31 / 103
第二章
6 秒速退場金髪ビキニアーマー
しおりを挟む
知らない女性は部屋にズカズカと入り込んできて、出来上がったばかりのスープ鍋を見下ろした。
入り込んできたといっても、ここは僕の部屋ではなく巣の一室ではあるけれど。
大柄な女性は、ピッタリしたアンダーシャツとパンツの上から所謂ビキニアーマーにもう少し面積を足したような鎧を身に着けている。派手な化粧の乗った顔にゆるいウェーブのかかった長い金髪も相まって、魔物と戦う格好には見えないが、手にしている剣には血やその他の汚れがこびりついていた。
「ねえ、これ一杯ちょうだい」
「どちら様ですか?」
人見知りコミュ障陰キャの僕の精一杯の牽制だ。
「あれ? 私を知らないの? それでここまで潜り込めて、その黒髪に目つき……あんたがヨイチか」
相手は何故か僕の名前を知っていた。
でもなんだか、答えたくない。
「じゃあ勝負よ勝負。私に一太刀浴びせられたら、スープは諦めるわ」
話の流れが理解できない。どうしてせっかく作り上げたスープをご馳走する前提になってるんだ。
助けてチェスタ、アトワ、キュアン。
心の叫びも虚しく、三人が帰ってくる気配はない。
僕は立ち上がり、足元でずっと威嚇しているヒイロを下がらせた。ヒイロが「グゥルルルル……」なんて獰猛に唸るの初めて聞いたよ。
剣を抜き、剣の腹でぺちん、と女性の肩を軽く叩いた。
「はい。これでいいですか」
女性の肩に剣を置いたまま、数秒。
「えっ、……えっ!? いま、いつ剣を」
事態を飲み込んだらしい女性が、ようやく声を上げた。
気づいてくれたことにホッとして、剣を鞘に収める。
「僕と仲間の分しか作ってないんです。お引き取りを」
三人の位置を冒険者カードで探る。もう近くまで来ているけど、これ以上知らない人にスープを覗き込まれたくなかったから、そっと蓋をした。
別の鍋から取り出した蒸し肉を切り分けている間も、女性はその場で呆然と立ち尽くしている。早く出てってくれないかなぁ。
「ただいまヨイチ! ご飯できてる? ……ああっ!?」
キュアンが帰ってきてくれた。もうキュアンが女神に見える。
女神は突っ立ったままの女性を見て、驚いている。
続けてチェスタとアトワも帰ってきて、キュアンと同様に女性の姿を見て固まった。
「アルダがどうしてここに? ソロのランクAの出番はまだのはずだが」
アルダって、アトワが苦手にしているランクA冒険者だったっけ。
アトワの声に、アルダはようやく我に返った。
「待ちきれなくて先に来たんだ。お腹が空いたところにいい匂いがしたから寄ってみたんだが……勝負に負けたから大人しく去るよ」
そう言って、あっさり小部屋から出ていってしまった。
「なんだったんだ……」
脱力した。豪快と聞いていたけど、あれは強引の方では。
「勝負って、何をしたんだ?」
チェスタに訊かれて、一方的にスープを賭けた勝負を申し込まれ、勝ったことを話した。
「隙だらけだったから、楽勝だったよ」
まだチェスタ達には打ち明けていないが、僕の本職は弓だ。
そんな僕の抜剣にすら気づかなかったのだから、あまり強い人じゃないのだろう。
「いやいやいやいや、アルダは剣の腕だけならランクSのアンドリューより上って言われてるんだぞ!?」
「そうなの? まあいいや、スープ冷めちゃうから食べようか」
「お、おう、そうだな」
興奮しかけたチェスタにスープをよそったカップを手渡すと、チェスタは大人しく受け取ってその場に座り込んだ。
食事を終え、一息ついていると再びアルダの話になった。
「いつも多めに作っているし、ヨイチなら少しくらい分けてやりそうだと思ったが」
マジックボックスの中は時空が停滞している。鍋ごとのスープを入れておいても、中身は一滴もこぼれない。
完全に腐らないわけではないから、何もかも入れっぱなしにするわけにはいかない。冷蔵庫より保つ、くらいの気持ちで便利に使っている。
食事は食材を無駄にしないように作り、結果食べる分より多くなるため残りはマジックボックスに保管している。
アルダに分けるくらいなら、余裕でできた。
しかし、それをやらなかった理由がある。
「一度あげたら、ずっと付きまとわれる気がしたんだよ」
初対面なのに、自分を有名人だと思い込んだ上での傲慢な態度。
スープを「一杯くらいならいいじゃないか」と当たり前のように強請るのが当然といった考え方。
自分の実力が上と信じた上での勝負の申し出。
アルダの第一印象は最悪だ。
更に、ヒイロがアルダに対してずっと威嚇をしていた。理由を聞いたら「ヨイチのごはんとられたくないのと、なんとなく嫌」というものだった。
そう、なんとなく嫌だったのだ。
……という補足説明をする前に、アトワが「わかる」と深く頷いてくれた。
「巣の攻略に対しても、舐めて掛かっているしな。何のためにギルドが指示を出しているのか、わかってないようだ」
チェスタは「あれがランクAかよ……」と遠くを見ている。
キュアンまで、
「豪快だと褒め言葉よね。強欲で、わがままって言うのよ」
なんていい出す始末。
「あの人と組むのか……」
「ヒキュン」
僕が愚痴ると、三人とヒイロから同情と慰めをいただいた。
翌朝、といっても巣の中で日は拝めない。冒険者カードのアラームで起きた。
不寝番代わりに夜間攻略していた通称夜勤パーティが三十九層目まで踏破し、四十層目で危険度Cを確認したとの報告が入っていた。
四十層目へ下る階段前で、夜勤パーティと情報交換する。
「ようやく危険度Cか。これは五十はあるな」
「ギルドも似たような見解だ」
パーティリーダー同士でやりとりしている間、他の仲間は邪魔しないように耳を傾けている。
「あと何故かアルダがいるんだが、詳しい話は知らないか?」
やっと危険度Cが発見された段階で、一人で勝手に潜っているランクA冒険者は目立つのだろう。
しかも埋まっていくマップを見る感じ、攻略よりも下層へ進むことのみを優先している。
つまり、魔物の殆どは放置。マップを埋める気もない。
「仲間がちょっかいをかけられたから、来ていることは知っている。待ちきれなかったらしい」
「はあ……。高危険度を率先して討伐してくれたら俺も文句は出ないんだが」
「まさか、Dを放置して進んでいるのか?」
「そのようだ」
僕が本名の「トウタ」を名乗って攻略した魔物の巣は、全五階層の浅いものだった。
スタグハッシュの連中が中途半端に手を出して失敗し、魔物が巣から溢れる寸前だったため、当時ランクCだった僕の単独突入が認められた。
今回は、その時とは訳が違う。
初動の段階でかなり深いと予測されていて、事実四十階層目でも終わりが見えない。
これまで幾度となく魔物の巣を攻略してきたデータを基に、多くの冒険者が協力しあっている。
地上の魔物はいつも通り発生するから、巣の攻略ばかりに目を向けてもいられない。
だから高ランクの冒険者をできるだけ温存し、それ以外の冒険者が地道に頑張っているところなのに。
アルダは単身で巣の完全攻略をする程の実力があるわけでもない上、自分の欲望のままに魔物の討伐すら拒否して進んでいる。
どこまでも勝手なひとだ。
「ギルドへの報告は?」
「来ていることだけしてある」
「じゃあそれ以外はこっちでやっておく」
「助かる、頼んだ」
夜勤パーティと別れて、下層へ向かって進んだ。
四十層目は凡そ半分ほどマップが埋まりきっていなかったので、魔物を討伐しながらマップ埋めを優先した。
ほかに二つのパーティが同時進行中なので、二度手間をしないために打ち合わせて進行箇所を大まかに区分けした。
順調にマップを埋め、四十一層目に突入した。
ここでも三つのパーティは担当を決めて進む。
アルダのせいでマップがぐちゃぐちゃに埋まっているのは、一旦無視することにした。
<レベルアップしました!>
巨大な蜘蛛の魔物を倒すと、巣に入ってから何度目かの神の声を受け取った。
現在のレベルは210。
スキルや属性、種族等に変化はない。レベルが一つ上がるのは、身長がいつのまにか一ミリ伸びているみたいなものだ。あまり実感が湧かない。
「ん? ねぇ、これなんだろう?」
キュアンが足を止めてステータス画面を見つめている。レベルが上がったのだろうか。その割には、顔に困惑を浮かべている。
他人のステータス画面は、そこにステータス画面があるということはわかるのだけど、覗き込んでも見ることが出来ない。
