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第二十六話 水瓶の鞘

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「これは──!」

 コンラッド殿下の驚く声が聞こえたが、今は集中集中!
 この鞘、無尽蔵に水を出せるし、勢いの調整出来るのは便利だけれど、大量の水を勢いよく出すと反動でこっちが吹っ飛ばされかねないから、とにかく踏ん張らないといけないのだ。
 とにかく、蛇口を最大まで開くようにして水をかけて、かけて、かけまくる。
 すると、火は忽ち、小さく小さくなっていき、やがて完全に鎮火した。
 後にはびしょびしょで崩れ落ちた外壁と焦げた床や天井が残る。中の備品や調度品も黒焦げだったり、熱で変形してしまっている。

「これでよしっと!」

 再燃の可能性がないか確認してから、私は鞘から出していた水を止め、剣を鞘に戻した。

「火はこれで何とかなりましたから、後は怪我人などがいないかの確認をお願いします」

「あ、ああ。分かった。ソール、マルク」

「「了解致しました」」

 コンラッド殿下の指示に従って、クラウズム先輩とヴァルト先輩がまだ火災に動揺している生徒たちの方へと向かって行った。

「エルシカ嬢、その鞘はもしかして──」

 コンラッド殿下が剣を納めた鞘をまじまじと見つめてくる。
 おおよその察しはついているようだから、私は頷いた。

「はい、そうです。これは『水瓶の鞘』ですよ」

「驚いた・・・・・・王立美術館に保管してあったのが、暫く紛失したと思ったら、個人のものになったという話は聞いていたけれど、まさかそれがエルシカ嬢だったとは──」

 それはあれですね。紛失云々は私が借りパクしていた頃の話ですね。
 この水瓶の鞘は、超強力な水の精製魔法が使える最高峰の魔法具でもある。
 水とは生活の根幹にして、命の源。
 綺麗な水を際限なく出せるというのは、破格の力だ。
 そのため、この鞘は剣と共に長らく王立美術館に保管され、国内のどこかで水不足など、大量の水が必要な事態が発生した際に特別に使われるものだった。
 それが二年前。ガルルファング公爵家が王立美術館からこの剣と鞘を借り受けた際に、返還期日になっても返されなかった。主に私のせいで。
 二年前も四年前の魔族侵攻ほどじゃないけれど、厄介なことが起こって、何とかしようと屋敷にあった武器を片手に家を飛び出したのだ。
 ──それがたまたま、この剣だったわけで。
 いやぁ、これって国宝級の宝物ほうもつだから、お父様たち生きた心地しなかったろうなぁ。──うん、よくよく考えたら、誤魔化すために奔走していたお兄様には悪い気がしてきた。
 とは言え、最終的にこれをガルルファング公爵家──というより、私個人のものにしたがったのは、私以外の家族全員だけど。
 その後、お父様がめっちゃくちゃ頑張って、超特例としてこの剣と鞘は私の物になりましたとさ。
 大概、親ばかよねぇ。愛されてるのは嬉しいけどさ!

「何はともあれ、エルシカ嬢のおかげですぐに消火することが出来た。ありが──」

「エルシカ!」

「!?」

「──っ、レスド!」

 うわっ、びっくりした!

 怒気を放って現れたレスド殿下に、私はいきなり胸ぐらを掴み上げられた。
 ぎゅっ!? レスド殿下、私より身長高いから、襟が引っ張られる。後、コンラッド殿下と話してる最中に剣を背中に戻したから、持ち手が食い込んで痛い痛い痛い!

 なんなのよぉ・・・・・・。

 婚約破棄の手続きの際にも現れなかった元婚約者はかなりご立腹らしい。
 その肩越しには掛布を肩に掛けて、男子に囲まれて支えられているシャルニィ嬢の姿が見えた。

 そー言えば私、こいつら全員にシャルニィ嬢に毒を盛った犯人だと思われてるんだっけ?
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