10 / 16
第10話 澤山のライバル
しおりを挟む
「さーわーやーまー! なんっかい言ってもわかんねぇなお前は!!」
「わかってないのはお前だろ一色! こんな無茶な企画、営業として通せるわけがないだろ!!」
「かーーっ! これだから現場を知らない営業はイヤなんだよ! 生徒さんたちのニーズはこれなんだって!!」
「やかましいわ! 会社として採算がとれるかを考えろっつってんの! お前こそ理想論だけで語る癖をいい加減に止めたらどうだ?!」
「ああ゛?!!」
「あ゛ぁ゛ん?!」
ふしゅーー!という、威嚇の声が聞こえそうなほど言い争っているのは、澤山と、「(株)SUGUTORE 資格学校」の企画課係長の一色高人だ。
バンバンという机を叩く音とともに、二人の議論はますますヒートアップしていく。
そんな上司たちを遠巻きに見ながら、ポンコツ営業ズの3人組はコソコソと囁きあう。
「相変わらず凄いですねー、澤山さんと一色さんの喧嘩。もはや社内名物ですね」
「澤山さんの机の音やば。そろそろ二つに割れるんじゃないスか」
「いや流石に、そこまではやらないでしょ――ねっ、馬路さん」
土師は冗談めかした顔で馬路のほうに話を振ったが、馬路は唇の端をちょっと噛みながら黙り込んだ。
「………」
「えっ、なんで黙るんですか馬路さん」
「もしかして思い当たる節があるんですか馬路さん、教えてテルミーです」
馬路は気まずそうに眼をそらしたが、面白そうなことが聞けると察した安保と土師は、ワクワクとした表情で馬路の両腕をつかむ。
「あー、いや、でも私が勝手にしゃべるのは………わ、わかりました、話しますのでその目をやめてください!」
後輩たちからの期待に満ちたまなざしに耐えられず、馬路は知る人ぞ知る上司たちのエピソードを小声で語った。
――澤山さんと一色さんは、お二人も知ってる通り同期なのですが、昇進した時期も実は一緒だったんですよ。
二人とも、とても優秀な方でしょ? だからお互い負けないようにと、係長職に就いた直後なんか、すごい気迫だったんです。
もちろん、社内の空気を悪くするとか部下へのハラスメントとか、そういうことはなかったですよ? ただ、澤山さんと一色さん、お互いの相性が、こう、ご覧の通り壊滅的と言わざるを得ず…
お互いに口が出る手が出る足が出ると、その、今と比べるとずいぶん……アグレッシブに喧嘩していらっしゃって……
そして、私が入社して半年後だったと思うのですが……お二人は議論がヒートアップしすぎて――
「澤山さんは事務所の床に穴開けてめり込み、一色さんは脳震とうを起こしました」
「「どうしてそうなった(んですか)」」
安保と土師は、「解せぬ」といった表情で声をそろえる。何がどうしたら事務所でそんな大惨事が起こるのか。
今まで自分たちが起こしたアレコレを都合よく頭の隅に置いて、2人は首を傾げた。
「いや、お二人の『くそがーーーー!』という叫び声と、めきょっ、という音で振り返ると、いつの間にか。――流石にやりすぎたと思われたようで、その後の喧嘩はいくらか落ち着いたものになりまして……」
3人がそっと覗き見ると、澤山と一色はお互いの頬をつねって「うぎいいいいい」とうなりあっていた。
「……あれで?」
「はい……」
安保が容赦なく指をさすが、注意する気力もなく馬路はうなだれる。
3人がため息をついて自分たちの作業に戻ろうとしたとき、
「あ、でもでも、」
と土師が口を開いた。
「あれだけお互い言いたいことを遠慮なく言えるのって、一周回って仲が良い証拠ですよね!」
上司たちの地獄耳はその言葉だけはしっかりと拾い、
「「仲良くねぇよ!!!!!!」」
と声をそろえて土師に怒鳴ったのだった。
後日、土師は澤山と一色から、「大きな声を出してすまなかった」と、それぞれからご飯をおごってもらった。しかし、連れていかれた店が二人とも同じだったので
(やっぱり仲良いじゃん)と思ったが、流石の土師も、もう声には出さなかった。
「わかってないのはお前だろ一色! こんな無茶な企画、営業として通せるわけがないだろ!!」
「かーーっ! これだから現場を知らない営業はイヤなんだよ! 生徒さんたちのニーズはこれなんだって!!」
「やかましいわ! 会社として採算がとれるかを考えろっつってんの! お前こそ理想論だけで語る癖をいい加減に止めたらどうだ?!」
「ああ゛?!!」
「あ゛ぁ゛ん?!」
ふしゅーー!という、威嚇の声が聞こえそうなほど言い争っているのは、澤山と、「(株)SUGUTORE 資格学校」の企画課係長の一色高人だ。
バンバンという机を叩く音とともに、二人の議論はますますヒートアップしていく。
そんな上司たちを遠巻きに見ながら、ポンコツ営業ズの3人組はコソコソと囁きあう。
「相変わらず凄いですねー、澤山さんと一色さんの喧嘩。もはや社内名物ですね」
「澤山さんの机の音やば。そろそろ二つに割れるんじゃないスか」
「いや流石に、そこまではやらないでしょ――ねっ、馬路さん」
土師は冗談めかした顔で馬路のほうに話を振ったが、馬路は唇の端をちょっと噛みながら黙り込んだ。
「………」
「えっ、なんで黙るんですか馬路さん」
「もしかして思い当たる節があるんですか馬路さん、教えてテルミーです」
馬路は気まずそうに眼をそらしたが、面白そうなことが聞けると察した安保と土師は、ワクワクとした表情で馬路の両腕をつかむ。
「あー、いや、でも私が勝手にしゃべるのは………わ、わかりました、話しますのでその目をやめてください!」
後輩たちからの期待に満ちたまなざしに耐えられず、馬路は知る人ぞ知る上司たちのエピソードを小声で語った。
――澤山さんと一色さんは、お二人も知ってる通り同期なのですが、昇進した時期も実は一緒だったんですよ。
二人とも、とても優秀な方でしょ? だからお互い負けないようにと、係長職に就いた直後なんか、すごい気迫だったんです。
もちろん、社内の空気を悪くするとか部下へのハラスメントとか、そういうことはなかったですよ? ただ、澤山さんと一色さん、お互いの相性が、こう、ご覧の通り壊滅的と言わざるを得ず…
お互いに口が出る手が出る足が出ると、その、今と比べるとずいぶん……アグレッシブに喧嘩していらっしゃって……
そして、私が入社して半年後だったと思うのですが……お二人は議論がヒートアップしすぎて――
「澤山さんは事務所の床に穴開けてめり込み、一色さんは脳震とうを起こしました」
「「どうしてそうなった(んですか)」」
安保と土師は、「解せぬ」といった表情で声をそろえる。何がどうしたら事務所でそんな大惨事が起こるのか。
今まで自分たちが起こしたアレコレを都合よく頭の隅に置いて、2人は首を傾げた。
「いや、お二人の『くそがーーーー!』という叫び声と、めきょっ、という音で振り返ると、いつの間にか。――流石にやりすぎたと思われたようで、その後の喧嘩はいくらか落ち着いたものになりまして……」
3人がそっと覗き見ると、澤山と一色はお互いの頬をつねって「うぎいいいいい」とうなりあっていた。
「……あれで?」
「はい……」
安保が容赦なく指をさすが、注意する気力もなく馬路はうなだれる。
3人がため息をついて自分たちの作業に戻ろうとしたとき、
「あ、でもでも、」
と土師が口を開いた。
「あれだけお互い言いたいことを遠慮なく言えるのって、一周回って仲が良い証拠ですよね!」
上司たちの地獄耳はその言葉だけはしっかりと拾い、
「「仲良くねぇよ!!!!!!」」
と声をそろえて土師に怒鳴ったのだった。
後日、土師は澤山と一色から、「大きな声を出してすまなかった」と、それぞれからご飯をおごってもらった。しかし、連れていかれた店が二人とも同じだったので
(やっぱり仲良いじゃん)と思ったが、流石の土師も、もう声には出さなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる