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痛いくらいに激しく抱いて①
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夜のベッドの上。荒い息遣い、室内に響く淫らな音、偶に聞こえる矯正と、よれるシーツ。
こいつと体をつなげる様になって数週間が過ぎた。こいつの事が好きになってしまった俺は、付き合える事になった時手放しで喜んだ。
顔だって自分の好みだ。料理だって、家事だってそつ無くこなし、俺に尽くしてくれるこの男を愛していることに間違いはない。
なのに・・・この満たされない思いは何だ?
こいつこと、山本明成という男と出会ったのは職場の懇親会だった。まぁまぁ大きな会社に勤めている俺は、普段よく行き来する部署以外では知らない部署も多く、会った事のない会社の人間も沢山いた。そんな者同士で交流を深めるための懇親会は、会社の全部署の数名が集まり交流を深めるというものだった。
酒も交えた席で、普段自分があまり関わることのない業務の内容を知ったり、初めて会う人と交流を深めることはそれなりに新鮮な体験だった。
しかしそれよりも魅力的だったのはこの懇親会は時間外手当が出るということだ。酒を飲めて、飯を食えて、その上給料も発生するとあれば参加しない訳にはいかない。
立食形式で行われた懇親会。ビュッフェで自分の好きな飯を取りながら近くの人間と名刺を交換したり、少し話をしたりする。なんだかお見合いみたいだなと笑っているとふと隣に誰か立った気配がした。
それが山本明成だった。少し色素の薄い柔らかそうな髪に、人懐っこい笑顔で俺に話しかけてきた。少し見ためが厳つい俺は、自分から話しかけることで交流を持ってきたが、山本明成は初めから自分に物怖じせず話しかけてきて、その事がとても印象に残っていた。
でも、その時はその場で少し話す程度で特別な感情を持つ事もなかった。
明成と2回目に会ったのは、久々に行った馴染みのゲイバーだった。
ここ最近は仕事も忙しくあまり足を伸ばせてなかったが、一段落ついたタイミングで体が疼き始めた。30歳を迎えた体はそれでも以前ほど頻繁に欲求を訴える事はなかったが、偶にはこうして抜いとかないといけない程にはまだ性欲もあった。
店に入ると、マスターが驚いた声を出した。
「あらっ?やすじゃなーい!久しぶり!どうしてたの?」
マスターの大声に店内の客の目線が一斉に俺に集まる。そのことに顔を顰めながら、
「うるせぇな。声がでけぇって。」
とマスターを非難する。
「ごめんごめん。最近めっきり顔を出さないから、心配してたのよ。」
バツが悪そうに肩を竦めながらマスターが謝罪する。
「俺もいい歳になったし、仕事でもそれなりに忙しいんだよ。」
言いながら、マスターの前の椅子に腰をおろす。
「へぇ、あのやすがねぇ・・・暴れん坊だったのに、すっかり立派な社会人になって。」
「いつの時代の話をしてんだよ。逆に今もあのままじゃ目も当てられないだろうが。」
昔バカばっかりしていた時の事もマスターは知っている旧知の仲だ。そんな俺が立派に仕事をしている姿が嬉しいらしい。目を細めて楽しそうに笑いながらマスターは話し、俺が注文をしなくても、お気に入りの酒を出してくれる。俺にとっても此処は居心地のいい場所だった。
マスターと暫し会話に華を咲かせていると、ふと後ろから視線を感じた。
ゆっくりとそちらの方に目を遣ると、
「えっ?近藤さん?」
と俺の名前を呼ぶ声がした。
「えーっと、山本くんだったっけ?」
一回だけ懇親会で会った目の前の男の名前を必死に思い出して口にする。
「はい!覚えていただいていて嬉しいです。」
相変わらず人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
「お前こそよく覚えていたな。」
俺が言うと、少し顔を赤らめながら
「はい。あの、かっこよかったので覚えてました。」
と小さい声で言った。
「まぁ!」
とマスターが感嘆の声を出す。俺はマスターを一睨みすると、もう一度山本に目を向ける。
「山本くんもこっち系なの?」
安にゲイであるか尋ねると、明成は後ろ頭を掻きながらコクっと頷いた。その仕草が可愛くて俺は僅かに口角を上げる。
「そうか。でも会社にはお互い黙っとこうな。周りに知られると色々面倒なこともあるから。」
一応山本より歳も上で、部署は違うものの身分的に俺は上司だ。これ以上、上司と会話することは気まずいだろうと、その言葉を最後にまたマスターに目を向けた。
しかし、当の山本は未だに自分の側から離れようとしなかった。
「まだ何か?」
山本に問いかけるように言うと、
「あの、良かったら隣いいですか?」
と言ってきた。俺は山本のその言葉に面を食らう。
「いいけど、俺と飲むと気を遣うだろ?」
その言葉に山本は首を振りながら、
「いえ、そんな!寧ろ一緒に呑んでもらえるなんて嬉しいです。懇親会で会ってもう少し親しくなりたいと思っていたんです。同じ会社にいるとは思えないほど、本当に会わないですもんね。」
と笑って見せた。
くそっ!
