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第4章:偽りの聖女編
第142話:家族
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「では出発する!」
ダグラスの掛け声に呼応して、魔界攻略に参加する傭兵達が思い思いに返事をして、魔界へと突入して行く。
俺達は最前列を陣取り、ファイの中隊と共に最初からかなりの進行速度で飛ばした。
前回のアタックで損耗した人員の補充は済んでおり、更には若干人数も増えていたが、ファイやその他傭兵団が方方を駆け回って、人数を掻き集めたと言う事を後で知った。
それでも全く足りないけどな
索敵をしつつ、先頭を走る俺はチラリと後ろを振り返る。
仲間は全員無言で着いて来ており、ファイ達の中隊も直ぐ後に続いている。
更にその後ろには豚聖女とその騎士達が続き、そこから左右と後方に中隊毎に傭兵達が固まっている。
今回のアタックは明莉が捕らえられていると思われる最下層を目指す。
休憩は極力取らずにガンガン進む事を事前にファイと豚聖女達には伝えているが、もし着いて来れなくても俺達は待たない事も付け加えている。
それに対して豚は何だかんだと言っていたが全て無視した。
意外だったのは、イヴァン含む数名は特に文句も言わず、寧ろ、必ず明莉を助けると決意表明までされる始末だった。
たぶん、以前に明莉に命を救われた事を律儀に恩を感じているのだろうが、第二のドエインにならないかが心配だ・・・
朝早くから出発したからか、一層と二層を繋ぐ階段には昼過ぎには到着した。
特に皆、疲れている様子は無かったので、休憩を挟まずそのまま二層に突入した。
「前の転移トラップで十三層に飛んだらいかんのか?」
「それも有りっちゃ有りなんだが、実際あのトラップが十三層へと飛ばすトラップなのかの確証が無い」
「あぁ、次は別の所に飛ばされるかもと言う事か」
「そう言う事」
二層を走りながらアリシエーゼが俺の横に並びそんな事を言ってくるが、実際アリシエーゼの言う事は俺も一度考えた。
が、もし仮に別の場所に転移させられて、それがかえって時間ロスに繋がるかも知れないと考えると出来れば一秒でも早く明莉を迎えに行ってやりたいと思う俺としてはその方法を選択する事は出来なかった。
それに、前回転移トラップで飛ばされた際に帰りは簡易的にファイの所でマッピングを行っている為、急造ではあるが、十三層までの最短ルートのマップは手元にあるので、これを使って進む方が確実に思えた。
俺達は途中襲い来る魔物を難無く薙ぎ倒しながら進み、その日は四層まで到達した。
人数も多いので、広めの場所を確保して、見張りを潤沢に投入すればこの階層くらいなら問題無く身体を休める事が出来た。
ここまで休憩無しで進んだが、豚聖女や傭兵からは特に不満が出る事は無かったので、明日もこのまま進むつもりである事を、夕食前の会議で俺は全員―――と言っても代表のみの集まりの場所だが―――に告げた。
傭兵や騎士達は口々に進行ペースや魔物の討伐ペースが早く、何も問題も起きていない事を喜び勇むが、心が昂り驕りが生じる。
その状態を俺は別に正すつもりも無いが、ただこの後、最後の時が近付くにつれて、絶望も同時に近付いて来る事を思うと不憫に感じた。
「やはり妾達だけ先行しても良いのでは無いか?」
夕飯を食べて各自自由に休息を取っており、俺もバックパックを枕にして寝転んでいる所に、アリシエーゼがやって来てそう言いながら俺の横に座る。
「まぁ、最短ってならそうだろうな」
「じゃったら何故そうせんのじゃ」
「今更だろ。豚聖女とかはどうでもいいけど、俺達も仲間は連れて来てるんだ」
「それはそうじゃが・・・」
アリシエーゼの言い分も分かるが、俺はもうファイ達に出来る限り付き合うと決めてしまった。
ただ、それは明莉の救出を後回しにすると言う事では無いと心の中で繰り返した。
つまりは俺も心が急いている訳だが、だからこそ心頭滅却では無いが、心を鎮め頭をクールに保っておく事を優先する。
「次の階層から確か洞窟みたいな作りになってたよな?」
「じゃな」
ここまでは通路も広く、大隊での移動も問題無かったが、次の階層からはここよりも通路は狭い。
たぶん移動速度も下がる事を想定しておくべきかと考えていると、ユーリーがトコトコとこちらにやって来るのが見えた。
「・・・ハル、マッテル」
俺の横に来るなり、寝転んでいる俺を見下げてそう言うユーリーであったが、もう慣れた。
「地獄が待ってるって?」
「・・・ウン」
「上等じゃねぇか」
俺は上体を起こして不敵に笑いながら言った。
「その地獄ごと殺してやる」
「・・・・・・ハル、イミガワカラナイ。ジゴクヲコロスッテドウイウコト?」
「うッ・・・そ、そこは突っ込まなくていいよ」
「??」
俺の言っている事がイマイチ理解出来ていないのか、ユーリーは首を傾げていたが、恥ずかしさを紛らわす為、ユーリーを引き寄せて無理矢理自分の脚の上にユーリーを乗せた。
ユーリーは特に何も言わずに俺の脚の上に乗りながら俺の顔を見上げて小さい声で言った。
「・・・オワリマデゼンゼンコワイノイナイ」
「終わり・・・?」
「・・・ウン、イチバンシタ」
それって・・・
「最下層まで魔物や悪魔が居らんと言う事か?」
俺と同じ考えに至ったアリシエーゼがユーリーに問い掛ける。
「・・・シタニイッパイイル」
「「・・・・・・・・・」」
最下層であの糞男爵やその主と呼ばれる者が待ち構えていると言う事なのだろうと思うが、寧ろ此方にとっては好都合。
豚聖女の手助けを間接的にしてしまう事は些かどころか全く持って心外だがそれは仕方が無い。
豚聖女では無く、ファイを助ける為と思えばまぁ許せる範囲だ。
「・・・それって精霊が教えてくれたのか?」
「・・・ウン、キョウハミンナニシタマデイッテモラッタ」
聞けば、仲の良い精霊にお願いして、調査をして貰ったと言う事であったが、精霊もそこまで万能では無く、例えばダンジョンの周囲の外壁がどんな感じかと聞いても明確な答えは返って来ないらしい。
俺達の敵と言う概念自体をどう精霊に説明したり、理解させたりするのかは分からないが、ユーリーは精霊にフロア毎に魔物や悪魔が存在しているか、しているならどの程度居るのかを調べさせたらしい。
「精霊って便利なんだな」
「・・・いや、普通そんな事出来んぞ」
「そうなの?アリシエーゼだって精霊と会話出来るんじゃなかったっけか?」
「会話と言うか、言っている事は何となく理解出来るというレベルじゃ。彼奴らは人を小馬鹿にしたり、騙したりと言う事しかせんぞ」
めちゃくちゃ格下扱いされてるんじゃ・・・
「そ、そうなのか・・・ユーリーは天才って事だな」
俺はそう言ってユーリーの頭を撫でる。
ユーリーはそれを嬉しそうに受け止めて目を細めているが、横でアリシエーゼがボソリと呟いた。
「天才、のう」
俺は敢えてそれを聞こえない振りをした。
次の日、出発前に俺は以降のフロアにはあまり魔物などは存在しない可能性がある事をファイに伝える。
ファイは何故分かるのかを疑問に思っていた様だが質問は受付けず、ただ、ペースを上げるとだけ伝えた。
次のフロアへの到達はさして時間は掛からなかった。
が、次のフロアからは通路が狭くなる事、自然の光源が無くなるのでランタンを各自用意させて突入した。
ユーリーの言う通り、魔物はチラホラと現れて襲っては来るが、大軍が襲い来る訳でも無く、レッサー・デーモンの様な強力な悪魔どもが現れる事も無かった。
目の前に現れる敵は俺やアリシエーゼ、ファイがワンパンの元屠り、残りは後続に任せたりしたが、篤が用意してくれた手甲は頗る調子が良かった。
たぶん、レッサー・デーモンも一撃で余裕で殺せるな
そんな事を思い自然と口角を上げながら進む俺は悪魔共から見たら、こっちの方が悪魔に見えるのかもしれない。
昼が過ぎ、昼食を取らずに進んでいた俺達は、十層へと降りる階段を前に一度休憩を取る事にした。
「今日中に以前の十三層は超えたいな」
前回転移させられたのは十三層であったが、それ以降の下層には今回初めて入る為、一度も迷わず最短で次のフロアに行く事は出来ないだろう。
その為、出来れば今日中に十四層への階段を見付けておきたいと思った。
「なかなかハイペースだね」
ファイは苦笑いを浮かべてそんな事を言うと、何故か近くに居た豚聖女がそれに同調した。
「アンタちょっとは他の人達の事考えなさいよねッ」
「・・・・・・」
「何よ?何とか言ったらどうなの!?」
「・・・・・・」
面倒臭ぇなコイツ
「アンタ何時からそんな無口になったのよ?それとも何?疲れちゃってんの?」
これで俺を煽ってるつもりなのだろうか?
「・・・おい、ファイ。新種を発見したぞ」
「新種??」
「無視してんじゃないわよッ」
「あぁ、俺の目の前に新種の豚がいる。豚の癖に言葉を喋る様だぞ」
俺は豚聖女を見て淡々とそんな事を言うと、ファイはギョッとした表情をして、豚は顬に青筋を立てた。
「ぶ、豚ですって!?アンタ誰にそんな事言ってんのよ!?」
「あれ?急にブヒブヒとしか聞こえなくなったぞ?やっぱりただの豚だったのか」
「ふっざけんじゃないわよッ!いい加減にしてよ!」
結局、その後もブヒブヒと鳴く豚を放っておき、俺はファイと話続けたが、ファイは終始引き攣った表情をしていたのが印象的だった。
休憩後、全員の準備が整うと俺とアリシエーゼが先頭に立ち、十層へと続く階段を降りて行く。
暫く階段を降って行くと最初にアリシエーゼが異変に気付く。
「・・・何じゃ、空気が変わった?」
「うん?空気が何だって?」
アリシエーゼの言っている事が理解出来ないまま階段を降っていたが、突然、俺の身体がアリシエーゼの言葉の意味を理解する。
肌が、鼻が、目が、耳が、そして感覚が異常を知らせる。
「な、何だ?何か、居るのか・・・?」
階段の先は真っ暗闇で通常では見通す事は出来ないが、俺やアリシエーゼは夜目が効くのでその能力を使い先を見詰める。
だが、特に何かが居る訳でも無く、そこには静けさが有るのみだった。
「・・・いや、何かおる訳では無さそうじゃが、フロア全体がなんと言うか、澱んでおる」
そんな話しをしつつも進んでいると、突然後ろからガチャリと甲高い音が連続で鳴り響く。
驚いて後ろを振り返ると、ファイやナッズ、ソニ、その他の面々が次々に腰や背中に携えた己の武器を引き抜いていた。
見るとその全員が恐怖で表情を固くしており、俺やアリシエーゼが感じた何かを次々に感じていて反応している様だった。
その恐怖は次々に伝播して行き、後ろの騎士団や傭兵団なんかは悲鳴を上げる者までいた。
「まぁ、どっちにしろ進むしかねぇんだ」
俺は誰にとも無くそう小さく言って、気合いを入れた。
そこから、ズンズンと進んで行くが、十層も結局は殆ど魔物は現れなかった。
ただ、この雰囲気なのか気配なのか、全員が気圧された事は確かで、その歩みは確実に遅くなっていた。
進むだけで神経がすり減って行く感覚は、かなりキツい。
「一旦休憩しよう」
「・・・そうだね」
十二層の中程で一旦休憩を挟む事として、俺達は周囲の安全を確保してから身体を休めた。
精神は下から突き上げてくるプレッシャーの様な物のせいで皆、休めた気はしないだろうが、仕方が無い。
休憩は、広めの場所を確保したが大隊全てが入れる様な広さでは無かったので、前後の通路にも傭兵達がひしめき合っている。
索敵では敵の反応は無いので問題は無さそうだが、物音一つで皆過剰に反応している所を見ると、やはりかなりキツいなと思った。
こんな時、豚が皆を鼓舞すればいいと思うのだが・・・
豚聖女を見ると、お付の騎士に囲まれてスープか何かを啜っている様で、俺は深い溜息をついた。
「はぁ・・・」
「お疲れ様。ここまでは割と順調かな?」
辺りを軽く見回り、帰って来た俺にファイが笑顔で出迎える。
「あぁ、ファイはあまりこの雰囲気に飲まれてないな?」
「ハハッ、そうでも無いよ。最初はちょっと・・・と言うか、割と身体が竦んだよ」
そう言って苦笑いをするファイだが、確かに初めは表情は強ばっていたが、今では普通に適応している様に見えるし、流石だなと思った。
「まぁ、順調かと言われると微妙な所だけどな」
「・・・この下に一体何が待ち受けているんだろうね」
「・・・そんなの決まってるじゃないか。この魔界に居る悪魔や魔物が総出でお出迎えだよ」
「・・・・・・」
ファイは俺の言葉を聞き、顔を青くするが、ここまで魔物の数が極端に少ない事、更には転移トラップなぞ仕掛けるウザさを考えればそうであると断言出来た。
それに下から突き上げてくるこの濃密な悪意とも言えるプレッシャーはそれを裏付けているだろう。
「ビビらせる訳じゃないけど、覚悟はしておいた方がいい」
「・・・それは全滅の覚悟って事かい?」
「そんなネガティブなものじゃないよ。ただ、最悪を想定しておけば絶望で身が竦む事も無いだろ?」
「・・・確かに。咄嗟に身体が動かないんじゃそれはここでは死と同義だ」
ファイはそう言って小さく笑った。
「ファイは自分の仲間とよく話し合った方がいい。凡百ことを想定しておいて、自分達が助かる最善を尽くせよ」
「分かった。即時撤退も視野に入れておけって事だね」
「うん。あんな豚の事とか、任務の事は二の次だ」
「・・・それはハル達も置いて逃走するって事かい?」
「当たり前だろ?ファイにはこの後もやる事あるんだろ?だったらこんな所でなんて死ぬなよ。あ、でも一つお願いしていいかな?」
俺はそう言ってファイを真っ直ぐに見詰める。
俺の視線を受けてファイは無言で姿勢を正して俺の目を見た。
「・・・何だい」
「・・・もし、即時撤退と判断したのなら、俺とアリシエーゼ以外の俺の仲間を連れて逃げて欲しい」
「そ、それは・・・」
即時撤退を判断する程の最悪の状況なら、俺やアリシエーゼ以外では恐らく何も出来ずにミンチにされる。そんな状況なのだろうと思った。
だったら、俺とアリシエーゼで周りを気にせずに明莉を救出する事だけを考えて動ける状況を作り出す事が望ましい。
ただ、決して仲間が足手まといだからとかそう言った理由で遠避ける訳では無く、単純に死なせたく無い。そんな思いがあった。
「頼む。ファイを信頼しての頼みだ。この通り―――ッテェ!?」
ファイに対して頭を下げた形の俺のケツが突然痛みに襲われた。
素早く振り返ると、そこには身の丈以上の大きな杖を振り抜いた動作で俺を睨むユーリーの姿があった。
直ぐにユーリーが大きな杖で俺のケツをシバいた事が分かるが、結構な痛みと衝撃だったので多分思いっきり振り抜いたのだろう。
「な、何すんだよ、ユーリー!?」
「・・・ハルノバカ」
「えぇ、馬鹿ってお前・・・」
ファイと話す事に集中して気付かなかったが、俺の周りにいつの間にか仲間が集まっていた。
「馬鹿じゃ無かったら何なんだよ」
「ナ、ナッズに言われたくは―――」
「本当に貴方は頭が良いのか悪いのか分からなくなりますね」
「アルアレまで・・・」
「アルアレだけじゃないよ。僕だって、僕達全員思ってるよ」
全員、俺が馬鹿だと思っている・・・だと?
「ハルさんって本ッ当にどうしようも無い程頭カラッポなんですねッ、きっと頭の中はセンビーンみたいな豆粒くらいの脳ミソしか入って無いんだと思いますッ」
「・・・」
モニカ・・・今のお前のは多分に私情が入っているぞ・・・
「・・・そう言う事じゃ。お主が分かっておらんかったのじゃから諦めい」
そう言ってアリシエーゼは俺の背中をポンポンと軽く叩いた。
「い、いや、何がだよ?俺はただ、皆の事を思って―――」
「だから馬鹿だって言ってんだよ!俺達は護られるだけの存在じゃねぇ!護る存在でもあるんだ!」
ナッズはまだ分かっていない俺に苛立ち声を荒らげる。
護る?ナッズ達が俺を?
それはいくら何でも無理だと思った。
明らかに実力差があるし、今の俺には篤に作って貰った手甲もある。
戦闘能力に関しては、人間に限定すれば間違い無く負ける事は無いし、魔物だろうが、悪魔だろうが今は負ける気も差程無い。
「護るって何で・・・」
「何でだと!?んな事も分からねぇから馬鹿だって言ってんだよ!そんなの決まってんじゃねぇか!家族だからだろうがッ!!」
「ッ!?」
俺はナッズの言葉に衝撃を受けた。
今まで久しく感じることの無かったその衝撃は物理的な圧力を伴ったかの様に俺に遅い掛かり、それを真面に受けた俺は身体がフラフラとする感覚さえ覚えた。
家族・・・
俺が皆と家族・・・?
「家族を護って何が悪い!?死地に居る家族を助けに行くのに理由なんて要らねぇだろ!」
「ハルくんってずっと僕達と何となく距離があると思ってたけど、ここまでとはねぇ」
「アカリさんを助けたいと思っているのは貴方だけでは有りませんよ?」
「ハルさんもアカリさんも皆、私達の家族です。家族を助ける為に自分の命を使うのに何の躊躇いが在りましょうか。それに―――自分の命の使い所は自分自身が決めます」
「・・・・・・」
決定的だった。今まで無口で何があっても暖かく見守り、あまり口出しをする事の無かったソニの言葉に俺は何も言えなかった。
パトリックの言う通り、俺は何処かで仲間達と距離を置いていたのかも知れない。
それは地球での体験や経験がそうさせていたのだろうが、明莉や篤が仲間達と打ち解けて行く様を見て本当に嬉しく思っていたし、こんな訳の分からない世界に突然放り出されて不安に苛まれていたであろう者達の心のあり処と言うか、そう言った存在に出会え、仲間もそう接してくれている事を本当に良かったと思っていた。
だが、そこに俺は居なかった。
いや、入れなかった。自ら無意識に距離を開け、本当の意味での家族、仲間となり得ていなかった自分に今初めて気付く。
アリシエーゼや明莉、篤には俺のこの能力はほぼ使っていない。
だが、この傭兵の仲間達には使っていた。
そんな俺が心からこいつらを仲間と、家族と思っていいのだろうか・・・
もしかしたら、俺に対するその感情は俺の能力が作り出した幻想かも知れない。
「家族・・・俺が、家族・・・」
「何じゃ、気付いておらんかったのか?もう妾達は血よりも濃い絆でとうに結ばれておる」
アリシエーゼは慈愛に満ち満ちた笑みを浮かべ俺に語り掛ける。
周りを見ると、皆、俺に微笑んでいたが、その表情を見て信頼と言う絆を確かに感じる事が出来た。
そして気付く。俺は今までこいつらを本当の意味で仲間だと思っていなかった事に。
それは凄く失礼で、個人の尊厳を踏み躙る行為だと己を恥じる。
きっと、地球に居たのならば多分、本当に一生感じる事の出来なかったその想いに触れ、俺は思った。思ってしまった。
本当に俺なんかが、こいつらを信用して、そして信用されて良いのだろうか
今まで散々、利用して来た俺が、そんな真っ直ぐな感情を受けて、家族と思って良いのだろうか
「・・・ハルトイッショニイク。カゾクダカラ」
「・・・うん、ごめんな。一緒に行こう!」
俺達はこの時、真の意味での仲間、家族となった。
その絆は誰にも破壊出来るものでは無く、何人たりとも侵す事の出来ない聖域。
神?悪魔?舐めんじゃねぇよ、掛かって来い!全員纏めてぶっ飛ばしてやる!
