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26 成人男性ひとりを片手で軽々と持ち上げる程度の腕力
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最後にドルズブラ城から呼び出されてひと月が経った。
日本に帰る件に関しては、宰相曰く「禁術用の魔力が溜まるまであと半年かかる」ということを承知しているが、僕たちへの補償や、暗殺者を仕向けた件、例の扉の前に放置した兵の話など、詳細が判明していないことは多々ある。
こちらから冒険者ギルドを介して問い合わせても、梨の礫だ。
「クウちゃんで乗り込みましょうか。わたくし先日――」
「攻撃魔法は駄目だってば」
ベルは治癒魔法の次に攻撃魔法が得意だ。聖女って、次点は補助魔法や防護魔法とかじゃないの?
「攻撃は最大の防御です」
僕がジト目で見ていたら、ベルは胸を張ってそんなことを言う。誰だ、ベルをこんな聖女に育てたのは。
「でもさぁ、ここまで放置プレイなのもおかしいでしょ」
ベルの口に菓子を詰めつつ、ピヨラも同意する。
今は夕食後のまったりタイムだ。
皆、リビングで思い思いに寛いでいる。
「だよな。あたしらを召喚した連中に記憶がないってのも不気味だし」
休日を家で過ごしていたチャバさんが、お茶を啜りながら気怠げに反応する。
「そもそも、城で話するのが宰相だけって変じゃないか? 魔王討伐なんて大事頼むのって、王様の仕事じゃないのか」
「確かに」
ジョーの発言にカイトが頷く。
「どうなの、ベル?」
日本のRPGだったら魔王討伐を任命するのは大抵王様の役目だが、この世界の常識はどうなのかとベルに問うてみた。
「王族は忙しいか、怠惰なので、実働は宰相以下が行うことが多いですね。しかし、ジョーさんの仰る通り、事は魔王討伐で、しかもデガさんは命令通り魔王を討伐しました。事ここに至って王が一度も顔を出さないのはおかしな話です」
「だよなぁ」
ジョーが納得する。他の皆も同様だ。
「そういえば魔王ってどうなったの? もう復活してる?」
「そのあたりも含めて、連絡がないのです」
……もしかして、城に乗り込むのがベストだったりする?
「デガさん」
ベルが僕の名を呼び、正面から見つめてくる。
この前から、ベルの顔を直視するのが少々辛い。
嫌悪ではなく、何かこう……羞恥、も違うな。
「何照れてるのよ、デガ」
茶化してくるチャバさんからあえて目を逸らしたが、そうか、僕は照れてるのか、と気づいた。
「デガさん?」
ベルがもう一度名を呼んでくれる。
「何でしょう」
「やはり、城へ直接まいりましょう。誓って攻撃魔法は使いませんから」
城へは僕とベルだけで行った。
城門前でクウちゃんから降りると、すぐさま門兵たちが寄ってきた。
「何者だ!」
威圧的な門兵の数人の顔に、見覚えがある。
毎回横柄な態度で、僕たちの身元確認をしてきて、正式に招かれていることを知っても適当な対応しかしない人たちだ。
毎回、例の扉の前で放置していく兵士も、しれっと混ざっている。
<先制:大成功>
<命中:大成功 クリティカルヒット>
<当て身:大成功 相手を気絶させる>
兵士五人に対し、先制、命中、当て身のダイスロールが自動成功する。
僕は兵士たちの背後へ素早く回り込み、彼らの後頭部を手刀で狙った。
兵士たちはぱたぱたと呆気なく気絶していった。
ベルが小さく拍手してくれる。
「お強くなられましたね、デガさん」
「チートのお陰だよ」
魔王からは経験値を得られなかったが、危険度SSの魔物を何匹も倒したお陰で、またレベルが上がっている。
+++
名前:デガ
種族:ヒューマン
レベル:130
年齢:18
筋力:3000
敏捷力:3000
耐久力:2856
知力:1130
判断力:2500
魅力:339
特殊能力:ダイス目操作 レベル4
+++
ダイス目チートはレベル4に上がり、「どんなダイス目にも干渉できる」という効果へ変化した。
自分と仲間、他人以外に一体何があるのかわからないが、いつも通り、魔物討伐や敵対者に相対するときのダイス目はクリティカル、僕や仲間たちへの悪意や攻擊に関するダイス目はファンブルに設定してある。
レベルが上がったのも、たった今兵士たちを無力化できたのも、このダイス目チートのお陰だ。
ということを、ベルも知っているはずなのに。
ベルは本当に嬉しそうに笑みを浮かべて、僕を褒めてくれる。
「さあ、まいりましょう」
閉まっていた城門を力ずくで開けて、僕たちは城の内部へ乗り込んだ。
ここまで来ておいて、遠慮することなど何もない。
途中で行く手を阻んできた人たちは全員、当て身で眠ってもらった。
何度も案内されたので、宰相がいつもいる部屋の前まで、迷いなく来れた。
部屋の扉も、こちらからノックもせずに開けた。
「ん? 何事だ?」
宰相が机に向かって書類に何かを書き付けながら、こちらも見ずに声を発した。
部屋には宰相ひとりだ。
「ギルドの方はどうされたのでしょうか」
ベルが小声で僕に耳打ちする。
「わからない」
ギルド長に頼んでおいた見張り役の人からも、連絡や情報が来ていない。
別のところで無事でいてくれたらいいが……申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
「宰相、僕のことを憶えておいでですか?」
僕がこう尋ねてようやく、宰相はこちらを見た。
「おお、お主らか。今日は呼んでおらぬはずだが」
ベルがつかつかと宰相に近づき、胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げた。
ベルもレベルが上がって……筋力70超えたとか言ってたっけな。大人ひとりくらいなら片手で放り投げられるレベルだ。
いつもなら僕が止めに入るところだが、今日はベルの好きにさせておこうと思う。
「なっ、何をっ」
「いい加減にしてくださいませ。ひと月も何の連絡も寄越さず、デガさん達をどれだけ待たせれば気が済むのですか。調査の進展くらい……」
「ちょ、調査は、慎重に進めておってっ」
「ではこの書類は何ですか? 夜会開催のお知らせですよね? 社交をする暇はあると」
「それとこれとは話が」
「貴方が、いえ、この国が何よりも優先すべきは、魔王討伐者であるデガさんと、デガさん同様異世界から無理やり召喚した方々のことを考えることです!」
ベルは僕が言いたかったことを全部綺麗に言ってくれた。内心で拍手喝采する。
「う、うぐ、だが、陛下が……」
「陛下が?」
「へ、陛下は、禁術を使ったなど認めぬと……つまり、デガ殿たちのことも……」
「ベル、宰相の顔色だいぶ悪いから、一旦離してあげて」
僕が横から口を出すと、ベルは宰相をゴミのようにぽいっと捨てた。
宰相は打ち付けた尻と腰を撫でさすりながら、ゴホゴホと咳き込んだ。
「陛下はどこですか?」
「そ、それは……」
<『説得』の判定をしますか?>
頭の中で「声」が、いつもなら放棄するかランダムに任せている判定を促してくる。
僕は穏便に済ませるために、今回ばかりはチートを活用した。
<説得:大成功。宰相は国王の居場所を喋る>
「どこですか?」
僕が適当に答えても、ダイスロールで未来が決まっているのだ。
宰相は僕を見て、何かを諦めたように肩を落とした。
「今の時間ならば私室にいる。この城の最上階だ」
僕とベルは宰相をそのままに、部屋を後にした。
最上階への階段は、無駄に豪華だったから簡単に見つかった。
僕たちを見つけて何か言ってくる兵士は当て身で寝かせつつ、階段を駆け上がる。
宰相の部屋よりも豪華な扉の前に出た。
近衛兵らしき兵士たちも、ダイスロールするまでもなく無力化できた。
扉の向こうでは、干からびた老人がベッドの上で上半身を起こしていた。
室内は質素ながらも高級感のある内装で、老人の着ている服やベッド自体も質が良いのがひと目で分かる。
痩せこけて顔色は悪いのに、瞳だけがぎらぎらしている。
シーツを握る手が細かく震えているのは、寒さや突然の闖入者に対する怯えではなく、老いとか病とか、そういうもののせいに見えた。
「貴方がドルズブラ国王ですか?」
ベルは部屋の中の老人を見て暫し足を止め、それからそっと老人に近づいて問うた。
老人は何も答えない。
「陛下?」
ベルが呼び方を変えると、老人の目が何故か僕を見た。
日本に帰る件に関しては、宰相曰く「禁術用の魔力が溜まるまであと半年かかる」ということを承知しているが、僕たちへの補償や、暗殺者を仕向けた件、例の扉の前に放置した兵の話など、詳細が判明していないことは多々ある。
こちらから冒険者ギルドを介して問い合わせても、梨の礫だ。
「クウちゃんで乗り込みましょうか。わたくし先日――」
「攻撃魔法は駄目だってば」
ベルは治癒魔法の次に攻撃魔法が得意だ。聖女って、次点は補助魔法や防護魔法とかじゃないの?
「攻撃は最大の防御です」
僕がジト目で見ていたら、ベルは胸を張ってそんなことを言う。誰だ、ベルをこんな聖女に育てたのは。
「でもさぁ、ここまで放置プレイなのもおかしいでしょ」
ベルの口に菓子を詰めつつ、ピヨラも同意する。
今は夕食後のまったりタイムだ。
皆、リビングで思い思いに寛いでいる。
「だよな。あたしらを召喚した連中に記憶がないってのも不気味だし」
休日を家で過ごしていたチャバさんが、お茶を啜りながら気怠げに反応する。
「そもそも、城で話するのが宰相だけって変じゃないか? 魔王討伐なんて大事頼むのって、王様の仕事じゃないのか」
「確かに」
ジョーの発言にカイトが頷く。
「どうなの、ベル?」
日本のRPGだったら魔王討伐を任命するのは大抵王様の役目だが、この世界の常識はどうなのかとベルに問うてみた。
「王族は忙しいか、怠惰なので、実働は宰相以下が行うことが多いですね。しかし、ジョーさんの仰る通り、事は魔王討伐で、しかもデガさんは命令通り魔王を討伐しました。事ここに至って王が一度も顔を出さないのはおかしな話です」
「だよなぁ」
ジョーが納得する。他の皆も同様だ。
「そういえば魔王ってどうなったの? もう復活してる?」
「そのあたりも含めて、連絡がないのです」
……もしかして、城に乗り込むのがベストだったりする?
「デガさん」
ベルが僕の名を呼び、正面から見つめてくる。
この前から、ベルの顔を直視するのが少々辛い。
嫌悪ではなく、何かこう……羞恥、も違うな。
「何照れてるのよ、デガ」
茶化してくるチャバさんからあえて目を逸らしたが、そうか、僕は照れてるのか、と気づいた。
「デガさん?」
ベルがもう一度名を呼んでくれる。
「何でしょう」
「やはり、城へ直接まいりましょう。誓って攻撃魔法は使いませんから」
城へは僕とベルだけで行った。
城門前でクウちゃんから降りると、すぐさま門兵たちが寄ってきた。
「何者だ!」
威圧的な門兵の数人の顔に、見覚えがある。
毎回横柄な態度で、僕たちの身元確認をしてきて、正式に招かれていることを知っても適当な対応しかしない人たちだ。
毎回、例の扉の前で放置していく兵士も、しれっと混ざっている。
<先制:大成功>
<命中:大成功 クリティカルヒット>
<当て身:大成功 相手を気絶させる>
兵士五人に対し、先制、命中、当て身のダイスロールが自動成功する。
僕は兵士たちの背後へ素早く回り込み、彼らの後頭部を手刀で狙った。
兵士たちはぱたぱたと呆気なく気絶していった。
ベルが小さく拍手してくれる。
「お強くなられましたね、デガさん」
「チートのお陰だよ」
魔王からは経験値を得られなかったが、危険度SSの魔物を何匹も倒したお陰で、またレベルが上がっている。
+++
名前:デガ
種族:ヒューマン
レベル:130
年齢:18
筋力:3000
敏捷力:3000
耐久力:2856
知力:1130
判断力:2500
魅力:339
特殊能力:ダイス目操作 レベル4
+++
ダイス目チートはレベル4に上がり、「どんなダイス目にも干渉できる」という効果へ変化した。
自分と仲間、他人以外に一体何があるのかわからないが、いつも通り、魔物討伐や敵対者に相対するときのダイス目はクリティカル、僕や仲間たちへの悪意や攻擊に関するダイス目はファンブルに設定してある。
レベルが上がったのも、たった今兵士たちを無力化できたのも、このダイス目チートのお陰だ。
ということを、ベルも知っているはずなのに。
ベルは本当に嬉しそうに笑みを浮かべて、僕を褒めてくれる。
「さあ、まいりましょう」
閉まっていた城門を力ずくで開けて、僕たちは城の内部へ乗り込んだ。
ここまで来ておいて、遠慮することなど何もない。
途中で行く手を阻んできた人たちは全員、当て身で眠ってもらった。
何度も案内されたので、宰相がいつもいる部屋の前まで、迷いなく来れた。
部屋の扉も、こちらからノックもせずに開けた。
「ん? 何事だ?」
宰相が机に向かって書類に何かを書き付けながら、こちらも見ずに声を発した。
部屋には宰相ひとりだ。
「ギルドの方はどうされたのでしょうか」
ベルが小声で僕に耳打ちする。
「わからない」
ギルド長に頼んでおいた見張り役の人からも、連絡や情報が来ていない。
別のところで無事でいてくれたらいいが……申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
「宰相、僕のことを憶えておいでですか?」
僕がこう尋ねてようやく、宰相はこちらを見た。
「おお、お主らか。今日は呼んでおらぬはずだが」
ベルがつかつかと宰相に近づき、胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げた。
ベルもレベルが上がって……筋力70超えたとか言ってたっけな。大人ひとりくらいなら片手で放り投げられるレベルだ。
いつもなら僕が止めに入るところだが、今日はベルの好きにさせておこうと思う。
「なっ、何をっ」
「いい加減にしてくださいませ。ひと月も何の連絡も寄越さず、デガさん達をどれだけ待たせれば気が済むのですか。調査の進展くらい……」
「ちょ、調査は、慎重に進めておってっ」
「ではこの書類は何ですか? 夜会開催のお知らせですよね? 社交をする暇はあると」
「それとこれとは話が」
「貴方が、いえ、この国が何よりも優先すべきは、魔王討伐者であるデガさんと、デガさん同様異世界から無理やり召喚した方々のことを考えることです!」
ベルは僕が言いたかったことを全部綺麗に言ってくれた。内心で拍手喝采する。
「う、うぐ、だが、陛下が……」
「陛下が?」
「へ、陛下は、禁術を使ったなど認めぬと……つまり、デガ殿たちのことも……」
「ベル、宰相の顔色だいぶ悪いから、一旦離してあげて」
僕が横から口を出すと、ベルは宰相をゴミのようにぽいっと捨てた。
宰相は打ち付けた尻と腰を撫でさすりながら、ゴホゴホと咳き込んだ。
「陛下はどこですか?」
「そ、それは……」
<『説得』の判定をしますか?>
頭の中で「声」が、いつもなら放棄するかランダムに任せている判定を促してくる。
僕は穏便に済ませるために、今回ばかりはチートを活用した。
<説得:大成功。宰相は国王の居場所を喋る>
「どこですか?」
僕が適当に答えても、ダイスロールで未来が決まっているのだ。
宰相は僕を見て、何かを諦めたように肩を落とした。
「今の時間ならば私室にいる。この城の最上階だ」
僕とベルは宰相をそのままに、部屋を後にした。
最上階への階段は、無駄に豪華だったから簡単に見つかった。
僕たちを見つけて何か言ってくる兵士は当て身で寝かせつつ、階段を駆け上がる。
宰相の部屋よりも豪華な扉の前に出た。
近衛兵らしき兵士たちも、ダイスロールするまでもなく無力化できた。
扉の向こうでは、干からびた老人がベッドの上で上半身を起こしていた。
室内は質素ながらも高級感のある内装で、老人の着ている服やベッド自体も質が良いのがひと目で分かる。
痩せこけて顔色は悪いのに、瞳だけがぎらぎらしている。
シーツを握る手が細かく震えているのは、寒さや突然の闖入者に対する怯えではなく、老いとか病とか、そういうもののせいに見えた。
「貴方がドルズブラ国王ですか?」
ベルは部屋の中の老人を見て暫し足を止め、それからそっと老人に近づいて問うた。
老人は何も答えない。
「陛下?」
ベルが呼び方を変えると、老人の目が何故か僕を見た。
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