無駄に可愛いこの山本という男に不覚にもこの時初めてときめいてしまった。
しかし、自分がこの男を好いたところで叶うことはないとこの時はまだそう思っていた。
こいつと体をつなげる様になって数週間が過ぎた。こいつの事が好きになってしまった俺は、付き合える事になった時手放しで喜んだ。
顔だって自分の好みだ。料理だって、家事だってそつ無くこなし、俺に尽くしてくれるこの男を愛していることに間違いはない。
なのに・・・この満たされない思いは何だ?
こいつこと、山本明成という男と出会ったのは職場の懇親会だった。まぁまぁ大きな会社に勤めている俺は、普段よく行き来する部署以外では知らない部署も多く、会った事のない会社の人間も沢山いた。そんな者同士で交流を深めるための懇親会は、会社の全部署の数名が集まり交流を深めるというものだった。
酒も交えた席で、普段自分があまり関わることのない業務の内容を知ったり、初めて会う人と交流を深めることはそれなりに新鮮な体験だった。
しかしそれよりも魅力的だったのはこの懇親会は時間外手当が出るということだ。酒を飲めて、飯を食えて、その上給料も発生するとあれば参加しない訳にはいかない。
立食形式で行われた懇親会。ビュッフェで自分の好きな飯を取りながら近くの人間と名刺を交換したり、少し話をしたりする。なんだかお見合いみたいだなと笑っているとふと隣に誰か立った気配がした。
それが山本明成だった。少し色素の薄い柔らかそうな髪に、人懐っこい笑顔で俺に話しかけてきた。少し見ためが厳つい俺は、自分から話しかけることで交流を持ってきたが、山本明成は初めから自分に物怖じせず話しかけてきて、その事がとても印象に残っていた。
でも、その時はその場で少し話す程度で特別な感情を持つ事もなかった。
明成と2回目に会ったのは、久々に行った馴染みのゲイバーだった。
ここ最近は仕事も忙しくあまり足を伸ばせてなかったが、一段落ついたタイミングで体が疼き始めた。30歳を迎えた体はそれでも以前ほど頻繁に欲求を訴える事はなかったが、偶にはこうして抜いとかないといけない程にはまだ性欲もあった。
店に入ると、マスターが驚いた声を出した。
「あらっ?やすじゃなーい!久しぶり!どうしてたの?」
マスターの大声に店内の客の目線が一斉に俺に集まる。そのことに顔を顰めながら、
「うるせぇな。声がでけぇって。」
とマスターを非難する。
「ごめんごめん。最近めっきり顔を出さないから、心配してたのよ。」
バツが悪そうに肩を竦めながらマスターが謝罪する。
「俺もいい歳になったし、仕事でもそれなりに忙しいんだよ。」
言いながら、マスターの前の椅子に腰をおろす。
「へぇ、あのやすがねぇ・・・暴れん坊だったのに、すっかり立派な社会人になって。」
「いつの時代の話をしてんだよ。逆に今もあのままじゃ目も当てられないだろうが。」
昔バカばっかりしていた時の事もマスターは知っている旧知の仲だ。そんな俺が立派に仕事をしている姿が嬉しいらしい。目を細めて楽しそうに笑いながらマスターは話し、俺が注文をしなくても、お気に入りの酒を出してくれる。俺にとっても此処は居心地のいい場所だった。
マスターと暫し会話に華を咲かせていると、ふと後ろから視線を感じた。
ゆっくりとそちらの方に目を遣ると、
「えっ?近藤さん?」
と俺の名前を呼ぶ声がした。
「えーっと、山本くんだったっけ?」
一回だけ懇親会で会った目の前の男の名前を必死に思い出して口にする。
「はい!覚えていただいていて嬉しいです。」
相変わらず人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
「お前こそよく覚えていたな。」
俺が言うと、少し顔を赤らめながら
「はい。あの、かっこよかったので覚えてました。」
と小さい声で言った。
「まぁ!」
とマスターが感嘆の声を出す。俺はマスターを一睨みすると、もう一度山本に目を向ける。
「山本くんもこっち系なの?」
安にゲイであるか尋ねると、明成は後ろ頭を掻きながらコクっと頷いた。その仕草が可愛くて俺は僅かに口角を上げる。
「そうか。でも会社にはお互い黙っとこうな。周りに知られると色々面倒なこともあるから。」
一応山本より歳も上で、部署は違うものの身分的に俺は上司だ。これ以上、上司と会話することは気まずいだろうと、その言葉を最後にまたマスターに目を向けた。
しかし、当の山本は未だに自分の側から離れようとしなかった。
「まだ何か?」
山本に問いかけるように言うと、
「あの、良かったら隣いいですか?」
と言ってきた。俺は山本のその言葉に面を食らう。
「いいけど、俺と飲むと気を遣うだろ?」
その言葉に山本は首を振りながら、
「いえ、そんな!寧ろ一緒に呑んでもらえるなんて嬉しいです。懇親会で会ってもう少し親しくなりたいと思っていたんです。同じ会社にいるとは思えないほど、本当に会わないですもんね。」
と笑って見せた。
くそっ!
無駄に可愛いこの山本という男に不覚にもこの時初めてときめいてしまった。
しかし、自分がこの男を好いたところで叶うことはないとこの時はまだそう思っていた。
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