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間の章 コンラッドsaid 掴めない少女

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「何なんだ、一体・・・・・・?」

 凄まじい俊足で少女が去っていった温室の出入り口を見て、私はぽつりと呟いた。

「コンラッド殿下」

「ねぇ、ソール。彼女の真意はどこにあると思う?」

 半分に割ったスコーンを一つ手に取り、スプレッダーでクロテッドクリームをたっぷりと塗る。
 その間に、級友であり、未来の側近であるソールに質問する。
 彼女を連れてきてからは、話の邪魔をしないために控えててくれたソールが、口を開く。

「私にはよく・・・・・・何も考えてないように見えましたが」

「だよねぇ。私にもそう見えた」

 そう、彼女。愚行を犯した弟の現状婚約者であるエルシカ・ガルルファングの言動には、何ら悪意も毒も感じなかった。掴み所のない少女だ。
 まさか、本当に全く気にしていないのか? 公爵令嬢だぞ? それが王子に婚約破棄されて、しかも理由があれだぞ? 他の女に席を譲れと言われて、何も感じないのか? いや、今まで、エルシカ嬢とは何度かあったが、確かにレイズに執着しているような節は見当たらなかったが・・・・・・。

「はぁ、胃が痛い。ソール、すまないが、ミルクティーにしてくれないか?」

「かしこまりました」

 頼むと、ソールはすぐにミルクピッチャーを傾けた。本当にテキパキしていて、卒のない奴だ。

 それはそれとして、問題はエルシカ嬢。
 うむむむむ・・・・・・現状、ガルルファング公爵家と事を構えるような事態は絶対に避けなくてはいけない。
 何せ、今は獣王と呼ばれる我が父の御世だ。
 獅子を蹴り殺し、大熊の首を片手で折るような父は、武と人に恐怖を与えることに関しては右に出る者はいないが、まつりごとにはとにかく向かない。とことん向かない。
 そのことに関しては、もう仕方がないという他ない。
 幼少期から青年期のほとんどを密林で一人生き延びた人だ。感性は獣に近い。人の思惑が交差する政治を理解出来ない。
 だからこそ、息子である私がしっかりしなくてはいけないと思う。
 兄上は武者修行の旅に出て音信不通。姉上は既に他国へ嫁がれた。妹はよく手伝ってくれるが、だからこそ余計な心配は掛けたくない。そんな中での今回の弟のやらかしだ!
 ガルルファング公爵家は、父が玉座に就くまでの腐敗政治の中でも貴族の責務ノブレス・オブ・リージュを正しく貫いていた数少ない貴族だ。敵に回すにはあまりにも惜しい。
 そもそも、腐った連中はほぼ排されたとはいえ、王と貴族の関係はガッタガタだ。簒奪はないだろうが、ガルルファング公爵家の出方次第で宮中──最悪、国が割れる可能性もある。
 だから、早めにガルルファング公爵令嬢の機嫌を取って、最悪の事態だけは避けようと思ったのに、その令嬢の考えていることが、全く分からない!

 彼女の言葉は信じていいのか? いや、あそこまであっけらかんとしていたら、いっそ怪しいだろう。いや、しかし──。

 考えが纏まらず、同じことをぐるぐる考えてしまう。上辺だけを信じるのも駄目だが、深読みも読み違えれば火傷する。塩梅が難しい。

「とりあえず、正式に婚約破棄が決まるまでは様子見した方がいいのか・・・・・・?」

 下手に刺激すると返ってまずいかもしれない。

「急いては事を仕損じるとも言いますし、焦りは禁物かと」

「そうだな」

 ソールにも言われ、少し静観してみようという気になってきた。じっくりと観察した方が、エルシカ嬢の人となりも判断しやすいかもしれないしな。
 とりあえず、今後どうするかを考えながら、私はソールの作ってくれたミルクティーに口をつけた。

「そう言えば、結局『光の障壁』については探れませんでしたね」

「──うん」

 出来れば、そっちについても調べたかったんだけどね。
『光の障壁』。四年前の魔族の侵攻の折り、突如として現れた魔族を阻む壁だ。正体については一切不明だが、『光の障壁』によって進軍出来なくなった魔族が撤退したのが侵攻の顛末だ。
 出来れば正体を暴いて、国全体に巡らせたい。陣頭指揮を取っていたガルルファング公爵の娘なら何か知ってるかもしれないと思ったけど、探る前に逃げられてしまった。

「とりあえず、次はエルシカ嬢の空腹時は避けて声を掛けよう」

「はい」
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