異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第97話:思惑

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 ドエインの姉は、リラって名前なのね等と思っている間に俺達は敷地の中で一番大きな建物の二階に上がり、コの字形になっている廊下を奥の方へと進んだ。

 「ここで暫く待っていてくれ」

 先頭の兵士がそう行って扉を開けたので、俺達は素直に部屋の中に入った。
 中はかなり広く、入口から奥に向かって縦長の木製の机が置いてあり、椅子も十脚以上あった。

 「あまり周りの物は触らないでくれ」

 扉を開けた兵士がそう言うと、別の兵士が二人部屋の中に入り、扉を開けた兵士がまた扉を閉めた。
 中に入って来た兵士は入口の前に立ち、不動の構えを取って口を開く事は無かった。

 「とりあえず座るか」

 そう言って俺は入口から対面の、部屋の一番奥の席に座ってふんぞり返った。

 「お、おい、何でそこに座るんだよ!?」

 ドエインは焦って直ぐに俺に問い掛ける。

 面白い奴だな此奴

 一々、俺のする事にツッコミを入れてくれるので、俺も色々とやり甲斐があるなと感じながら答えた。

 「何でって?」

 「い、いや、そこは姉貴が来たら座るだろ!?」

 「そうなの?何で?」

 「はぁ?何でって上座だぞそこ」

 ドエインはマジで言ってんの?みたいな顔をして必死に俺に可笑しさを説く。
 その必死さが妙にツボに入り俺は笑いが堪えるのが辛かった。

 「その辺で止めてやるのじゃ。悪趣味な奴じゃの」

 そう言ってドエインに助け舟を出すアリシエーゼは俺をシラケた目で見ていた。

 「いやー、すまんすまん。ドエインの必死さが笑えて来てさ」

 そう言って、俺はドエインに謝る。

 「・・・ッたくよ、冗談が過ぎるぜ。姉貴マジで怖ぇんだからな?」

 「まぁ、それは分かるよ。でも、別に俺がここに座ってるから何だってんだ?」

 「いや、だからそこは姉貴の―――」

 「話すんだろ?寧ろ、俺は歓迎して貰いたいくらいだぜ?」

 俺の言動にドエインは戸惑う。
 ただ、俺は別にドエインの姉にも軍にも、そしてエル教会にも忖度するつもりも、媚び諂うつもりも一切無い。

 「歓迎って・・・そりゃ無理だろ」

「何でだよ?話したいって言ったのは向こうだぜ?」

「いやいや、話すって言うか俺達はこれから取り調べられるんだぜ?」

「本当にそう思うのか?」

「え?」

 ドエインは不意を付かれた様な表情をしていたが、実際俺は別に今の状況を悪い状況とは思っていない。
 ドエインの姉から受けた印象や、ドエインが語った姉の人物像等を鑑みてそう結論付けたのだが、これは後でどうとでもなると思ってる部分もある程度在る事は否めない。
 ただそれでも話をする価値は有りそうだと思った。

「お前の姉って最初は唯の脳筋だと思ってたんだけどさ。ドエインの話を聞いたりする内にそうじゃない、寧ろめちゃくちゃ頭良くって、それでいて何か絶対に折れない芯みたいのがあるだろ」

「・・・た、確かに姉貴は腕も立つが、頭も相当キレる」

「だろ?ドエインが軍を抜けた理由も当然知りたいと思っているのは事実だろうが、それにも増して俺達に何か感じて話をして知りたいって事だろうと俺は理解してる。正直、聖女がどうとかお前の姉ちゃんどうでもいいと思ってるぞ、きっと」

「そ、そうなの・・・か?」

 ドエインは俺の言った事にどうにも納得はいっていない様だが、あの姉ちゃん、とんだ食わせものかも知れない。
 それはドエインにも抱いた感情ではあるが、ドエインの方は姉が多いに影響してそうだと思った。

「まぁ、腹の中を探るいい機会だ。トコトン利用してやるよ」

 俺はそう言ってニヤリと笑うが、それを見てアリシエーゼが鼻を鳴らす。

「ふんッ、逆に利用されなければ良いがのう」

「何怒ってんだよ?」

「怒ってなどおらんわッ!」

 いやいや、怒ってんじゃねぇか・・・

「・・・アリエーゼミグルシイ」

「な、なんじゃと!?ユーリー!貴様ッ!!」

 ユーリーの一言にアリシエーゼは更にヒートアップして、ユーリーに飛び掛かろうと言わんばかりにテーブルから身を乗り出す。
 モニカに抱っこされていたユーリーはまるで猛獣に追われる草食動物の様にモニカの膝から飛び降りた。

「あッ!」

 モニカはユーリーに名残惜しそうに手を伸ばすが、ユーリーはヒョイと身を躱し、俺の元まで走り寄ると、足元にしがみ付きよじ登ろうと身をくねらせた。

「・・・」

 そんなユーリーの動作に激しく愛でたいと言う気持ち――いやいや、だから変な意味じゃないって――が芽生え、俺は無言でユーリーを抱え上げて膝の上に座らせた。

「あぁッ!?何をやっておる!ユーリー!降りるんじゃ!そこは妾の席じゃ!」

「いや、違うぞ。残念姫」

「ユーちゃんは私の物ですよ!汚らわしい手で触らないで下さい!!」

「汚らわしいのはお前だ、変態」

 アリシエーゼとモニカは俺のツッコミにも一切怯まずに、そこからあーだこーだと騒いでいたが、俺は一切を無視してユーリーに話し掛けた。

「ユーリーは疲れて無いか?」

「・・・ン、スコシツカレタ」

 そう言ってユーリーは俺の膝の上で向かい合う形に座り直し、頭を俺の胸に預けて目を瞑った。
 その様子に何だか父性が刺激されたのか何なのかは知らないが、無意識にユーリーの背中をポンポンと軽く叩いてまるで寝かし付けている様な行為をした。

 可愛いやっちゃなぁ

 ホッコリしていると、明莉が俺の方へ徐に歩いて来るのが見えた。

「ユーちゃん、暖くんが大好きなんですね」

 そう言って明莉は笑って、既に半分寝ているユーリーの頭を優しく撫でた。
 他の面々にも目をやるが、篤は相変わらず、モニカをガン見して、時折天を仰ぎなかまらブツブツと何かを呟いていた。

 いやいや、マジで怖いって・・・

 ガン見しているのだが、モニカの隣でである。
 人目も憚らずと言うか、被害者であるモニカ自身の軽蔑の眼差しもまるで意に介さず、四六時中、暇があればそんな事をしているが、ちょっと度が過ぎる気がしてきたのでちょっと釘を刺しておくかと思い篤に言う。

「・・・篤、見過ぎ」

「・・・そうならば・・・・・・が、・・・になる・・・・・・」

 ん?聞いて無い?

「おーい、篤ー?」

 俺は再度篤に話し掛けるが、篤はまったく気付いて無いのか、モニカの身体を観察し、時折天を仰いだり、腕を組んで唸ったりしていた。

「おーい!篤ー、帰って来ーい!」

 俺は声量を上げて篤を呼ぶが、まったく反応を示さない。

 この集中力はある意味凄いんだが・・・

「・・・ハルさん、もういいですよ。私は、慣れました、たぶん・・・」

 モニカが俺に感情の抜けた様な目でそう言った。

「い、いやぁ・・・ちょっと流石に気持ち悪いでしょ・・・」

「・・・気持ち悪いですが、実害は無いですし。あッ、もし少しでも手を出して来たら殺していいですか?」

 モニカは物騒な事を言い出すが、俺は許可した。

「え、あ、うん。いいよ」

「そうですか!じゃあ、遠慮無く」

 そう言ってモニカは胸の前で両手をパンッと合わせて喜んだ。
 手を合わせた瞬間、モニカのバインバインがプルンと大きく揺れたが、篤はそれを見逃さず、目を見開いてそのバインバインをガン見した。

 篤はもうすぐ死ぬかもな・・・

 そんな事を思いつつ、傭兵の皆の方に目を向けると、四人ともアリシエーゼの後ろに立っていた。
 多少、ナッズは落ち着きが無かったが、こう見るとアリシエーゼの護衛と言う雰囲気が醸し出されていて、良い感じだと心の中で思った。
 気付くとユーリーは完全に寝入ってしまっていた。

 そろそろ来てもいいんじゃねーのか

 そんな事を思い、俺はドエインに話し掛ける。

「ドエイン、姉ちゃん呼んで来いよ。客人待たせるなんてどう言う教育受けて来たんだ」

「うぇッ!?俺がそんな事言える訳ねぇだろ!?大隊長なんだし色々と忙しいんだよ」

 ドエインはそう言って俺の提案を拒むが、そんなはずあるかと俺は心の中で毒づいた。

「どうせ、結構前からこっちの会話をどっかで聞いてニヤついてるに決まってんじゃねぇか」

 俺はそう言って、壁を挟んだ左隣の部屋と入口の扉を見た。

 きっとこの会話も聞いていて、声を殺してくつくつと笑ってるに違いないと鼻を鳴らす。

「いや、すまんすまん。少し忙しくてな。待たせてしまった」

 タイミング良く、入口の扉が開け放たれ、外からドエインの姉が態とらしくそんな事を言いながら部屋へと入って来た。

 入口の兵士とドエインはその場で直立不動で背筋を伸ばして足をガッと揃えてドエインの姉、リラを迎え入れた。
 俺はユーリーを膝に乗せたまま、椅子から立たずそのまま無言でリラを見据える。

「こ、こら!旦那ッ」

 そんな俺の様子を見てドエインは焦りながら俺に起立を促すが、俺はそれを無視してリラを見据え続けた。

「・・・フッ、別に構わんよ。話をするのに、上座も下座も関係無いしな。そうだろう?」

 そう言ってリラはニヤリと笑い、まるで爬虫類の其れを思い出させる瞳で俺を見据えた。

 ほーらな
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