「[経験値上昇×10]っていうスキルが増えてたの。いつからあったのかな」
「えっ」
声を上げたのは僕ひとりだ。
「心当たりあるのか?」
チェスタに問われて、僕は少し迷った後、頷いた。
チェスタたちにはまだ僕が異世界から召喚されたことや、スタグハッシュでのことを話していなかった。
前半は、話せば信じてくれる人は多いと経験上わかってはいるけど荒唐無稽な話だし、後半は僕の黒歴史とも言える過去で、あまり掘り返したくない。
だけど三人には随分お世話になっているし、信頼できる人たちだ。
僕は巣を進みながら、できるだけ手短に今までのことを話した。
そして少し前、[経験値上昇×10]に[鑑定]を使って判明したことも。
[経験値上昇×10]
魔物を討伐することで得る経験値の量が通常の十倍になる。類似スキルとの重複有効。
スキル習得条件:スキル[魔眼]を持つものの仲間であること。
「……ということなんだけど」
天井から落ちてきたブルースライムを火炎魔法で焼き払いながら話を締めると、キュアンに抱きしめられた。
「!? キュアン?」
キュアンは無言で僕をぎゅうぎゅう抱きしめ続けている。身長差があるから、僕に抱きついてる状態になってることはお構いなしだ。
レッドスライムに風魔法で止めを刺したアトワも、こちらへ近づいてきた。
「異世界から人間を召喚する話は真実だったのだな」
「信じてくれるの?」
「ヨイチが嘘を付くはずないだろう」
キュアンが僕から身体を離し、涙の溜まった瞳で僕を見上げた。
「スタグハッシュの奴ら許せない。ヨイチ、復讐するなら付き合うわ」
そんなつもりはないと言う前に、チェスタが僕の肩に手を置いた。
「ヨイチは俺たちを仲間と思ってくれているわけだな」
「当然」
「なら、ヨイチを苦しめたやつらは俺たちの敵と同義だ」
チェスタがらしくない表情でにやりと笑う。
「ありがとう。でも……」
自分から復讐するつもりは全く無いと説明し説得するのに、かなり時間を食った。
皆最後は納得してくれたけど、「その気になったらいつでも協力する」というのは断りきれなかった。
入り込んできたといっても、ここは僕の部屋ではなく巣の一室ではあるけれど。
大柄な女性は、ピッタリしたアンダーシャツとパンツの上から所謂ビキニアーマーにもう少し面積を足したような鎧を身に着けている。派手な化粧の乗った顔にゆるいウェーブのかかった長い金髪も相まって、魔物と戦う格好には見えないが、手にしている剣には血やその他の汚れがこびりついていた。
「ねえ、これ一杯ちょうだい」
「どちら様ですか?」
人見知りコミュ障陰キャの僕の精一杯の牽制だ。
「あれ? 私を知らないの? それでここまで潜り込めて、その黒髪に目つき……あんたがヨイチか」
相手は何故か僕の名前を知っていた。
でもなんだか、答えたくない。
「じゃあ勝負よ勝負。私に一太刀浴びせられたら、スープは諦めるわ」
話の流れが理解できない。どうしてせっかく作り上げたスープをご馳走する前提になってるんだ。
助けてチェスタ、アトワ、キュアン。
心の叫びも虚しく、三人が帰ってくる気配はない。
僕は立ち上がり、足元でずっと威嚇しているヒイロを下がらせた。ヒイロが「グゥルルルル……」なんて獰猛に唸るの初めて聞いたよ。
剣を抜き、剣の腹でぺちん、と女性の肩を軽く叩いた。
「はい。これでいいですか」
女性の肩に剣を置いたまま、数秒。
「えっ、……えっ!? いま、いつ剣を」
事態を飲み込んだらしい女性が、ようやく声を上げた。
気づいてくれたことにホッとして、剣を鞘に収める。
「僕と仲間の分しか作ってないんです。お引き取りを」
三人の位置を冒険者カードで探る。もう近くまで来ているけど、これ以上知らない人にスープを覗き込まれたくなかったから、そっと蓋をした。
別の鍋から取り出した蒸し肉を切り分けている間も、女性はその場で呆然と立ち尽くしている。早く出てってくれないかなぁ。
「ただいまヨイチ! ご飯できてる? ……ああっ!?」
キュアンが帰ってきてくれた。もうキュアンが女神に見える。
女神は突っ立ったままの女性を見て、驚いている。
続けてチェスタとアトワも帰ってきて、キュアンと同様に女性の姿を見て固まった。
「アルダがどうしてここに? ソロのランクAの出番はまだのはずだが」
アルダって、アトワが苦手にしているランクA冒険者だったっけ。
アトワの声に、アルダはようやく我に返った。
「待ちきれなくて先に来たんだ。お腹が空いたところにいい匂いがしたから寄ってみたんだが……勝負に負けたから大人しく去るよ」
そう言って、あっさり小部屋から出ていってしまった。
「なんだったんだ……」
脱力した。豪快と聞いていたけど、あれは強引の方では。
「勝負って、何をしたんだ?」
チェスタに訊かれて、一方的にスープを賭けた勝負を申し込まれ、勝ったことを話した。
「隙だらけだったから、楽勝だったよ」
まだチェスタ達には打ち明けていないが、僕の本職は弓だ。
そんな僕の抜剣にすら気づかなかったのだから、あまり強い人じゃないのだろう。
「いやいやいやいや、アルダは剣の腕だけならランクSのアンドリューより上って言われてるんだぞ!?」
「そうなの? まあいいや、スープ冷めちゃうから食べようか」
「お、おう、そうだな」
興奮しかけたチェスタにスープをよそったカップを手渡すと、チェスタは大人しく受け取ってその場に座り込んだ。
食事を終え、一息ついていると再びアルダの話になった。
「いつも多めに作っているし、ヨイチなら少しくらい分けてやりそうだと思ったが」
マジックボックスの中は時空が停滞している。鍋ごとのスープを入れておいても、中身は一滴もこぼれない。
完全に腐らないわけではないから、何もかも入れっぱなしにするわけにはいかない。冷蔵庫より保つ、くらいの気持ちで便利に使っている。
食事は食材を無駄にしないように作り、結果食べる分より多くなるため残りはマジックボックスに保管している。
アルダに分けるくらいなら、余裕でできた。
しかし、それをやらなかった理由がある。
「一度あげたら、ずっと付きまとわれる気がしたんだよ」
初対面なのに、自分を有名人だと思い込んだ上での傲慢な態度。
スープを「一杯くらいならいいじゃないか」と当たり前のように強請るのが当然といった考え方。
自分の実力が上と信じた上での勝負の申し出。
アルダの第一印象は最悪だ。
更に、ヒイロがアルダに対してずっと威嚇をしていた。理由を聞いたら「ヨイチのごはんとられたくないのと、なんとなく嫌」というものだった。
そう、なんとなく嫌だったのだ。
……という補足説明をする前に、アトワが「わかる」と深く頷いてくれた。
「巣の攻略に対しても、舐めて掛かっているしな。何のためにギルドが指示を出しているのか、わかってないようだ」
チェスタは「あれがランクAかよ……」と遠くを見ている。
キュアンまで、
「豪快だと褒め言葉よね。強欲で、わがままって言うのよ」
なんていい出す始末。
「あの人と組むのか……」
「ヒキュン」
僕が愚痴ると、三人とヒイロから同情と慰めをいただいた。
翌朝、といっても巣の中で日は拝めない。冒険者カードのアラームで起きた。
不寝番代わりに夜間攻略していた通称夜勤パーティが三十九層目まで踏破し、四十層目で危険度Cを確認したとの報告が入っていた。
四十層目へ下る階段前で、夜勤パーティと情報交換する。
「ようやく危険度Cか。これは五十はあるな」
「ギルドも似たような見解だ」
パーティリーダー同士でやりとりしている間、他の仲間は邪魔しないように耳を傾けている。
「あと何故かアルダがいるんだが、詳しい話は知らないか?」
やっと危険度Cが発見された段階で、一人で勝手に潜っているランクA冒険者は目立つのだろう。
しかも埋まっていくマップを見る感じ、攻略よりも下層へ進むことのみを優先している。
つまり、魔物の殆どは放置。マップを埋める気もない。
「仲間がちょっかいをかけられたから、来ていることは知っている。待ちきれなかったらしい」
「はあ……。高危険度を率先して討伐してくれたら俺も文句は出ないんだが」
「まさか、Dを放置して進んでいるのか?」
「そのようだ」
僕が本名の「トウタ」を名乗って攻略した魔物の巣は、全五階層の浅いものだった。
スタグハッシュの連中が中途半端に手を出して失敗し、魔物が巣から溢れる寸前だったため、当時ランクCだった僕の単独突入が認められた。
