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十三話(中編)

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あの一件から、ラティーヌは冬馬を自分のものにしたくて堪らなくなっていた。
そして、注意深く冬馬を観察しその機会を窺った。
何日か冬馬の行動を観察しているうちに、ラティーヌはあることに気づいた。
長い遠征中は、風呂やシャワーもないため、近くの川で体を清める。皆、同じように体を洗うのに、冬馬は皆の前では頑として水浴びをしなかった。おそらく自分が男たちからどういう目で見られているのか知っていたからだろう。しかし冬馬の衣服や体はそれなりに清潔で、いつどこで体を清めているのかラティーヌは疑問に思った。
そんなある日、深夜ラティーヌが眠りについていると、人の動く気配を感じた。静かに野営用のテントから出て様子を見ると、冬馬がどこかへ行くのが見えた。ラティーヌは冬馬の動向が気になり、そっと後をつけることにした。
冬馬は森を抜け、辺りを気にしながら、日中皆で水浴びをしていた場所に来ていた。
そこでおもむろに衣服を脱ぐと、静かに水浴びを始めた。星明かりに照らされた冬馬の裸体は、美しいの一言では表現できないほどの妖艶さを湛えていた。
ラティーヌは自分しか知らない冬馬の行動を知って悦びに震えた。そして、冬馬を抱くならこの機会を逃さない手はないと感じた。
ジャリッ
ラティーヌは敢えて音を立てて冬馬の方に近寄った。
「誰だ!?」
一瞬で冬馬が振り返り警戒心を滲ませる。
しかしその声に答えることはなく、ラティーヌはそのまま歩みを進める。
ジャリっジャリっ
ピリピリと張り詰めた空気がお互いの間を流れる。
ラティーヌが星明かりの下に来た頃、冬馬の警戒心が宿った目とぶつかった。
ラティーヌを認識した冬馬は安心したようにふっと息を吐く。
「何だ・・・ラティーヌか。どうした?お前も水浴びに来たのか?」
ラティーヌは人に興味を示すことが無いため、冬馬はまさか自分が目的でここまで来たとはつゆ程も考えていない。
何も答えないラティーヌに首を傾げながら、何の疑いもなく近寄ってくる。
「俺はちょうど上がるところだから、まぁゆっくりしていけよ。」
軽い口調でそういうとラティーヌの横を通り過ぎようとする。
その手をラティーヌがガシッと掴んだ。
「!?」
冬馬は驚いた顔でラティーヌを見返す。
「水浴びなんかじゃありませんよ。貴方をつけてきました。」
その言葉に冬馬が目を瞠る。
「なっなんか用でもあったのか?」
本当はラティーヌの言葉の意味に薄々気づいている筈なのに冬馬は信じたくないとばかりに言葉を詰まらせながら尋ねてくる。
「はっきり言わないとわかりませんか?貴方を抱きにきたんですよ。」
その瞬間ものすごい力で掴んでいた腕を振り払われた。
「てめぇ何のつもりだ?」
さっきまでの冬馬は鳴りを潜め、触れたら怪我をしそうな鋭い目で見つめ返してくる。
あの夜洞穴で男たちを見つめるその目を思い出しラティーヌは興奮を抑えきれない。
「意外ですか?私が貴方を抱きたいと言うのは。」
ラティーヌは自分の興奮を冬馬に悟られないよう、冷静を装って話しかける。
「あぁ、笑えない冗談だ。」
話している間にもラティーヌはジリジリと、間合いを詰める。
冬馬は左右に目を配りながら次の行動を思案しているようだった。
「貴方が私に勝てますか?言っておきますが私は強いですよ。」
「自分で強いって言ってりゃ、ざまぁねぇな。」
あくまで強気の冬馬にラティーヌは目を細める。
ジリジリ詰め寄っていたラティーヌが、冬馬の間合いに入った。冬馬はこれ以上詰められないよう一歩下がる。
「それ以上近寄ったら容赦しねぇ。」
静かに、しかし怒気を孕んでラティーヌを睨む。
その視線を平然と躱して、ラティーヌがまた一歩前に出た。
その途端、冬馬がラティーヌ目掛けて飛び出し、一気に間合いを詰めると足下に回し蹴りを繰り出した。しかし、ラティーヌも負けじとその蹴りを飛んでヒラリと躱わすと冬馬の足を掴みに掛かる。すぐに体勢を立て直した冬馬が横に飛び退きそれを避ける。
ビリビリとするような緊張感の中また、2人が対峙する。
「流石、素早い動きですねぇ。これは一筋縄ではいかなそうだ。」
ラティーヌが微笑みながらそう言うと、
「当然だろ。タダでこの体触らせてたまるかよ。」
と、特に表情も無い冬馬が吐き捨てるように返す。
「そう言われると、無性に触りたくなります。」
「この変態がっ。」
両者譲らず睨み合いが続く。次に先手を打ったのはラティーヌだった。
足元の小石を拾い上げると、それを冬馬に向かって投げつけた。それを躱そうと冬馬が体を傾ける。その隙に一気に間合いを詰めて下からアッパーのように拳を鳩尾に向かって突き出した。
冬馬は石を躱した後、両手でその拳を受け止める。しかし体全体の力で繰り出されたその拳は重く、上手く受け止めきれず体のバランスを崩してしまう。
そこを狙うかのように、ラティーヌは冬馬の足下を掬うようにキックをする。
冬馬はすんでのところでそのキックを避けようとジャンプした。
ところがラティーヌは途中でキックをやめるとジャンプした冬馬の髪を持って地面に叩きつけた。
「ぐぅっ!」
背中を浅瀬の地面に打ちつけて冬馬が呻く。
ラティーヌのフェイントに引っかかった冬馬は痛みから中々起き上がる事が出来ない。
「くそっ!」
「だから言ったでしょう?私は強いですよって。」
言いながらラティーヌは未だ立ち上がれない冬馬の体を抱き抱えようとする。
「ぐぅ、くそっ離せ。」
痛みでろくな抵抗もできなくなっていたが、それでもラティーヌに触られまいと手足をばたつかせ抵抗する。その手が偶然にも、ラティーヌの顎にヒットした。思わぬ反撃にラティーヌが一瞬怯む。
その隙に痛む体を奮い立たせ冬馬が駆け出した。
「くそッ」
せっかく捕まえかけた獲物が逃げ出したことにラティーヌが苛立つ。すぐに追いかけ逃げるのに必死な冬馬の首元に手刀を落とした。
「う“っ!」
冬馬は呻き声を上げるとその場に倒れ込んだ。ラティーヌはその姿を見下ろしながら、微笑んだ。
星明かりが照らすラティーヌの顔は口元に笑みだけ浮かべ、目をギラギラさせたゾッとするような顔だった。




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