1 / 6
彼の知るところ -1-
しおりを挟む
この国には現在四人の異世界転移者がいる。
異世界転移者――
その存在がもてはやされていたのは最早過去の話。
現在この世界に魔王と呼ばれる存在は居ない。
他国との軋轢もなく、至って良好な関係を築いている。
騎士団は警備隊と一緒になり騎士師団へ、魔術師は研究を主とした魔術院へと変貌を遂げた。
そんな名称の変化や役職の変化に市井も馴染み、戦いを主とした職業も消え去ろうというこの頃――
「やっぱ俺は勇者だな!」
そう言ったのは一人目の異世界転移者。
「聖女になってお妃さまに決まっているじゃない」
そう言ったのは二人目。
「今どきそんなの流行らない。ここはやっぱ賢者だろ」
そう言ったのは……
「どうでもいいから四人ともみんな、元の世界に帰れ!」
嘗てこの世界では異世界召喚なるものをよくやっていた。
連れてこられた異世界人は元の世界に戻るため、頑張って国や人を助けた。
そうしてみんな元の世界に帰っていく。
偶に異世界を行き来する変わり者も居たが、基本的にはみんな――生きている者は――最終的に元の世界へ帰って行った。
そんなことが繰り返されたからか、この世界にはよくよく異世界人が落ちて来る。
最早欠片も必要としないのに。
召喚の儀式をしていないというのに、気付けば四人……。
元々召喚に携わっていた術式庁によると
『な~んか次元ホール?みたいのが開きっぱなし、みたいなぁ~?』
過去にはわざわざ術式で広げていた召喚ホールが今では広げる必要もないほど開いているらしい。
そして
かなり問題なことに、昨今の異世界転移者は帰ろうとしない。
観光気分で滞在し、帰っていく者もそれなりには居るが、とりわけ『地球』という場所の『日本』から来た者は帰る気配がない。
「やっぱチートは全属性魔法かな?」
「世界の理とか知識の図書がいいな」
「えー、幸運とかも必要だと思うけど~」
私はこの国の魔術院の次期長なんて言われているが、
最近頓に声を大にして言いたい!
私は体のいい異世界転移者のお守ではない!!
――と。
「それでそのチートというのはどう授かるんだい?」
「やっぱ教会でしょ?聖なる力を授かって王子さまと旅に出るの。そこから恋が始まって~」
「王子とか要らんし。ネコミミメイドやエルフのお姉さんとかじゃないと」
この世界の文字が読めないとか言って、翻訳の魔法をかけられているヤツがいったいどうやって『知識の図書』なんて読もうと思うのか……。(それ以前にそんな物は存在しない)
化粧をしながらお菓子を食べて、胸が見えそうな服を着て聖女とか嫌だ。始まるとしたらそれは『恋』じゃなく『変』だろう。
さらにこの世界の女性より背の低い男がラッキースケベとか、……無理だろう。
ついでに『全属性魔法』も無理だ。(魔力が殆どない)
この世界は余りに異世界転移者が多いことから異世界転移者と思われる者を見つけたら中央の魔術院へ連れて来ることが決まっている。
場合によっては情報のみのがなされるが、その場合は騎士師団が迎えに行くことになっている。
とはいえ、基本的にはギルドに届けられ流通の荷車に乗って魔術院へ連れてこられる。
誰も言葉が通じないような面倒な者を抱えたくはないからか、労せずして異世界転移者は魔術院に集められる。
そして集められた異世界転移者は翻訳の魔法をかけられ早期帰還を求められる。
帰れる最大座標は転移した地点から三日前の本人。
それよりも過去に帰すことはできないが、三日以内なら元の世界に不都合がないよう過去の本人に重なるよう帰還が可能だ。
ただこの術式。一つだけ最大の問題がある。
『異世界転移者本人が「帰りたい」と望むこと』が大前提であり、最大の因子なのだ。
「ですから、今は異世界人を必要としていないので帰ってください」
「そんなこと言って、呼ばれたからには意味があるんでしょ?」
「そうそう。伝説の勇者とか」
「この世界の謎を解明してみせます」
「全て無いから帰れ――っっ!!」
「で~、今日も帰らなかった~……と」
夕食後の食堂でぐったりしていれば同期がのんびりと声をかけてくる。
「……ああ。何で帰らないんだろうな」
普通、帰りたいモノだろ?
