上 下
30 / 53
第3章「小惑星パラス」

商売仁義

しおりを挟む
 グラント軍曹がモールをつけた士官に視線を送ると、士官はゆっくり頷いた。

 銃の所持は、人類普遍の権利だ。
 ただしパラスでは、法の隙間を縫う形で、総ての銃が銃の指紋とも言うべき旋条痕を登録するよう義務化し、さらにコロニーにダメージを与えかねない威力の高い小銃弾を規制している。
 つまり、銃を持つ権利は認めるが、弾丸を持つ権利の方を制限しようと。
 とはいえピストル弾は事実上野放しだが、それは銃の「指紋」を登録することによって、不法な使用を制限しようという政策だ。

 しかし最近急激に増えてきたのは、登録どころか旋条痕自体のない弾丸の乱射事件だ。
 大規模な密造工場が疑われたが、それらしいものは摘発されていなかった。
 しかし。
 削岩機をベースにして、ごく小規模のユニット交換をすれば……つまり今ガキが見せたとおりの小改造をすれば、削岩機は5分で工具すら使わず「自動小銃型ピストル」になる。
 そのために必要な空間は、アパートの一間で足りる。
 パラスがメインベルトにある小惑星である以上、削岩機の規制はできない。
 消耗品扱いで、倉庫には売るほどストックされている。
 威力は小さく連射もできず、排莢と給弾1発ごとにハンドル操作が必要というのは自動拳銃にも劣るが、「指紋」が残ることもなく、暴動で武力行使をするのに、戦力のシンボルとして自動小銃のシルエットは心強い。
 十分条件を求めればきりがないが、必要条件は余裕で満たしている。

「削岩機の倉庫、商社を当たらせろ!」
 モールの士官が声を上げた。
「ということは……」
 俺の問いには、グラント軍曹が答えてくれた。
「ああ。ダンナの場合、発破の方がブラフで、削岩機が本命だったってことだ」
 クソヤロウ!
 俺を運び屋もどきに利用しようとしやがったな!

 削岩機は大量生産品で、部品は規格化され、別のメーカーの物でもパーツの互換性は高い。
 俺が運んでいた削岩機には、「LTI」(リンドバーグ=ツール=インダストリアル)の刻印があるが、LTIは工具メーカーとしては太陽系でも最大手だ。偶然だろう。

「ダンナ、荷主と送り先、送り元を教えてもらえるな?」
 だが、俺は軍曹に、首を横に振った。
「守秘義務がある。ダメだ」
「俺はダンナに手荒なまねはしたくない。嬢ちゃんにも恨まれるだろうし、拘束しても無意味なのはわかっている」
「ダメなものはダメだ! トレイン乗りにはトレイン乗りの仁義がある!」
 今度は軍曹が舌打ちして、距離を取った。
 実力行使のための間合いか。その場に居合わせた兵士達の幾人かが、腰ベルトのホルスターへ手を伸ばした。

 クソコロニーだが、軍曹達に悪気がないのはわかっている。頃合いか。
 俺は斜め上の何もない方向へ顔を向け、誰とも目を合わせないようにして言った。
「ただ、今回は軍の臨検を受けて拿捕され、軍の桟橋に船が入っている。
 俺たちが地上に降りている間にコンピュータまで調べたって言うのなら、俺は知らない」
 モールの士官が含み笑いを漏らした。
「順番が逆になるが、誤差か。くくく……」
 その様子にグラント軍曹はしばらく間を開けてから、笑いを重ねた。
「ふふふ……。ダンナもタヌキだな。なかなか喰えない……」
 合点がいったようだ。
「ダンナが親代わりじゃ嬢ちゃんの教育にも良くないし、嬢ちゃんは軍で預かった方がいいな。
 身元引受人には自分がなろう」
「バカヤロウ。それこそガキの身が危ないぜ」
 そう言って、俺も笑いの輪に加わった。
 ひとりガキだけが、何が面白いのかわからず、きょとんとした顔をして俺たちを見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

無機質のエモーション

冴木シロ
SF
機械研究者「カロ」によって作られた1体の戦闘用アンドロイド「P100」 少しでも人間らしくなってほしいと願う人間と、 いつも無表情で淡々としたアンドロイドとの 無機質だけど、どこか温かい物語

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

処理中です...