上 下
25 / 37

第二十四話 黒煙

しおりを挟む
「それで一体、何のご用ですか?」

 盛大なため息を吐かれてしまったが、話自体は聞いてくれるらしい。

「手っ取り早くて助かります。単刀直入にお訊きしますね? ミルミード・シャルニィ嬢に毒を盛ったのは貴女たち?」

 訊いた途端、室内がざわめく。
 それぞれ、驚く者、困惑する者、憤る者、怯える者。反応は人それぞれだ。私は些細な情報も逃さないため、彼女たちの様子をつぶさに観察した。
 ────・・・・・・あら。
 ふと、気になる人物を見つけたけれど、私の意識は目の前に立っている縦ロール令嬢の呼ぶ声に引き戻された。

「エルシカ様、ミルミード・シャルニィの件は聞き及んでおります。確かにわたくしたちは、彼女が嫌いですし、彼女のしたことを許すことは出来ません。ですが、暗殺のような真似で命を脅かすようなことは致しませんわ!」

 鋭い目が私を突き刺した。
 その瞳に宿るのは、激しい怒りと──そして、矜持。闘うのであれば、正々堂々と正面から。そんな潔白の人間にしか出来ない瞳だった。
 ふむ。少なくとも、私の勘では彼女は無関係ね。
 私としては、あの気になる人物に話を訊きたいのだけれど、人前で訊いてもし関係なかった場合は申し訳ないし、出直そうかしら?
 そんなことを考えていると、令嬢の一人が窓の外を見て叫んだ。

「あら・・・・・・? え? 何あれ・・・・・・皆様! ご覧になって! 向こうの校舎から黒い煙が上がってますわ!」

「何ですって!?」

 皆が一斉に窓の方へより、外を確認した。
 私も一番手前へ出て、窓を開いて身を乗り出すように、煙の上がる方角を見た。
 そこには確かに、黒煙がどんどん太さを増しながら空へと上って行ってる。

 ──まさか、火事!?

「す、すぐに先生方に報告を!」

「どうしましょう! こちらまで火の手が来たら、どうしましょう!」

「落ち着いて! ここの校舎はあの校舎と繋がってないから、大丈夫よ!」

「あの校舎の人たちは気づいているの!?」

 令嬢たちの声が、耳に木霊する。
 そんな中で、私はある一つのことを思い出していた。

 ──あの校舎って確か──シャルニィ嬢たちがいる──

 そう、シャルニィ嬢たちが使っていた茶室がある校舎。ヴィクト・オーヴェルの話では、今はシャルニィ嬢は同じ校舎の医務室にいる。当然、様子を見に行ったコンラッド殿下たちも──なんて、考えてる場合じゃないわね!

「貴女たちはここから動かない方がいいわ」

「エルシカ様!? 一体何を!?」

「ちょっと行ってくる!」

 背後から訊かれたけれど、説明する暇はない。
 窓枠に足を掛けた私は、そのまま窓から飛び降りた。
 二階ぐらいなら、私にとっては段差と大差ない。
 危なげなく着地し、煙の上がる校舎へと向かう。

 それにしても──何だって今日は、次から次へと問題が起きまくるのよっ!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

柚木ゆず
恋愛
 ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。  自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。  マリオン達は、まだ知りません。  それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず
恋愛
 ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?  ……残念です。  貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。  ※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...