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第二章
20 瘴気溜まり
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森へ向かいながら、冒険者カードをチェックする。歩きスマホ状態でも[心眼]の効果で転んだり何かにぶつかったりする心配はない。スキルって便利。
「スタグハッシュ城西の森にて、推定『瘴気溜まり』が発生。原因の調査と可能ならば排除、周辺の魔物の討伐を依頼する。詳細な座標は……」
今回はクエストではなく、ギルドからの「指令」だ。クエストとの違いは報酬が時と場合によって変動することと、高危険度のクエストとは別の手強さがあり、ランクA以上の冒険者にのみ依頼されるところだ。
ところで、瘴気溜まりって何だろう。FAQを探すと載っていたので早速読む。
「瘴気溜まりとは、魔物の死骸が放置されることで発生する瘴気が一定以上溜まった状態を指す。魔物の発生率が通常の瘴気に比べ、三倍以上高い」
統括は「これより悪い何か」って言ってたよなぁ。
「ヨイチ」
ヒイロが僕を呼ぶのと、僕が止まるのはほぼ同時だった。
「アレのことか」
「大きいね。瘴気溜まりの枠を超えてる。人為的に作られたものだよ」
通常の瘴気溜まりは、魔物同士の争いにより死骸が溜まってできる。
僕とヒイロの視線の先には、視認できるほど濃くなった瘴気が広範囲に渦巻いている。
周辺には動物はおろか、魔物もいない。瘴気由来の魔物ですら、あの中に入ったらただでは済まないのだろう。
「人為的って、あいつら何をやってるんだ」
どうもスタグハッシュの連中は、魔物の扱いが雑だ。適切に処理すれば有用な資源になるのに、無駄遣いしているというか、消費の仕方を知らないというか。
「大きな建物の地下に繋がってるみたいだね」
「わかるの?」
「うん。においでわかる」
ヒイロが鼻を城のある方へ向かってフンフンと鳴らす。
大きな建物は、城のことだろう。
「殺した魔物を一箇所に集めてる。魔物の死体を動かして、道筋が一番重なっているのがこの場所」
「集めるって……。素材のためにじゃないのだろうな。ってか、においでそこまで解るのか」
頭を撫でて褒めてやりたいが……それどころじゃなさそうだ。
瘴気から生き物の形をした影がゆらゆらと立ち昇り、すぐに物質化した。
形は、これまで倒してきた魔物に似たのや、見たことのないものまで様々だ。
ただし全身真っ黒で、目鼻どころか毛皮や皮膚、生物にあるべきものが一切存在しない。
どこで僕とヒイロの存在を認識しているのか、黒い塊たちは正確に襲いかかってきた。
「ヒキュン!」
ヒイロが口から聖属性の攻撃魔法を放つ。レーザービームのようなそれに触れた黒い塊は、一瞬で蒸発した。
少なくとも魔法は効くようだ。
僕も魔道具の弓に魔力を通し、聖属性で魔法の矢を創り、射る。
矢一本で塊を複数蒸発させ、じりじりと瘴気溜まりに近づく。しかし……。
「酷い臭いだな。ヒイロ、大丈夫か」
「きもちわるいけど平気」
「無理するなよ」
ヒイロは返事の代わりにもう一発ビームを放った。
話している間にも、魔物は次々生まれてくる。
倒しきったと思っても、次の瞬間もう新しいのがいるのだ。
「キリがないな。あの瘴気溜まりに直接浄化魔法撃ったら効く?」
「光属性だと焼け石に水。でもヨイチの聖属性ならたぶん」
「僕のというか、元々ヒイロのでしょ」
「今はもうヨイチのものだよ」
「んー、まあいいか。少し任せるぞ」
再び返事代わりのビーム。黒い魔物の波をヒイロに預けて、僕は魔法で創り出した矢に魔力を目一杯籠める。
瘴気溜まりの中心、[心眼]が急所と見做したその一点に射掛けた。
瘴気は気体のようなものだ。矢は宙に浮いたように刺さった。
「もう少しだ」
「ヒキュン!」
僕と矢が魔力で繋がる。魔力の糸を伝って、聖属性の浄化魔法を瘴気溜まりに送り込んだ。
――――――――――!!
