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第五十五話 誘い 1/2
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「ほう、それはどちらの宿かお聞きしても?」
(目が笑ってないのよね……)
「モンタナという宿に泊まろうかと思ってます」
ミラがそう告げた瞬間、ツノゴマの片眉が上がった。
「モンタナァ? あの、客足が遠のいた哀れ……ごほん、失礼。あんな人気のない宿よりも私が経営しているパエパランツの方がずっと良いかと思いますが?」
今度はセシリヤの眉が上がる番だった。魔石を握る手に力が入りティルラから「セシリヤ! 握りすぎ! 緩めて、ゆーるーめーてー」と抗議の声が上がるが、セシリヤの意識はツノゴマへと向けられていた。なるべく怒りを鎮めようと努めているが、頬が引きつっている。
「モンタナもいいところですよ? 女将さんは優しくて、彼女が作るご飯も美味しいですよ」
ご存知ないんですか? と微笑みを向けながら煽るセシリヤを見下しながらツノゴマは鼻で笑った。小馬鹿にしたような態度にセシリヤの額に青筋が浮かび、さらに魔石を握る手に力が入る。
「君のような小娘には我がパエパランツの宿泊代は厳しいだろうな~。君にはモンタナ程度がお似合いだろう。まあ、どうしてもと言うなら夢を見せると思って一泊だけなら泊めてあげても構わんがね」
「……お気遣いありがとうございます。私はモンタナの雰囲気も、女将さんの人柄も気に入っておりますので結構です」
断ったセシリヤにツノゴマは鼻を鳴らすと再びミラへ笑みを向けた。
「使者様、宿泊代は不要ですので是非ともうちへお越しください」
その代りと言ってはなんですが、うちの評価をお願いしますね、と小声で付け加えるツノゴマにそれまで静かに聞いていたミラが立ち上がった。ツノゴマが怯んで一歩下がる。
「いいでしょう、そちらへ泊まりますよ。もちろん、望んでいる評価も差し上げましょう」
ミラの言葉にツノゴマがニヤリと笑った。
ですが、と続けて耳元へ顔を寄せたミラは怒気を含んだ低い声音で告げた。
「(宿の事はどうでもいいけど、彼女の事を悪く言う事だけは許さない。あ、ちなみに彼女はそちらに連泊しても差し支えないほどの資金を稼いでますよ)」
顔を離したミラがにこり、と笑みを向けるとツノゴマは信じられないとセシリヤを凝視したがすぐに「ふん」と鼻を鳴らし去って行った。
(目が笑ってないのよね……)
「モンタナという宿に泊まろうかと思ってます」
ミラがそう告げた瞬間、ツノゴマの片眉が上がった。
「モンタナァ? あの、客足が遠のいた哀れ……ごほん、失礼。あんな人気のない宿よりも私が経営しているパエパランツの方がずっと良いかと思いますが?」
今度はセシリヤの眉が上がる番だった。魔石を握る手に力が入りティルラから「セシリヤ! 握りすぎ! 緩めて、ゆーるーめーてー」と抗議の声が上がるが、セシリヤの意識はツノゴマへと向けられていた。なるべく怒りを鎮めようと努めているが、頬が引きつっている。
「モンタナもいいところですよ? 女将さんは優しくて、彼女が作るご飯も美味しいですよ」
ご存知ないんですか? と微笑みを向けながら煽るセシリヤを見下しながらツノゴマは鼻で笑った。小馬鹿にしたような態度にセシリヤの額に青筋が浮かび、さらに魔石を握る手に力が入る。
「君のような小娘には我がパエパランツの宿泊代は厳しいだろうな~。君にはモンタナ程度がお似合いだろう。まあ、どうしてもと言うなら夢を見せると思って一泊だけなら泊めてあげても構わんがね」
「……お気遣いありがとうございます。私はモンタナの雰囲気も、女将さんの人柄も気に入っておりますので結構です」
断ったセシリヤにツノゴマは鼻を鳴らすと再びミラへ笑みを向けた。
「使者様、宿泊代は不要ですので是非ともうちへお越しください」
その代りと言ってはなんですが、うちの評価をお願いしますね、と小声で付け加えるツノゴマにそれまで静かに聞いていたミラが立ち上がった。ツノゴマが怯んで一歩下がる。
「いいでしょう、そちらへ泊まりますよ。もちろん、望んでいる評価も差し上げましょう」
ミラの言葉にツノゴマがニヤリと笑った。
ですが、と続けて耳元へ顔を寄せたミラは怒気を含んだ低い声音で告げた。
「(宿の事はどうでもいいけど、彼女の事を悪く言う事だけは許さない。あ、ちなみに彼女はそちらに連泊しても差し支えないほどの資金を稼いでますよ)」
顔を離したミラがにこり、と笑みを向けるとツノゴマは信じられないとセシリヤを凝視したがすぐに「ふん」と鼻を鳴らし去って行った。
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