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彼の知るところ -2-
しおりを挟む四人目の『魔王』発言から早数ヶ月――
空中に映し出されたスクリーンには異世界人三人。
「もう、ヤダぁ~~」
「僕は……、頭脳担当で……体力は……」
「普通は、こんなんじゃ、ナイ……だろっ?」
出発したのは三日前と聞いたが、随分とくたびれた気がする。
ここは中央の魔術院より山奥に在る魔術院育成訓練場。
いずれは魔術院に属する人員を育成……一定期間の訓練を経て、魔術庁・術式庁へと派遣……する、その訓練生が魔術を暴発させたり、新たな術式を開発する山奥の機関である。
あの日、四人目の彼は……
どこから知ったのか、この『魔術院育成訓練場』を求めた。
『取り敢えず魔王城』として――
多少暴れても一般的に迷惑が掛からず、
魔法や剣術が得意そうな……兵士みたいな……人が居て、
中央からちょっと遠いくらい。
四人目が言うには『仮想・敵!』が希望らしいが
ハッキリ言って意味が解らない。
『要するに目的を達成させてあげれば気が済むでしょ?』
そんな言葉に乗せられて、半信半疑策定された『魔王城』。
別名『魔術院育成訓練場』。
そこで四人目はそこはかとなく学習していたこの国の言葉をきちんと習い、さらに『軽度治癒魔法』なんてモノを習いだした。
――――おい、四人目?
片言ながら話せるようになり、翻訳魔法なんて物を必要としなくなった四人目は、怪我をした訓練生の治療に励み……
……って、だから四人目?
『初級治癒師』なる資格を取って
変わらず過ごす三人の異世界転移者にこう伝えて欲しいと願った。
『山奥に魔王が現れました』
そうして異世界人三人は旅に出た。
――バカかっ!?
そうして異世界人は『帰りたい』と望んで元の世界に帰った。
ナンだそれ?
マジかソレ?
アリかそれ?
やっぱバカか。
「せっかくローテ組んだのに異世界転移者帰っちゃったって」
「え?次、俺の番だったのに!?」
「もう少し持つと思ったのにな」
「速すぎ」
「練習したのに本番なしかぁ~」
訓練生はこっちで楽しみすぎ……と言うか、
『我こそは魔王軍(訓練部隊)所属(名前)である。よく来たな勇者よ!』
とか言う科白を叫ぶマニュアルが用意され、最近は大真面目に唱える訓練生をそこかしこで見た。
正気か?
――と思ったなんて、水を差すようで言えなかった。
言わなくて良かった。
策もないしの、お遊び気分の気分転換が数日で結果を出すとは。
内情訓練生。名称魔王軍配下。
たったソレダケ。
それだけで世界プロジェクトが一歩進む。
次元ホールを塞ぐ術式が完成したというのに、異世界人が帰らない。
帰らない。
永住するのかという程帰らない。
ならば世界に馴染む努力をするのかと思えば『チート』とやらを待って何もしない。
どうにも帰らない。
そんな中の四人目――
帰る気がなさそうなのは同じ。
でも気づけば言葉を覚えようと頑張った
おとぎ話のような未来……『勇者』に『聖女』に『賢者』に『魔王』……を語るのも同じ。
でも内情の伴わない『魔王』と言う呼称は必要だった
頼るだけじゃなく、本当に異世界人が辿り着いても手伝えるよう治癒術を学んだ。
当然のように翻訳魔法なんて享けていなかった。
通じていないと思って発した言葉のいくつが届いていた――?
翻訳魔法は基本的に異世界転移者の話す言葉……『口』にかける。
文字を読みたいと望めば『目』に。
言葉を聞きたいと思えば『耳』。
最初は親切に『目と耳と口』
――次いで『耳と口』
いつしか翻訳魔法は『口にだけ』――。
わざわざ効果時間を長く保てるよう施す翻訳魔法。
総てを備えた翻訳魔法を使うよりも、異世界人が話す言葉を自動でこちらの世界の翻訳する。
そしてこちらの伝えるべき言葉には魔法を乗せ――
異世界人には慣れ親しんだ言葉に聞こえた異世界言語――
聞かなくて良い言葉にまで魔法は乗せない。
帰る異世界人に言葉なんて必要ないだろ――?
言葉を覚えた四人目
文字を読みたい三人目――
必要なら……――
明日、四人目は元の世界へと帰る。
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