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フラグ1 悪役令嬢との接近を阻止せよ!
第5話 聖女という評価
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走らない程度に歩を速めたので、本鈴が鳴る前には教室に入ることが出来た。
「あっ! ノースベル様! 大丈夫ですか? お加減が優れないと窺ったのですが」
「授業を受けても平気なのですか?」
「ご無理はなさらないで下さい」
「よろしければ、わたくしの膝掛けをお使い下さい」
「さぁ、お席にどうぞ」
一歩踏み入るだけでこの騒ぎ。聖女の権威恐るべし、だ。
本物の聖女でない身としては気が引けるけど、聖女じゃないからいいです! なんて言える訳ないし。
とりあえず、心配してくれるクラスメイトには大丈夫だと伝え、膝掛けを貸してくれようとした女生徒にはやんわりと断り、椅子を引いてくれた男子生徒にはわざわざ断るのも失礼なので、そのまま席に座ってお礼を言った。
「心配かけてごめんなさい。けど、私は大丈夫だから」
むしろ、大丈夫じゃないのは兄の方だろう。いきなり前世を思い出したと思ったら、何か知らんが窮地に立たされてるっぽいし。
さっきはあんな態度取っちゃったけど、帰ったらもう少し優しくしてあげても──
(え! マジで!? してして! 優しくして! マイシスター!)
・・・・・・・・・・・・。
(ぐわっ、ぎャ!? またあの呪詛っぽいものがぁあああああ! それマジでやめて! 怖いんだって!)
全く、少し甘やかそうと思ったらこれだ。あの兄め。
ほんと、慣れっことはいえ何もかも筒抜けだと、こういう時困る。
まだ混乱してるっぽい兄の方からも雑な思念が届くから、脳髄が痒くて仕方ない。
ついつい、兄の思念に気を取られたが、クラスメイトの声で意識が表層に引き戻された。
「ご自愛下さいませ。何しろ、ノースベル様はバイロード王国に十八人しかいない聖女のお一人・・・・・・それも序列六位の天才なのですから!」
興奮して頬を薔薇色に染めた女生徒が拳を握って力説してくる。
「そんなことないわよ」
私は笑顔を作り、そう答えた。
笑ったら何か周囲で悲鳴が上がった。相変わらずなんだこれ、だ。
あ、兄の記憶にあったな。あれ、なんだっけ? あいどる? そうクラスのアイドルポジション。よく分からないけど、それがしっくり来る気がする。
にしても。
・・・・・・序列、ねぇ。
聖女とは人々を癒す力を持つ天使の代行者。聖母の化身。そんな別称がつくくらいには尊い役職に序列とは。本当に人間というのは何にでも番付をしたがる生き物だな。
聖女の序列は力の強さだけでなく、貢献度などの実績も加味される。
正直、私はこの序列を鼻で笑うしかない。
私は特に社会奉仕の精神に溢れた心優しい少女という訳でもないので、国からの要請がなければ目の前に怪我人や急病人がいない限りは力を使わない。
第一位のように自ら進んで慈善活動やら国内の民間の診療所を行脚したり、第八位のように宮廷医師の特別顧問として兵士を診たりする気は起きない。
そんな私が十八人中の第六位なのだ。借り物の力しか振るえない、この私が。
胸の中に黒い渦が蟠る。
聖女の序列も、周囲の評価も、自身の虚偽も、全て馬鹿馬鹿しくて虚ろだ。
暗い気持ちになってきたところに、陰鬱な空気とは無縁そうな高笑いが闇を切り裂く火の矢の如く放たれた。
「おーっほっほっほっ! 聖女なのに体調不良だなんて、弛んでいるのではありませんの? ノースベル・フォーシー! それはもう、私腹を肥やして虎のカーペットに寝そべってご馳走を貪り食らう豚のような悪徳官僚のお腹くらいの弛みっぷりですわね! まぁ、貴方は所詮第六位。第三位たるこの私の敵ではないというわけですわね! せいぜい今夜は温かくして早めに寝るとよろしいわ!」
一体いつの時代のロマンス小説に登場する高飛車お嬢様だ、とツッこみたくなるような笑い声で、人を馬鹿にしてるんだか、気遣っているんだか、根っこの人の善さ的なものが出ている台詞を言ったのは、クラスメイトのイザベラ・ハーシィ。
二つに分けて胸元に垂らしている艶やかな黒髪は見る者についついチョココロネを食べさせたがらせる程の見事な縦ロール。強い意志の宿った深紅のつり上がった瞳。健康的で張りのある肌。自主性を尊重するという校則ギリギリを攻めたフリルと薔薇の装飾まみれの改造制服。
ご丁寧に手の甲を口許に寄せて扇まで作っている。
物語に登場するちょっとアレなお嬢様を完全再現している彼女こそ、私を除いて同世代に三人しかいない中でもトップクラスの序列第三位の聖女様だ。
「あっ! ノースベル様! 大丈夫ですか? お加減が優れないと窺ったのですが」
「授業を受けても平気なのですか?」
「ご無理はなさらないで下さい」
「よろしければ、わたくしの膝掛けをお使い下さい」
「さぁ、お席にどうぞ」
一歩踏み入るだけでこの騒ぎ。聖女の権威恐るべし、だ。
本物の聖女でない身としては気が引けるけど、聖女じゃないからいいです! なんて言える訳ないし。
とりあえず、心配してくれるクラスメイトには大丈夫だと伝え、膝掛けを貸してくれようとした女生徒にはやんわりと断り、椅子を引いてくれた男子生徒にはわざわざ断るのも失礼なので、そのまま席に座ってお礼を言った。
「心配かけてごめんなさい。けど、私は大丈夫だから」
むしろ、大丈夫じゃないのは兄の方だろう。いきなり前世を思い出したと思ったら、何か知らんが窮地に立たされてるっぽいし。
さっきはあんな態度取っちゃったけど、帰ったらもう少し優しくしてあげても──
(え! マジで!? してして! 優しくして! マイシスター!)
・・・・・・・・・・・・。
(ぐわっ、ぎャ!? またあの呪詛っぽいものがぁあああああ! それマジでやめて! 怖いんだって!)
全く、少し甘やかそうと思ったらこれだ。あの兄め。
ほんと、慣れっことはいえ何もかも筒抜けだと、こういう時困る。
まだ混乱してるっぽい兄の方からも雑な思念が届くから、脳髄が痒くて仕方ない。
ついつい、兄の思念に気を取られたが、クラスメイトの声で意識が表層に引き戻された。
「ご自愛下さいませ。何しろ、ノースベル様はバイロード王国に十八人しかいない聖女のお一人・・・・・・それも序列六位の天才なのですから!」
興奮して頬を薔薇色に染めた女生徒が拳を握って力説してくる。
「そんなことないわよ」
私は笑顔を作り、そう答えた。
笑ったら何か周囲で悲鳴が上がった。相変わらずなんだこれ、だ。
あ、兄の記憶にあったな。あれ、なんだっけ? あいどる? そうクラスのアイドルポジション。よく分からないけど、それがしっくり来る気がする。
にしても。
・・・・・・序列、ねぇ。
聖女とは人々を癒す力を持つ天使の代行者。聖母の化身。そんな別称がつくくらいには尊い役職に序列とは。本当に人間というのは何にでも番付をしたがる生き物だな。
聖女の序列は力の強さだけでなく、貢献度などの実績も加味される。
正直、私はこの序列を鼻で笑うしかない。
私は特に社会奉仕の精神に溢れた心優しい少女という訳でもないので、国からの要請がなければ目の前に怪我人や急病人がいない限りは力を使わない。
第一位のように自ら進んで慈善活動やら国内の民間の診療所を行脚したり、第八位のように宮廷医師の特別顧問として兵士を診たりする気は起きない。
そんな私が十八人中の第六位なのだ。借り物の力しか振るえない、この私が。
胸の中に黒い渦が蟠る。
聖女の序列も、周囲の評価も、自身の虚偽も、全て馬鹿馬鹿しくて虚ろだ。
暗い気持ちになってきたところに、陰鬱な空気とは無縁そうな高笑いが闇を切り裂く火の矢の如く放たれた。
「おーっほっほっほっ! 聖女なのに体調不良だなんて、弛んでいるのではありませんの? ノースベル・フォーシー! それはもう、私腹を肥やして虎のカーペットに寝そべってご馳走を貪り食らう豚のような悪徳官僚のお腹くらいの弛みっぷりですわね! まぁ、貴方は所詮第六位。第三位たるこの私の敵ではないというわけですわね! せいぜい今夜は温かくして早めに寝るとよろしいわ!」
一体いつの時代のロマンス小説に登場する高飛車お嬢様だ、とツッこみたくなるような笑い声で、人を馬鹿にしてるんだか、気遣っているんだか、根っこの人の善さ的なものが出ている台詞を言ったのは、クラスメイトのイザベラ・ハーシィ。
二つに分けて胸元に垂らしている艶やかな黒髪は見る者についついチョココロネを食べさせたがらせる程の見事な縦ロール。強い意志の宿った深紅のつり上がった瞳。健康的で張りのある肌。自主性を尊重するという校則ギリギリを攻めたフリルと薔薇の装飾まみれの改造制服。
ご丁寧に手の甲を口許に寄せて扇まで作っている。
物語に登場するちょっとアレなお嬢様を完全再現している彼女こそ、私を除いて同世代に三人しかいない中でもトップクラスの序列第三位の聖女様だ。
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