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難航する宿題
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放課後。
私とフォルテはスケッチブックを手に中庭に出ていました。
ユイナも誘ったのですが、絵よりも文章を纏めるのが苦手な彼女は「今から発表用の資料作り始めないとヤバい!」と言って図書館へ駆けて行きました。
なので、フォルテと二人きりです。
学園の中庭には、緑化委員会と園芸部が共同で育てている花壇がいくつもあって、多種多様な草花が植えられています。まさに絶好のスケッチ場所でしょう。
「フォルテはどんな植物をスケッチしたいですか?」
「草」
尋ねると簡潔な答えが返ってきます。草って・・・・・・。
「草ならいける気がする。最悪、緑のじぐざぐでも大丈夫だろうし」
「理科の授業の発表で緑のじぐざくは流石に怒られると思いますよ・・・・・・」
例え本人がどんなに真面目で、先生に事前にあの毛糸──いえ、猫さんの出来映えを見せていたとしても成績に響きそうです。
「フォルテ、はっきりと言います。ここは要点を絞って、他は諦めましょう。先生的にはその植物だと分かる特徴さえ描かれていればいいのですから、バランスとかは無視して、とにかく特徴を押さえることに注力するのです!」
「特徴かぁ。うん、そうだよね! わかったよ! なら、そもそもが特徴的な植物を選んだ方がいいよね! ラフレシアとか!」
「フォルテ! 流石に学内にラフレシアはありませんよ!?」
気候の穏やかなこの国に熱帯密林で咲く凄まじい香りを放つ巨大花があるとは思えません。というか、あったら大騒ぎです。
そんなことは冷静に考えれば分かる筈なのに、どうやらフォルテは苦手分野に直面して、かなり脳が混乱している様でした。
「あのパンジーなんてどうですか? 花弁の形も変わってますし、色の種類も豊富ですから、分かりやすいかと」
「うん、描いてみるよ。公正な目線が必要だから、辛口評価よろしく」
フォルテはパンジーの花壇の前へ座り込むと、真剣な面持ちで鉛筆と色鉛筆を紙の上に滑らせました。迷いのない動きです。これなら──
「出来た! どう?」
「・・・・・・禍々しい夏の大三角ですか?」
完成した絵を見せられて、つい思わず正直な感想を述べてしまいました。
「・・・・・・」
ああ! フォルテが腕に顔を伏せてずーんと落ち込んでしまいました! けれど、そもそも花弁の部分? がばらばらでパンジーの形に見えないんです! 三つの球体の集まりなんです! 猫さんといい、ひょっとしてフォルテは球体しか描けないのでは・・・・・・?
「つ、次! 次はあの鈴蘭を描いてみましょう!」
「うん!」
パンジーが駄目なら他の花です! 鈴蘭なら元々花が丸いですし、これなら!
「出来た!」
「白骨化した鞘えんどう! つ、次! 水仙!」
「どうだ!」
「表皮がでろでろに溶けたレモン! なら、ええい! 薔薇!」
「薔薇は難易度高くない!? 描いてみるけど!」
結果、犬さんが食い漁ったようなハムの残飯の如き絵が生産されました。
「・・・・・・・・・・・・」
私とフォルテはスケッチブックを挟んで、互いに引きつった笑みで見つめ合いました。
全敗です。
フォルテはこのあんまりな結果に膝を地面に着きました。
「俺には絵の才能が、ない・・・・・・!」
どうしましょう。否定出来ません・・・・・・。
そんなことありませんと言いたいところですが、散々な評価を下した私が何を言ったところで気休めにもなりません。むしろ嫌味です。
おかしい。フォルテだって、最初の案のように特徴は掴んでいるんです。パンジーの花弁の色合いはぴったりですし、鈴蘭の特徴はあの丸い花ですし、薔薇だって複雑に折り重なった花弁を描いて──んん、描いてはいるのですが、それが実物像に全く繋がらないのが問題で!!!
「どうしたらいいのでしょう・・・・・・」
とりあえず、今のままではお手上げです。新しい案を考えなくては・・・・・・。
そう悩みながらも、フォルテのスケッチブックを拾い上げようとすると、先にそれを誰かに拾い上げられてしまいました。
「あ、それ・・・・・・」
落とし物と勘違いされたと思い、違うんですと言おうとした声が詰まります。
「何この下手な絵。お前が描いたの?」
「・・・・・・ライ」
まさか、よりにもよってライに拾われるなんて・・・・・・。
私とフォルテはスケッチブックを手に中庭に出ていました。
ユイナも誘ったのですが、絵よりも文章を纏めるのが苦手な彼女は「今から発表用の資料作り始めないとヤバい!」と言って図書館へ駆けて行きました。
なので、フォルテと二人きりです。
学園の中庭には、緑化委員会と園芸部が共同で育てている花壇がいくつもあって、多種多様な草花が植えられています。まさに絶好のスケッチ場所でしょう。
「フォルテはどんな植物をスケッチしたいですか?」
「草」
尋ねると簡潔な答えが返ってきます。草って・・・・・・。
「草ならいける気がする。最悪、緑のじぐざぐでも大丈夫だろうし」
「理科の授業の発表で緑のじぐざくは流石に怒られると思いますよ・・・・・・」
例え本人がどんなに真面目で、先生に事前にあの毛糸──いえ、猫さんの出来映えを見せていたとしても成績に響きそうです。
「フォルテ、はっきりと言います。ここは要点を絞って、他は諦めましょう。先生的にはその植物だと分かる特徴さえ描かれていればいいのですから、バランスとかは無視して、とにかく特徴を押さえることに注力するのです!」
「特徴かぁ。うん、そうだよね! わかったよ! なら、そもそもが特徴的な植物を選んだ方がいいよね! ラフレシアとか!」
「フォルテ! 流石に学内にラフレシアはありませんよ!?」
気候の穏やかなこの国に熱帯密林で咲く凄まじい香りを放つ巨大花があるとは思えません。というか、あったら大騒ぎです。
そんなことは冷静に考えれば分かる筈なのに、どうやらフォルテは苦手分野に直面して、かなり脳が混乱している様でした。
「あのパンジーなんてどうですか? 花弁の形も変わってますし、色の種類も豊富ですから、分かりやすいかと」
「うん、描いてみるよ。公正な目線が必要だから、辛口評価よろしく」
フォルテはパンジーの花壇の前へ座り込むと、真剣な面持ちで鉛筆と色鉛筆を紙の上に滑らせました。迷いのない動きです。これなら──
「出来た! どう?」
「・・・・・・禍々しい夏の大三角ですか?」
完成した絵を見せられて、つい思わず正直な感想を述べてしまいました。
「・・・・・・」
ああ! フォルテが腕に顔を伏せてずーんと落ち込んでしまいました! けれど、そもそも花弁の部分? がばらばらでパンジーの形に見えないんです! 三つの球体の集まりなんです! 猫さんといい、ひょっとしてフォルテは球体しか描けないのでは・・・・・・?
「つ、次! 次はあの鈴蘭を描いてみましょう!」
「うん!」
パンジーが駄目なら他の花です! 鈴蘭なら元々花が丸いですし、これなら!
「出来た!」
「白骨化した鞘えんどう! つ、次! 水仙!」
「どうだ!」
「表皮がでろでろに溶けたレモン! なら、ええい! 薔薇!」
「薔薇は難易度高くない!? 描いてみるけど!」
結果、犬さんが食い漁ったようなハムの残飯の如き絵が生産されました。
「・・・・・・・・・・・・」
私とフォルテはスケッチブックを挟んで、互いに引きつった笑みで見つめ合いました。
全敗です。
フォルテはこのあんまりな結果に膝を地面に着きました。
「俺には絵の才能が、ない・・・・・・!」
どうしましょう。否定出来ません・・・・・・。
そんなことありませんと言いたいところですが、散々な評価を下した私が何を言ったところで気休めにもなりません。むしろ嫌味です。
おかしい。フォルテだって、最初の案のように特徴は掴んでいるんです。パンジーの花弁の色合いはぴったりですし、鈴蘭の特徴はあの丸い花ですし、薔薇だって複雑に折り重なった花弁を描いて──んん、描いてはいるのですが、それが実物像に全く繋がらないのが問題で!!!
「どうしたらいいのでしょう・・・・・・」
とりあえず、今のままではお手上げです。新しい案を考えなくては・・・・・・。
そう悩みながらも、フォルテのスケッチブックを拾い上げようとすると、先にそれを誰かに拾い上げられてしまいました。
「あ、それ・・・・・・」
落とし物と勘違いされたと思い、違うんですと言おうとした声が詰まります。
「何この下手な絵。お前が描いたの?」
「・・・・・・ライ」
まさか、よりにもよってライに拾われるなんて・・・・・・。
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