は向かいの校舎へ向かいました。

「・・・・・・誰も来ませんね」

 手摺に片手を預け、踊り場で通行人を待ち構えていますが、誰も通りません。
 日も傾き、茜射す踊り場は自分の呼吸すら大きく聞こえるほどの静寂でした。

 うーん、見誤りましたね。まさかこれ程人気がないとは・・・・・・。
 仕方ありません。一度靴箱まで戻って──いえ、それよりもライの周りの女の子たちを調べた方が早いですね・・・・・・。
 方法を練り直しながら階段を降りていると、後ろから女の子に声を掛けられました。

「カロミナさん」

 名前を呼ばれ、振り返ります。
 上段には三つ編みの女の子がいました。
 見覚えのあるような、ないような。少なくともお名前は存じません。

「何でしょう?」

 用件を尋ねましたが、返答がありません。
 はて、どうしたのでしょう。
 女の子は何か私に言いたそうなのですが、言葉が纏まらないのか、なかなか切り出しません。
 なので、女の子の様子を見る時間が私には多分にありました。
 まず、女の子は私をよく思っていないようです。
 私より視線の高い位置にいるのに、睨め上げるような視線。爪を噛むように小刻みに動く唇。ほんの僅かに上がった肩。
 どう見ても敵と認識されていますね。私。
 とはいえ、私もずっと待ってる訳にはいきませんし、無視も出来ません。

「あの、ご用件がないのであれば、失礼してもよろしいでしょうか?」

 仕方なく会話を切り上げようとすると、女の子がとうとう口火を切りました。

「貴女、いつまでヴェクオール君に迷惑を掛けるつもりですか?」

「え?」

 言われたのは、予想もしなかった言葉でした。

 私がライに、迷惑?
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