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77話

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洞窟から無事に戻ると、バーベキューの準備を終了した京本家の人が迎えてくれた。

「腹減ったー肉焼こうぜ!肉!」

串に刺された食材を目にして元気を取り戻した若松くんが一目散にテーブルへと向かい、咲山たちも後を追う。

散々怯えていた京本と蜂須賀もいつもの2人に戻り、俺の前を歩く。

そんな5人を眺めながら、にこやかな京本家の人に近寄り話しかける。

「あの洞窟って、京本家の持ち物ですよね。」

「はい、こちらの土地は京本財閥の総帥が管理をしております。」

笑顔を崩さない話し相手、柔和な紳士で京本が幼い頃から仕えていると聞いた。

「洞窟に近づけないために、幽霊話を信じさせたんですか?ホログラム映像まで埋め込んで。」

「はて何のことやら。お飲み物は?仲神様」

「頂きます。おかげで楽しめました。」

「ほっほっほ、それならば何よりです。」

用意されたコップに麦茶を注いでもらい、受け取る。

にこりと微笑んだ紳士は少し悪戯っ子のような笑みにもとれる。

予想通りだったか。

焼いている肉の前で待機している京本の方をちらりと見て、麦茶を口に含む。

危険な場所に行って欲しくない親と、好奇心旺盛な子供。
口で言うだけじゃ聞かないから、あの洞窟をお化け屋敷のように改造したのだろう。

体験させてしまえば、あとは従順になる。
危ないところにはお化けがいるとでも言われたのか、今だに覚えているなんて。

いい趣味を持っているのだな、京本財閥の総帥は。

「蛍様!焼けましたよ。」

串から外し、皿に盛った肉と野菜を箸と一緒に持ってきてくれた蜂須賀が、俺が焼きましたと一言添えて俺に渡してくれる。
渡された皿から、肉を1つ食べる。バーベキューのタレが滲みて美味しい。

「美味しいよ、ありがとう流星。」

そう告げると、嬉しそうに笑いもっと焼いてくると言い、戻ろうとしたのを引き留める。

「お前も食べろ、ほら。」

このまま放っておくと、自分の分を忘れそうだ。
そう思い、肉を箸で持ち上げ蜂須賀の口元へやる。

「蛍様、これってその…」

「肉より野菜が良かったか?」

「いえ!食べます!」

でかい口を開け勢いよく箸に食らいつく蜂須賀を見上げ、少し満足気になってしまう。

肉をよく噛まずに飲み込んだ蜂須賀。
ぼーっとして俺を見ている。

「おい、よく噛んでから食べろ。飲み物はいるか?」

テーブルに用意されている飲み物を手に取り、蜂須賀に渡そうとしたとき、蜂須賀が好きと呟いた。

「蛍様好き。」

真剣な目を向けて、改めて俺に告げる。

茶化して流すような告白じゃない。
俺も真剣に答えよう。素直な気持ちを。
多分ずっと前からそうだった、だいぶ待たせてしまったが、大体嫌いな奴にあんなところ弄らせるわけないな。貞操観念が緩いと思われたくない。


「俺も好きだ。これから先の人生、俺と歩んでくれるか?」


少し重いだろうか、と思うが考えすぎだったらしい。
幸せそうな笑顔を向けて、俺を抱きしめてくれる。

「離れろって言われても離れないっすよ。蛍様となら地獄でも天国っす。」

「最優先事項に家族の説得だが、流星は気にするな。俺がなんとかしよう。」

家族の祝福を受けたいと思うのは我儘だろうか。
嵐雪と松田さんは大丈夫。両親もどうにかなると思うが、問題は祖父だ。

仲神グループの会長を敵に回して、生活できると思っていない。認めさせなくてはならない存在だ。

「蛍様…そこまで俺のことを……安心してくださいっす!おじいさまには俺が既に話をつけているんで!」

「ん?」

胸を張って誇らしそうにしている蜂須賀の言葉を、思わず聞き流すところだった。

「待て、流星。話をつけているって何のことだ。おじいさまって俺の祖父か?」

「蛍様と、俺の将来のことっすよ。仲神グループの会長に直談判して来ました。言質取ってるんで、これで蛍様と俺を邪魔する奴はいないっすよ。」

悦に入った表情で、俺の頬を撫でる蜂須賀に驚きが隠せない。
俺の知らないところで外堀が完全に塞がれていたなんて、相談くらいしてほしいものだ。

「おい、何2人だけの空気にしてんだ。蛍、ちょっといいか。」

「京本…ああ、俺も話がある。」

心を決めた今、京本にはきちんとお断りをしなくては不誠実だろう。

2人だけにしてくれと蜂須賀に頼み、テーブルから離れた場所へ移動する。

この辺りでいいだろうと、足を止め京本と向き合う。

「俺から話す。……好きだ蛍。初めて俺を1人の人間として見てくれた。返事、くれるか?」

覚悟を決めた表情、蜂須賀とのことを察しているようだ。

「ありがとう京本。お前の好意は嬉しいが、応えることは出来ない。」

「やっぱりか…だよな。これからも友達として側にいることは許してくれるか?」

「俺の方こそ、お願いしたい。改めてよろしく頼む。」

手を伸ばし、握手を求めてくる京本の手を握り、固く結ぶ。
京本が視線をちらりと蜂須賀たちの方へ向けたかと思えば、握ったままの手をグイッと引かれ、京本の方へ重心が崩れる。

そっと触れるだけのキスをされ、すぐに離れた京本は悪戯に成功した子供のような顔で俺に言う。

「これで最後。ペットの手綱はしっかり握っとけよ?心優しい友人からの忠告な。」

「ああ、ありがたく受け取る。」
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