106 / 114
第百三話 機械人形
しおりを挟む
「……そう」
話を聞き終わったセシリヤは小さく零すと瞳を閉じた。足を組みなおして思案する。彼らが出来ること、さらに安定する収入を得られる方法を。指先で羊皮紙をノックしていた手を止めて再び書きかけの紙へ視線を落とした。
「機械人形……使ってみる?」
「機械人形ですか?」
「そっ、機械人形。イヤなら別にいいけど」
「イヤじゃない! イヤじゃないです!」
前のめりになる三人に引きながらもセシリヤは苦笑と共に彼らの返答を是と受け取った。
「フォーアラードゥング」
人差し指を立てて地面へ向けるとすぐに地面から一体の機械人形が出てきた。鉄の顔、むき出しの関節。もちろん表情などない。三人は突如現れた機械人形に興味を惹かれて囲んでいる。大人の男性よりも少し低めの身長の人形を頭の先から足元まで視線で往復し、セシリヤへ顔を向けた。
「まだ動かないわよ。これを動かす術式を考えるからちょっと待ってて」
羽ペンをインクに浸しながら言うと彼らは素直に頷き再び機械人形へと視線を戻した。ロウが眉を寄せて「うーん」と唸る。その隣でジャオも同じ表情をしていた。
「なあ、この人形に顔はないのか?」
「ん~? そうね、機械人形はどれもこんな感じよ? のっぺらぼう」
「そっかぁ~」
「顔とか作ってあげられないか?」
「作ってあげたいなぁ~」
三人が口々に言うのを聞いていたセシリヤが思わず顔を上げた。目を丸くして何度も瞬きを繰り返した。彼らは顔のない機械人形に顔を作ると言っているのだ。今まで機械人形を作ったことは何度かあるが、顔を気にした人などいなかった。だから彼らの事が珍しくもあり、悪い人ではないのだろうとセシリヤは小さく笑う。
「でも俺たちじゃ材料を買う金ねーしな……」
「だよな……」
肩を落とした大人たちにセシリヤが麻袋を渡した。受け取ったシンが目を白黒させて麻袋とセシリヤを見比べる。相手の意図が分からないと言わんばかりの表情を見せる三人にセシリヤは口角を上げた。
「その子に顔を作ってあげたいんでしょ? そのお金好きに使っていいから材料買ってきなさい」
「えっと、いいのか?」
「この金を持って逃げる……かもしれないんだぞ」
「その時はその時。まあ、そんなことしたら蔑むだけだけど」
鼻で笑いペンを走らせるセシリヤにジャオたちは身震いした。
「買い物に行ってきます!」
「借りた金はちゃんと稼いで返します姐さん!」
「行ってきます!」
麻袋をキュッと握りしめて駆けて行く三人を見送ったセシリヤの表情は満足そうにしていた。
話を聞き終わったセシリヤは小さく零すと瞳を閉じた。足を組みなおして思案する。彼らが出来ること、さらに安定する収入を得られる方法を。指先で羊皮紙をノックしていた手を止めて再び書きかけの紙へ視線を落とした。
「機械人形……使ってみる?」
「機械人形ですか?」
「そっ、機械人形。イヤなら別にいいけど」
「イヤじゃない! イヤじゃないです!」
前のめりになる三人に引きながらもセシリヤは苦笑と共に彼らの返答を是と受け取った。
「フォーアラードゥング」
人差し指を立てて地面へ向けるとすぐに地面から一体の機械人形が出てきた。鉄の顔、むき出しの関節。もちろん表情などない。三人は突如現れた機械人形に興味を惹かれて囲んでいる。大人の男性よりも少し低めの身長の人形を頭の先から足元まで視線で往復し、セシリヤへ顔を向けた。
「まだ動かないわよ。これを動かす術式を考えるからちょっと待ってて」
羽ペンをインクに浸しながら言うと彼らは素直に頷き再び機械人形へと視線を戻した。ロウが眉を寄せて「うーん」と唸る。その隣でジャオも同じ表情をしていた。
「なあ、この人形に顔はないのか?」
「ん~? そうね、機械人形はどれもこんな感じよ? のっぺらぼう」
「そっかぁ~」
「顔とか作ってあげられないか?」
「作ってあげたいなぁ~」
三人が口々に言うのを聞いていたセシリヤが思わず顔を上げた。目を丸くして何度も瞬きを繰り返した。彼らは顔のない機械人形に顔を作ると言っているのだ。今まで機械人形を作ったことは何度かあるが、顔を気にした人などいなかった。だから彼らの事が珍しくもあり、悪い人ではないのだろうとセシリヤは小さく笑う。
「でも俺たちじゃ材料を買う金ねーしな……」
「だよな……」
肩を落とした大人たちにセシリヤが麻袋を渡した。受け取ったシンが目を白黒させて麻袋とセシリヤを見比べる。相手の意図が分からないと言わんばかりの表情を見せる三人にセシリヤは口角を上げた。
「その子に顔を作ってあげたいんでしょ? そのお金好きに使っていいから材料買ってきなさい」
「えっと、いいのか?」
「この金を持って逃げる……かもしれないんだぞ」
「その時はその時。まあ、そんなことしたら蔑むだけだけど」
鼻で笑いペンを走らせるセシリヤにジャオたちは身震いした。
「買い物に行ってきます!」
「借りた金はちゃんと稼いで返します姐さん!」
「行ってきます!」
麻袋をキュッと握りしめて駆けて行く三人を見送ったセシリヤの表情は満足そうにしていた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる