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第2章『悪夢の王国と孤独な魔法使い』編
第50話『出会い/Witch Girl』
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青年たちに連れられ、彼らのアジトがあるという路地裏の最深部へやってきたエレリアたち。
すると突如、人が殴られたような打撃音が響き渡り、慌てて振り返るとそこには苦しそうに頬を押さえ倒れ込んでいるソウヤの姿があった。
「え?」
正直、何が起こったのかその場ですぐ理解することができなかった。なぜ、ソウヤは味方であるはずの青年に殴られなければならないのだ。
その瞬間、突然背後から何者かによって強く抱き寄せられ、エレリアの喉元に冷たいナイフの刃が押しつけられた。
「……おっと、死にたくなかったら動かないでね、エレリアちゃん」
耳元で低く囁かれた、狂気を宿していながらも、どこか軽快で調子の良い聞き馴染みのある声。
そう、それはなんとあろうことか、あの青年レッドの声だった。
「な、なんで……?」
あまりに突発的すぎる出来事に、一気に背筋が凍りついた。
うまく思考が定まらない。
ほんの数分前まで、彼らのことを信じていたのに。ようやく、彼らの事を仲間だと認めてあげることができたのに。
今、自分はそんな味方になってくれたはずの青年から脅迫を受けている。ナイフの刃はエレリアの白い素肌に食い込み、少しでも首を動かせば鋭く切り裂かれてしまいそうなほどだった。
「そうだ、ミサは……!?」
と、ここでエレリアは慌ててミサの方へ視線をやった。もし彼女がかろうじて動くことができる立場であれば、まだ十分に反撃の余地はある。そこから、隙を突いて、背中に提げている剣さえ抜ければ……。
しかし、そんなエレリアの期待も虚しく、ミサも同じように青年イエローの手によって捕虜の身となってしまっていた。短剣を突きつけられ、彼女も何が起こっているのかまだ分かっていない様子だった。
「なんてことするの!? レッドさん!」
「はは、ここに来るまで、君たちがいい子で助かったよ。おかげで早く片付きそうだ」
ミサの悲痛な叫びに、レッドは少しも心を痛めている様子などなく、悪に染まった醜い微笑みを見せていた。その顔は狂気で歪んでおり、それまでの心優しい清潔感に溢れた彼の名残は少しも残っていなかった。
これこそが、青年たちの本性だったのだ。
エレリアたちは純粋な良心に漬け込まれ、まんまと彼らの策略にハマってしまったのだった。
「最初から、俺たちをここへ連れてくるのが目的たったのかッ……!」
「あぁ、そうさ! ギルドで暇つぶししてたら、ちょうど君たちを見つけてね。僕たちからしたら格好のカモだったわけさ。あっ、ただ、僕たちが欲しいのはエレリアちゃんとミサちゃんであって、君みたいな男はいらないんだけどね」
「けっ! 野郎は引っ込んでな!」
すると、先の一撃を喰らって地面に倒れ込こんでいるソウヤの頬を、なんとブルーは微塵も躊躇することなく思いっきり蹴り飛ばした。
「うぐぅッ!」
「やめてぇ!!」
まるで道端に落ちているゴミのような扱いで、強烈な蹴りを入れられたソウヤに、ミサは涙を浮かべながら叫んだ。
しかし、すぐさまイエローはミサの顎を掴み、彼女の顔を無理矢理に自分に向かわせた。
「そんなことより、ミサちゃん。俺と楽しいことしようぜ……」
「いや……!!」
「ミサ!」
「あ、もちろん、分かってると思うけど、余計なマネはしないほうがいいよ? もし少しでも反抗的な態度を見せたら、……エレリアちゃんなら分かるよね?」
エレリアもすぐさま彼女のもとに駆け出したかったが、レッドの手によって完全に身動きを封じ込まれている上、首元のナイフのせいで思うように動けなかった。
このナイフさえなければ、今すぐ剣で抵抗できるのに。もし彼がその気になってナイフの刃を滑らせたらと思うと、死への恐怖が全身を硬直させ、エレリアの行動を制止させるのだった。
するとその時、エレリアはいきなり膝裏に軽い衝撃を喰らい、そのまま体勢を崩されてしまった。
「うぁ!!」
そして、尻もちをついて仰向けに倒れ込んでしまったエレリアの体を押さえ込むように、レッドが馬乗りになってきた。
「じゃあ、僕たちも始めよっか」
「こ、このっ!!」
「レッドさん、ちゃんと俺の分も残しといてくださいよ!」
エレリアは自分が出せる精一杯の筋力で抵抗したが、いくら力で押し返そうとしても青年のパワーには敵わなかった。少女と青年とでは力に差がありすぎた。
いよいよ、マズいことになった。
何より、一方的に彼の思うがままにされている自分が、何よりも惨めで悔しかった。一体、自分はこれから何をされるのか。
ここは、大声を出して助けを呼ぶしかない。しかし、こんな場所で誰が助けに来てくれるのだろう。青年たちがあえて路地裏の人目につかない場所に自分たちを連れてきたのは、これを見込んでのことだったのか。
その時、エレリアはひらめいた。
「そうだ! 聖域は……!?」
自分には、命の危険が迫ったときに発動する神聖なるバリアがあったじゃないか。
現に、メノーがコックル村を襲いに来たとき、聖域は奴の恐ろしい攻撃からエレリアを守ってくれたのだ。きっと、今にも光の壁が彼を吹き飛ばしてくれるはず。
エレリアは祈るように強く目を閉じ、精神を集中させた。必ずしもこれで聖域が張られるわけではないが、とにかく強く深く祈り続けた。
「……。……あ、あれ? なんで?」
しかし、いくら願っても、あの光の壁が現れる気配はなかった。
なぜだ! 自分が命の危機に瀕した時に現れるのではないのか!?
エレリアは次第に焦りながらも、目の前に透明な壁を張るイメージでひたすらに強く思いを込めた。だが、それでもやはり結果は変わらず、ただ虚しさと絶望感だけが胸中に残ったのだった。
「大丈夫、怖がらないで、エレリアちゃん。僕が優しく、痛くないようにしてあげるから」
「や、やめろっ……!!」
すると、レッドはエレリアの衣服を掴み、なんとそれを剥がそうとしてきた。もちろん、全力で抵抗したが、青年の圧倒的な力を前に、無様にも衣服の胸元を引き裂かれそうになっていた。
まさに、小兎の肉を喰らわんばかりに飛びついている猛獣そのものだ。
「……ぉ、……おまえら!! エレリアたちに手ぇ出すんじゃねぇッ……!!」
「あぁ? まだ、息してやがったか」
そんな中、先ほど顔を蹴り飛ばされたソウヤが朦朧とした意識の中、残された力を振り絞って、よろよろと立ち上がろうとしていた。
そうだ、まだソウヤは動けるのだ。まだ、勝機はある……。
しかし、余裕な表情のブルーはやや煽り気味にソウヤに近寄ると、愉快そうな笑顔のまま彼の腹に深く蹴りを入れた。
「うぅッ!!」
「レッドさん、コイツのこと、どうします?」
「そうだね~。無駄に生かしててもあれだから……。まぁ、どうせ少年くんは不要だから、あの世に送っちゃおっか」
「おっ、それ、いいですね!」
レッドから提案を受けると、ブルーは腰に提げていた鋭利な短剣を手にした。
まさか、彼らはソウヤを殺そうとしているのか。
「お願い、レッドさん! それだけは止めて!」
「ん? ミサちゃんに言われたら弱いなぁ。けど、君たちは殺さないであげるから、安心してね」
ミサは泣き叫びながら、レッドに今すぐブルーの行動を止めさせるよう懇願したが、彼は一向に聞く耳を持っていないようだった。
その間も、ブルーはソウヤが満身創痍で動けないでいるのをいいことに、倒れ込んでいる彼の顔を覗き込むように口を開いた。
「最後に言い残すことはある?」
「……」
だが哀れなことに、もはやソウヤは虫の息で、言葉になっていない吐息を漏らすことぐらいしか術がなかった。
「ふふ。それじゃ、バイバ~イ、少年くん」
「……っ!?」
「いやァ!!! やめてェ!!!」
今にも喉仏が割けんばかりに、ミサは目を見開いて絶叫した。
ダメだ! 目の前で人が殺される! ソウヤが殺されてしまう!
だが レッドの手によって完全に動きを封じ込められているせいで、どうあがいても彼を助けることができない。エレリアは呼吸することすら忘れ、ひたすらに何者でもない誰かに強く祈り続けた。
お願い! 誰でもいい! 誰でもいいから、彼を助けて!
ソウヤを助けてっ!!
そして、ブルーが微笑をこぼしながら、手に持った短剣をソウヤの腹めがけて突き刺そうとした。
まさに、その時だった。
「ボーマッ!!」
突如、路地裏に聞き慣れない少女の勇敢な声が響き渡った。
その瞬間、この場にいた誰もが驚きのあまり目を見開き、それと同時に目にも留まらぬ速さで何かが壁に吹き飛ばされ激しい衝撃音と共に土埃が舞った。
何だ。何が起こったのだ。
この時のエレリアはあまりに突然すぎる出来事に、思考が追いつかなかった。
すると、路地裏の壁際からうめき声が聞こえてきた。
何事かと誰もが視線をやると、そこにはなんと、先ほどソウヤを殺そうとしたあのブルーの姿があった。
まさか、先ほど吹き飛ばされた謎の物体は、彼だったというのか。
「ブ、ブルー!? おまえ……!?」
エレリアたちはともかく、誰よりも驚いていたのはレッドとイエローだった。
数秒前まで愉快そうに殺害を行おうとしていた彼が、今や見るも無惨に口から泡を吹いて昏倒してしまっている。
もはや、何者かがブルーに危害を加えたのは、明らかだった。
「誰だッ!?」
エレリアの身体を弄ぼうとしていた本来の目的をも忘れ、レッドは怒りのあまり彼女の身体から立ち上がり叫んだ。
レッドの怒りに燃える視線の先、そこには、なんと一人の見知らぬ少女が立っていた。
年は見たところ、エレリアと同じぐらいだろうか。艶やかな若草色のくせっ毛に、右手には武器らしき杖を持った謎の少女。
青年たちに対し勇ましく佇む彼女の姿は、まさに暗闇に放たれた希望の光のようで、何か意を決したような表情で鋭く青年を見つめていた。
「……おや、誰かと思いきや可愛いお嬢ちゃんじゃないか。君がやったんだね……? 危ないじゃないか」
すると、激怒していたはずのレッドはひたすらに湧き上がる怒りを抑えているのか、改めて紳士的な態度で笑みをこぼしながら少女に近づこうとした。
だが、そんな上辺だけの優しい表情で詰め寄る青年に対し、少女は一切彼に口を開こうとせず、ひたすら強く杖を持ったまま、鋭利な眼差しを向けていた。
彼女は一体、何者なのだ。ギルドにいた時はこの青年たちがいわば助太刀してくれたわけだが、果たして彼女は味方なのか、敵なのか。
その時、エレリアの目線から彼が背後に隠し持っている剣に手を触れるのが見て取れた。
「はっ!? 危ないっ!!」
「……!?」
名前も知らないその少女にエレリアが反射的に警告を叫んだと同時に、レッドはこちらの思惑通り剣を握ると、目の前の少女に向かって切りかかろうとした。
「ははは、よくも僕たちの仲間をやってくれたねぇ……! お返しに、真っ二つに切り刻んであげるよッ!!」
まさかの意表を突いた鮮やかな奇襲攻撃。
しかし、少女はとっさの反応で、器用に杖を両手で持ち替え、彼の攻撃を見事に受け止めた。
「ぐぬぬ……!!」
意外にも素早く反応した少女の抵抗に、レッドはじれったそうに声を漏らした。
ジリジリと激しくにらみ合い、お互いに膠着状態が続く。
ただ、剣の刃は徐々に少女の持っている細い木製の杖に深くめり込まれていき、どちらが優勢かは見れば明白だった。
杖と剣。近距離で張り合っているこの状況だと、圧倒的に青年の方に勝機があるだろう。
しかし、先に動いたのは少女の方だった。
受け止めている彼の攻撃をあえて少し受け流し、彼の体勢を見事に崩したのだった。少女に向かって全体重を傾けていたレッドは、行き場がなくなり倒れる棒のように、呆気なくバランスを失ったのだった。
「何っ!?」
「すごい!!」
そして、思わずよろめいた青年が隙を見せた瞬間、少女はその体格に見合わない大胆な体当たりを全力でレッドに喰らわせてみせた。
もろに少女から突き飛ばされた青年は激しく壁に激突。
そのまま間髪入れず、少女は手にした杖の先端をレッドの頭部めがけて勢いよく振り下ろした。
「アガッ……!?」
大打撃によって、脳内の意識ごと吹き飛ばされたレッドは何が起こったのか理解することもできぬまま、そのまま豪快に倒れ込み、眠りにつくかの如く強制的に沈黙させられた。
「つ、強い……!」
目の前で剣を持ったレッドからあれほど詰め寄られた状態で、少女はたった杖一本で見事に戦況を逆転させ、すでに青年2人を黙らすことに成功した。
だが、エレリアには彼女の目的が分からなかった。道すがら襲われているエレリアたちを見かけ、見過ごすことができなかったのか。だが、こんな路地裏の奥深くにたった一人の少女がうろついているのも不自然だ。
「ぐっ……!!」
仲間の中で、最後に残されたのはイエローだけだった。他の2人は完全にノックアウトされ、白目を剥いたまましばらく目を覚ましそうにない。
「このガキがッ……! 調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
すると、態度を豹変させたイエローは、背後から抱き寄せていたミサを乱暴に突き飛ばすと、謎の少女に近づき、一瞬だけ怪しい笑みをこぼした。
「へへへ……! これでも喰ラエッ!!」
そう叫ぶと、イエローは突然どこからともなく手のひらサイズの爆弾らしき物体を取り出し、勢いよく少女に投げつけた。
すると、投げられた球体から濃い煙が一気に吹き出し、瞬く間に少女を包み込んた。
「ゔぅッ……!?」
さすがの少女も不意を突くイエローの攻撃を避けきることができず、謎の煙を正面から浴びてしまい、思わず顔を両手で覆い、苦しそうに地面にうずくまった。
「ヘへ、特製の催涙爆弾だ!! そこで、くたばってろ!」
そして、イエローは吐き捨てるかのようにそう叫ぶと、倒れている仲間たちを見捨てるのか、一人だけ逃げようと駆け出した
だが、エレリアは見逃さなかった。
もはや背中に提げた剣を抜く時間はない。エレリアは逃亡を図ろうとしている彼のそばへ詰め寄ると、これまで受けた辱めに対する怒りも込めて強烈な蹴り攻撃を奴の急所に埋め込んでやった。
「オォヴッ……!!?」
「リアちゃん! ナイス!!」
聞いたこともないような悲鳴と共に、イエローは股間を押さえ悶え苦しんでいた。どれほどの激痛なのかエレリアには分からなかったが、通常の何倍ものダメージを与えられたはずだ。
あとは、とどめをさすだけ……。
すると、イエローの催涙爆弾を受けて怯んでいたはずの少女が目を赤くしながら立ち上がり、震える手で杖を手に持つと、こう叫んだ。
「ボーマ!!」
魔法名らしき単語を詠唱するや否や、鮮やかに杖先に熱く燃える火球が生み出さた。それは、かつて村でミサがたどたどしい風の魔法を披露してくれた時より遥かに洗練された動きで、初めて見る火の魔法はとても美しく、エレリアは思わず鳥肌が立ってしまった。
そして、少女の手によって生み出された火球は、一直線にイエローに向かって牙を向き、そのまま彼を吹き飛ばし、完全に撃沈させた。
「ほら、逃げるわよっ!」
すると、謎の少女はこのとき初めてエレリアたちに口を開いた。
そして、彼女に連れられるがまま、なんとか傷だらけのソウヤも立ち上がり、気絶した青年たちを背にエレリアたちはその場から急いで走り去った。
すると突如、人が殴られたような打撃音が響き渡り、慌てて振り返るとそこには苦しそうに頬を押さえ倒れ込んでいるソウヤの姿があった。
「え?」
正直、何が起こったのかその場ですぐ理解することができなかった。なぜ、ソウヤは味方であるはずの青年に殴られなければならないのだ。
その瞬間、突然背後から何者かによって強く抱き寄せられ、エレリアの喉元に冷たいナイフの刃が押しつけられた。
「……おっと、死にたくなかったら動かないでね、エレリアちゃん」
耳元で低く囁かれた、狂気を宿していながらも、どこか軽快で調子の良い聞き馴染みのある声。
そう、それはなんとあろうことか、あの青年レッドの声だった。
「な、なんで……?」
あまりに突発的すぎる出来事に、一気に背筋が凍りついた。
うまく思考が定まらない。
ほんの数分前まで、彼らのことを信じていたのに。ようやく、彼らの事を仲間だと認めてあげることができたのに。
今、自分はそんな味方になってくれたはずの青年から脅迫を受けている。ナイフの刃はエレリアの白い素肌に食い込み、少しでも首を動かせば鋭く切り裂かれてしまいそうなほどだった。
「そうだ、ミサは……!?」
と、ここでエレリアは慌ててミサの方へ視線をやった。もし彼女がかろうじて動くことができる立場であれば、まだ十分に反撃の余地はある。そこから、隙を突いて、背中に提げている剣さえ抜ければ……。
しかし、そんなエレリアの期待も虚しく、ミサも同じように青年イエローの手によって捕虜の身となってしまっていた。短剣を突きつけられ、彼女も何が起こっているのかまだ分かっていない様子だった。
「なんてことするの!? レッドさん!」
「はは、ここに来るまで、君たちがいい子で助かったよ。おかげで早く片付きそうだ」
ミサの悲痛な叫びに、レッドは少しも心を痛めている様子などなく、悪に染まった醜い微笑みを見せていた。その顔は狂気で歪んでおり、それまでの心優しい清潔感に溢れた彼の名残は少しも残っていなかった。
これこそが、青年たちの本性だったのだ。
エレリアたちは純粋な良心に漬け込まれ、まんまと彼らの策略にハマってしまったのだった。
「最初から、俺たちをここへ連れてくるのが目的たったのかッ……!」
「あぁ、そうさ! ギルドで暇つぶししてたら、ちょうど君たちを見つけてね。僕たちからしたら格好のカモだったわけさ。あっ、ただ、僕たちが欲しいのはエレリアちゃんとミサちゃんであって、君みたいな男はいらないんだけどね」
「けっ! 野郎は引っ込んでな!」
すると、先の一撃を喰らって地面に倒れ込こんでいるソウヤの頬を、なんとブルーは微塵も躊躇することなく思いっきり蹴り飛ばした。
「うぐぅッ!」
「やめてぇ!!」
まるで道端に落ちているゴミのような扱いで、強烈な蹴りを入れられたソウヤに、ミサは涙を浮かべながら叫んだ。
しかし、すぐさまイエローはミサの顎を掴み、彼女の顔を無理矢理に自分に向かわせた。
「そんなことより、ミサちゃん。俺と楽しいことしようぜ……」
「いや……!!」
「ミサ!」
「あ、もちろん、分かってると思うけど、余計なマネはしないほうがいいよ? もし少しでも反抗的な態度を見せたら、……エレリアちゃんなら分かるよね?」
エレリアもすぐさま彼女のもとに駆け出したかったが、レッドの手によって完全に身動きを封じ込まれている上、首元のナイフのせいで思うように動けなかった。
このナイフさえなければ、今すぐ剣で抵抗できるのに。もし彼がその気になってナイフの刃を滑らせたらと思うと、死への恐怖が全身を硬直させ、エレリアの行動を制止させるのだった。
するとその時、エレリアはいきなり膝裏に軽い衝撃を喰らい、そのまま体勢を崩されてしまった。
「うぁ!!」
そして、尻もちをついて仰向けに倒れ込んでしまったエレリアの体を押さえ込むように、レッドが馬乗りになってきた。
「じゃあ、僕たちも始めよっか」
「こ、このっ!!」
「レッドさん、ちゃんと俺の分も残しといてくださいよ!」
エレリアは自分が出せる精一杯の筋力で抵抗したが、いくら力で押し返そうとしても青年のパワーには敵わなかった。少女と青年とでは力に差がありすぎた。
いよいよ、マズいことになった。
何より、一方的に彼の思うがままにされている自分が、何よりも惨めで悔しかった。一体、自分はこれから何をされるのか。
ここは、大声を出して助けを呼ぶしかない。しかし、こんな場所で誰が助けに来てくれるのだろう。青年たちがあえて路地裏の人目につかない場所に自分たちを連れてきたのは、これを見込んでのことだったのか。
その時、エレリアはひらめいた。
「そうだ! 聖域は……!?」
自分には、命の危険が迫ったときに発動する神聖なるバリアがあったじゃないか。
現に、メノーがコックル村を襲いに来たとき、聖域は奴の恐ろしい攻撃からエレリアを守ってくれたのだ。きっと、今にも光の壁が彼を吹き飛ばしてくれるはず。
エレリアは祈るように強く目を閉じ、精神を集中させた。必ずしもこれで聖域が張られるわけではないが、とにかく強く深く祈り続けた。
「……。……あ、あれ? なんで?」
しかし、いくら願っても、あの光の壁が現れる気配はなかった。
なぜだ! 自分が命の危機に瀕した時に現れるのではないのか!?
エレリアは次第に焦りながらも、目の前に透明な壁を張るイメージでひたすらに強く思いを込めた。だが、それでもやはり結果は変わらず、ただ虚しさと絶望感だけが胸中に残ったのだった。
「大丈夫、怖がらないで、エレリアちゃん。僕が優しく、痛くないようにしてあげるから」
「や、やめろっ……!!」
すると、レッドはエレリアの衣服を掴み、なんとそれを剥がそうとしてきた。もちろん、全力で抵抗したが、青年の圧倒的な力を前に、無様にも衣服の胸元を引き裂かれそうになっていた。
まさに、小兎の肉を喰らわんばかりに飛びついている猛獣そのものだ。
「……ぉ、……おまえら!! エレリアたちに手ぇ出すんじゃねぇッ……!!」
「あぁ? まだ、息してやがったか」
そんな中、先ほど顔を蹴り飛ばされたソウヤが朦朧とした意識の中、残された力を振り絞って、よろよろと立ち上がろうとしていた。
そうだ、まだソウヤは動けるのだ。まだ、勝機はある……。
しかし、余裕な表情のブルーはやや煽り気味にソウヤに近寄ると、愉快そうな笑顔のまま彼の腹に深く蹴りを入れた。
「うぅッ!!」
「レッドさん、コイツのこと、どうします?」
「そうだね~。無駄に生かしててもあれだから……。まぁ、どうせ少年くんは不要だから、あの世に送っちゃおっか」
「おっ、それ、いいですね!」
レッドから提案を受けると、ブルーは腰に提げていた鋭利な短剣を手にした。
まさか、彼らはソウヤを殺そうとしているのか。
「お願い、レッドさん! それだけは止めて!」
「ん? ミサちゃんに言われたら弱いなぁ。けど、君たちは殺さないであげるから、安心してね」
ミサは泣き叫びながら、レッドに今すぐブルーの行動を止めさせるよう懇願したが、彼は一向に聞く耳を持っていないようだった。
その間も、ブルーはソウヤが満身創痍で動けないでいるのをいいことに、倒れ込んでいる彼の顔を覗き込むように口を開いた。
「最後に言い残すことはある?」
「……」
だが哀れなことに、もはやソウヤは虫の息で、言葉になっていない吐息を漏らすことぐらいしか術がなかった。
「ふふ。それじゃ、バイバ~イ、少年くん」
「……っ!?」
「いやァ!!! やめてェ!!!」
今にも喉仏が割けんばかりに、ミサは目を見開いて絶叫した。
ダメだ! 目の前で人が殺される! ソウヤが殺されてしまう!
だが レッドの手によって完全に動きを封じ込められているせいで、どうあがいても彼を助けることができない。エレリアは呼吸することすら忘れ、ひたすらに何者でもない誰かに強く祈り続けた。
お願い! 誰でもいい! 誰でもいいから、彼を助けて!
ソウヤを助けてっ!!
そして、ブルーが微笑をこぼしながら、手に持った短剣をソウヤの腹めがけて突き刺そうとした。
まさに、その時だった。
「ボーマッ!!」
突如、路地裏に聞き慣れない少女の勇敢な声が響き渡った。
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何だ。何が起こったのだ。
この時のエレリアはあまりに突然すぎる出来事に、思考が追いつかなかった。
すると、路地裏の壁際からうめき声が聞こえてきた。
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まさか、先ほど吹き飛ばされた謎の物体は、彼だったというのか。
「ブ、ブルー!? おまえ……!?」
エレリアたちはともかく、誰よりも驚いていたのはレッドとイエローだった。
数秒前まで愉快そうに殺害を行おうとしていた彼が、今や見るも無惨に口から泡を吹いて昏倒してしまっている。
もはや、何者かがブルーに危害を加えたのは、明らかだった。
「誰だッ!?」
エレリアの身体を弄ぼうとしていた本来の目的をも忘れ、レッドは怒りのあまり彼女の身体から立ち上がり叫んだ。
レッドの怒りに燃える視線の先、そこには、なんと一人の見知らぬ少女が立っていた。
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青年たちに対し勇ましく佇む彼女の姿は、まさに暗闇に放たれた希望の光のようで、何か意を決したような表情で鋭く青年を見つめていた。
「……おや、誰かと思いきや可愛いお嬢ちゃんじゃないか。君がやったんだね……? 危ないじゃないか」
すると、激怒していたはずのレッドはひたすらに湧き上がる怒りを抑えているのか、改めて紳士的な態度で笑みをこぼしながら少女に近づこうとした。
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「……!?」
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しかし、少女はとっさの反応で、器用に杖を両手で持ち替え、彼の攻撃を見事に受け止めた。
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ただ、剣の刃は徐々に少女の持っている細い木製の杖に深くめり込まれていき、どちらが優勢かは見れば明白だった。
杖と剣。近距離で張り合っているこの状況だと、圧倒的に青年の方に勝機があるだろう。
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「すごい!!」
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「ぐっ……!!」
仲間の中で、最後に残されたのはイエローだけだった。他の2人は完全にノックアウトされ、白目を剥いたまましばらく目を覚ましそうにない。
「このガキがッ……! 調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
すると、態度を豹変させたイエローは、背後から抱き寄せていたミサを乱暴に突き飛ばすと、謎の少女に近づき、一瞬だけ怪しい笑みをこぼした。
「へへへ……! これでも喰ラエッ!!」
そう叫ぶと、イエローは突然どこからともなく手のひらサイズの爆弾らしき物体を取り出し、勢いよく少女に投げつけた。
すると、投げられた球体から濃い煙が一気に吹き出し、瞬く間に少女を包み込んた。
「ゔぅッ……!?」
さすがの少女も不意を突くイエローの攻撃を避けきることができず、謎の煙を正面から浴びてしまい、思わず顔を両手で覆い、苦しそうに地面にうずくまった。
「ヘへ、特製の催涙爆弾だ!! そこで、くたばってろ!」
そして、イエローは吐き捨てるかのようにそう叫ぶと、倒れている仲間たちを見捨てるのか、一人だけ逃げようと駆け出した
だが、エレリアは見逃さなかった。
もはや背中に提げた剣を抜く時間はない。エレリアは逃亡を図ろうとしている彼のそばへ詰め寄ると、これまで受けた辱めに対する怒りも込めて強烈な蹴り攻撃を奴の急所に埋め込んでやった。
「オォヴッ……!!?」
「リアちゃん! ナイス!!」
聞いたこともないような悲鳴と共に、イエローは股間を押さえ悶え苦しんでいた。どれほどの激痛なのかエレリアには分からなかったが、通常の何倍ものダメージを与えられたはずだ。
あとは、とどめをさすだけ……。
すると、イエローの催涙爆弾を受けて怯んでいたはずの少女が目を赤くしながら立ち上がり、震える手で杖を手に持つと、こう叫んだ。
「ボーマ!!」
魔法名らしき単語を詠唱するや否や、鮮やかに杖先に熱く燃える火球が生み出さた。それは、かつて村でミサがたどたどしい風の魔法を披露してくれた時より遥かに洗練された動きで、初めて見る火の魔法はとても美しく、エレリアは思わず鳥肌が立ってしまった。
そして、少女の手によって生み出された火球は、一直線にイエローに向かって牙を向き、そのまま彼を吹き飛ばし、完全に撃沈させた。
「ほら、逃げるわよっ!」
すると、謎の少女はこのとき初めてエレリアたちに口を開いた。
そして、彼女に連れられるがまま、なんとか傷だらけのソウヤも立ち上がり、気絶した青年たちを背にエレリアたちはその場から急いで走り去った。
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レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
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お知らせ
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注意
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