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76話
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ぴちょん…ぴちょん…と水滴の落ちる音が響く洞窟。
足下1センチほど潮が満ちている。
「うぅ…こんな所探索したがるなんて、あいつ絶対馬鹿っすよ。」
「同感だ、しかも懐中電灯なしなんて愚の骨頂だな。」
入る前から怯えっぱなしの2人は、早々に俺の両腕に絡みつき、3人固まった状態でとても歩きづらい。
全員懐中電灯を持っているが、手振れが酷く頼りになるのは自分のだけ。
真斗、塁斗、若松くんを呼びかけるが声は返ってこず、洞窟から音も聞こえない。
「ウェディングドレス姿の女性を見たと言っていたが、どういうことなんだ?」
掘り返すのは悪いと思ったんだが、好奇心が勝ってしまい、右腕にしがみついている京本に聞く。
恨めしそうな目を向けられるが、怖さを共有してやろうと思ったのか話してくれることになった。
「6歳のとき、この洞窟で迷子になってよ。奥の方で座ってたら泣き声が聞こえて、見に行ったら裾がぼろぼろになったウェディングドレスを着た髪の長い女がいた。
人がいた安心で、俺は警戒せずに話しかけたんだ。そしたら結婚式の途中だったとか、このままだと逢えないとか、ずっと泣いてるもんだから慰めてたんだよ。
暫くして、捜索隊に救出された俺は女のことも言ったが救出の際居たのは俺だけだったと言われ、次の日聞いた話によると、結婚式に向かう途中で事故死した新郎と新婦がいたってさ……」
「ひぃぃぃ…何でそんな声のトーン落として話すんすか!」
「うっせぇ!マジなんだからな!この洞窟は危ないから近くなって言われてんだ!」
両腕の絡みつきが強くなる。
本気で怖がっている2人には悪いが、気になる点が多すぎる。
どこで事故を起こしたのか、なぜ洞窟に居るのか、新郎はどこか、全て偽りではないのか。
洞窟に近寄らせないための方便だと思うのは俺だけか?
「京本、その女性に触れたか?」
「いや、今思えばちょっと透けてた…ドレスで足があったかは分からん。」
「もう帰りましょうよ蛍様。あいつらは自己責任ってことで!」
歩みを止める蜂須賀、それによって俺も止まる。
蜂須賀に同意しているのか無言で頷いている京本も、来た道を戻りたそうにしている。
「怖いならついて来なくて良かったんだぞ?」
「だって、洞窟は電波届かないから…蛍様のGPS確認できない…」
「おい、GPSってなんだ。」
「静かに。」
京本は知らなかったのか、その話を聞いて正気に戻ったが今は後にしてほしい。
微かに声が聞こえた。
正確に聞き取れた訳じゃないが、おーい誰かーと呼んでいる気がする。
つまり、ここから近いな。
「向こうの方から声がするな。」
「待って蛍様、置いてかないで!」
「蛍ちょっと速い!ゆっくり歩け!」
この2人、本当は気が合うんだろう。
緩んでいた絡みが先に行かれまいとより密着され、そのまま声の方へと歩みを進める。
「おーーい!!!誰かいねーの!出口どこだよ!」
声がはっきり聞こえた。これは若松くんだろう。
「若松くん!どこだ!」
「蛍か!!なんか暗いし、海水が流れてきてるんだけど!」
声がするところに辿り着くが、そこはギリギリ通れるかくらいの隙間だった。
「真斗と塁斗もそこにいんのか?」
「いるぞ!怪我もしてない!」
「本当馬鹿っすね、無計画にこんな所来て。」
「お手数かけましたーうっせぇ流星!馬鹿って言う方が馬鹿だからな!」
若松くんと目が合った途端、表情と声だけはいつもの冷静さを取り戻す京本と蜂須賀。
若松くんからは見えない俺のパーカーの裾を掴まれているが、まあ黙っておいてやろう。
「とりあえず、懐中電灯を1つ渡そう。ここの隙間通れるか?」
俺の懐中電灯を隙間から渡し、確認を取るが首を振っているのが見える。
「そっちからどう見えるか分かんねーけど、こっちからは大した隙間じゃない。」
「電気!文明の利器!」
「風紀委員長ありがと!」
後ろで喜んでいる咲山兄弟を目視。
隙間がダメとなると…他の方法を考えないとな。
「そこにはどうやって着いた?」
「ああ、なんか指輪探すの手伝ってくれってタキシード姿のおっさんに頼まれて、気付いたらここにいた。」
若松くんの話の内容を聞いた途端、京本と蜂須賀がひぃっと小さな声で悲鳴を上げる。
「そうか、他に通れそうな所はあるか?」
「んー…あ!あった!下のところに穴ある!海水ギリギリ浸かってないし電気当てたら光ってる!」
ほう、と言うことは俺の予想通りかもな。
「多分、その抜け穴は大きな道に辿り着く筈だ。出たらまた声を出してくれ。そう遠くはないだろう。」
「分かった!真斗、塁斗行くぞ!」
懐中電灯、もう少し多めに持ってくるべきだったな。用意された3つだけを持ってきたが、頼めばあと2つくらいあったかもしれない。
「蛍!広い道出た!」
「分かった!そちらへ向かうから動くな!」
恐怖のあまりか、喋らなくなった京本と蜂須賀を伴い、若松くんの声のする方へ再び行く。
角を曲がったところ、光が見え、あ!と声がかけられる。
「蛍!助かった~。」
「風紀委員長マジありがとう!」
「携帯繋がんないし充電なくなったし、詰んだと思ってた。」
迷子の3人が口々に安堵の声を漏らし近づいてくる。
「これに懲りたら、勝手にうろつくなよ!」
「洞窟なんて電波繋がらないって常識じゃね?」
3人に対して強気の京本と蜂須賀。
微笑ましいと思うしかないだろうこんなの。
足下1センチほど潮が満ちている。
「うぅ…こんな所探索したがるなんて、あいつ絶対馬鹿っすよ。」
「同感だ、しかも懐中電灯なしなんて愚の骨頂だな。」
入る前から怯えっぱなしの2人は、早々に俺の両腕に絡みつき、3人固まった状態でとても歩きづらい。
全員懐中電灯を持っているが、手振れが酷く頼りになるのは自分のだけ。
真斗、塁斗、若松くんを呼びかけるが声は返ってこず、洞窟から音も聞こえない。
「ウェディングドレス姿の女性を見たと言っていたが、どういうことなんだ?」
掘り返すのは悪いと思ったんだが、好奇心が勝ってしまい、右腕にしがみついている京本に聞く。
恨めしそうな目を向けられるが、怖さを共有してやろうと思ったのか話してくれることになった。
「6歳のとき、この洞窟で迷子になってよ。奥の方で座ってたら泣き声が聞こえて、見に行ったら裾がぼろぼろになったウェディングドレスを着た髪の長い女がいた。
人がいた安心で、俺は警戒せずに話しかけたんだ。そしたら結婚式の途中だったとか、このままだと逢えないとか、ずっと泣いてるもんだから慰めてたんだよ。
暫くして、捜索隊に救出された俺は女のことも言ったが救出の際居たのは俺だけだったと言われ、次の日聞いた話によると、結婚式に向かう途中で事故死した新郎と新婦がいたってさ……」
「ひぃぃぃ…何でそんな声のトーン落として話すんすか!」
「うっせぇ!マジなんだからな!この洞窟は危ないから近くなって言われてんだ!」
両腕の絡みつきが強くなる。
本気で怖がっている2人には悪いが、気になる点が多すぎる。
どこで事故を起こしたのか、なぜ洞窟に居るのか、新郎はどこか、全て偽りではないのか。
洞窟に近寄らせないための方便だと思うのは俺だけか?
「京本、その女性に触れたか?」
「いや、今思えばちょっと透けてた…ドレスで足があったかは分からん。」
「もう帰りましょうよ蛍様。あいつらは自己責任ってことで!」
歩みを止める蜂須賀、それによって俺も止まる。
蜂須賀に同意しているのか無言で頷いている京本も、来た道を戻りたそうにしている。
「怖いならついて来なくて良かったんだぞ?」
「だって、洞窟は電波届かないから…蛍様のGPS確認できない…」
「おい、GPSってなんだ。」
「静かに。」
京本は知らなかったのか、その話を聞いて正気に戻ったが今は後にしてほしい。
微かに声が聞こえた。
正確に聞き取れた訳じゃないが、おーい誰かーと呼んでいる気がする。
つまり、ここから近いな。
「向こうの方から声がするな。」
「待って蛍様、置いてかないで!」
「蛍ちょっと速い!ゆっくり歩け!」
この2人、本当は気が合うんだろう。
緩んでいた絡みが先に行かれまいとより密着され、そのまま声の方へと歩みを進める。
「おーーい!!!誰かいねーの!出口どこだよ!」
声がはっきり聞こえた。これは若松くんだろう。
「若松くん!どこだ!」
「蛍か!!なんか暗いし、海水が流れてきてるんだけど!」
声がするところに辿り着くが、そこはギリギリ通れるかくらいの隙間だった。
「真斗と塁斗もそこにいんのか?」
「いるぞ!怪我もしてない!」
「本当馬鹿っすね、無計画にこんな所来て。」
「お手数かけましたーうっせぇ流星!馬鹿って言う方が馬鹿だからな!」
若松くんと目が合った途端、表情と声だけはいつもの冷静さを取り戻す京本と蜂須賀。
若松くんからは見えない俺のパーカーの裾を掴まれているが、まあ黙っておいてやろう。
「とりあえず、懐中電灯を1つ渡そう。ここの隙間通れるか?」
俺の懐中電灯を隙間から渡し、確認を取るが首を振っているのが見える。
「そっちからどう見えるか分かんねーけど、こっちからは大した隙間じゃない。」
「電気!文明の利器!」
「風紀委員長ありがと!」
後ろで喜んでいる咲山兄弟を目視。
隙間がダメとなると…他の方法を考えないとな。
「そこにはどうやって着いた?」
「ああ、なんか指輪探すの手伝ってくれってタキシード姿のおっさんに頼まれて、気付いたらここにいた。」
若松くんの話の内容を聞いた途端、京本と蜂須賀がひぃっと小さな声で悲鳴を上げる。
「そうか、他に通れそうな所はあるか?」
「んー…あ!あった!下のところに穴ある!海水ギリギリ浸かってないし電気当てたら光ってる!」
ほう、と言うことは俺の予想通りかもな。
「多分、その抜け穴は大きな道に辿り着く筈だ。出たらまた声を出してくれ。そう遠くはないだろう。」
「分かった!真斗、塁斗行くぞ!」
懐中電灯、もう少し多めに持ってくるべきだったな。用意された3つだけを持ってきたが、頼めばあと2つくらいあったかもしれない。
「蛍!広い道出た!」
「分かった!そちらへ向かうから動くな!」
恐怖のあまりか、喋らなくなった京本と蜂須賀を伴い、若松くんの声のする方へ再び行く。
角を曲がったところ、光が見え、あ!と声がかけられる。
「蛍!助かった~。」
「風紀委員長マジありがとう!」
「携帯繋がんないし充電なくなったし、詰んだと思ってた。」
迷子の3人が口々に安堵の声を漏らし近づいてくる。
「これに懲りたら、勝手にうろつくなよ!」
「洞窟なんて電波繋がらないって常識じゃね?」
3人に対して強気の京本と蜂須賀。
微笑ましいと思うしかないだろうこんなの。
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