ダグラスの掛け声に呼応して、魔界攻略に参加する傭兵達が思い思いに返事をして、魔界へと突入して行く。
俺達は最前列を陣取り、ファイの中隊と共に最初からかなりの進行速度で飛ばした。
前回のアタックで損耗した人員の補充は済んでおり、更には若干人数も増えていたが、ファイやその他傭兵団が方方を駆け回って、人数を掻き集めたと言う事を後で知った。
それでも全く足りないけどな
索敵をしつつ、先頭を走る俺はチラリと後ろを振り返る。
仲間は全員無言で着いて来ており、ファイ達の中隊も直ぐ後に続いている。
更にその後ろには豚聖女とその騎士達が続き、そこから左右と後方に中隊毎に傭兵達が固まっている。
今回のアタックは明莉が捕らえられていると思われる最下層を目指す。
休憩は極力取らずにガンガン進む事を事前にファイと豚聖女達には伝えているが、もし着いて来れなくても俺達は待たない事も付け加えている。
それに対して豚は何だかんだと言っていたが全て無視した。
意外だったのは、イヴァン含む数名は特に文句も言わず、寧ろ、必ず明莉を助けると決意表明までされる始末だった。
たぶん、以前に明莉に命を救われた事を律儀に恩を感じているのだろうが、第二のドエインにならないかが心配だ・・・
朝早くから出発したからか、一層と二層を繋ぐ階段には昼過ぎには到着した。
特に皆、疲れている様子は無かったので、休憩を挟まずそのまま二層に突入した。
「前の転移トラップで十三層に飛んだらいかんのか?」
「それも有りっちゃ有りなんだが、実際あのトラップが十三層へと飛ばすトラップなのかの確証が無い」
「あぁ、次は別の所に飛ばされるかもと言う事か」
「そう言う事」
二層を走りながらアリシエーゼが俺の横に並びそんな事を言ってくるが、実際アリシエーゼの言う事は俺も一度考えた。
が、もし仮に別の場所に転移させられて、それがかえって時間ロスに繋がるかも知れないと考えると出来れば一秒でも早く明莉を迎えに行ってやりたいと思う俺としてはその方法を選択する事は出来なかった。
それに、前回転移トラップで飛ばされた際に帰りは簡易的にファイの所でマッピングを行っている為、急造ではあるが、十三層までの最短ルートのマップは手元にあるので、これを使って進む方が確実に思えた。
俺達は途中襲い来る魔物を難無く薙ぎ倒しながら進み、その日は四層まで到達した。
人数も多いので、広めの場所を確保して、見張りを潤沢に投入すればこの階層くらいなら問題無く身体を休める事が出来た。
ここまで休憩無しで進んだが、豚聖女や傭兵からは特に不満が出る事は無かったので、明日もこのまま進むつもりである事を、夕食前の会議で俺は全員―――と言っても代表のみの集まりの場所だが―――に告げた。
傭兵や騎士達は口々に進行ペースや魔物の討伐ペースが早く、何も問題も起きていない事を喜び勇むが、心が昂り驕りが生じる。
その状態を俺は別に正すつもりも無いが、ただこの後、最後の時が近付くにつれて、絶望も同時に近付いて来る事を思うと不憫に感じた。
「やはり妾達だけ先行しても良いのでは無いか?」
夕飯を食べて各自自由に休息を取っており、俺もバックパックを枕にして寝転んでいる所に、アリシエーゼがやって来てそう言いながら俺の横に座る。
「まぁ、最短ってならそうだろうな」
「じゃったら何故そうせんのじゃ」
「今更だろ。豚聖女とかはどうでもいいけど、俺達も仲間は連れて来てるんだ」
「それはそうじゃが・・・」
アリシエーゼの言い分も分かるが、俺はもうファイ達に出来る限り付き合うと決めてしまった。
ただ、それは明莉の救出を後回しにすると言う事では無いと心の中で繰り返した。
つまりは俺も心が急いている訳だが、だからこそ心頭滅却では無いが、心を鎮め頭をクールに保っておく事を優先する。
「次の階層から確か洞窟みたいな作りになってたよな?」
「じゃな」
ここまでは通路も広く、大隊での移動も問題無かったが、次の階層からはここよりも通路は狭い。
たぶん移動速度も下がる事を想定しておくべきかと考えていると、ユーリーがトコトコとこちらにやって来るのが見えた。
「・・・ハル、マッテル」
俺の横に来るなり、寝転んでいる俺を見下げてそう言うユーリーであったが、もう慣れた。
「地獄が待ってるって?」
「・・・ウン」
「上等じゃねぇか」
俺は上体を起こして不敵に笑いながら言った。
「その地獄ごと殺してやる」
「・・・・・・ハル、イミガワカラナイ。ジゴクヲコロスッテドウイウコト?」
「うッ・・・そ、そこは突っ込まなくていいよ」
「??」
俺の言っている事がイマイチ理解出来ていないのか、ユーリーは首を傾げていたが、恥ずかしさを紛らわす為、ユーリーを引き寄せて無理矢理自分の脚の上にユーリーを乗せた。
ユーリーは特に何も言わずに俺の脚の上に乗りながら俺の顔を見上げて小さい声で言った。
「・・・オワリマデゼンゼンコワイノイナイ」
「終わり・・・?」
「・・・ウン、イチバンシタ」
それって・・・
「最下層まで魔物や悪魔が居らんと言う事か?」
俺と同じ考えに至ったアリシエーゼがユーリーに問い掛ける。
「・・・シタニイッパイイル」
「「・・・・・・・・・」」
最下層であの糞男爵やその主と呼ばれる者が待ち構えていると言う事なのだろうと思うが、寧ろ此方にとっては好都合。
豚聖女の手助けを間接的にしてしまう事は些かどころか全く持って心外だがそれは仕方が無い。
豚聖女では無く、ファイを助ける為と思えばまぁ許せる範囲だ。
「・・・それって精霊が教えてくれたのか?」
「・・・ウン、キョウハミンナニシタマデイッテモラッタ」
聞けば、仲の良い精霊にお願いして、調査をして貰ったと言う事であったが、精霊もそこまで万能では無く、例えばダンジョンの周囲の外壁がどんな感じかと聞いても明確な答えは返って来ないらしい。
俺達の敵と言う概念自体をどう精霊に説明したり、理解させたりするのかは分からないが、ユーリーは精霊にフロア毎に魔物や悪魔が存在しているか、しているならどの程度居るのかを調べさせたらしい。
「精霊って便利なんだな」
「・・・いや、普通そんな事出来んぞ」
「そうなの?アリシエーゼだって精霊と会話出来るんじゃなかったっけか?」
「会話と言うか、言っている事は何となく理解出来るというレベルじゃ。彼奴らは人を小馬鹿にしたり、騙したりと言う事しかせんぞ」
めちゃくちゃ格下扱いされてるんじゃ・・・
「そ、そうなのか・・・ユーリーは天才って事だな」
俺はそう言ってユーリーの頭を撫でる。
ユーリーはそれを嬉しそうに受け止めて目を細めているが、横でアリシエーゼがボソリと呟いた。
「天才、のう」
俺は敢えてそれを聞こえない振りをした。
次の日、出発前に俺は以降のフロアにはあまり魔物などは存在しない可能性がある事をファイに伝える。
ファイは何故分かるのかを疑問に思っていた様だが質問は受付けず、ただ、ペースを上げるとだけ伝えた。
次のフロアへの到達はさして時間は掛からなかった。
が、次のフロアからは通路が狭くなる事、自然の光源が無くなるのでランタンを各自用意させて突入した。
ユーリーの言う通り、魔物はチラホラと現れて襲っては来るが、大軍が襲い来る訳でも無く、レッサー・デーモンの様な強力な悪魔どもが現れる事も無かった。
目の前に現れる敵は俺やアリシエーゼ、ファイがワンパンの元屠り、残りは後続に任せたりしたが、篤が用意してくれた手甲は頗る調子が良かった。
たぶん、レッサー・デーモンも一撃で余裕で殺せるな
そんな事を思い自然と口角を上げながら進む俺は悪魔共から見たら、こっちの方が悪魔に見えるのかもしれない。
昼が過ぎ、昼食を取らずに進んでいた俺達は、十層へと降りる階段を前に一度休憩を取る事にした。
「今日中に以前の十三層は超えたいな」
前回転移させられたのは十三層であったが、それ以降の下層には今回初めて入る為、一度も迷わず最短で次のフロアに行く事は出来ないだろう。
その為、出来れば今日中に十四層への階段を見付けておきたいと思った。
「なかなかハイペースだね」
ファイは苦笑いを浮かべてそんな事を言うと、何故か近くに居た豚聖女がそれに同調した。
「アンタちょっとは他の人達の事考えなさいよねッ」
「・・・・・・」
「何よ?何とか言ったらどうなの!?」
「・・・・・・」
面倒臭ぇなコイツ
「アンタ何時からそんな無口になったのよ?それとも何?疲れちゃってんの?」
これで俺を煽ってるつもりなのだろうか?
