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しおりを挟むあと3日したら寮に帰る日。
おじいちゃんと辰也さんが何か話している姿を何度も見かけるけど、僕とは話してくれない。
挨拶程度の声はかけるし、別に無視されているわけじゃないけど……泣きそう。
辰也さんが足りない。寝る時くらいしか顔を見つめることできない。
心当たりはある。気絶するまで手酷く抱いたこと、睡眠姦したこと、このどっちも謝ってないこと。
そりゃ怒るって!でも謝らせてくれないの辰也さんが!
「おーいたいた、環さま。爺さまが呼んでたぞ。うわ、顔ひど。」
「南雲さん…先代はどこで待ってるんですか。」
辰也補給が満足に出来ていないから、青白い顔でどこか死にかけているのは自覚している。それをわざわざ指摘するなんて、南雲さんも人が悪い。
いや、純粋に心配してくれてるとか?
「それが、道場なんだけど…外から中を覗けって指示なんだよな。」
「覗き?とにかく道場ですね。分かりました。」
場所を聞き出し、道場に向かって歩き出そうと南雲さんに肩を掴まれ引き留められる。
「環さま、差し出がましいとは思いますが、俺には無理でも相談できる友達とかいないの?」
暗に1人で悩んでないで誰かに話を聞いてもらえってことだろう。その相談相手に名乗り出ないところが南雲さんらしいが、友達…ね。
同じ境遇なら蜂須賀だろうけど、あいつに相談したところで解決なんてしない。なら…委員長?いや付き合い始めを邪魔するなんて馬に蹴られる。
「アドバイスどうも。考えてみます。」
それだけ告げて南雲さんをその場に残し、道場に向かう。
指示通り気配を消して、道場の開いていた下窓から中を覗く。
屈強な男たちが組み手をしている中、視線を動かしておじいちゃんを探す。
その途中で慣れない動きをして必死に組み手をしている男を見つけた。伸びた髪をポニーテールにして、真剣な顔でおじいちゃんのボディーガードに指導してもらっている。
なんであなたがそんなことを…
辰也さん、僕じゃ信用できませんか?
僕が守るって言ったのに…守らせてくれないの?
「あれをどう見る、環。強さを求めて?そうかも知れん。ならその原動力は?大切な人を守るため、守られるだけなのは嫌らしいぞ。」
「これを見せるために呼んだんですか。」
辰也さんから目を離し、いつの間にか背後にいたおじいちゃんの方に身体を向ける。
楽しそうに笑い、僕に目を向けず辰也さんを眺めているおじいちゃん。何か企んでいるのか、その意図が読み取れない。
「強くなりたいと言った奴を無碍にはできんだろ。彼奴はお前が思っているより弱くはないぞ。」
「……」
辰也さんが望んで始めたのか……道場の中に視線を戻すと、丁度投げ飛ばされて床に倒れている辰也さん。思わず身を乗り出してしまったが、辰也さんはすぐ立ち上がりもう一度お願いしますと頼んでいる。
「他にも、お前にやった当主課題。彼奴にも解かせてみたが凄い才能だ。1教えると10以上の結果を出しおった。天才とはいるものだな。」
「ええ、辰也さんはすごいんです。家の所為で実力を隠していたけど、本当に頭がよくって…正当な評価を受けて欲しい人です。」
整備した道だけを歩いて欲しいと思うのは僕のエゴだ。考えを改めよう。
今なら想像できる。後ろを歩く辰也さんじゃなくて、隣同士で道を作って歩く姿が……
「ならばやはり、彼奴は儂が貰おう。いつまでも西條の名でいるより、阿部の方が役に立つだろ。」
「は?」
「まあ手続きはほとんど終わっているがな。」
「はあ?!」
爆弾発言すぎる一言を言い、驚いている僕を見て愉快そうに髭を触り始めたおじいちゃん。
「これであの子は儂の身内。戸籍上ではな。」
大事なことは相談しましょう。
この祖父にして僕というのが客観的に知れました。
相談せずに爆弾投下って怖いね、うん。
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