異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第176話:信仰心

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 先ずはイリアと繋がる

 そう思い早速行動に移そうと思ったが、フェイクスが気になり一度其方に目を向ける。
 フェイクスは少し離れた位置から此方を見ているが、邪魔はされたくは無い為アリシエーゼに言って警戒させる事にした。

「アリシエーゼ、周囲の警戒を頼む。特にあの野郎にちょっかいだされたくねぇ」

「・・・分かった」

 俺がやろうとしている事を理解している様だが、本当に出来るのかと不安そうだった。
 俺も正直分からない。今まで人間の脳を操作する能力と思って使っていたので、それ以外の事をやろうとした時どうなるのかは想像が付かない。
 が、それでも今更出来ませんと何もやらずに止める事は出来ないし、それに出来ないとは思っていない。
 出来るとも断言出来ないのだが、何となくイケそうな気がすると言う何とも根拠に乏しく頼りない俺の感がそう告げているのだ。

「じゃあ、さっさとやっちまおう」

 俺はイリアに向き直り顔を真っ直ぐに見詰める。
 イリアも緊張した面持ちで無言で頷くが、見詰め合う二人の間に漂う何とも言えない緊張感を感じてか、イスカと傭兵達がお互いの顔を見合い、困惑の表情を浮かべる。

「お、おい、何やってんだ、こんな時に―――」

「少し待ってみよう」

 イスカの言葉を遮り、ファイがイスカを止める。
 イスカは何でだとファイに詰め寄るが、ファイだって何がなんだか分からない筈なのに俺のやる事だからときっと協力しているのだ。
 ファイやイスカのやり取りを尻目に俺はイリアと繋がる。
 一瞬の内にイリアの全てが分かる様な感覚が俺の全身を支配するが、成る可く関係の無い情報は省き、必要最低限の情報取得に務める。
 そしてすぐ様、イリアと教会の繋がり部分を見付ける。
 因みに、脳に繋がるだとか、どの記憶がこの辺にあるだとかの表現を俺は良く使うが、実際は別に何かが見えている訳でも聞こえている訳でも無い。
 俺がそう表現しているだけであって普通は何も認知すら出来ない。
 目に見えない、ビット信号の様なものを感じ取り俺がそれを独自に変換して表現しているに過ぎない。
 このビット信号と言うのも俺が勝手にそう表現しているだけだし、つまりは良く分からないけど、こうだろう、こう出来る筈だと思ってやっている、言わばよく分からない能力なのだ。

 何だか、気がするな・・・

 イリアと教会との繋がりとも言うべきそのを感じ取り、辿って行けば目的のお宝には直ぐに辿り着いた。

 案外簡単だったな

 イリアを介して教会側の人間に繋がる事に成功した俺は、言うならば遠隔操作でリモートホスト、端末と繋がりそれらを意のままに操る事が出来ると言う事に他ならず、これが出来た事の意味は非常に大きい。
 ただ、今回はイリアを介して監視魔法と言うネットワークを辿り、教会にある鏡と言うサーバなりルーターなりを掌握してから、更にその鏡を見ている、鏡から漏れ出る音や声を聞いている、言わば鏡に直接繋がる端末へとアクセスしているので、鏡と言う媒体が無かったらどうなっていたか分からない。

 でも、もしこれが誰かと誰かの心の繋がりとか、そう言った絆と言われる物がネットワーク替わりとなるのなら・・・

 そこまで考えて俺は自分の口角が自然と上がっている事に気付く。
 そもそも、人間を端末と表現している時点で自分がもう人間では無い気がして来て、そう思ってまた自分の中が狂気に支配されていく感覚に浸かる。

 このまま教会を内部から崩壊させられないかなぁ

 そんな事を考えるが、そもそも俺が間接的に繋がれた者は数名だし、そこから全世界普及率ナンバーワンの宗教団体を崩壊させるなどなかなかに難しいなと思い止める。
 ただ幸運な事にイリアに関してはどうにか出来そうだったのでそれを即時実行させる。
 聖書に記録されているイリアの情報の全てを抹消させる。それのみに注力すれば出来ない事もなさそうだった。
 更に監視魔法を解除させ様とするが、これがどうにも難しかった。
 どうにも監視魔法はかなり高度な魔法の様でそれを扱える人間が限られている。
 今、取得し得る情報からではどうやってその魔法を発動しているのか、原理は分からなかった。
 その魔法を扱える人間をどうにかこの鏡の前まで呼び寄せてから俺が繋がり、操作してとやればそれらについて分からない事も無いだろうが、その人間をこの鏡の前まで呼ぶ事にそもそもどれくらいの時間を要するのか分からないし、監視魔法を使えるのは何も一人だけでは無い。

 あれ・・・?