「・・・おい、ファイ。新種を発見したぞ」
「新種??」
「無視してんじゃないわよッ」
「あぁ、俺の目の前に新種の豚がいる。豚の癖に言葉を喋る様だぞ」
俺は豚聖女を見て淡々とそんな事を言うと、ファイはギョッとした表情をして、豚は顬に青筋を立てた。
「ぶ、豚ですって!?アンタ誰にそんな事言ってんのよ!?」
「あれ?急にブヒブヒとしか聞こえなくなったぞ?やっぱりただの豚だったのか」
「ふっざけんじゃないわよッ!いい加減にしてよ!」
結局、その後もブヒブヒと鳴く豚を放っておき、俺はファイと話続けたが、ファイは終始引き攣った表情をしていたのが印象的だった。
休憩後、全員の準備が整うと俺とアリシエーゼが先頭に立ち、十層へと続く階段を降りて行く。
暫く階段を降って行くと最初にアリシエーゼが異変に気付く。
「・・・何じゃ、空気が変わった?」
「うん?空気が何だって?」
アリシエーゼの言っている事が理解出来ないまま階段を降っていたが、突然、俺の身体がアリシエーゼの言葉の意味を理解する。
肌が、鼻が、目が、耳が、そして感覚が異常を知らせる。
「な、何だ?何か、居るのか・・・?」
階段の先は真っ暗闇で通常では見通す事は出来ないが、俺やアリシエーゼは夜目が効くのでその能力を使い先を見詰める。
だが、特に何かが居る訳でも無く、そこには静けさが有るのみだった。
「・・・いや、何かおる訳では無さそうじゃが、フロア全体がなんと言うか、澱んでおる」
そんな話しをしつつも進んでいると、突然後ろからガチャリと甲高い音が連続で鳴り響く。
驚いて後ろを振り返ると、ファイやナッズ、ソニ、その他の面々が次々に腰や背中に携えた己の武器を引き抜いていた。
見るとその全員が恐怖で表情を固くしており、俺やアリシエーゼが感じた何かを次々に感じていて反応している様だった。
その恐怖は次々に伝播して行き、後ろの騎士団や傭兵団なんかは悲鳴を上げる者までいた。
「まぁ、どっちにしろ進むしかねぇんだ」
俺は誰にとも無くそう小さく言って、気合いを入れた。
そこから、ズンズンと進んで行くが、十層も結局は殆ど魔物は現れなかった。
ただ、この雰囲気なのか気配なのか、全員が気圧された事は確かで、その歩みは確実に遅くなっていた。
進むだけで神経がすり減って行く感覚は、かなりキツい。
「一旦休憩しよう」
「・・・そうだね」
十二層の中程で一旦休憩を挟む事として、俺達は周囲の安全を確保してから身体を休めた。
精神は下から突き上げてくるプレッシャーの様な物のせいで皆、休めた気はしないだろうが、仕方が無い。
休憩は、広めの場所を確保したが大隊全てが入れる様な広さでは無かったので、前後の通路にも傭兵達がひしめき合っている。
索敵では敵の反応は無いので問題は無さそうだが、物音一つで皆過剰に反応している所を見ると、やはりかなりキツいなと思った。
こんな時、豚が皆を鼓舞すればいいと思うのだが・・・
豚聖女を見ると、お付の騎士に囲まれてスープか何かを啜っている様で、俺は深い溜息をついた。
「はぁ・・・」
「お疲れ様。ここまでは割と順調かな?」
辺りを軽く見回り、帰って来た俺にファイが笑顔で出迎える。
「あぁ、ファイはあまりこの雰囲気に飲まれてないな?」
「ハハッ、そうでも無いよ。最初はちょっと・・・と言うか、割と身体が竦んだよ」
そう言って苦笑いをするファイだが、確かに初めは表情は強ばっていたが、今では普通に適応している様に見えるし、流石だなと思った。
「まぁ、順調かと言われると微妙な所だけどな」
「・・・この下に一体何が待ち受けているんだろうね」
「・・・そんなの決まってるじゃないか。この魔界に居る悪魔や魔物が総出でお出迎えだよ」
「・・・・・・」
ファイは俺の言葉を聞き、顔を青くするが、ここまで魔物の数が極端に少ない事、更には転移トラップなぞ仕掛けるウザさを考えればそうであると断言出来た。
それに下から突き上げてくるこの濃密な悪意とも言えるプレッシャーはそれを裏付けているだろう。
「ビビらせる訳じゃないけど、覚悟はしておいた方がいい」
「・・・それは全滅の覚悟って事かい?」
「そんなネガティブなものじゃないよ。ただ、最悪を想定しておけば絶望で身が竦む事も無いだろ?」
「・・・確かに。咄嗟に身体が動かないんじゃそれはここでは死と同義だ」
ファイはそう言って小さく笑った。
「ファイは自分の仲間とよく話し合った方がいい。凡百ことを想定しておいて、自分達が助かる最善を尽くせよ」
「分かった。即時撤退も視野に入れておけって事だね」
「うん。あんな豚の事とか、任務の事は二の次だ」
「・・・それはハル達も置いて逃走するって事かい?」
「当たり前だろ?ファイにはこの後もやる事あるんだろ?だったらこんな所でなんて死ぬなよ。あ、でも一つお願いしていいかな?」
俺はそう言ってファイを真っ直ぐに見詰める。
俺の視線を受けてファイは無言で姿勢を正して俺の目を見た。
「・・・何だい」
「・・・もし、即時撤退と判断したのなら、俺とアリシエーゼ以外の俺の仲間を連れて逃げて欲しい」
「そ、それは・・・」
即時撤退を判断する程の最悪の状況なら、俺やアリシエーゼ以外では恐らく何も出来ずにミンチにされる。そんな状況なのだろうと思った。
だったら、俺とアリシエーゼで周りを気にせずに明莉を救出する事だけを考えて動ける状況を作り出す事が望ましい。
ただ、決して仲間が足手まといだからとかそう言った理由で遠避ける訳では無く、単純に死なせたく無い。そんな思いがあった。
「頼む。ファイを信頼しての頼みだ。この通り―――ッテェ!?」
ファイに対して頭を下げた形の俺のケツが突然痛みに襲われた。
素早く振り返ると、そこには身の丈以上の大きな杖を振り抜いた動作で俺を睨むユーリーの姿があった。
直ぐにユーリーが大きな杖で俺のケツをシバいた事が分かるが、結構な痛みと衝撃だったので多分思いっきり振り抜いたのだろう。
「な、何すんだよ、ユーリー!?」
「・・・ハルノバカ」
「えぇ、馬鹿ってお前・・・」
ファイと話す事に集中して気付かなかったが、俺の周りにいつの間にか仲間が集まっていた。
「馬鹿じゃ無かったら何なんだよ」
「ナ、ナッズに言われたくは―――」
「本当に貴方は頭が良いのか悪いのか分からなくなりますね」
「アルアレまで・・・」
「アルアレだけじゃないよ。僕だって、僕達全員思ってるよ」
全員、俺が馬鹿だと思っている・・・だと?