今まで居た場所から突然切り離され、全然知らない世界に放り込まれる。
今までの実績も過去もすべて奪われ。
築いた地位も全て失う――。
過去の転移者は召喚したこの世界を恨んで呪ったなんて話もあると言うのに……。
異世界転移者管理責任者とか、絶対に割りに合わない。
そうため息を呑み込んでいれば
コンっ。
テーブルの端をノックするように四人目が存在をアピールした。
「ああ、何?翻訳?」
どうせもう夜なのだから、朝にでも言えば良いものを――
異世界人には時間も何も関係ないのか。
異世界人に使う気なんて物は疾うに失せた。
人によって効果時間の変わる翻訳魔法。
それを当然のように享ける異世界人。
言葉が通じないのは辛いだろうと、
最初は『親切』
――次いで『贖罪』
いつしか翻訳魔法は『義務』――。
面倒だという気持ちを隠しもしない視線で四人目を見る。
取り繕う気持ちも失せ、ため息しか出ない。
翻訳魔法なんて使っても、めったに喋らない四人目。
その四人目が私を見て口を開く――
「俺は魔王になろうと思う」
は――――!?
異世界転移者――
その存在がもてはやされていたのは最早過去の話。
現在この世界に魔王と呼ばれる存在は居ない。
他国との軋轢もなく、至って良好な関係を築いている。
騎士団は警備隊と一緒になり騎士師団へ、魔術師は研究を主とした魔術院へと変貌を遂げた。
そんな名称の変化や役職の変化に市井も馴染み、戦いを主とした職業も消え去ろうというこの頃――
「やっぱ俺は勇者だな!」
そう言ったのは一人目の異世界転移者。
「聖女になってお妃さまに決まっているじゃない」
そう言ったのは二人目。
「今どきそんなの流行らない。ここはやっぱ賢者だろ」
そう言ったのは……
「どうでもいいから四人ともみんな、元の世界に帰れ!」
嘗てこの世界では異世界召喚なるものをよくやっていた。
連れてこられた異世界人は元の世界に戻るため、頑張って国や人を助けた。
そうしてみんな元の世界に帰っていく。
偶に異世界を行き来する変わり者も居たが、基本的にはみんな――生きている者は――最終的に元の世界へ帰って行った。
そんなことが繰り返されたからか、この世界にはよくよく異世界人が落ちて来る。
最早欠片も必要としないのに。
召喚の儀式をしていないというのに、気付けば四人……。
元々召喚に携わっていた術式庁によると
『な~んか次元ホール?みたいのが開きっぱなし、みたいなぁ~?』
過去にはわざわざ術式で広げていた召喚ホールが今では広げる必要もないほど開いているらしい。
そして
かなり問題なことに、昨今の異世界転移者は帰ろうとしない。
観光気分で滞在し、帰っていく者もそれなりには居るが、とりわけ『地球』という場所の『日本』から来た者は帰る気配がない。
「やっぱチートは全属性魔法かな?」
「世界の理とか知識の図書がいいな」
「えー、幸運とかも必要だと思うけど~」
私はこの国の魔術院の次期長なんて言われているが、
最近頓に声を大にして言いたい!
私は体のいい異世界転移者のお守ではない!!