「うわっ」
「ヒキュン!?」
耳を塞ぎたくなるような不快な音が鳴り響く。
瘴気の断末魔にも聞こえるそれは、僕とヒイロに確実にダメージを与えた。
咄嗟に防護結界を張るも、音の前には無意味だった。
「ヒイロっ!」
伏せて前足で耳を抑えているヒイロに、黒い魔物の最後の群れが集る。
魔物を弓矢で蹴散らして、ヒイロを片腕に抱きかかえた。
「ごめん、ヨイチ」
「無理するなって言っただろ」
不快な音は徐々に静まり、黒い魔物も湧かなくなった。
残りを攻撃魔法で倒し、瘴気溜まりが完全に消え去ると、辺りは静寂に包まれた。
「終わったかな」
ヒイロを降ろし、気を緩めた瞬間だった。
突然、黒い影がその場に現れて、声を発した。
「ボクの邪魔をするな」
闇属性の攻撃魔法。避けきれず、左肩が浅く抉れた。
「ヨイチ!」
「っつ……。大丈夫」
ヒイロが僕の前に出て、目の前の人物に唸る。
肩の傷は自分で癒やした。
「椿木……」
久しぶりに見た椿木は顔色が悪く、焦点の合わない虚ろな目をして宙に浮いている。いつも着ているローブはボロボロで、かろうじて身にまとっている状態だ。剥き出しになっている手足はガリガリに痩せていて、血や血以外の何かで薄汚れている。
「ボクのだったのにどうして消した返せ」
放たれる闇魔法は、ヒイロの防護結界に阻まる。鍛え上げたヒイロの防護結界に、徐々に亀裂が入る。
「押される……!」
椿木の闇魔法は槍の形を取り、無尽蔵に思えるほど次々放ってくる。
あいつ、こんなに魔力量多かったか?
[鑑定]すると、レベルは60。加えて、スキル[闇魔法の極意]を習得していた。
[闇魔法の極意]
闇属性魔法に必要な魔力の消費量が大幅に減る
「あいつ、[闇魔法の極意]を持ってる。このままじゃ……」
ヒイロの防護結界に僕の魔力を流してなんとか防いでいる。
「こっちの魔力がなくなっちゃうね」
大ピンチだというのに、ヒイロはどこか他人事だ。
「あいつよりヨイチのほうが強い」
「確かにレベルは僕のほうが上だけど」
チェスタ達とのクエストやギルドの指名依頼で魔物を倒し続けた僕は、現在レベル250だ。
「それだけじゃないよ。大丈夫、浄化してもあいつは消えたり死んだりしないよ」
椿木は瘴気そのものに似た気配を放っている。
だから躊躇していた。
「話を聞きたいもんな。……ヒイロ」
合図と共に、防護結界が解かれる。迫ってくる闇の槍と、その向こうにいる椿木に向かって、浄化魔法の光を送った。
地面にどさりと落ちた椿木は、意識を失っていた。
ヒイロに頼んで聖属性の治癒魔法で体力も回復させる。それでも眠ったままだ。
「身体自体がかなり衰弱してる」
「仕方ない、運ぶか」
ギルドに瘴気溜まりを消したことを伝えると、しばらくその場に待機せよと言われた。
待つこと数分、城の方から人がやってきた。
「よう、ヨイチ」
軽く挨拶をしたのはランクS冒険者のアンドリューだ。同じランクSとして何度か顔を合わせている。
短いシルバーブロンドに碧眼の偉丈夫は、動きやすさに拘った軽量の革鎧に、シンプルすぎて普通のものにしか見えない剣を腰に装備している。ただし剣の重量は普通の五倍はある。それをこの人は片手で簡単に扱うのだ。
「どうしてアンドリューがここに?」
「俺が〝城〟の調査担当なんだよ。ヨイチは何か事情があってスタグハッシュには行けないんだろう?」
魔力溜まりの調査だけなら、アンドリューでも事足りていた。何故僕がと思っていたら、そういうことだったのか。
僕が肯定すると、アンドリューは僕の足元にいる椿木に目を向けた。
「こいつは?」
「重要参考人ってところ」
「ふむ。ヨイチはこいつのことを知っているのか?」
「……うん」
「城の人間か?」
「そうだ」
アンドリューは僕と椿木を交互に見て、ふむふむと頷く。
「こいつの始末はおまえ自身の手でつけたい感じか?」
僕は少し迷った末、「できれば」と答えると、何故かアンドリューが愉快そうに笑い声を上げた。
「もっと我を通せ。誰も文句言わんぞ、ヨイチ」
僕が目を丸くしていると、アンドリューは冒険者カードを取り出し、ギルドと連絡をとった。
瘴気溜まりを消したヨイチに、容疑者の一人の身柄を預けた。処遇はヨイチに一任させろ……アンドリューはそんな話をしていた。
「よし、連れ帰れ。面倒くさくなったらギルドに押し付けろ。俺は城の見張りを継続する」
「ありがとう」
アンドリューは口元を笑みの形に歪めながら、追い払うように手を振った。
椿木を連れて転移魔法で家に帰ると、メイドさん達が大騒ぎになった。
「人良すぎ!」
「放置しとけばよかったのに」
「水だけ与えとけばいいわよね」
「牢を作っておくべきだったわ」
「今からでも整備する?」
「地下を掘削しないと」
「ちょっと落ち着いて。僕の話を少しでいいので聞いて……」
メイドさん達をなんとか宥め、客室に寝かせた椿木の見張りをヒイロに任せて、リビングで話をした。
椿木を許したわけじゃないこと。目の前で死なれたら夢見が悪いからというだけの理由で連れ帰ってきたこと。僕が責任持って面倒をみること。話をつけたら速やかに家から追い出すこと。皆に危害を加えようとしたら速攻対処すること。
「話って何?」
「僕の今回の仕事が、瘴気溜まりの調査だったんだ。原因がひとつがこいつらしいから、詳しい話を聞きたい」
「それってギルドの仕事じゃないの?」
「ちゃんと知りたいんだ」
僕が本気だとわかってくれたらしく、この件はこれ以上追求されなかった。
「面倒を見るのは私がやるわ」
ヒスイの申し出を断ろうとしたら「客室のお客様の面倒を見るのはメイドの仕事です」と押し切られた。彼女たちの押しに勝てた試しがない。
「弱ってるとはいえ、こいつ一応レベル60だから。僕かヒイロが必ず付き添うからね」
「はーい」
僕はチェスタ達とのクエストを取りやめて、椿木についていた。
椿木は丸一日眠り続け、起きてすぐは会話も覚束無い状態だった。
「僕がわかるか?」
「あ……? ここ……?」
スープを手渡し一匙口に流し込むと、すごい勢いでがっついた。
「ゆっくり飲まないと、体に悪いよ」
ヒスイが甲斐甲斐しく世話をしているのを、僕はわけのわからないモヤモヤに苛まれながら見守った。
「スタグハッシュ城西の森にて、推定『瘴気溜まり』が発生。原因の調査と可能ならば排除、周辺の魔物の討伐を依頼する。詳細な座標は……」
今回はクエストではなく、ギルドからの「指令」だ。クエストとの違いは報酬が時と場合によって変動することと、高危険度のクエストとは別の手強さがあり、ランクA以上の冒険者にのみ依頼されるところだ。
ところで、瘴気溜まりって何だろう。FAQを探すと載っていたので早速読む。
「瘴気溜まりとは、魔物の死骸が放置されることで発生する瘴気が一定以上溜まった状態を指す。魔物の発生率が通常の瘴気に比べ、三倍以上高い」
統括は「これより悪い何か」って言ってたよなぁ。
「ヨイチ」
ヒイロが僕を呼ぶのと、僕が止まるのはほぼ同時だった。
「アレのことか」
「大きいね。瘴気溜まりの枠を超えてる。人為的に作られたものだよ」
通常の瘴気溜まりは、魔物同士の争いにより死骸が溜まってできる。
僕とヒイロの視線の先には、視認できるほど濃くなった瘴気が広範囲に渦巻いている。
周辺には動物はおろか、魔物もいない。瘴気由来の魔物ですら、あの中に入ったらただでは済まないのだろう。
「人為的って、あいつら何をやってるんだ」
どうもスタグハッシュの連中は、魔物の扱いが雑だ。適切に処理すれば有用な資源になるのに、無駄遣いしているというか、消費の仕方を知らないというか。
「大きな建物の地下に繋がってるみたいだね」
「わかるの?」
「うん。においでわかる」
ヒイロが鼻を城のある方へ向かってフンフンと鳴らす。
大きな建物は、城のことだろう。
「殺した魔物を一箇所に集めてる。魔物の死体を動かして、道筋が一番重なっているのがこの場所」
「集めるって……。素材のためにじゃないのだろうな。ってか、においでそこまで解るのか」
頭を撫でて褒めてやりたいが……それどころじゃなさそうだ。
瘴気から生き物の形をした影がゆらゆらと立ち昇り、すぐに物質化した。
形は、これまで倒してきた魔物に似たのや、見たことのないものまで様々だ。
ただし全身真っ黒で、目鼻どころか毛皮や皮膚、生物にあるべきものが一切存在しない。
どこで僕とヒイロの存在を認識しているのか、黒い塊たちは正確に襲いかかってきた。
「ヒキュン!」
ヒイロが口から聖属性の攻撃魔法を放つ。レーザービームのようなそれに触れた黒い塊は、一瞬で蒸発した。
少なくとも魔法は効くようだ。
僕も魔道具の弓に魔力を通し、聖属性で魔法の矢を創り、射る。
矢一本で塊を複数蒸発させ、じりじりと瘴気溜まりに近づく。しかし……。
「酷い臭いだな。ヒイロ、大丈夫か」
「きもちわるいけど平気」
「無理するなよ」
ヒイロは返事の代わりにもう一発ビームを放った。
話している間にも、魔物は次々生まれてくる。
倒しきったと思っても、次の瞬間もう新しいのがいるのだ。
「キリがないな。あの瘴気溜まりに直接浄化魔法撃ったら効く?」
「光属性だと焼け石に水。でもヨイチの聖属性ならたぶん」
「僕のというか、元々ヒイロのでしょ」
「今はもうヨイチのものだよ」
「んー、まあいいか。少し任せるぞ」
再び返事代わりのビーム。黒い魔物の波をヒイロに預けて、僕は魔法で創り出した矢に魔力を目一杯籠める。
瘴気溜まりの中心、[心眼]が急所と見做したその一点に射掛けた。
瘴気は気体のようなものだ。矢は宙に浮いたように刺さった。
「もう少しだ」
「ヒキュン!」
僕と矢が魔力で繋がる。魔力の糸を伝って、聖属性の浄化魔法を瘴気溜まりに送り込んだ。
――――――――――!!
「うわっ」
「ヒキュン!?」
耳を塞ぎたくなるような不快な音が鳴り響く。
瘴気の断末魔にも聞こえるそれは、僕とヒイロに確実にダメージを与えた。
咄嗟に防護結界を張るも、音の前には無意味だった。
「ヒイロっ!」
伏せて前足で耳を抑えているヒイロに、黒い魔物の最後の群れが集る。
魔物を弓矢で蹴散らして、ヒイロを片腕に抱きかかえた。
「ごめん、ヨイチ」
「無理するなって言っただろ」
不快な音は徐々に静まり、黒い魔物も湧かなくなった。
残りを攻撃魔法で倒し、瘴気溜まりが完全に消え去ると、辺りは静寂に包まれた。
「終わったかな」
ヒイロを降ろし、気を緩めた瞬間だった。
突然、黒い影がその場に現れて、声を発した。
「ボクの邪魔をするな」
闇属性の攻撃魔法。避けきれず、左肩が浅く抉れた。
「ヨイチ!」
「っつ……。大丈夫」
ヒイロが僕の前に出て、目の前の人物に唸る。
肩の傷は自分で癒やした。
「椿木……」
久しぶりに見た椿木は顔色が悪く、焦点の合わない虚ろな目をして宙に浮いている。いつも着ているローブはボロボロで、かろうじて身にまとっている状態だ。剥き出しになっている手足はガリガリに痩せていて、血や血以外の何かで薄汚れている。
「ボクのだったのにどうして消した返せ」
放たれる闇魔法は、ヒイロの防護結界に阻まる。鍛え上げたヒイロの防護結界に、徐々に亀裂が入る。
「押される……!」
椿木の闇魔法は槍の形を取り、無尽蔵に思えるほど次々放ってくる。
あいつ、こんなに魔力量多かったか?
[鑑定]すると、レベルは60。加えて、スキル[闇魔法の極意]を習得していた。
[闇魔法の極意]
闇属性魔法に必要な魔力の消費量が大幅に減る
「あいつ、[闇魔法の極意]を持ってる。このままじゃ……」
ヒイロの防護結界に僕の魔力を流してなんとか防いでいる。
「こっちの魔力がなくなっちゃうね」
大ピンチだというのに、ヒイロはどこか他人事だ。
「あいつよりヨイチのほうが強い」
「確かにレベルは僕のほうが上だけど」
チェスタ達とのクエストやギルドの指名依頼で魔物を倒し続けた僕は、現在レベル250だ。
「それだけじゃないよ。大丈夫、浄化してもあいつは消えたり死んだりしないよ」
椿木は瘴気そのものに似た気配を放っている。
だから躊躇していた。
「話を聞きたいもんな。……ヒイロ」
合図と共に、防護結界が解かれる。迫ってくる闇の槍と、その向こうにいる椿木に向かって、浄化魔法の光を送った。
地面にどさりと落ちた椿木は、意識を失っていた。
ヒイロに頼んで聖属性の治癒魔法で体力も回復させる。それでも眠ったままだ。
「身体自体がかなり衰弱してる」
「仕方ない、運ぶか」
ギルドに瘴気溜まりを消したことを伝えると、しばらくその場に待機せよと言われた。
待つこと数分、城の方から人がやってきた。
「よう、ヨイチ」
軽く挨拶をしたのはランクS冒険者のアンドリューだ。同じランクSとして何度か顔を合わせている。
短いシルバーブロンドに碧眼の偉丈夫は、動きやすさに拘った軽量の革鎧に、シンプルすぎて普通のものにしか見えない剣を腰に装備している。ただし剣の重量は普通の五倍はある。それをこの人は片手で簡単に扱うのだ。
「どうしてアンドリューがここに?」
「俺が〝城〟の調査担当なんだよ。ヨイチは何か事情があってスタグハッシュには行けないんだろう?」
魔力溜まりの調査だけなら、アンドリューでも事足りていた。何故僕がと思っていたら、そういうことだったのか。
僕が肯定すると、アンドリューは僕の足元にいる椿木に目を向けた。
「こいつは?」
「重要参考人ってところ」
「ふむ。ヨイチはこいつのことを知っているのか?」
「……うん」
「城の人間か?」
「そうだ」
アンドリューは僕と椿木を交互に見て、ふむふむと頷く。
「こいつの始末はおまえ自身の手でつけたい感じか?」
僕は少し迷った末、「できれば」と答えると、何故かアンドリューが愉快そうに笑い声を上げた。
「もっと我を通せ。誰も文句言わんぞ、ヨイチ」
僕が目を丸くしていると、アンドリューは冒険者カードを取り出し、ギルドと連絡をとった。
瘴気溜まりを消したヨイチに、容疑者の一人の身柄を預けた。処遇はヨイチに一任させろ……アンドリューはそんな話をしていた。
「よし、連れ帰れ。面倒くさくなったらギルドに押し付けろ。俺は城の見張りを継続する」
「ありがとう」
アンドリューは口元を笑みの形に歪めながら、追い払うように手を振った。
椿木を連れて転移魔法で家に帰ると、メイドさん達が大騒ぎになった。
「人良すぎ!」
「放置しとけばよかったのに」
「水だけ与えとけばいいわよね」
「牢を作っておくべきだったわ」
「今からでも整備する?」
「地下を掘削しないと」
「ちょっと落ち着いて。僕の話を少しでいいので聞いて……」
メイドさん達をなんとか宥め、客室に寝かせた椿木の見張りをヒイロに任せて、リビングで話をした。
椿木を許したわけじゃないこと。目の前で死なれたら夢見が悪いからというだけの理由で連れ帰ってきたこと。僕が責任持って面倒をみること。話をつけたら速やかに家から追い出すこと。皆に危害を加えようとしたら速攻対処すること。
「話って何?」
「僕の今回の仕事が、瘴気溜まりの調査だったんだ。原因がひとつがこいつらしいから、詳しい話を聞きたい」
「それってギルドの仕事じゃないの?」
「ちゃんと知りたいんだ」
僕が本気だとわかってくれたらしく、この件はこれ以上追求されなかった。
「面倒を見るのは私がやるわ」
ヒスイの申し出を断ろうとしたら「客室のお客様の面倒を見るのはメイドの仕事です」と押し切られた。彼女たちの押しに勝てた試しがない。
「弱ってるとはいえ、こいつ一応レベル60だから。僕かヒイロが必ず付き添うからね」
「はーい」
僕はチェスタ達とのクエストを取りやめて、椿木についていた。
椿木は丸一日眠り続け、起きてすぐは会話も覚束無い状態だった。
「僕がわかるか?」
「あ……? ここ……?」
スープを手渡し一匙口に流し込むと、すごい勢いでがっついた。
「ゆっくり飲まないと、体に悪いよ」
ヒスイが甲斐甲斐しく世話をしているのを、僕はわけのわからないモヤモヤに苛まれながら見守った。
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