今回は、その時とは訳が違う。
初動の段階でかなり深いと予測されていて、事実四十階層目でも終わりが見えない。
これまで幾度となく魔物の巣を攻略してきたデータを基に、多くの冒険者が協力しあっている。
地上の魔物はいつも通り発生するから、巣の攻略ばかりに目を向けてもいられない。
だから高ランクの冒険者をできるだけ温存し、それ以外の冒険者が地道に頑張っているところなのに。
アルダは単身で巣の完全攻略をする程の実力があるわけでもない上、自分の欲望のままに魔物の討伐すら拒否して進んでいる。
どこまでも勝手なひとだ。
「ギルドへの報告は?」
「来ていることだけしてある」
「じゃあそれ以外はこっちでやっておく」
「助かる、頼んだ」
夜勤パーティと別れて、下層へ向かって進んだ。
四十層目は凡そ半分ほどマップが埋まりきっていなかったので、魔物を討伐しながらマップ埋めを優先した。
ほかに二つのパーティが同時進行中なので、二度手間をしないために打ち合わせて進行箇所を大まかに区分けした。
順調にマップを埋め、四十一層目に突入した。
ここでも三つのパーティは担当を決めて進む。
アルダのせいでマップがぐちゃぐちゃに埋まっているのは、一旦無視することにした。
<レベルアップしました!>
巨大な蜘蛛の魔物を倒すと、巣に入ってから何度目かの神の声を受け取った。
現在のレベルは210。
スキルや属性、種族等に変化はない。レベルが一つ上がるのは、身長がいつのまにか一ミリ伸びているみたいなものだ。あまり実感が湧かない。
「ん? ねぇ、これなんだろう?」
キュアンが足を止めてステータス画面を見つめている。レベルが上がったのだろうか。その割には、顔に困惑を浮かべている。
他人のステータス画面は、そこにステータス画面があるということはわかるのだけど、覗き込んでも見ることが出来ない。
「[経験値上昇×10]っていうスキルが増えてたの。いつからあったのかな」
「えっ」
声を上げたのは僕ひとりだ。
「心当たりあるのか?」
チェスタに問われて、僕は少し迷った後、頷いた。
チェスタたちにはまだ僕が異世界から召喚されたことや、スタグハッシュでのことを話していなかった。
前半は、話せば信じてくれる人は多いと経験上わかってはいるけど荒唐無稽な話だし、後半は僕の黒歴史とも言える過去で、あまり掘り返したくない。
だけど三人には随分お世話になっているし、信頼できる人たちだ。
僕は巣を進みながら、できるだけ手短に今までのことを話した。
そして少し前、[経験値上昇×10]に[鑑定]を使って判明したことも。
[経験値上昇×10]
魔物を討伐することで得る経験値の量が通常の十倍になる。類似スキルとの重複有効。
スキル習得条件:スキル[魔眼]を持つものの仲間であること。
「……ということなんだけど」
天井から落ちてきたブルースライムを火炎魔法で焼き払いながら話を締めると、キュアンに抱きしめられた。
「!? キュアン?」
キュアンは無言で僕をぎゅうぎゅう抱きしめ続けている。身長差があるから、僕に抱きついてる状態になってることはお構いなしだ。
レッドスライムに風魔法で止めを刺したアトワも、こちらへ近づいてきた。
「異世界から人間を召喚する話は真実だったのだな」
「信じてくれるの?」
「ヨイチが嘘を付くはずないだろう」
キュアンが僕から身体を離し、涙の溜まった瞳で僕を見上げた。
「スタグハッシュの奴ら許せない。ヨイチ、復讐するなら付き合うわ」
そんなつもりはないと言う前に、チェスタが僕の肩に手を置いた。
「ヨイチは俺たちを仲間と思ってくれているわけだな」
「当然」
「なら、ヨイチを苦しめたやつらは俺たちの敵と同義だ」
チェスタがらしくない表情でにやりと笑う。
「ありがとう。でも……」
自分から復讐するつもりは全く無いと説明し説得するのに、かなり時間を食った。
皆最後は納得してくれたけど、「その気になったらいつでも協力する」というのは断りきれなかった。
10
お気に入りに追加
1,594
あなたにおすすめの小説
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる