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第三十一話 毒は灰に、罪は誰に

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 天然なのか、わざとなのか、火に油を注いだシャルニィ嬢。
 彼女が一言「怖い」と言えば、男子たちは、

「睨むのは止めてくれないか。ミミィが怖がっている。可哀想だろう」

 と、全力で彼女を庇い、女子たちは、

「まぁ、睨んだつもりはありませんが──誤解ではなくて? それとも、睨まれるようなお心当たりでもあるのかしら?」

 どんどん機嫌が急降下していき、物言いに含まれる棘の量が増える。最早、覇王樹サボテンか針鼠だわ。全身トゲトゲ。

「はぅ~・・・・・・」

 そして、またシャルニィ嬢が泣き出す。
 シャルニィ嬢は、負のスパイラルを作り出す天才なの?
 被害者の会一同、こめかみをピクつかせてる。

「急に割って入って来て、何なんだ? 今は君たちの相手をしている暇はない。下がっててくれないか」

「レスド殿下、お言葉をお返しするようですが、わたくしたちとて、このような状況は見過ごせません。先程も申し上げましたが、今一度言いましょう。エルシカ様は煙が上がった時、わたくしたちと共におりました。火を付けるのは不可能ですわ。お考え直しになった方がいいかと」

 縦ロール令嬢が、私のアリバイをレスド殿下に話してくれる。

「不可能かどうかは分からないだろう。エルシカは足が速い。火を放ってから別の場所にすぐに移動することなど、わけないだろう」

「いえ! 煙が上がるより前から、エルシカ様はおりましたわ!」

「うるさい! 外様が口を出すな! 動機も十分にある。毒殺未遂の件も含めて、その首、いつまでも繋がってると思うなよ」

「殿下、それは脅迫になります。お言葉を選ばれては?」

「何?」

 要はお前の首刎ねてやるぞ! って言いたいんですね。罷り間違っても、王子が感情的になって言っていい台詞じゃないよ、それ。

「レスド、本当にいい加減にしろ! そもそも、まだ付け火と決まったわけでもないのに、憶測で話を進めるな」

「いえ、殿下。出火元とおぼしき場所を見ても、誰かが火を付けた可能性が高いかと」

「──マルク、今は少し黙っててくれ。あと、エルシカ嬢もうんうん頷かないで」

 いや、分かってますよ?
 まずは放火かどうかの検証が先だと強調して、私に対する疑いを一旦治めたいというのは。
 けれど、彼らの行動源は疑念じゃなくて憎悪ですし、それにヴァルト先輩が言ったように、どう見てもこれは外から何者かが火を放った燃え方だし。

「と・に・か・く・だ! 全てを明らかにするには、確たる証拠だ必要だ。そういう訳だから、シャルニィ嬢、君が持っていた毒入りのクッキーは押収させて貰う」

 さぁ、渡してくれと手を差し出すコンラッド殿下の手を、何を考えたのか、シャルニィ嬢はきゅっと両手で握った。

「シャルニィ嬢? 何をしてるんだ?」

 戸惑うコンラッド殿下に、シャルニィ嬢はにっこりと可愛らしい笑顔を向ける。
 ついさっきまで、私や被害者の会を見て、泣いたり怯えたりしてたのに、よくコロコロと表情を変えられるなぁ。
 コンラッド殿下を見つめ、シャルニィ嬢は言った。

「ごめんなさい、お兄様。私、逃げる時にびっくりしちゃって、躓いちゃって──あのクッキーを火の中に落としてしまったんです」

 だから、お渡し出来ませんと謝るシャルニィ嬢。

「──は?」

 コンラッド殿下は短く声を漏らし、ばっと燃え跡を振り返る。当然ながら、焼けた場所は皆、炭と灰になっていた。クッキーも毒も、例のメッセージカードも全て、灰と化してしまっただろう。
 これじゃあ、毒の検分は不可能。
 にしても、うっかり火の中に落とすだなんて、偶然にしては出来すぎじゃない?
 私は胡乱げにシャルニィ嬢を見た。相も変わらず、にこにことしている。

 ──あ、怪しい・・・・・・。
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