 俺は先程考えていた事が脳裏に過ぎるのを感じる。
 もし、鏡を介して繋がる奴の更に心の繋がりと言うか、絆とかそう言う物をネットワークとして辿って、その監視魔法を使う奴に繋がる事が出来れば―――

 駄目か・・・

 そんな事を考えている間に実行してみるが、そう簡単には行かなかった。
 これはもしかしたらと思わせる感触も掴む事が出来ない為、早々に諦めるのが吉とした。
 仕方が無いので俺は監視魔法に関しては、解除方法は分かった為、即時実行は諦め少し時間を掛けてどうにかする方法を選択する。

 でもこれも時間との勝負だな

 そう思うが現状はこれくらいしか手が打てないと思い、俺はイリアとの接続を終了させる。

「・・・・・・よし、とりあえずこれで良いか」

 俺は意識を周囲に向ける。皆、辺りを警戒しているものの此方が気になるのか、チラチラと俺とイリアを確認しているのが分かる。
 イリアを改めて見ると、まだ目を閉じ、両手の指を胸の前で組み、祈る様な姿勢のままだった。
 何だかその姿が、俺を信頼し全てを託している様なそんな風に見えたので、俺は静かに笑った。

「もういいぞ?」

「・・・ぇ、あ、もう終わり?」

 俺の言葉にイリアがそっと目を開けて俺に聞いて来るが、そもそも繋がっていた時間なんてきっと一秒にも満たない一瞬だったので、そう思うのも無理は無いと思った。

「あぁ、とりあえず聖書からお前のこれまでの記述は全て無くなる。原本からも何もかもから。あと、今からはお前が見て聞いた事も記録として残らない。ただ、お前に掛かってる監視魔法自体は直ぐに解除は出来なかったから、それは別の手を打った。多分今日、明日とか、数日中には解かれる筈だ」

「そ、そうなの・・・?そんな事どうやって・・・」

 このイリアに掛かった監視魔法は所謂、なのでは無いかと思われる。
 解除方法が、魔法発動の際に用意した契約書の様な物の破棄である事からそう思ったのだが、とりあえずはその契約書さえ破棄してしまえば今のイリアに掛けられた魔法自体は無効化出来る。
 なので、その契約書の様な物を物理的に破壊して破棄させてしまう様にしたのだが、これは具体的にどうしろとは命じられなかった為、経過を見守るしかない。
 それに、今の魔法効果を無効化したからと言って、再度契約魔法が発動されてしまわないとも限らない。

 まぁ、そこは一応手は打ってるし何とかなるかな・・・?

「もし、その魔法が解除されなかったり、解除されてもまた強制的に発動されたのを確認したら俺に言え。どうにかしてやるよ」

「う、うん。でも、数日ってアンタ・・・」

「なんだよ?」

「今日生き残れなきゃ、そんなの確認しようが無いじゃない・・・」

 イリアの言葉に俺はそんな事考えてもみなかったと言う表情をする。

「な、何よ?変な事言ったかしら、私」

「いや、変と言うか、何言ってんだお前?って感じだな」

「はぁ!?」

「俺は物語はハッピーエンドで終わらないと絶対に嫌なタチなんだよ。仲間や家族が殺されて今更ハッピーエンドも何もあったもんじゃねぇけど、最悪のバッドエンドだけは絶対に回避する」

「???」

 俺の言葉を理解出来ずにイリアは眉を顰めて訝しむ。
 だが、これは俺の本音だ。絶対にこんな所で終わらせるつもりは無い。
 それにイリアと繋がり、ある思いと言うか考えを実行に移すべきだと確信が持てたと言うか、作戦を練る事が出来た。

「つまりはだな、フェイクスの野郎をぶち殺して俺達は地上に帰る。俺はそれを成す為に何だってやるって事だ」

「・・・・・・本気?」

「あぁ、もう迷わないし、日和ったりしねぇ」

 俺の決意を瞳を通して感じたのか、イリアは一度小さく溜息を吐き、そして笑った。

「そう。なら、地上に無事に戻ってからアンタにはお礼を言わせて貰うわッ」

 それまではお預けよ!とイリアはいつも通りの様子でそう言って、腰に手を当てて胸を突き出した。

「はいはい、それで良いよ。それはそうとイリア、お前に一つ確認だ」

「何よ?私の覚悟を問おうってのならもう答えは分かってるでしょ!」

「そうじゃ無くてだな、俺が聞きたいのは一つだけだ―――」

「な、何よ・・・?」

 俺はイリアに勿体ぶって少し溜めてからその問いをイリアにぶつける。

「お前、神への信仰心はまだあるか?」

 俺の予想外の問いにイリアは何を言っているのか分からず、キョトンとしていた。

 ん、ちょっとその顔可愛いな
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