異世界転移考察

ふじみや

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彼の知るところ -1-

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この国には現在四人の異世界転移者がいる。


異世界転移者――
その存在がもてはやされていたのは最早もはや過去の話。
現在この世界に魔王と呼ばれる存在は居ない。
他国との軋轢あつれきもなく、至って良好な関係を築いている。
騎士団は警備隊と一緒になり騎士師団へ、魔術師は研究を主とした魔術院へと変貌を遂げた。
そんな名称の変化や役職の変化に市井しせいも馴染み、戦いを主とした職業も消え去ろうというこの頃――

「やっぱ俺は勇者だな!」
そう言ったのは一人目の異世界転移者。
「聖女になってお妃さまに決まっているじゃない」
そう言ったのは二人目。
「今どきそんなの流行らない。ここはやっぱ賢者だろ」
そう言ったのは……

「どうでもいいから四人ともお前らみんな、元の世界に帰れ!」


かつてこの世界では異世界召喚なるものをよくやっていた。
連れてこられた異世界人は元の世界に戻るため、頑張って国や人を助けた。
そうしてみんな元の世界に帰っていく。
たまに異世界を行き来する変わり者も居たが、基本的にはみんな――生きている者は――最終的に元の世界へ帰って行った。
そんなことが繰り返されたからか、この世界にはよくよく異世界人が落ちて来る。
最早欠片カケラも必要としないのに。
召喚の儀式をしていないというのに、気付けば四人……。

元々召喚に携わっていた術式庁によると
『な~んか次元ホール?みたいのが開きっぱなし、みたいなぁ~?』

過去にはわざわざ術式で広げていた召喚ホールが今では広げる必要もないほど開いているらしい。

そして

かなり問題なことに、昨今の異世界転移者は帰ろうとしない。
観光気分で滞在し、帰っていく者もそれなりには居るが、とりわけ『地球』という場所の『日本』から来た者は帰る気配がない。

「やっぱチートは全属性魔法かな?」
「世界のことわりとか知識の図書がいいな」
「えー、幸運とかも必要だと思うけど~」

私はこの国の魔術院の次期おさなんて言われているが、
最近とみに声を大にして言いたい!

私は体のいい異世界転移者のお守ではない!!

――と。


「それでそのチートというのはどう授かるんだい?」
「やっぱ教会でしょ?聖なる力を授かって王子さまと旅に出るの。そこから恋が始まって~」
「王子とか要らんし。ネコミミメイドやエルフのお姉さんとかじゃないと」

この世界の文字が読めないとか言って、翻訳の魔法をかけられているヤツがいったいどうやって『知識の図書』なんて読もうと思うのか……。(それ以前にそんな物は存在しない)
化粧をしながらお菓子を食べて、胸が見えそうな服を着て聖女とか嫌だ。始まるとしたらそれは『恋』じゃなく『変』だろう。
さらにこの世界の女性より背の低い男がラッキースケベとか、……無理だろう。
ついでに『全属性魔法』も無理だ。(魔力が殆どない)


この世界は余りに異世界転移者が多いことから異世界転移者と思われる者を見つけたら中央の魔術院へ連れて来ることが決まっている。
場合によっては情報のみのがなされるが、その場合は騎士師団が迎えに行くことになっている。
とはいえ、基本的にはギルドに届けられ流通の荷車に乗って魔術院へ連れてこられる。
誰も言葉が通じないような面倒な者を抱えたくはないからか、労せずして異世界転移者は魔術院に集められる。
そして集められた異世界転移者は翻訳の魔法をかけられ早期帰還を求められる。
帰れる最大座標は転移した地点から三日前の本人。
それよりも過去に帰すことはできないが、三日以内なら元の世界に不都合がないよう過去の本人に重なるよう帰還が可能だ。

ただこの術式。一つだけ最大の問題がある。
『異世界転移者本人が「帰りたい」と望むこと』が大前提であり、最大の因子ファクターなのだ。


「ですから、今は異世界人を必要としていないので帰ってください」
「そんなこと言って、呼ばれたからには意味があるんでしょ?」
「そうそう。伝説の勇者とか」
「この世界の謎を解明してみせます」

「全て無いから帰れ――っっ!!」






「で~、今日きょ~も帰らなかった~……と」
夕食後の食堂でぐったりしていれば同期がのんびりと声をかけてくる。
「……ああ。何で帰らないんだろうな」
普通、帰りたいモノだろ?
今まで居た場所から突然切り離され、全然知らない世界に放り込まれる。
今までの実績も過去もすべて奪われ。
築いた地位も全て失う――。

過去の転移者は召喚したこの世界を恨んで呪ったなんて話もあると言うのに……。

異世界転移者お守管理責任者とか、絶対に割りに合わない。


そうため息を呑み込んでいれば

コンっ。

テーブルの端をノックするように四人目が存在をアピールした。


「ああ、何?翻訳?」
どうせもう夜なのだから、朝にでも言えば良いものを――
異世界人には時間も何も関係ないのか。
異世界人に使う気なんて物はうに失せた。
人によって効果時間の変わる翻訳魔法。
それを当然のようにける異世界人。

言葉が通じないのは辛いだろうと、
最初は『親切』
――次いで『贖罪しょくざい
いつしか翻訳魔法コレは『義務』――。

面倒だという気持ちを隠しもしない視線で四人目を見る。

取り繕う気持ちも失せ、ため息しか出ない。

翻訳魔法なんて使っても、めったに喋らない四人目。
その四人目が私を見て口を開く――




「俺は魔王になろうと思う」







は――――!?


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