a pair of fate

みか

文字の大きさ
上 下
117 / 226
【第一部】

7

しおりを挟む


いくらか震えが治まり薄く目を開くと、やっぱり先生はまだ俺を見ていた。蛇のような視線に身動きが取れなくなる。


なんで、なんで俺なんだ。
なんでなんでなんでなんで、なんで俺?

行き場のない疑問は俺の中で渦巻く。

みんなと一緒に体育の授業を受けていただけなのに。
いつから『そういう目』で見られていたんだろう。



俺の顔、体、声、そして《第二の性》。

これの『おかげ』で黒川さんと出会えて、恋をした。

これの『せい』で一生忘れられない傷を負う。



色んな理由を考えても結局行き着くのは『俺が悪い』、それだけ。

考え出したら止まらなくて俯いた視界がぐるぐる回る。


「おい」


低く冷たい声が倉庫に響いた。

初めて会う人がこの声を聞いたらきっと怖すぎて震え上がるだろう。でも俺は大好き。どんな声でも。

この声も好きだけど、もっと好きな声はちょっと低めで優しくて、きっと俺にしか聞くことができない甘い声。

その声を脳内再生してやっと震えが治まった。



夏だっていうの今日もスーツをばっちり着こなした黒川さんが、長い脚を使い先生に向かってゆっくり歩いていく。


一歩、また一歩。

歩いているだけなのに俺まで命の危険を感じるくらい謎の迫力がある。



「誰が喋っていいって言った」



たっぷり時間をかけて先生の前まで歩いた黒川さんが立ち止まる。

少し体を折って先生の顔を覗き込んだ黒川さんは鼻で笑った。

そんな黒川さんを見て先生は眉をつり上げる。



「へぇ、顔は悪くねぇな」

「お前っ、誰だ!ここはどこだよ!学校に返せ!」

「煩い」



黒川さんがおもむろに振りかぶった右腕。

拳はヒュッと空を切って先生の左頬にめり込む。



「ッ・・・ッ」



声にならない呻き声を漏らしながらバランスを崩した先生。
その腹に続けざまに膝蹴りを食らわせた黒川さんの瞳はやっぱり真っ黒で、俺の知ってる黒川さんがどこかに行ってしまいそうで怖かった。


「ゲホッ、…」

「大丈夫ですか!!」


身体を折りたたんで床に転がる先生と、それを仁王立ちして見下ろす黒川さんを見て、考えるより先に体が動く。


「華」


黒川さんの咎める声が聞こえるけど、俺には怪我をした箇所しか目に入らない。


「大丈夫ですか黒川さん絶対痛いですよね」

「は?」


あんなに力いっぱい殴って痛くないわけが無い。
俺は人を殴ったことはないけどきっと骨が砕けそうなほど痛いはずだ。

急いで駆け寄って、傷に触れないように右手をそっと握る。

俺の突然の行動に黒川さんはニヤニヤ、白林さんと早野さんは驚き、琉唯くんは白けた目、三者三様の反応をする人が一室にいるんだからカオスだ。


…あれ、なんかヤバかったかな?


勢いで飛び出してきたのに後悔して少し後ずさりすると、思いっきり二の腕を掴まれて動きが止まる。



「そいつは下に流しとけ」

「了解」

「手当ては金条くんのそれで十分ですね、では!」



黒川さんの一声で白林さんは伸びている先生を引き摺って倉庫を出ていき、早野さんは良かった良かった~と言いながらその後ろをついて行った。


「月曜は学校来いよ。若、失礼します」

「助かった」


琉唯くんはそう言い頭を下げて出ていく。

月曜は学校来いよってどういう事だろう。
俺は昨日まで無遅刻無欠席だったから簡単に休むなんてことはしないのに。


この時、首を傾げた俺を眺める黒川さんが俺の二度目の欠席の原因になるとは微塵も思っていなかった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

両片思いのI LOVE YOU

大波小波
BL
 相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。  両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。  そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。  洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。  お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。  富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。  少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

コネクト

大波小波
BL
 オメガの少年・加古 青葉(かこ あおば)は、安藤 智貴(あんどう ともたか)に仕える家事使用人だ。  18歳の誕生日に、青葉は智貴と結ばれることを楽しみにしていた。  だがその当日に、青葉は智貴の客人であるアルファ男性・七浦 芳樹(ななうら よしき)に多額の融資と引き換えに連れ去られてしまう。  一時は芳樹を恨んだ青葉だが、彼の明るく優しい人柄に、ほだされて行く……。

【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-

悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」 「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」  告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。  4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。  その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...