26 / 37
第二十五話 消火活動
しおりを挟む
足の速さには自信があった。
ものの一分足らずで煙の上がっている校舎に辿り着いた。
校舎に近づくにつれ、どんどんきな臭くなっていたけれど、大分火の手が早い様で、その一分で最初は痩せっぽっちだった黒煙がぶくぶくの肥満体型に。
これ、あっちの校舎にいる人たち、大丈夫なのかしら・・・・・・。
心配しながら校舎へ向かうと、あちらこちらから叫び声や怒鳴り声が聞こえたが、想像していたよりは混乱してなかった。
「皆、落ち着いて! 早く消防に連絡を! 逃げ遅れたものはいないか、お互い確認し合ってくれ!」
「コンラッド殿下!」
「エルシカ嬢! どうしてここに!?」
私が来るとは思わなかったのか、コンラッド殿下は目を丸くした。
「煙が見えまして、気になって──状況はどうですか?」
「エルシカ・ガルルファング! これもお前の仕業かっ!!?」
げっ!? こいつは確か、シャルニィ嬢のハーレムの──。
目を逆三角形にした男子生徒が掴み掛かろうとしてきたので、身を反らして避ける。
こんなことしてる場合じゃないでしょうに!!!
「止めろ! 今は争っている暇はないぞ!」
そうだそうだ!
押さない、駆けない、喋らない、戻らない。
火事の時の四ヶ条の中に、どうして喧嘩しないが入ってないと思う? わざわざルールにしなくても当たり前のことだからだよ!
コンラッド殿下が止めてくれたし、本当にそんな場合じゃないため、この手合いは無視することにした。これ以上手ぇ出してくるなら、問答無用でぶん投げる。
「ふざけるな。どうせ、この火事もお前が──」
「邪魔だ! どけぇっ!」
「ぐっは!」
直後、男子生徒の後頭部に何かが直撃した。水桶だった。
見ると、水がなみなみと入った水桶を棒の両端から吊るし、肩に担いだヴァルト先輩だった。
「殿下! 水を汲んで来ました! ──ですが」
うん、圧倒的に量が足りない。火はどんどん大きくなっている。
今では、校舎の一階の教室が丸々一つ火に包まれている。
人力で水を運んできても、これじゃ焼け石に水だ。
コンラッド殿下も分かっている。早く消火しなくてはと、追い立てられている顔だ。
「大丈夫です」
項に手を伸ばしながら、私は言った。
「水なら、用意出来ます」
「エルシカ嬢?」
「どうやって?」と問いたげなコンラッド殿下に答えを提示するように、私は背中に仕舞った例の宝剣を鞘ごと引き抜いて、手に持った。
「お前! こんな時に剣なんて持ち出して、どういうつもりだ!?」
「うるさい。黙って見てなさい」
本来であれば、火に剣なんて風に一刺しもいいところだけれど、これは別。
「何をする気なんだ?」
「見てれば分かりますよ」
説明する時間はないし、何より見ればすぐに分かる。
私は鞘からするりと剣を抜くと、手を塞ぐ剣を地面に刺し、七つの蒼玉が縦一列に嵌め込まれた鞘の口を火に向けた。
「清かに溢れ出でて、荒炎鎮め、流し正せ!」
呪文を伝え、鞘をしっかりと両手で構える。
「放水!」
叫んだ途端、鞘の口から勢いよく、大量の水が逆流する滝のように噴射された。
ものの一分足らずで煙の上がっている校舎に辿り着いた。
校舎に近づくにつれ、どんどんきな臭くなっていたけれど、大分火の手が早い様で、その一分で最初は痩せっぽっちだった黒煙がぶくぶくの肥満体型に。
これ、あっちの校舎にいる人たち、大丈夫なのかしら・・・・・・。
心配しながら校舎へ向かうと、あちらこちらから叫び声や怒鳴り声が聞こえたが、想像していたよりは混乱してなかった。
「皆、落ち着いて! 早く消防に連絡を! 逃げ遅れたものはいないか、お互い確認し合ってくれ!」
「コンラッド殿下!」
「エルシカ嬢! どうしてここに!?」
私が来るとは思わなかったのか、コンラッド殿下は目を丸くした。
「煙が見えまして、気になって──状況はどうですか?」
「エルシカ・ガルルファング! これもお前の仕業かっ!!?」
げっ!? こいつは確か、シャルニィ嬢のハーレムの──。
目を逆三角形にした男子生徒が掴み掛かろうとしてきたので、身を反らして避ける。
こんなことしてる場合じゃないでしょうに!!!
「止めろ! 今は争っている暇はないぞ!」
そうだそうだ!
押さない、駆けない、喋らない、戻らない。
火事の時の四ヶ条の中に、どうして喧嘩しないが入ってないと思う? わざわざルールにしなくても当たり前のことだからだよ!
コンラッド殿下が止めてくれたし、本当にそんな場合じゃないため、この手合いは無視することにした。これ以上手ぇ出してくるなら、問答無用でぶん投げる。
「ふざけるな。どうせ、この火事もお前が──」
「邪魔だ! どけぇっ!」
「ぐっは!」
直後、男子生徒の後頭部に何かが直撃した。水桶だった。
見ると、水がなみなみと入った水桶を棒の両端から吊るし、肩に担いだヴァルト先輩だった。
「殿下! 水を汲んで来ました! ──ですが」
うん、圧倒的に量が足りない。火はどんどん大きくなっている。
今では、校舎の一階の教室が丸々一つ火に包まれている。
人力で水を運んできても、これじゃ焼け石に水だ。
コンラッド殿下も分かっている。早く消火しなくてはと、追い立てられている顔だ。
「大丈夫です」
項に手を伸ばしながら、私は言った。
「水なら、用意出来ます」
「エルシカ嬢?」
「どうやって?」と問いたげなコンラッド殿下に答えを提示するように、私は背中に仕舞った例の宝剣を鞘ごと引き抜いて、手に持った。
「お前! こんな時に剣なんて持ち出して、どういうつもりだ!?」
「うるさい。黙って見てなさい」
本来であれば、火に剣なんて風に一刺しもいいところだけれど、これは別。
「何をする気なんだ?」
「見てれば分かりますよ」
説明する時間はないし、何より見ればすぐに分かる。
私は鞘からするりと剣を抜くと、手を塞ぐ剣を地面に刺し、七つの蒼玉が縦一列に嵌め込まれた鞘の口を火に向けた。
「清かに溢れ出でて、荒炎鎮め、流し正せ!」
呪文を伝え、鞘をしっかりと両手で構える。
「放水!」
叫んだ途端、鞘の口から勢いよく、大量の水が逆流する滝のように噴射された。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる