180 / 226
【第二部】
13
しおりを挟む「れ、廉さん」
電話を切ると、すぐに後ろから控えめに名前を呼ばれる。
「ん?、い゛っ!!」
振り返ると同時に、ごちんと強くぶつかる唇。
いや、ここは…むにゅっ!と可愛い所じゃないのか?
唇はジーンと痛んで熱くなる。
ぶつかる、というか衝突する、と言った方が良いのかもしれない。
「いっ…てぇ」
な、なんだ…?
言わずもがな唇はクソ痛い。
思わず顔を顰めた俺に、もう一回、今度はゆっくり唇を重ねてきた華。
どこでスイッチが入ったか分からない。
唇が痛むので、特にアクションを起こさず好きにさせていると、華はぎゅうううっと眉を寄せ恨めしそうな顔で俺を睨む。
「……」
いやいや、睨みたいの俺だから。
俺だって思いっきりキスしたいし。
「何?」
唇は切れるし、チンコは痛いし、息も上がる。
さっさと抱かせろ。
電話が無かったら、今頃繋がって奥ガツガツ突いて…あぁ~締め付けエグそう。絶対気持ち良いに決まってるし、クッソエロい顔すんだろうな~………なんて妄想が止まらない。
「……エッチ、はやくしたい…」
もごもご小さく動く口から発せられたお誘いに、俺は自分の耳を一瞬疑った。
「は………」
「だからっ、…俺もう無理!体熱いって!いれて!」
俺に縋り付きながら見上げる華。
頬は火照って汗ばんでいる。
瞳もうるうるしてるし、色っぽいという言葉を体現したようだ。
「い、いいのか」
「うん…」
華も俺も準備万端。さぁ、いよいよ…という所で何か忘れているような気がして、近付けていた顔を離す。
「…?」
「…あーっ、…と…」
華はこてんと首を傾げ、俺も首を傾げる。
突然、何かを忘れているような感覚に囚われたのだ。
なんだ?何を忘れているんだ…?あと一歩で思い出せそうなのに思い出せない。例えるなら、必死に暗記した単語が、テスト本番になって思い出せないあの感覚。
「…あついぃ…」
「あっ…」
華の不満そうな呟きに頭のモヤが晴れた。
「…水だ、…ちょっと待ってて…」
水だ、水だ!!そう何故か水を飲ませなければいけないような気がして、華を置き去りにし全裸で冷蔵庫へ走る。
まずは水、まずは水、手を出す前に、まずは水だ!
あれだけ体が熱くて汗もかいているんだから、まずは水分補給からだ。ヤってる最中に喉乾いたとか言われても聞いてやれないし、念には念を入れておかなければ。
そして、手にペットボトルを持ち急いで寝室へ戻った俺は膝から崩れ落ちる。
「…おい…おいおいマジかよ…」
比喩なんてもんじゃなく、リアルに膝から崩れ落ち、膝が痛む。だがそれも気にならないくらい目の前の光景に絶望した。
フェロモンが濃く充満している寝室のベッドの上、華は俺のスーツを抱き締めて胎児のように丸まり横たわっていた。
そう、この水を取りに行くほんの数十秒の間に華が寝ていたのだ。
もう少しでヤれそうだったのに…。
悔しいやら情けないやらで手に力が入りペットボトルがベコッと潰れる。
「華ぁ…」
ベッド横まで移動して気持ち良さそうな寝顔を眺める。
さっきまであんな欲情してた癖にさ??寝てるんだぜ?
一瞬起こそうとしてやめる。
ヤりたい訳じゃない。いや、正直ヤりたいが、抱いてもいいのかという葛藤がまた心の中で大きくなりだした。
「……はぁ…」
悩んでも答えは同じ。既に答えは出ているようなものだ。
『今の俺と、華の恋人は別人』。それにしか辿り着かない。さっきは勢いで抱こうとしていたけれど、やっぱり駄目だ。
結局夢の中へ旅立った華を起こす事はせず、臨戦態勢の息子を宥めながら寝顔を見つめる事しかできない俺だった。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
組長と俺の話
性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話
え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある?
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい
1日1話かけたらいいな〜(他人事)
面白かったら、是非コメントをお願いします!
俺を注意してくる生徒会長の鼻を明かしてやりたかっただけなのに
たけむら
BL
真面目(?)な生徒会長×流されやすめなツンデレ男子高校生。そこに友達も加わって、わちゃわちゃの高校生活を送る話。
ネクタイをつけてこないことを毎日真面目に注意してくる生徒会長・伊佐野のことを面白がっていた水沢だったが、実は手のひらの上で転がされていたのは自分の方だった? そこに悪友・秋山も加わってやいのやいのにぎやか(?)な高校生活を送る話。
楽しんでいただけますように。どうぞよろしくお願いします。
【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-
悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」
「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」
告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。
4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。
その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる