3 / 11
猫と毛糸
しおりを挟む
先生が教室へやって来て、授業が始まりました。
ユイナは「あくまで私の意見だけど、考えておいて」といって自分の席に向かいました。
授業が始まってからも、さっきの話を思い出してしまいます。
──婚約解消、ですかぁ。
確かに、このまま嫌われ続けてるのに、ライと婚約して結婚する意味って何でしょう?
どう考えても私もライも幸せになれませんよね?
いえ、そもそも政略結婚に幸せを求めることがお門違いなのは分かっていますが、それでも嫌いな者と嫌われてる者が一緒になったところで、碌なことにならないのでは?
ライだって今の女の子たちとの付き合いを結婚したらすっぱり止めるとも思えませんし──。
あ、駄目です。考えれば考えるほど、灰色の未来予想図が脳内でずぶずぶ広がっていきます・・・・・・。
ふと、教科書に描かれた色鮮やかな薔薇の絵が目に入りました。
別に薔薇色の人生は望んでおりませんが、無味乾燥過ぎる人生を送っても、今際の際に様々な後悔が押し寄せて来そうですね・・・・・・けど、婚約解消・・・・・・うーん。
今は理科の授業で、先生が黒板に植物の絵を描いてその特徴を説明していらっしゃいます。
先生の板書をノートに写しつつも、頭の中はさっきのユイナの話でいっぱいで、もし今先生に指名されたら大慌てしていたことでしょう。
それでも、この授業で私が当てられることはなく無事に終鈴を聞くことが出来ました。
終わり際に、先生が、
「では、次の授業からは各々の研究の時間にします。一人ひとつずつ調べる植物を選んで、次の授業までに写生してきてください」
得意不得意の別れる絵の宿題に教室からは「えー!」という不満の声が溢れましたが、先生はどこ吹く風です。
「はーい。下手でも特徴が分かればよろしい。まずは挑戦。それでも駄目なら口先でも鍛えなさい。どのみち発表するんだから。じゃ、授業終了でーす」
手を振って去っていく先生を見送った教室内では、絵の苦手な生徒が頭を抱えておりました。
あ、絵が苦手と言えば──
「フォルテ、フォルテ、確か貴方も絵が──」
前の席に座っているフォルテの肩をぽんぽんと叩き、声をかけると真っ青な顔のフォルテが振り返りました。
あらまぁ、フォルテ、写生は苦手って言ってましたもんねぇ。
「エレイン・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「まぁまぁ、落ち着いてください。先生も仰ってたじゃありませんか。下手でも特徴を掴んでいれば──」
大丈夫と言おうとした私に、フォルテは開いたノートのページを見せてきました。ページの端には黒い二個の──えーと、これは球体? 毛糸? えーと、毛糸のようなものが鉛筆で描かれていました。
「上手な毛糸玉ですね!」
「・・・・・・・・・・・・エレイン、これは猫だよ」
あ。
瞬間、空気が凍てつきました。
ね、猫? これが猫さん?
私の目にはどっからどうみても毛糸にしか見えませんが──いえ、それよりも解答を間違えてフォルテを落ち込ませてしまいました!
フォルテはしおしおの顔で自分の描いた絵を見て「毛糸・・・・・・」と呟いています。あああ! 悪気は! 悪気はなかったんです! フォルテ~!
どう言って慰めようかと悩む私に、フォルテは現実的な問題を相談してきました。
「先生はああ言ったけれど、果たして俺の描いた植物の絵を先生に植物だと認識して貰えると思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
こちらの顔色を窺うように恐る恐る尋ねてきたフォルテは、私が無言のままでいると、がっくりと肩を落としました。
恐らく、言葉で返答せずとも表情がありありと語っていたのでしょう。
私は思いました。
友達として、フォルテの危機を放っておくことは出来ないと。
しかし、はっきり言ってフォルテの絵は壊滅的。
ならば!
「フォルテ! 私と一緒に絵の特訓をしましょう!」
ユイナは「あくまで私の意見だけど、考えておいて」といって自分の席に向かいました。
授業が始まってからも、さっきの話を思い出してしまいます。
──婚約解消、ですかぁ。
確かに、このまま嫌われ続けてるのに、ライと婚約して結婚する意味って何でしょう?
どう考えても私もライも幸せになれませんよね?
いえ、そもそも政略結婚に幸せを求めることがお門違いなのは分かっていますが、それでも嫌いな者と嫌われてる者が一緒になったところで、碌なことにならないのでは?
ライだって今の女の子たちとの付き合いを結婚したらすっぱり止めるとも思えませんし──。
あ、駄目です。考えれば考えるほど、灰色の未来予想図が脳内でずぶずぶ広がっていきます・・・・・・。
ふと、教科書に描かれた色鮮やかな薔薇の絵が目に入りました。
別に薔薇色の人生は望んでおりませんが、無味乾燥過ぎる人生を送っても、今際の際に様々な後悔が押し寄せて来そうですね・・・・・・けど、婚約解消・・・・・・うーん。
今は理科の授業で、先生が黒板に植物の絵を描いてその特徴を説明していらっしゃいます。
先生の板書をノートに写しつつも、頭の中はさっきのユイナの話でいっぱいで、もし今先生に指名されたら大慌てしていたことでしょう。
それでも、この授業で私が当てられることはなく無事に終鈴を聞くことが出来ました。
終わり際に、先生が、
「では、次の授業からは各々の研究の時間にします。一人ひとつずつ調べる植物を選んで、次の授業までに写生してきてください」
得意不得意の別れる絵の宿題に教室からは「えー!」という不満の声が溢れましたが、先生はどこ吹く風です。
「はーい。下手でも特徴が分かればよろしい。まずは挑戦。それでも駄目なら口先でも鍛えなさい。どのみち発表するんだから。じゃ、授業終了でーす」
手を振って去っていく先生を見送った教室内では、絵の苦手な生徒が頭を抱えておりました。
あ、絵が苦手と言えば──
「フォルテ、フォルテ、確か貴方も絵が──」
前の席に座っているフォルテの肩をぽんぽんと叩き、声をかけると真っ青な顔のフォルテが振り返りました。
あらまぁ、フォルテ、写生は苦手って言ってましたもんねぇ。
「エレイン・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「まぁまぁ、落ち着いてください。先生も仰ってたじゃありませんか。下手でも特徴を掴んでいれば──」
大丈夫と言おうとした私に、フォルテは開いたノートのページを見せてきました。ページの端には黒い二個の──えーと、これは球体? 毛糸? えーと、毛糸のようなものが鉛筆で描かれていました。
「上手な毛糸玉ですね!」
「・・・・・・・・・・・・エレイン、これは猫だよ」
あ。
瞬間、空気が凍てつきました。
ね、猫? これが猫さん?
私の目にはどっからどうみても毛糸にしか見えませんが──いえ、それよりも解答を間違えてフォルテを落ち込ませてしまいました!
フォルテはしおしおの顔で自分の描いた絵を見て「毛糸・・・・・・」と呟いています。あああ! 悪気は! 悪気はなかったんです! フォルテ~!
どう言って慰めようかと悩む私に、フォルテは現実的な問題を相談してきました。
「先生はああ言ったけれど、果たして俺の描いた植物の絵を先生に植物だと認識して貰えると思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
こちらの顔色を窺うように恐る恐る尋ねてきたフォルテは、私が無言のままでいると、がっくりと肩を落としました。
恐らく、言葉で返答せずとも表情がありありと語っていたのでしょう。
私は思いました。
友達として、フォルテの危機を放っておくことは出来ないと。
しかし、はっきり言ってフォルテの絵は壊滅的。
ならば!
「フォルテ! 私と一緒に絵の特訓をしましょう!」
10
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
(完結)逆行令嬢の婚約回避
あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。
わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。
何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。
完結しています。忘れなければ毎日投稿します。
【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?
水月 潮
恋愛
ルシア・ローレル伯爵令嬢はある日、婚約者であるイアン・バルデ伯爵令息から婚約破棄を突きつけられる。
正直に言うとローレル伯爵家にとっては特に旨みのない婚約で、ルシアは父親からも嫌になったら婚約は解消しても良いと言われていた為、それをあっさり承諾する。
その1ヶ月後。
ルシアの母の実家のシャンタル公爵家にて次期公爵家当主就任のお披露目パーティーが主催される。
ルシアは家族と共に出席したが、ルシアが夢にも思わなかったとんでもない出来事が起きる。
※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います
*HOTランキング10位(2021.5.29)
読んで下さった読者の皆様に感謝*.*
HOTランキング1位(2021.5.31)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる