浄霊屋

猫じゃらし

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七五三6★

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 2匹の狐が去った後、神主達が倒れていた為にちょっとした騒ぎになったのは言うまでもない。
 幸いだったのは、参拝客を一時的にお断りしてもらっていた事と、神主達が早めに目を覚ました事だった。

 むくりと起き上がった神主は、手をパンパン! と叩いてどよめく巫女達に「解散!」と言い放った。
 訳がわからず、眉をひそめながらも巫女達は持ち場に戻っていった。

「夢の中で、白く輝く狐に『早く起きて、その場を鎮めよ』って言われてね」

 神主はなんだか嬉しそうに言った。

「こういう不可思議なの、初めてだなぁ」

 満足気に話す神主は少しおかしく見えるが、問題はなさそうだ。
 そして、神主と一緒に倒れたさくらは、倒れた際に膝を擦りむいたにも関わらず、自分のことよりも周りの心配をしていた。

「私、迷惑かけてない?」

「迷惑なんて1つもない。乃井さんがいてくれたから、凛をここまで連れてこれたんだ。ありがとう」

 健がお礼を言うと、ホッとしたように微笑んだ。
 そこでやっと膝に傷があることに気づき、巫女さんの1人に手当てをしてもらった。
 最後に、狐に取り憑かれた大智はというと、これといった変化は特に見られなかった。

「狐に突進されたまでは覚えてるんだけど、そこからはさっぱり。何かあった?」

「いや……」

 覚えてないというのなら、今話す必要はないか。しばらく様子をみよう。
 狐の件は、一楓に聞いてみるか。

 健が考えていると、大智がごそごそとポケットに手を出し入れし「あれぇ?」と素っ頓狂な声を出している。

「スマホどこいったんだろ?」

 大智は自身の倒れていた辺りを見回した。
 綺麗に整った石畳から外れて、玉砂利の上に落ちているスマホに気づくと、駆け寄って拾い上げた。

「良かった、あっ……た…………」

 スマホを見た大智は言葉をなくした。
 どうしたのかと、健が近寄りスマホを覗く。

「……」

「あらら、画面割れちゃってるね」

 同じく覗き込んださくらが、事もなげに言う。
 大智は急いで電源をつけようとボタンを押す。
 カチ、カチ、カチ、と何度押しても画面は真っ黒なままだ。

「買い換えたばっかりなのに……」

 大智が呟いた。
 あまりの痛ましさに、健はかける言葉が見つからなかった。
 唯一かけたのは

「飲み行くか」

 だけだった。
 さくらは喜んで賛同した。
 あまり乗り気にならない大智に「奢るから」と言うと、やっと首を縦に振ったのだった。




 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎




「そういえば乃井ちゃん、お参りしていかないの?」

 神主にお礼を述べ、神社を出ようとしていた時に大智が言った。
 さくらはもじもじと健を見て、口籠る。

「乃井ちゃんなら知ってるでしょ? ここ、縁結——」

「早く行こ! ね、大智、行こう!」

 大智が言い終わる前に言葉をかぶせ、さくらは大智の腕をぐいぐいと引っ張って歩き出した。
 大智は転びそうになりながら引っ張られていく。

「あ、そうだ」

 健は大智達の後ろをゆっくりと歩きながら、スマホを取り出した。
 同一人物から、何件か不在着信が入っていた。
 その一つに電話をかけ直す。
 数コールの後、通話が開始される。

「仁科です。無事終わりました」

 依頼主である斉木 佳奈さえき かなに、報告をまだしていなかった。
 健は簡潔に事のあらましを話し、凛が両親の元へ帰ったことを伝えた。
 佳奈は安堵したように「そう……」とだけつぶやいた。

 用件が済んだので健が電話を切ろうとすると、佳奈は話題を変えた。

「クリスマスですか?」

 健の言葉に、前を歩いていたさくらが振り返った。

「予定は別にないですけど。ごはんですか?」

 さくらが慌てて健の元へ戻ってきた。
 大智は楽しそうにニヤニヤと見ている。

「あー……バイト次第です。バイトがなければ大丈夫です」

 健の答えに、さくらはなんとも微妙な顔をした。
 佳奈も同様で、腑に落ちないといった感じだったが、一応の約束だけをして電話を終えた。

「佳奈さんとごはん行くの?」

 さくらが唇を尖らせながら健を見ている。
 健は、さくらがなぜ怒っているのかわからず一歩引いた。

「いや、だからバイトがなかったらだって」

「私も仁科君……君と、ごはん行きたい」

「それは今から行くだろ」

 健が言うと、大智が声を上げて笑い始めた。
「鈍感ー!」と笑うが、何がなんやらまったくわからない。
 さくらはさらに唇を尖らせ、ぷいと顔を背けてしまった。

「いやー、健は本当すごいよ。面白い。乃井ちゃん、大変だね」

「もー、笑い事じゃない!」

 笑いの収まらない大智にさくらが怒る。

「でもさ、呼び方変えたんだ? 進歩したじゃん」

 大智の指摘に、頰を真っ赤に染め上げるさくら。
 ちら、と健を見ると「健君って呼んでもいい……?」と小さく聞いた。

「え、うん、いいけど」

 上目遣いで見つめられた健は、戸惑い気味にそう答えた。
 さくらは嬉しそうに微笑み、くるりと背中を向けた。髪の隙間から見える耳まで、赤く染まっていた。


 なんだか、やりづらい……。


 健は頭を掻いた。
 健の耳も、つられるように赤く染まっていることに、誰も気づくことはなかった。






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