「ハルさんって本ッ当にどうしようも無い程頭カラッポなんですねッ、きっと頭の中はセンビーンみたいな豆粒くらいの脳ミソしか入って無いんだと思いますッ」
「・・・」
モニカ・・・今のお前のは多分に私情が入っているぞ・・・
「・・・そう言う事じゃ。お主が分かっておらんかったのじゃから諦めい」
そう言ってアリシエーゼは俺の背中をポンポンと軽く叩いた。
「い、いや、何がだよ?俺はただ、皆の事を思って―――」
「だから馬鹿だって言ってんだよ!俺達は護られるだけの存在じゃねぇ!護る存在でもあるんだ!」
ナッズはまだ分かっていない俺に苛立ち声を荒らげる。
護る?ナッズ達が俺を?
それはいくら何でも無理だと思った。
明らかに実力差があるし、今の俺には篤に作って貰った手甲もある。
戦闘能力に関しては、人間に限定すれば間違い無く負ける事は無いし、魔物だろうが、悪魔だろうが今は負ける気も差程無い。
「護るって何で・・・」
「何でだと!?んな事も分からねぇから馬鹿だって言ってんだよ!そんなの決まってんじゃねぇか!家族だからだろうがッ!!」
「ッ!?」
俺はナッズの言葉に衝撃を受けた。
今まで久しく感じることの無かったその衝撃は物理的な圧力を伴ったかの様に俺に遅い掛かり、それを真面に受けた俺は身体がフラフラとする感覚さえ覚えた。
家族・・・
俺が皆と家族・・・?
「家族を護って何が悪い!?死地に居る家族を助けに行くのに理由なんて要らねぇだろ!」
「ハルくんってずっと僕達と何となく距離があると思ってたけど、ここまでとはねぇ」
「アカリさんを助けたいと思っているのは貴方だけでは有りませんよ?」
「ハルさんもアカリさんも皆、私達の家族です。家族を助ける為に自分の命を使うのに何の躊躇いが在りましょうか。それに―――自分の命の使い所は自分自身が決めます」
「・・・・・・」
決定的だった。今まで無口で何があっても暖かく見守り、あまり口出しをする事の無かったソニの言葉に俺は何も言えなかった。
パトリックの言う通り、俺は何処かで仲間達と距離を置いていたのかも知れない。
それは地球での体験や経験がそうさせていたのだろうが、明莉や篤が仲間達と打ち解けて行く様を見て本当に嬉しく思っていたし、こんな訳の分からない世界に突然放り出されて不安に苛まれていたであろう者達の心のあり処と言うか、そう言った存在に出会え、仲間もそう接してくれている事を本当に良かったと思っていた。
だが、そこに俺は居なかった。
いや、入れなかった。自ら無意識に距離を開け、本当の意味での家族、仲間となり得ていなかった自分に今初めて気付く。
アリシエーゼや明莉、篤には俺のこの能力はほぼ使っていない。
だが、この傭兵の仲間達には使っていた。
そんな俺が心からこいつらを仲間と、家族と思っていいのだろうか・・・
もしかしたら、俺に対するその感情は俺の能力が作り出した幻想かも知れない。
「家族・・・俺が、家族・・・」
「何じゃ、気付いておらんかったのか?もう妾達は血よりも濃い絆でとうに結ばれておる」
アリシエーゼは慈愛に満ち満ちた笑みを浮かべ俺に語り掛ける。
周りを見ると、皆、俺に微笑んでいたが、その表情を見て信頼と言う絆を確かに感じる事が出来た。
そして気付く。俺は今までこいつらを本当の意味で仲間だと思っていなかった事に。
それは凄く失礼で、個人の尊厳を踏み躙る行為だと己を恥じる。
きっと、地球に居たのならば多分、本当に一生感じる事の出来なかったその想いに触れ、俺は思った。思ってしまった。
本当に俺なんかが、こいつらを信用して、そして信用されて良いのだろうか
今まで散々、利用して来た俺が、そんな真っ直ぐな感情を受けて、家族と思って良いのだろうか
「・・・ハルトイッショニイク。カゾクダカラ」
「・・・うん、ごめんな。一緒に行こう!」
俺達はこの時、真の意味での仲間、家族となった。
その絆は誰にも破壊出来るものでは無く、何人たりとも侵す事の出来ない聖域。
神?悪魔?舐めんじゃねぇよ、掛かって来い!全員纏めてぶっ飛ばしてやる!
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