――と。
「それでそのチートというのはどう授かるんだい?」
「やっぱ教会でしょ?聖なる力を授かって王子さまと旅に出るの。そこから恋が始まって~」
「王子とか要らんし。ネコミミメイドやエルフのお姉さんとかじゃないと」
この世界の文字が読めないとか言って、翻訳の魔法をかけられているヤツがいったいどうやって『知識の図書』なんて読もうと思うのか……。(それ以前にそんな物は存在しない)
化粧をしながらお菓子を食べて、胸が見えそうな服を着て聖女とか嫌だ。始まるとしたらそれは『恋』じゃなく『変』だろう。
さらにこの世界の女性より背の低い男がラッキースケベとか、……無理だろう。
ついでに『全属性魔法』も無理だ。(魔力が殆どない)
この世界は余りに異世界転移者が多いことから異世界転移者と思われる者を見つけたら中央の魔術院へ連れて来ることが決まっている。
場合によっては情報のみのがなされるが、その場合は騎士師団が迎えに行くことになっている。
とはいえ、基本的にはギルドに届けられ流通の荷車に乗って魔術院へ連れてこられる。
誰も言葉が通じないような面倒な者を抱えたくはないからか、労せずして異世界転移者は魔術院に集められる。
そして集められた異世界転移者は翻訳の魔法をかけられ早期帰還を求められる。
帰れる最大座標は転移した地点から三日前の本人。
それよりも過去に帰すことはできないが、三日以内なら元の世界に不都合がないよう過去の本人に重なるよう帰還が可能だ。
ただこの術式。一つだけ最大の問題がある。
『異世界転移者本人が「帰りたい」と望むこと』が大前提であり、最大の因子なのだ。
「ですから、今は異世界人を必要としていないので帰ってください」
「そんなこと言って、呼ばれたからには意味があるんでしょ?」
「そうそう。伝説の勇者とか」
「この世界の謎を解明してみせます」
「全て無いから帰れ――っっ!!」
「で~、今日も帰らなかった~……と」
夕食後の食堂でぐったりしていれば同期がのんびりと声をかけてくる。
「……ああ。何で帰らないんだろうな」
普通、帰りたいモノだろ?
今まで居た場所から突然切り離され、全然知らない世界に放り込まれる。
今までの実績も過去もすべて奪われ。
築いた地位も全て失う――。
過去の転移者は召喚したこの世界を恨んで呪ったなんて話もあると言うのに……。
異世界転移者管理責任者とか、絶対に割りに合わない。
そうため息を呑み込んでいれば
コンっ。
テーブルの端をノックするように四人目が存在をアピールした。
「ああ、何?翻訳?」
どうせもう夜なのだから、朝にでも言えば良いものを――
異世界人には時間も何も関係ないのか。
異世界人に使う気なんて物は疾うに失せた。
人によって効果時間の変わる翻訳魔法。
それを当然のように享ける異世界人。
言葉が通じないのは辛いだろうと、
最初は『親切』
――次いで『贖罪』
いつしか翻訳魔法は『義務』――。
面倒だという気持ちを隠しもしない視線で四人目を見る。
取り繕う気持ちも失せ、ため息しか出ない。
翻訳魔法なんて使っても、めったに喋らない四人目。
その四人目が私を見て口を開く――
「俺は魔王になろうと思う」
は――――!?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
アビス ~底なしの闇~
アキナヌカ
BL
アビスという骸骨に皮をはりつけたような食人種がいた、そして彼らを倒すものをアビスハンターと呼んだ。俺はロンというアビスハンターで、その子が十歳の時に訳があって引き取った男の子から熱烈に求愛されている!? それは男の子が立派な男になっても変わらなくて!!
番外編10歳の初恋 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/778863121
番外編 薔薇の花束 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/906865660
番外編マゾの最強の命令 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/615866352
★★★このお話はBLです、ロン×オウガです★★★
小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。
ヴァレン兄さん、ねじが余ってます
四葉 翠花
BL
美貌と才知が売りの高級男娼でありながら、色気がないと言われ、賭博王や酒豪王といった称号をほしいままにする型破りなヴァレン。
娼館に売られた過去もなんのその、やたらと執着する同期や、冷静できつい見習いなどに囲まれながら、日々お気楽に元気よく生きている。
ところがある日、ヴァレンの髪にご執心の変態男が現れ、何故か身請け話まで……?
■『不夜島の少年』に出てきたヴァレンの話です。こちらだけでお読みいただけます。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる