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第三章
11 あの人は今
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ボクこと椿木紫水は今、スタグハッシュの南にある小さな港町にいる。
港町の冒険者ギルドでしれっと冒険者登録をし、正式な冒険者としてクエストをこなす日々を送っている。
転移魔法を覚えたお陰で、城から徒歩で二日もかかる港町への往復が一瞬で済むからこそできる芸当だ。
スタグハッシュの城は今、不気味なほど静かだ。
召喚されたときから勇者の再来ともてはやされていた不東が、死刑囚や兵士をレベリング目的で殺した挙げ句、ボクにあっさり打ちのめされてから部屋に引きこもりっぱなしなことも、城が静かな要因のひとつである。
日に三度運ばれる食事の内容に文句を言う程度には元気はあるようだから、どうせまた女を連れ込んで拗ねているフリをしているだけだろう。
亜院は相変わらず、一日に一度、誰かに一定の魔力をもらわないと寝たきり状態で、物理的に音を立てたくてもできない。
魔力供給係はボクが土之井と交代した。思い出したくない強制レベリングのお陰で魔力量が大幅に増えたから、ボクが適任であると主張した。
なのに、土之井は嬉しくなさそうだった。
「確かに理に適っているが……。じゃあ、任せた」
渋々了承した後、土之井まで部屋に引きこもりを開始した。
不東との違いは、食事以外に書物の類も集められるだけ集めている点だ。
この城、王城のくせに蔵書量が少ない。ボク達が通っていた高校の図書室のほうが、まだ多かったんじゃないだろうか。
土之井は召喚されてから一年近くかけて地道に構築した独自のルートで、城の外の本を集め続けている。
本の内容は色々だ。魔法や魔物について、スキルについて、城や世界の歴史書から政治経済、哲学書などなど。ビブリオマニアかと思うくらい、ジャンルは多岐に渡る。
先日ついに部屋の中に本を置くスペースがなくなったとかで、土之井的に重要度の低い本は城の書架へ運び出していた。
書架に余裕はあるのに城に本が少ない。
この城は、そもそも何かがおかしい。
ボクが気付くくらいだから、土之井はとっくに気付いていたのだろう。
しかし土之井はボクに何も教えてくれなかった。
ある日、クエストに手こずって城を一晩空けてしまった。
早朝に転移魔法でこっそり帰ったが、誰にも咎められなかった。
それどころか、ボクたち付きの神官であるサガートさえ、ボクが一日城に居なかったことに気付いてすらいなかったのだ。
ボクそんなに存在感ないかなぁと、ちょっと落ち込んだ。
城の食堂で遅い朝食を摂っていると、土之井がボクの隣の椅子に座った。手に持ったトレイにはパンがひとつだけ乗っている。
「昨日はどうした?」
土之井の第一声がこれだ。挨拶も前置きもない。
「城の外でクエスト請けてて……」
事情を話すと、土之井は大きなため息をついた。
「冒険者をするのは構わないが、城を出ようとは思うなよ」
ボクの不在に気付いてもらえたのは正直嬉しかったが、土之井に指図されることじゃない。
「ボクの勝手だろう?」
思わずキツめの口調で言い返した。
「俺が困るんだよっ!」
土之井が立ち上がって大声を出すから、食堂にいた人たちの注目を集めた。
「どうして土之井が困るんだ? ともかく、落ち着けよ」
土之井も自分のしたことに驚いた様子で、小さい声で「すまん」と謝り、座り直した。
「その、何だ。一応心配しているからな」
注目を集めたのが気まずかったのか、土之井は一口も食べていないパンが乗ったままのトレイを返却口へ戻し、食堂から去っていった。
食堂から出た後、亜院のところへ向かった。今日の分の魔力をまだ補給していない。
亜院の部屋の扉をノックしてから入り、いつも通り魔力を分ける。
「すまないな」
「亜院、もう少し魔力渡しても平気か?」
「ん? ああ。だが、渡されても……」
「一日かけて無くなるんだろ? 少しやってみてほしいことがあるんだ」
「魔力を分けてもらっている身だ。おれにできることならなんでもやる」
亜院は暑苦しく返事をしてくれたが、大したことをするわけじゃない。
土之井の半分の魔力で一日保つことと、それ以上渡しても一日で全て無くなるのは証明済みだ。
しかし、更に渡した場合はどうなるかというのは、まだ試していない。
「苦しかったり辛くなったら絶対言えよ」
亜院はこんな状態でも我慢強い。無理をしないと約束させてから、ボクの魔力を八割ほど渡した。
結果、亜院は翌日まで魔力を少しだけ体内に残した。
魔力を八割持っていかれると、流石に冒険者業はできない。主に転移魔法に使う魔力が足りなくなる。
しかし、亜院が復活するかも知れないという可能性は、ボクにとっても良い兆しだ。
十日程毎日、港町へ行くのをやめて亜院に魔力を渡し続けた。
亜院の方は五日目の朝には魔力の補給を五割に減らせる程、魔力が残留するようになった。更に魔力を渡すと、一日の終わりになってもかなりの魔力が残った。
この時点でボクは、亜院を城の外へ誘った。
はじめはボクに遠慮したのか、魔力を譲ってもらってまで、という状態で頑なに断られた。
が、僕も根気よく誘った。城の外で生活してみると、状況が変わるかも知れないと説得した。
更に、サガートに「亜院を治す手がかりがあるかもしれない」と微妙な嘘を言い、当面の間の外泊許可をもぎ取った。
外堀を埋められ、魔力を与えているボクの言うことをこれ以上無視できないと判断した亜院は、ようやく折れた。
転移魔法で自分以外の人間を運ぶのは難しい。いつもの港町まで、乗合馬車を使った。馬車なら半日だ。
「この世界にも海があるのだな」
港町特有の潮の香りを、亜院が感慨深げに深呼吸した。
「米とか味噌とかもあるよ。ボク、ここの食事知ってから城の食事が物足りなくてしょうがない」
「米に味噌だとっ!?」
亜院が食いついたのは、そこだった。最初からこの話で誘えば早かったかもしれない。
和食風のメニューが多くて気に入っているお店に連れていくと、亜院は焼き魚定食を骨まで平らげた。
「懐かしいな。日本に未練はないつもりだったが……」
「わかる」
深く深く頷いた。
亜院を冒険者ギルドへ連れていき、冒険者登録させた。
「そうだ呼び方。ボクのことは『ジスト』って呼んでくれ。亜院も偽名を使ったほうがいい。何がいいかな。紅……赤い宝石に柘榴石ってあったな。『ザクロ』とかどう?」
「何故だ」
「城の連中に知られにくいようにだよ」
「承知した、ジスト。おれのことはザクロでいい」
ボクから魔力を貰っていることに負い目を感じているのか、亜院はボクの言うことを殆ど素直に聞いてくれる。
無事偽名で冒険者登録をした後、パーティ申請の書類を受付さんに提出した。
ボクは現在、冒険者ランクEだ。ランクHからスタートの亜院と組むことに、「推奨できないのですが……」と渋られた。
「コイツは訳あってレベルは低いのですが、何度も魔物と戦ってますし、腕っぷしはボクより強いです」
ボクの魔道士然とした格好と、亜院のゴツい体格を見比べた受付さんは、「そういうことでしたら」と承認してくれた。
「つ……ジスト、おれは以前のようには……」
受付さんから離れた所で、亜院が申し訳無さそうな顔になる。
「これからレベル上げればなんとかなるでしょ」
「そうだろうか」
「ダメでも亜院が気にすることじゃないよ。ボクが一方的に連れてきたんだし」
亜院が立ち止まったので、ボクも立ち止まる。
「? どうした?」
「ジスト、いや椿木。お前、何か変わったな」
「そう? 何か変かな」
「変という意味ではない。わかった、従わせてもらう」
ボクは確かに変わった。自覚がある。ただ、どこがどう変わったのかは、はっきりと言い表せない。
装備や旅の道具を揃えていたら、この日は夜になった。
予め部屋をとってあった宿屋で明日に向けて最終チェックをする。
亜院は剣を手に、あれこれ構えを試していた。
「筋肉が衰えている。長い時間は保たない」
しばらくして、すごく悔しそうに剣を置く。
「ザクロはさ、柔道あるじゃん。剣に拘らなくてよくない?」
「しかし、魔物と直に組み合うのは得策ではないと」
「あの城の奴らの言うことを真に受けるの?」
「!」
ボクのどこがどう変わったかを具体的に表現できないが、何故変わったかは説明できる。
あの城を出て、外の世界を見てからだと考えている。
不東を見る限り、城下町では駄目なのだ。
「でも確かに、魔物と直に触れ合うのは危険かも。体表に毒のあるやつもいるし。明日の朝イチで武器屋へ行こう」
「だが、金はあるのか?」
ダイレクトに聞いちゃうのは亜院らしいし、気にしていたのだろう。
剣は城から持ち出したが、防具や道具を整えるのにはボクがお金を出した。
「サントナって神官がボクらがもらうはずの報酬を横領してた話って誰かに聞いた?」
「横伏に聞いた気がするが、詳しくは知らん」
亜院に、冒険者の本来の報酬額について説明した。
「だから、ボクは小金持ちなんだよ」
ひとりでクエストをこなせば、報酬は独り占めできる。危険度Eのクエストを数十回こなし、魔物の素材も適切に売り払ってきた。
亜院一人分の装備を整え、暫く面倒を見るくらいなら余裕だ。
「なるほど。では、おれもクエストで稼いで返そう」
「へ? いや別に返してもらおうなんて思ってないよ」
「返させてくれ」
頼み込まれた。律儀なやつだなぁ。
翌朝、亜院に今日の分の魔力を渡してから、もう一度武器屋へ行き、色々な武器を試した。
柔道経験者で、接近戦が得意な亜院は長い獲物を選ばなかった。
最終的に装備したのは、ナックルダスターだ。
手指は革手袋で覆い、拳の部分に金属製の篭手を着けた。
身体そのものが武器だから、動きやすいように防具も革製品に替えた。
そして早速、クエストを請けた。危険度はG。メガフナムシという見た目がちょっとゴのつくアレに似た、体長一メートル超えの虫の魔物が相手だ。
亜院に身体強化魔法を掛けると、本当にこの前まで寝たきりだった? と疑問になるくらい機敏な動きで、メガフナムシ達を次々に潰していった。
「レベルが上がった」
「おめでとう」
便利スキル[経験値上昇×10]はもう無いが、ボクと亜院は地道にレベルを上げていった。
港町の冒険者ギルドでしれっと冒険者登録をし、正式な冒険者としてクエストをこなす日々を送っている。
転移魔法を覚えたお陰で、城から徒歩で二日もかかる港町への往復が一瞬で済むからこそできる芸当だ。
スタグハッシュの城は今、不気味なほど静かだ。
召喚されたときから勇者の再来ともてはやされていた不東が、死刑囚や兵士をレベリング目的で殺した挙げ句、ボクにあっさり打ちのめされてから部屋に引きこもりっぱなしなことも、城が静かな要因のひとつである。
日に三度運ばれる食事の内容に文句を言う程度には元気はあるようだから、どうせまた女を連れ込んで拗ねているフリをしているだけだろう。
亜院は相変わらず、一日に一度、誰かに一定の魔力をもらわないと寝たきり状態で、物理的に音を立てたくてもできない。
魔力供給係はボクが土之井と交代した。思い出したくない強制レベリングのお陰で魔力量が大幅に増えたから、ボクが適任であると主張した。
なのに、土之井は嬉しくなさそうだった。
「確かに理に適っているが……。じゃあ、任せた」
渋々了承した後、土之井まで部屋に引きこもりを開始した。
不東との違いは、食事以外に書物の類も集められるだけ集めている点だ。
この城、王城のくせに蔵書量が少ない。ボク達が通っていた高校の図書室のほうが、まだ多かったんじゃないだろうか。
土之井は召喚されてから一年近くかけて地道に構築した独自のルートで、城の外の本を集め続けている。
本の内容は色々だ。魔法や魔物について、スキルについて、城や世界の歴史書から政治経済、哲学書などなど。ビブリオマニアかと思うくらい、ジャンルは多岐に渡る。
先日ついに部屋の中に本を置くスペースがなくなったとかで、土之井的に重要度の低い本は城の書架へ運び出していた。
書架に余裕はあるのに城に本が少ない。
この城は、そもそも何かがおかしい。
ボクが気付くくらいだから、土之井はとっくに気付いていたのだろう。
しかし土之井はボクに何も教えてくれなかった。
ある日、クエストに手こずって城を一晩空けてしまった。
早朝に転移魔法でこっそり帰ったが、誰にも咎められなかった。
それどころか、ボクたち付きの神官であるサガートさえ、ボクが一日城に居なかったことに気付いてすらいなかったのだ。
ボクそんなに存在感ないかなぁと、ちょっと落ち込んだ。
城の食堂で遅い朝食を摂っていると、土之井がボクの隣の椅子に座った。手に持ったトレイにはパンがひとつだけ乗っている。
「昨日はどうした?」
土之井の第一声がこれだ。挨拶も前置きもない。
「城の外でクエスト請けてて……」
事情を話すと、土之井は大きなため息をついた。
「冒険者をするのは構わないが、城を出ようとは思うなよ」
ボクの不在に気付いてもらえたのは正直嬉しかったが、土之井に指図されることじゃない。
「ボクの勝手だろう?」
思わずキツめの口調で言い返した。
「俺が困るんだよっ!」
土之井が立ち上がって大声を出すから、食堂にいた人たちの注目を集めた。
「どうして土之井が困るんだ? ともかく、落ち着けよ」
土之井も自分のしたことに驚いた様子で、小さい声で「すまん」と謝り、座り直した。
「その、何だ。一応心配しているからな」
注目を集めたのが気まずかったのか、土之井は一口も食べていないパンが乗ったままのトレイを返却口へ戻し、食堂から去っていった。
食堂から出た後、亜院のところへ向かった。今日の分の魔力をまだ補給していない。
亜院の部屋の扉をノックしてから入り、いつも通り魔力を分ける。
「すまないな」
「亜院、もう少し魔力渡しても平気か?」
「ん? ああ。だが、渡されても……」
「一日かけて無くなるんだろ? 少しやってみてほしいことがあるんだ」
「魔力を分けてもらっている身だ。おれにできることならなんでもやる」
亜院は暑苦しく返事をしてくれたが、大したことをするわけじゃない。
土之井の半分の魔力で一日保つことと、それ以上渡しても一日で全て無くなるのは証明済みだ。
しかし、更に渡した場合はどうなるかというのは、まだ試していない。
「苦しかったり辛くなったら絶対言えよ」
亜院はこんな状態でも我慢強い。無理をしないと約束させてから、ボクの魔力を八割ほど渡した。
結果、亜院は翌日まで魔力を少しだけ体内に残した。
魔力を八割持っていかれると、流石に冒険者業はできない。主に転移魔法に使う魔力が足りなくなる。
しかし、亜院が復活するかも知れないという可能性は、ボクにとっても良い兆しだ。
十日程毎日、港町へ行くのをやめて亜院に魔力を渡し続けた。
亜院の方は五日目の朝には魔力の補給を五割に減らせる程、魔力が残留するようになった。更に魔力を渡すと、一日の終わりになってもかなりの魔力が残った。
この時点でボクは、亜院を城の外へ誘った。
はじめはボクに遠慮したのか、魔力を譲ってもらってまで、という状態で頑なに断られた。
が、僕も根気よく誘った。城の外で生活してみると、状況が変わるかも知れないと説得した。
更に、サガートに「亜院を治す手がかりがあるかもしれない」と微妙な嘘を言い、当面の間の外泊許可をもぎ取った。
外堀を埋められ、魔力を与えているボクの言うことをこれ以上無視できないと判断した亜院は、ようやく折れた。
転移魔法で自分以外の人間を運ぶのは難しい。いつもの港町まで、乗合馬車を使った。馬車なら半日だ。
「この世界にも海があるのだな」
港町特有の潮の香りを、亜院が感慨深げに深呼吸した。
「米とか味噌とかもあるよ。ボク、ここの食事知ってから城の食事が物足りなくてしょうがない」
「米に味噌だとっ!?」
亜院が食いついたのは、そこだった。最初からこの話で誘えば早かったかもしれない。
和食風のメニューが多くて気に入っているお店に連れていくと、亜院は焼き魚定食を骨まで平らげた。
「懐かしいな。日本に未練はないつもりだったが……」
「わかる」
深く深く頷いた。
亜院を冒険者ギルドへ連れていき、冒険者登録させた。
「そうだ呼び方。ボクのことは『ジスト』って呼んでくれ。亜院も偽名を使ったほうがいい。何がいいかな。紅……赤い宝石に柘榴石ってあったな。『ザクロ』とかどう?」
「何故だ」
「城の連中に知られにくいようにだよ」
「承知した、ジスト。おれのことはザクロでいい」
ボクから魔力を貰っていることに負い目を感じているのか、亜院はボクの言うことを殆ど素直に聞いてくれる。
無事偽名で冒険者登録をした後、パーティ申請の書類を受付さんに提出した。
ボクは現在、冒険者ランクEだ。ランクHからスタートの亜院と組むことに、「推奨できないのですが……」と渋られた。
「コイツは訳あってレベルは低いのですが、何度も魔物と戦ってますし、腕っぷしはボクより強いです」
ボクの魔道士然とした格好と、亜院のゴツい体格を見比べた受付さんは、「そういうことでしたら」と承認してくれた。
「つ……ジスト、おれは以前のようには……」
受付さんから離れた所で、亜院が申し訳無さそうな顔になる。
「これからレベル上げればなんとかなるでしょ」
「そうだろうか」
「ダメでも亜院が気にすることじゃないよ。ボクが一方的に連れてきたんだし」
亜院が立ち止まったので、ボクも立ち止まる。
「? どうした?」
「ジスト、いや椿木。お前、何か変わったな」
「そう? 何か変かな」
「変という意味ではない。わかった、従わせてもらう」
ボクは確かに変わった。自覚がある。ただ、どこがどう変わったのかは、はっきりと言い表せない。
装備や旅の道具を揃えていたら、この日は夜になった。
予め部屋をとってあった宿屋で明日に向けて最終チェックをする。
亜院は剣を手に、あれこれ構えを試していた。
「筋肉が衰えている。長い時間は保たない」
しばらくして、すごく悔しそうに剣を置く。
「ザクロはさ、柔道あるじゃん。剣に拘らなくてよくない?」
「しかし、魔物と直に組み合うのは得策ではないと」
「あの城の奴らの言うことを真に受けるの?」
「!」
ボクのどこがどう変わったかを具体的に表現できないが、何故変わったかは説明できる。
あの城を出て、外の世界を見てからだと考えている。
不東を見る限り、城下町では駄目なのだ。
「でも確かに、魔物と直に触れ合うのは危険かも。体表に毒のあるやつもいるし。明日の朝イチで武器屋へ行こう」
「だが、金はあるのか?」
ダイレクトに聞いちゃうのは亜院らしいし、気にしていたのだろう。
剣は城から持ち出したが、防具や道具を整えるのにはボクがお金を出した。
「サントナって神官がボクらがもらうはずの報酬を横領してた話って誰かに聞いた?」
「横伏に聞いた気がするが、詳しくは知らん」
亜院に、冒険者の本来の報酬額について説明した。
「だから、ボクは小金持ちなんだよ」
ひとりでクエストをこなせば、報酬は独り占めできる。危険度Eのクエストを数十回こなし、魔物の素材も適切に売り払ってきた。
亜院一人分の装備を整え、暫く面倒を見るくらいなら余裕だ。
「なるほど。では、おれもクエストで稼いで返そう」
「へ? いや別に返してもらおうなんて思ってないよ」
「返させてくれ」
頼み込まれた。律儀なやつだなぁ。
翌朝、亜院に今日の分の魔力を渡してから、もう一度武器屋へ行き、色々な武器を試した。
柔道経験者で、接近戦が得意な亜院は長い獲物を選ばなかった。
最終的に装備したのは、ナックルダスターだ。
手指は革手袋で覆い、拳の部分に金属製の篭手を着けた。
身体そのものが武器だから、動きやすいように防具も革製品に替えた。
そして早速、クエストを請けた。危険度はG。メガフナムシという見た目がちょっとゴのつくアレに似た、体長一メートル超えの虫の魔物が相手だ。
亜院に身体強化魔法を掛けると、本当にこの前まで寝たきりだった? と疑問になるくらい機敏な動きで、メガフナムシ達を次々に潰していった。
「レベルが上がった」
「おめでとう」
便利スキル[経験値上昇×10]はもう無いが、ボクと亜院は地道にレベルを上げていった。
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