a pair of fate

みか

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【第二部】

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「れ、廉さん」


電話を切ると、すぐに後ろから控えめに名前を呼ばれる。


「ん?、い゛っ!!」


振り返ると同時に、ごちんと強くぶつかる唇。
いや、ここは…むにゅっ!と可愛い所じゃないのか?

唇はジーンと痛んで熱くなる。
ぶつかる、というか衝突する、と言った方が良いのかもしれない。


「いっ…てぇ」


な、なんだ…?

言わずもがな唇はクソ痛い。
思わず顔を顰めた俺に、もう一回、今度はゆっくり唇を重ねてきた華。

どこでスイッチが入ったか分からない。
唇が痛むので、特にアクションを起こさず好きにさせていると、華はぎゅうううっと眉を寄せ恨めしそうな顔で俺を睨む。


「……」


いやいや、睨みたいの俺だから。
俺だって思いっきりキスしたいし。


「何?」


唇は切れるし、チンコは痛いし、息も上がる。
さっさと抱かせろ。
電話が無かったら、今頃繋がって奥ガツガツ突いて…あぁ~締め付けエグそう。絶対気持ち良いに決まってるし、クッソエロい顔すんだろうな~………なんて妄想が止まらない。


「……エッチ、はやくしたい…」


もごもご小さく動く口から発せられたお誘いに、俺は自分の耳を一瞬疑った。


「は………」

「だからっ、…俺もう無理!体熱いって!いれて!」


俺に縋り付きながら見上げる華。

頬は火照って汗ばんでいる。
瞳もうるうるしてるし、色っぽいという言葉を体現したようだ。


「い、いいのか」
「うん…」


華も俺も準備万端。さぁ、いよいよ…という所で何か忘れているような気がして、近付けていた顔を離す。


「…?」
「…あーっ、…と…」


華はこてんと首を傾げ、俺も首を傾げる。
突然、何かを忘れているような感覚に囚われたのだ。

なんだ?何を忘れているんだ…?あと一歩で思い出せそうなのに思い出せない。例えるなら、必死に暗記した単語が、テスト本番になって思い出せないあの感覚。


「…あついぃ…」

「あっ…」


華の不満そうな呟きに頭のモヤが晴れた。


「…水だ、…ちょっと待ってて…」


水だ、水だ!!そう何故か水を飲ませなければいけないような気がして、華を置き去りにし全裸で冷蔵庫へ走る。


まずは水、まずは水、手を出す前に、まずは水だ!
あれだけ体が熱くて汗もかいているんだから、まずは水分補給からだ。ヤってる最中に喉乾いたとか言われても聞いてやれないし、念には念を入れておかなければ。


そして、手にペットボトルを持ち急いで寝室へ戻った俺は膝から崩れ落ちる。


「…おい…おいおいマジかよ…」


比喩なんてもんじゃなく、リアルに膝から崩れ落ち、膝が痛む。だがそれも気にならないくらい目の前の光景に絶望した。

フェロモンが濃く充満している寝室のベッドの上、華は俺のスーツを抱き締めて胎児のように丸まり横たわっていた。

そう、この水を取りに行くほんの数十秒の間に華が寝ていたのだ。

もう少しでヤれそうだったのに…。
悔しいやら情けないやらで手に力が入りペットボトルがベコッと潰れる。


「華ぁ…」


ベッド横まで移動して気持ち良さそうな寝顔を眺める。
さっきまであんな欲情してた癖にさ??寝てるんだぜ?

一瞬起こそうとしてやめる。
ヤりたい訳じゃない。いや、正直ヤりたいが、抱いてもいいのかという葛藤がまた心の中で大きくなりだした。


「……はぁ…」


悩んでも答えは同じ。既に答えは出ているようなものだ。

『今の俺と、華の恋人は別人』。それにしか辿り着かない。さっきは勢いで抱こうとしていたけれど、やっぱり駄目だ。

結局夢の中へ旅立った華を起こす事はせず、臨戦態勢の息子を宥めながら寝顔を見つめる事しかできない俺だった。



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