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第一章
24 不東剛石の誤算
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横伏の生存を信じて健気にも探しに行った土之井が、監視役の亜院を背負って帰ってきた。
亜院はぴくりとも動かない。
「ちょちょちょ、アイちゃんどったの!? 早く直してやって?」
土之井は首を横に振り、亜院を亜院の部屋のベッドまで運ぶと椅子に座り込んだ。アイちゃん重いからね。手伝えばよかったかな。オレ、そういう気がまわんなくて申し訳ない。
「治癒魔法は?」
「もう何度かやった。怪我は治ったが、これ以上は駄目なんだ」
「駄目って、どゆこと? アイちゃん、何があったん? おーい」
亜院を揺さぶってみるけど、何も反応しない。目は虚ろで、開きっぱなしの口から涎が垂れている。汚いなぁ。
「横伏にやられたんだ。横伏本人が森の向こうの村に、この状態の亜院を運び込んできた」
「ヨコっち、生きてんの?」
「確かに見た」
「うわー、面倒くせぇ。どうせアレでしょ? オレたちに復讐してやるとか」
オレは正直、横伏が生きていようが死んでいようが、どうでもよかった。
だって、あの最弱のヨコっちだよ? いくらレベルあげて挑んできても、その間にオレだってレベルあげてるから、いつだってもう一度殺せるし。
ところが土之井はオレの台詞にかぶせるように、否定してきた。
「俺たちへの復讐とは関係なさそうだったな。亜院は村で暴れまわった挙げ句、女を拐って逃げたのだが、女が横伏の仲間だったようだ」
横伏に女がいることにも驚いたけど、それより……。
「アイちゃん何してんの?」
ドン引きした。人間を襲っちゃ駄目でしょ。しかも女の人拐うとか。
ほんとにバーサーカーになっちゃったの? 性的な意味でも。
「何故そんな暴挙に出たかは分からん。横伏と会話をしたわけではないし、亜院はこうだから聞き出せないしな」
「で、でもさー。ヨコっちだよ? アイちゃんがやられるはず……」
「あれは、お前でも敵わないぞ、不東」
「……は?」
土之井の声は真剣だった。
「不東だって人や魔物を見ればどのくらいの強さか何となく分かるだろう? 横伏をこの目で見てきた。酷く疲れていたようだが、あの状態でも不東が勝てると思えない。そのくらい強くなっていた」
「ヨコっちなのに?」
「横伏のスキルを覚えているか?」
「[魔眼]だろ? 意味のないやつ」
元仲間のスキルを覚えていられたオレすごくない? しかも死んだと思ってたやつの。
オレが得意げに答えると、土之井がますます顔をしかめた。
「意味のないスキルなどない。あれが、俺たちの想像を超える強力なスキルだった可能性がある。現に全員の[経験値上昇×10]が消えたのだって……」
「ここにいたのか、土之井。丁度いいや、後は自分で持っていけよ」
椿木が本を何冊も抱えて部屋に乱入してきた。たまに空気読めないよな、コイツ。
「ああ、ありがとう。不東、今の話ちゃんと考えておけよ。俺は部屋に戻って調べ直してくる」
「何を調べるの?」
「亜院の状態を治す方法だよ」
「アイちゃん直るの!?」
「わからない。方法が見つかっても、それを実現できる奴がいないかもしれない。……横伏以外にな」
土之井は椿木から本を受け取ると、さっさと部屋を出ていった。
「横伏が何って……え、これ、どうしたの? 生きてる?」
椿木が亜院を見て驚く。
「ヨコっちにやられたんだと」
「横伏が亜院をこんな目に? どうやってさ!」
「ドノっちが詳しいからドノっちに聞いて」
オレは人に説明するのが苦手だから、土之井に丸投げした。
あと考えるのも嫌いだから、土之井が最後に言ってたことについて考えないことにした。ていうか、何言ってんのかよくわからんかった。
何日かしたら、神官その2に呼ばれた。全員を聖堂に集めろってさ。
聖堂は、オレたちが召喚された場所で、広くて天井が高い。何かあるとここに集められては話を聞かされたりする。
神官その1は最近姿を見てない。その1も2も名前はあるんだけど、顔の区別がついてるからいいよね。
だってアイツラもオレたちのこと名前で呼ばないんだもん。
オレは「勇者様」、亜院は「戦士殿」、土之井は「光魔道士殿」、椿木は「闇魔道士殿」。
横伏はなんだったかな……。その1がこっそり「ハズレ」とか「魔眼(笑)」って呼んでたかな。
その2は、サントナっていう神官が体調不良でオレたちの担当を外れることになったと発表した。
サントナって確か、その1の名前だっけ。
魔物討伐の報酬、なぜかオレにだけ他のやつの倍渡してくれてたいいヤツだったのになぁ。
その2に報酬はどうなるの? と、こっそり尋ねてみると、その2は渋い顔をした。
「お気づきでしたか」
小声で耳打ちしてきたけど、どういう意味だ? オレだけ2倍貰ってた話か?
