風紀委員長は××が苦手

混沌を極める2学期

六十一話

ハァ、ハァ･･･ハァ･･･
倉庫に荒い息づかいが聞こえている。
２人が拳を交えてから、数分が経過したが未だに膠着状態のまま決着はついていなかった。
流石に疲れが見え始めた姫川だったが、逆に圭介の息は多少荒くなっているものの、まだ余裕がありそうだった。
拳を交えたことで、おそらく相手は自分より強いことを姫川は理解した。そしてその差は長期戦になればなるほど顕著に表れているようだった。
圭介がまた突進し、何発も拳を繰り出してきた。
クソッ･･･
その拳をなんとか避けながら、姫川も腹を括る。
相手の攻撃に集中しひたすら躱わすことだけに専念しながらタイミングを図る。
すると何発目かの後、圭介が低い体勢から姫川の腹めがけて拳を突き出した。
今だ！
その機を逃してなるものかと、姫川はその一発を捨て身の覚悟で腹に受けた。
ゴッ！
鈍い音が自分の体からしたかと思うと強烈な痛みが腹部を襲う。
一瞬痛みで前に屈みそうになるが、なんとか足に力を入れて踏ん張ると直ぐに懐まで入ってきていた圭介の胸ぐらを掴んだ。
そして圭介の顔を引き寄せると同時に姫川は思い切り自分の額を相手の顔面に打ちつけた。
「ガァぁぁー！」
物凄い咆哮を上げながら圭介は、血が吹き出す鼻を手で押さえ堪らす蹲る。
体力も底をつきかけ、やられるのも時間の問題だった姫川の捨て身の作戦が何とか功を奏した。
この好機を逃してなるものかと、姫川はとどめの一撃を入れるべく、足早に圭介に近寄った。
圭介もそんな姫川の考えが解るのか、顔を押さえながらも必死に立ちあがろうとしていた。
姫川は圭介が再び立ち上がる前に勝敗を決めようと、足を浮かす。
そして容赦なく圭介の側頭部に蹴りを入れようとした。しかし次の瞬間、軸にしていた足に強い衝撃がはしった。
そしてそのまま体勢を崩すと、床に激しく倒れ込んだ。
ダンっ！ズザザァァァ
姫川の倒れた音が倉庫に響く。一瞬姫川自身も自分の身に何が起こったのか理解できなかったが、このままではまずいと直ぐに立ちあがろうと片膝を立てた。その途端姫川の足首がズキンッと痛む。
すると頭上から
「ヘヘッ･･･」
と嫌な笑い声が聞こえてきた。姫川が声のする方に顔を上げると先程姫川が鳩尾に一発入れて倒した男と目が合った。
どうやら姫川は圭介に蹴りを入れる瞬間、軸にしていた足をこの男に横から蹴られ転倒したらしかった。
後一歩のところで邪魔されたのかと思うと、悔しさで姫川の顔が僅かに歪む。その様子を嬉しそうに男が見下ろしていた。
姫川は圭介との対決に必死になりすぎて、周りが見えていなかったことを後悔するしかなかった。その時、
「誰が邪魔をしていいと言った？」
恐ろしく低い声が聞こえたかと思うと、顔面を押さえたまま圭介がユラリと立ち上がった。
「おい、誰が邪魔しろって言ったんだよ！オラァー！」
答えない男に痺れを切らしたように圭介が怒鳴る。
すると嬉しそうに嫌な笑いを浮かべていた男は一転、怯えるように体を震わせ始めた。
圭介は男達の中でも、1番冷静で頭も良さそうな印象だったが、今は興奮のあまり息も荒く、目も血走って見えた。
顔の至る所に付着する圭介の血が、この男の異様を一層際立たせていた。
「おっ怒るなよ圭介。お前がやられると思って手助けしただけじゃねえか。」
男はどもりながらもなんとか圭介に弁解するが、
「はぁ⁉︎俺がやられるだと！ふざけるなよ！俺は今心底この状況を楽しんでんだよ！」
と、聞く耳を持たない。
「そうだったのか･･･。それは悪かったな。」
男はそう言って必死に両手を振りながら謝るが、圭介は一度下を向くとボソボソと何かを話し始めた。
「････。････。」
あまりにも小さい声で最初は何を言っているのかもわからなかったが、喋っている内に興奮してきたのか圭介は再び声を荒げ始めた。
「俺はいつもテメェらの尻拭いだろうがっ。お前らがバカでクズでどうしようもねぇから俺が頭を悩ます羽目になる！今回だってお前らの勝手のせいで、俺たちの計画は端っから滅茶苦茶なんだよ！」
どんどんヒートアップしていく圭介に男は途中何度も謝る。
「悪い！俺が悪かったから、許してくれ！」
その異質で異様な光景に姫川も瀬戸田でさえも目を離すことが出来なかった。
「無能で出来損ないで、俺がいないと何も出来ねぇなら、俺の邪魔だけはすんじゃねぇぇ！」
「あぁぁぁぁ！！本当にごめんなさっー」
ボコォ！！ズザァァー！
男が全部言い終わる前に、圭介は男の顔面に思いっきり拳を叩き込んだ。男は殴られた衝撃で一瞬宙に浮くと、そのまま派手に倒れ込んだ。
時折男の体がピクッピクッと痙攣しており、そのパンチの威力を物語っていた。