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第三十三話 お礼の話

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 貴族たるもの礼儀を欠いてはいけない。
 一応、これでも貴族令嬢と呼ばれる立場なので、そこら辺は気をつけている。
 なので──

「皆様、本日は私のアリバイを証言して頂き、ありがとうございます」

 そう言って、私は目の前の令嬢たちに頭を下げた。
 私が今いるのは、あのミルミード・シャルニィ被害者の会の本部。私が蹴破った扉には心ばかりの応急処置がしてあり、今回は鍵はかかっていなかった。
 うっかりノックを忘れて、「お邪魔しまーす!」と中に入った時は、それはもう驚かれたけれど、今はこうして椅子に座らされ、お茶まで振る舞って貰っている。
 皆して、「一体、何しに来たんだろう?」という目で見られたので、私は早々に用件を口にした。つまり、お礼。

「そんな、お顔を上げて下さい。エルシカ様。頭を下げられる必要はありません」

 そう言われたので、私は顔を上げる。
 正面の席には、あの縦ロール令嬢。
 彼女はロードレス侯爵家の令嬢で、名をフランシエル嬢と言うそうだ。

「本当にありがとうございました。おかげで放火犯だと疑われずに済みましたわ」

 何せ、私を疑っているのはシャルニィ嬢のハーレムであるレスド殿下や有力貴族の令息たちだ。纏めて訴え出られたら、流石に警邏にも疑いの目を向けられたかもしれない。
 彼女たちが煙が上がった際に私と一緒にいたという証言をして、それを信じて警邏に伝えてくれたコンラッド殿下がいたから、私への放火の疑いは晴れたのだ。感謝しないとね。
 毒殺未遂──については、肝心の毒入りクッキーがああなっちゃったから、どうなるかはまだ分からないけれど。

「そんな、エルシカ様の疑いが晴れてようございました」

「ええ、助かりました。後日、改めて何かお礼をさせて頂きますわ」

「そんな・・・・・・エルシカ様が連行されるようなことはあってはならないと思っただけです」

「実際、あの場に貴女たちやコンラッド殿下がいらっしゃらなかったら、レスド殿下たちによって警邏に連れていかれてたかもしれませんから」

 公務執行妨害になるから、警邏は殴れないしね。
 あと、普通に警邏署へ連れてかれたなんて知られたら、なにやらかしたんだってお兄様に滅茶苦茶怒られる。

「両親に相談して心ばかりですが、薄謝をお渡ししたく思いまして」

「お金は物は結構ですわ。金品が欲しくて証言したわけではございませんもの。ただ──今日のことをエルシカ様のお心の端にでも留め置かれて頂ければ嬉しく存じます」

「──そうですね。おきましょう」

 ──そういえば、頭を下げる必要はないとは謂われたけれど、お礼の必要がないとは言われなかったわね。

 金品はいらないと言われた。つまり、言外にそれ以外のものが欲しいということだ。

 ──ん? あれ? ひょっとして私、こちらの勢力に引き込まれてる・・・・・・?
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