そういう意味で頷くと、その2は渋い顔で話を続けた。
「申し訳ありませんでした。今後は正規の報酬をきちんと……」
「え、いや待って?」
「ですから、これまでのことはくれぐれもご内密に。サントナは私有財産全没収の上、城を追放処分となっております」
なんだそりゃー!
正規の報酬になったら、今の半分じゃん!? ただでさえ安すぎて、城の外でこっそりバイトして遊ぶ金稼いでるのに!
でも倍貰ってたことと城の外でバイトしてるのをここでぶちまけるのはさすがのオレでもヤバいとわかる。
だからオレは何事もないフリをしてまた無言で頷いておいた。
その2は更に何か言っていたけど、オレはクエストの報酬が半分になるショックで、あまり聞いてなかった。
やってられねー! とオレがダダをこねれば、城の連中は大抵言うことを聞いてくれる。
その中で唯一どうにもならなかったのが、金の問題だ。
召喚したての、何の功績もない連中に金を与えすぎると、民衆が騒ぐんだとさ。
勝手に召喚しといて酷い言い草だよなぁ。
その代わりなのか、金以外はわりとどうにでもなる。
例えば、女とか。
やりてぇって言えば、サントナはメイドとか娼婦とかを適当に見繕って連れてきてくれた。
やる気出ないからしばらく部屋から出たくない、女をよこせと言うと、神官その2は渋ったけど結局折れて、オレ好みの清楚かわいい系を連れてきてくれた。
サントナは渋らずにオレがチェンジをやめるまで、または飽きるまでどんどん連れてきてくれたんだけど、その2は景気悪いなぁ。まあ、いきなりオレの好みどストレートを連れてきてくれたから、今回は許そう。オレは寛大だから。
三日くらい自堕落な生活を続けて、女にも飽きた頃、部屋の扉を乱暴にノックされた。
「いい加減出てこい。話がある。亜院のことだ」
土之井の声だ。土之井はオレが部屋で勤しんでると知ると、すっげー怖い顔で睨んでくる。女を連れ込むような素振りも見せない。賢者なのかな。
お怒りモードの土之井を待たせるとあとが怖い。
素っ裸でぐったりしてる女に「もう帰っていいよ」と声かけてから、部屋を出て土之井についていった。
亜院の部屋で、亜院が普通に座って飯食ってた。
飯はスープだけで、ちっさいスプーンでちまちま口に運んでいる。亜院らしくない食べ方だ。
でも、ちゃんと起きて自力で食えてる。
「アイちゃん直ったの!? やるじゃん!」
土之井の背中をバシバシやると、土之井は迷惑そうにオレから距離をとった。心外だ。
「一時的なものだ。俺の魔力を半分与えると、半日は持つ」
「じゃあ毎日半分あげてよ」
簡単な話じゃん? なのに土之井はオレを蔑んだ目で見た。
「俺の魔力が半分になるってことは、俺が使える魔法も半分になる。亜院に与え続ける限り、毎日ずっとだ。意味がわかるか?」
「は? 別によくね? ドノっちの治癒魔法には元々頼ってないし……」
椿木はともかく、オレと亜院は滅多に怪我をしない。一番治癒魔法が必要だった横伏はここにいないし。
土之井は天井を仰いで目を閉じ、何か考えてから口を開いた。
「不東。俺たちの目的は何だ?」
「えっと、魔王討伐?」
「そのためには何が必要だ?」
「ええ……何これ、授業? せっかく勉強から解放されたのに……」
「土之井、手伝おうか?」
いたのか椿木。今回は助かる。
「頼む。で、俺たちには何が必要だ」
「不東、亜院、ボクのレベルの最低ラインが48以上」
「だな。しかしここで、亜院が戦えなくなった」
「だからドノっちがアイちゃんの回復のためについてきてくれたら……」
「亜院は、土之井の魔力の半分で、ようやく日常生活を送れる状態なんだ。戦闘なんて出来ないだろ」
「えっ、ま、マジ?」
黙々とスープを口に運んでいた亜院は、スプーンをことりと置いて、オレを見た。
「レベルは1に戻った。何もかも、召喚される前より劣っている。おれはもう、剣も持てない」
「ステータスも初期値、いやそれ未満になっていたのか」
「ああ。さっき確認できた。……すまん」
亜院がベッドに座ったまま、深々と頭を下げた。
「え、じゃあ、どうすんだ……?」
オレが椿木に訊くと、椿木は土之井を見た。
「今の亜院には、どれだけ魔力を与えても一日ですべて使い切る……いや、流れ去ってしまうんだ。だから魔物を討伐してレベルを上げても無駄だと思う」
亜院が目元に片手を当てて声を詰まらせている。椿木が亜院の肩に手を置いて慰めている。
「もう、直らないの?」
オレ、自分がこんなに絶望する日がくるなんて思わなかったよ。
「可能性はある」
土之井の言葉に、オレと椿木が顔をあげる。
僅かな希望は、最悪の選択肢だった。
「亜院をこうしたのは、横伏だ。だから横伏ならば治す術も持っているかもしれない。横伏に誠心誠意謝れば、なんとかなるんじゃないか」
土之井は「俺なら、俺を裏切ったやつがどう困ろうと、手を差し伸べることなんて絶対しないけどな」と言い捨てて、部屋から出ていった。
謝らなきゃいけないのか? 横伏に?
逆だろ。
亜院をこんな目に遭わせた横伏に、土下座させてやるんだよ。
亜院はぴくりとも動かない。
「ちょちょちょ、アイちゃんどったの!? 早く直してやって?」
土之井は首を横に振り、亜院を亜院の部屋のベッドまで運ぶと椅子に座り込んだ。アイちゃん重いからね。手伝えばよかったかな。オレ、そういう気がまわんなくて申し訳ない。
「治癒魔法は?」
「もう何度かやった。怪我は治ったが、これ以上は駄目なんだ」
「駄目って、どゆこと? アイちゃん、何があったん? おーい」
亜院を揺さぶってみるけど、何も反応しない。目は虚ろで、開きっぱなしの口から涎が垂れている。汚いなぁ。
「横伏にやられたんだ。横伏本人が森の向こうの村に、この状態の亜院を運び込んできた」
「ヨコっち、生きてんの?」
「確かに見た」
「うわー、面倒くせぇ。どうせアレでしょ? オレたちに復讐してやるとか」
オレは正直、横伏が生きていようが死んでいようが、どうでもよかった。
だって、あの最弱のヨコっちだよ? いくらレベルあげて挑んできても、その間にオレだってレベルあげてるから、いつだってもう一度殺せるし。
ところが土之井はオレの台詞にかぶせるように、否定してきた。
「俺たちへの復讐とは関係なさそうだったな。亜院は村で暴れまわった挙げ句、女を拐って逃げたのだが、女が横伏の仲間だったようだ」
横伏に女がいることにも驚いたけど、それより……。
「アイちゃん何してんの?」
ドン引きした。人間を襲っちゃ駄目でしょ。しかも女の人拐うとか。
ほんとにバーサーカーになっちゃったの? 性的な意味でも。
「何故そんな暴挙に出たかは分からん。横伏と会話をしたわけではないし、亜院はこうだから聞き出せないしな」
「で、でもさー。ヨコっちだよ? アイちゃんがやられるはず……」
「あれは、お前でも敵わないぞ、不東」
「……は?」
土之井の声は真剣だった。
「不東だって人や魔物を見ればどのくらいの強さか何となく分かるだろう? 横伏をこの目で見てきた。酷く疲れていたようだが、あの状態でも不東が勝てると思えない。そのくらい強くなっていた」
「ヨコっちなのに?」
「横伏のスキルを覚えているか?」
「[魔眼]だろ? 意味のないやつ」
元仲間のスキルを覚えていられたオレすごくない? しかも死んだと思ってたやつの。
オレが得意げに答えると、土之井がますます顔をしかめた。
「意味のないスキルなどない。あれが、俺たちの想像を超える強力なスキルだった可能性がある。現に全員の[経験値上昇×10]が消えたのだって……」
「ここにいたのか、土之井。丁度いいや、後は自分で持っていけよ」
椿木が本を何冊も抱えて部屋に乱入してきた。たまに空気読めないよな、コイツ。
「ああ、ありがとう。不東、今の話ちゃんと考えておけよ。俺は部屋に戻って調べ直してくる」
「何を調べるの?」
「亜院の状態を治す方法だよ」
「アイちゃん直るの!?」
「わからない。方法が見つかっても、それを実現できる奴がいないかもしれない。……横伏以外にな」
土之井は椿木から本を受け取ると、さっさと部屋を出ていった。
「横伏が何って……え、これ、どうしたの? 生きてる?」
椿木が亜院を見て驚く。
「ヨコっちにやられたんだと」
「横伏が亜院をこんな目に? どうやってさ!」
「ドノっちが詳しいからドノっちに聞いて」
オレは人に説明するのが苦手だから、土之井に丸投げした。
あと考えるのも嫌いだから、土之井が最後に言ってたことについて考えないことにした。ていうか、何言ってんのかよくわからんかった。
何日かしたら、神官その2に呼ばれた。全員を聖堂に集めろってさ。
聖堂は、オレたちが召喚された場所で、広くて天井が高い。何かあるとここに集められては話を聞かされたりする。
神官その1は最近姿を見てない。その1も2も名前はあるんだけど、顔の区別がついてるからいいよね。
だってアイツラもオレたちのこと名前で呼ばないんだもん。
オレは「勇者様」、亜院は「戦士殿」、土之井は「光魔道士殿」、椿木は「闇魔道士殿」。
横伏はなんだったかな……。その1がこっそり「ハズレ」とか「魔眼(笑)」って呼んでたかな。
その2は、サントナっていう神官が体調不良でオレたちの担当を外れることになったと発表した。
サントナって確か、その1の名前だっけ。
魔物討伐の報酬、なぜかオレにだけ他のやつの倍渡してくれてたいいヤツだったのになぁ。
その2に報酬はどうなるの? と、こっそり尋ねてみると、その2は渋い顔をした。
「お気づきでしたか」
小声で耳打ちしてきたけど、どういう意味だ? オレだけ2倍貰ってた話か?
そういう意味で頷くと、その2は渋い顔で話を続けた。
「申し訳ありませんでした。今後は正規の報酬をきちんと……」
「え、いや待って?」
「ですから、これまでのことはくれぐれもご内密に。サントナは私有財産全没収の上、城を追放処分となっております」
なんだそりゃー!
正規の報酬になったら、今の半分じゃん!? ただでさえ安すぎて、城の外でこっそりバイトして遊ぶ金稼いでるのに!
でも倍貰ってたことと城の外でバイトしてるのをここでぶちまけるのはさすがのオレでもヤバいとわかる。
だからオレは何事もないフリをしてまた無言で頷いておいた。
その2は更に何か言っていたけど、オレはクエストの報酬が半分になるショックで、あまり聞いてなかった。
やってられねー! とオレがダダをこねれば、城の連中は大抵言うことを聞いてくれる。
その中で唯一どうにもならなかったのが、金の問題だ。
召喚したての、何の功績もない連中に金を与えすぎると、民衆が騒ぐんだとさ。
勝手に召喚しといて酷い言い草だよなぁ。
その代わりなのか、金以外はわりとどうにでもなる。
例えば、女とか。
やりてぇって言えば、サントナはメイドとか娼婦とかを適当に見繕って連れてきてくれた。
やる気出ないからしばらく部屋から出たくない、女をよこせと言うと、神官その2は渋ったけど結局折れて、オレ好みの清楚かわいい系を連れてきてくれた。
サントナは渋らずにオレがチェンジをやめるまで、または飽きるまでどんどん連れてきてくれたんだけど、その2は景気悪いなぁ。まあ、いきなりオレの好みどストレートを連れてきてくれたから、今回は許そう。オレは寛大だから。
三日くらい自堕落な生活を続けて、女にも飽きた頃、部屋の扉を乱暴にノックされた。
「いい加減出てこい。話がある。亜院のことだ」
土之井の声だ。土之井はオレが部屋で勤しんでると知ると、すっげー怖い顔で睨んでくる。女を連れ込むような素振りも見せない。賢者なのかな。
お怒りモードの土之井を待たせるとあとが怖い。
素っ裸でぐったりしてる女に「もう帰っていいよ」と声かけてから、部屋を出て土之井についていった。
亜院の部屋で、亜院が普通に座って飯食ってた。
飯はスープだけで、ちっさいスプーンでちまちま口に運んでいる。亜院らしくない食べ方だ。
でも、ちゃんと起きて自力で食えてる。
「アイちゃん直ったの!? やるじゃん!」
土之井の背中をバシバシやると、土之井は迷惑そうにオレから距離をとった。心外だ。
「一時的なものだ。俺の魔力を半分与えると、半日は持つ」
「じゃあ毎日半分あげてよ」
簡単な話じゃん? なのに土之井はオレを蔑んだ目で見た。
「俺の魔力が半分になるってことは、俺が使える魔法も半分になる。亜院に与え続ける限り、毎日ずっとだ。意味がわかるか?」
「は? 別によくね? ドノっちの治癒魔法には元々頼ってないし……」
椿木はともかく、オレと亜院は滅多に怪我をしない。一番治癒魔法が必要だった横伏はここにいないし。
土之井は天井を仰いで目を閉じ、何か考えてから口を開いた。
「不東。俺たちの目的は何だ?」
「えっと、魔王討伐?」
「そのためには何が必要だ?」
「ええ……何これ、授業? せっかく勉強から解放されたのに……」
「土之井、手伝おうか?」
いたのか椿木。今回は助かる。
「頼む。で、俺たちには何が必要だ」
「不東、亜院、ボクのレベルの最低ラインが48以上」
「だな。しかしここで、亜院が戦えなくなった」
「だからドノっちがアイちゃんの回復のためについてきてくれたら……」
「亜院は、土之井の魔力の半分で、ようやく日常生活を送れる状態なんだ。戦闘なんて出来ないだろ」
「えっ、ま、マジ?」
黙々とスープを口に運んでいた亜院は、スプーンをことりと置いて、オレを見た。
「レベルは1に戻った。何もかも、召喚される前より劣っている。おれはもう、剣も持てない」
「ステータスも初期値、いやそれ未満になっていたのか」
「ああ。さっき確認できた。……すまん」
亜院がベッドに座ったまま、深々と頭を下げた。
「え、じゃあ、どうすんだ……?」
オレが椿木に訊くと、椿木は土之井を見た。
「今の亜院には、どれだけ魔力を与えても一日ですべて使い切る……いや、流れ去ってしまうんだ。だから魔物を討伐してレベルを上げても無駄だと思う」
亜院が目元に片手を当てて声を詰まらせている。椿木が亜院の肩に手を置いて慰めている。
「もう、直らないの?」
オレ、自分がこんなに絶望する日がくるなんて思わなかったよ。
「可能性はある」
土之井の言葉に、オレと椿木が顔をあげる。
僅かな希望は、最悪の選択肢だった。
「亜院をこうしたのは、横伏だ。だから横伏ならば治す術も持っているかもしれない。横伏に誠心誠意謝れば、なんとかなるんじゃないか」
土之井は「俺なら、俺を裏切ったやつがどう困ろうと、手を差し伸べることなんて絶対しないけどな」と言い捨てて、部屋から出ていった。
謝らなきゃいけないのか? 横伏に?
逆だろ。
亜院をこんな目に遭わせた横伏に、土下座させてやるんだよ。
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