27 / 93
23話
しおりを挟む
「ということで、知恵を貸してくれ。」
「何がということか、わかんねーんだけど…ま、兄貴からの連絡なんて珍しいからな。聞いてやってもいいけど?」
次の日、電話で呼び出したのは実家の弟だ。
中学2年生、来年受験生で、どうも行きたい高校があるらしく今から頑張っていると聞いて、なるべく邪魔しないでおこうと思っていた。だがこういうことは頼りになる。背に腹は変えられん。
「知り合いの話なんだがな?」
「へー、そんで?」
ビデオ通話にしたら、こちらの様子までバレると思い、通話のみにしたのだが、弟の様子も分からなくて少し不安を感じる。
「その…同じ日に2人の男から告白されて、返事をどうしようかと思っているそうだ。」
「断れ。絶対だめ。マジでだめ。」
「だがな?その2人は将来についても考えてくれていて……」
「そんなん好きなら当然でしょ。小学生でも結婚とか妄想して、好きな奴の苗字に自分の名前書くんだから。」
通話先から微かに聞こえる鉛筆の音。勉強中なのかもしれない。そうだとしたら、やはり邪魔をしているのか。
「えっと、勉強中か?こんな話ですまない。兄ちゃん邪魔してるな、すぐ切る。」
「あーちょい待ち、大丈夫。勉強じゃなくてメモだから。」
メモか。邪魔してるんじゃなくてよかった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、弟が言葉を続ける。
「兄貴、告ってきた男について詳しく教えて。判断材料は多い方がいいだろ?」
なるほど、俺の弟は賢いな。
「わかった、まず……」
告白されたのが俺だとバレないように、所々ぼかして概要を説明する。
弟は相槌を打ちながら、メモを取っているようだ。
全てを話し終わったあと、再びどうすればいいかを尋ねる。
「兄貴、その件夏休み明けまで待ってもらえないか交渉してみるのがいいと思うぜ。学園から離れればゆっくり考えれるだろ?俺の邪魔になるなんて思わなくていいから、夏休みになったらすぐ帰省しろよ。」
夏休みまで待ってもらう……
「だが、今からだとだいぶ待たせてしまうことになる。こういうのは早めに返答するのが誠実というものじゃないか?」
5月末の親睦会も終え、来週からは6月に入る。
夏休みは7月下旬から8月中。普段が寮暮らしのため、学園は補講などせず、気前よく帰省させてくれるのだ。
つまり2ヶ月半は待たせることになる。
「兄貴……その2人が本当に好きだって言ってくれてるならそのくらい待ってくれるさ。寧ろ待てないって言うならそれまでの奴ってこと。」
一理ある…のか?
通算でいけば京本は2年は待っているし、蜂須賀も明確には分からないが、だいぶ前からだろう。
「大丈夫だって、帰省したら俺が解決してやる。兄貴は何も悩まなくていいんだ。でももし、そいつらが実力行使したら連絡しろよ。」
「ああ、休日にすまなかったな。助かった。じゃあ夏期休暇は長めに帰省するから、父さんたちにもまた連絡するよ。うん、元気でな、体調に気をつけなさい。」
ピッと通話を切り、携帯を机の上に置く。
椅子にもたれて、ふぅと呼吸を整える。
相談してみるものだったな。
少し心が軽くなった、そんな気持ちで休日の日課である作り置きの品を調理するため、レシピを用意する。
覚えられたらいいんだが、細かいところがな……
凝ったものは作れないが、作り置きに適したものを数品作り、弟のお礼にパウンドケーキを作る。
ちょうどバナナが手に入ったところだったため、奮発して、チョコバナナのパウンドケーキにしよう。
中学の頃、バレンタインのお返しでカップケーキを作ってから、ハマってしまったスイーツ作り。
日持ちもするようなレシピを見つけてからは、たまに実家の弟宛に送っている。
部屋に広がる甘い匂い、お菓子作りって感じになってくる。
オーブン待ちの時間に宿題と予習を途中まで済ませる。こうすれば、明日は宅急便だけで用事が済むからな。
久しぶりに弟と話したからか、帰省が待ち遠しくなってきた。
風紀委員も9月になれば引退して、後輩たち主流になるからな。大学も第3志望まで決めているし、受験シーズンに入ってしまう。
確かに、夏期休暇で結論を出した方が納得のものが出るはず。
屁理屈かもしれないが、いつまでに返事をくれとは言われてない。それに、うじうじするのは柄じゃない。2人が本気なのか、失礼だが見定めさせてもらおう。
月曜に2人に伝えることにしよう。
夏期休暇明けに返事を決めたいと。
「何がということか、わかんねーんだけど…ま、兄貴からの連絡なんて珍しいからな。聞いてやってもいいけど?」
次の日、電話で呼び出したのは実家の弟だ。
中学2年生、来年受験生で、どうも行きたい高校があるらしく今から頑張っていると聞いて、なるべく邪魔しないでおこうと思っていた。だがこういうことは頼りになる。背に腹は変えられん。
「知り合いの話なんだがな?」
「へー、そんで?」
ビデオ通話にしたら、こちらの様子までバレると思い、通話のみにしたのだが、弟の様子も分からなくて少し不安を感じる。
「その…同じ日に2人の男から告白されて、返事をどうしようかと思っているそうだ。」
「断れ。絶対だめ。マジでだめ。」
「だがな?その2人は将来についても考えてくれていて……」
「そんなん好きなら当然でしょ。小学生でも結婚とか妄想して、好きな奴の苗字に自分の名前書くんだから。」
通話先から微かに聞こえる鉛筆の音。勉強中なのかもしれない。そうだとしたら、やはり邪魔をしているのか。
「えっと、勉強中か?こんな話ですまない。兄ちゃん邪魔してるな、すぐ切る。」
「あーちょい待ち、大丈夫。勉強じゃなくてメモだから。」
メモか。邪魔してるんじゃなくてよかった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、弟が言葉を続ける。
「兄貴、告ってきた男について詳しく教えて。判断材料は多い方がいいだろ?」
なるほど、俺の弟は賢いな。
「わかった、まず……」
告白されたのが俺だとバレないように、所々ぼかして概要を説明する。
弟は相槌を打ちながら、メモを取っているようだ。
全てを話し終わったあと、再びどうすればいいかを尋ねる。
「兄貴、その件夏休み明けまで待ってもらえないか交渉してみるのがいいと思うぜ。学園から離れればゆっくり考えれるだろ?俺の邪魔になるなんて思わなくていいから、夏休みになったらすぐ帰省しろよ。」
夏休みまで待ってもらう……
「だが、今からだとだいぶ待たせてしまうことになる。こういうのは早めに返答するのが誠実というものじゃないか?」
5月末の親睦会も終え、来週からは6月に入る。
夏休みは7月下旬から8月中。普段が寮暮らしのため、学園は補講などせず、気前よく帰省させてくれるのだ。
つまり2ヶ月半は待たせることになる。
「兄貴……その2人が本当に好きだって言ってくれてるならそのくらい待ってくれるさ。寧ろ待てないって言うならそれまでの奴ってこと。」
一理ある…のか?
通算でいけば京本は2年は待っているし、蜂須賀も明確には分からないが、だいぶ前からだろう。
「大丈夫だって、帰省したら俺が解決してやる。兄貴は何も悩まなくていいんだ。でももし、そいつらが実力行使したら連絡しろよ。」
「ああ、休日にすまなかったな。助かった。じゃあ夏期休暇は長めに帰省するから、父さんたちにもまた連絡するよ。うん、元気でな、体調に気をつけなさい。」
ピッと通話を切り、携帯を机の上に置く。
椅子にもたれて、ふぅと呼吸を整える。
相談してみるものだったな。
少し心が軽くなった、そんな気持ちで休日の日課である作り置きの品を調理するため、レシピを用意する。
覚えられたらいいんだが、細かいところがな……
凝ったものは作れないが、作り置きに適したものを数品作り、弟のお礼にパウンドケーキを作る。
ちょうどバナナが手に入ったところだったため、奮発して、チョコバナナのパウンドケーキにしよう。
中学の頃、バレンタインのお返しでカップケーキを作ってから、ハマってしまったスイーツ作り。
日持ちもするようなレシピを見つけてからは、たまに実家の弟宛に送っている。
部屋に広がる甘い匂い、お菓子作りって感じになってくる。
オーブン待ちの時間に宿題と予習を途中まで済ませる。こうすれば、明日は宅急便だけで用事が済むからな。
久しぶりに弟と話したからか、帰省が待ち遠しくなってきた。
風紀委員も9月になれば引退して、後輩たち主流になるからな。大学も第3志望まで決めているし、受験シーズンに入ってしまう。
確かに、夏期休暇で結論を出した方が納得のものが出るはず。
屁理屈かもしれないが、いつまでに返事をくれとは言われてない。それに、うじうじするのは柄じゃない。2人が本気なのか、失礼だが見定めさせてもらおう。
月曜に2人に伝えることにしよう。
夏期休暇明けに返事を決めたいと。
30
お気に入りに追加
1,070
あなたにおすすめの小説
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ちょろぽよくんはお友達が欲しい
日月ゆの
BL
ふわふわ栗毛色の髪にどんぐりお目々に小さいお鼻と小さいお口。
おまけに性格は皆が心配になるほどぽよぽよしている。
詩音くん。
「えっ?僕とお友達になってくれるのぉ?」
「えへっ!うれしいっ!」
『黒もじゃアフロに瓶底メガネ』と明らかなアンチ系転入生と隣の席になったちょろぽよくんのお友達いっぱいつくりたい高校生活はどうなる?!
「いや……、俺はちょろくねぇよ?ケツの穴なんか掘らせる訳ないだろ。こんなくそガキ共によ!」
表紙はPicrewの「こあくまめーかー😈2nd」で作成しました。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ずっと夢を
菜坂
BL
母に兄との関係を伝えようとした次の日兄が亡くなってしまった。
そんな失意の中兄の部屋を整理しているとある小説を見つける。
その小説を手に取り、少しだけ読んでみたが最後まで読む気にはならずそのまま本を閉じた。
その次の日、学校へ行く途中事故に遭い意識を失った。
という前世をふと思い出した。
あれ?もしかしてここあの小説の中じゃね?
でもそんなことより転校生が気に入らない。俺にだけ当たりが強すぎない?!
確かに俺はヤリ◯ンって言われてるけどそれ、ただの噂だからね⁉︎
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
副会長様は平凡を望む
慎
BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』
…は?
「え、無理です」
丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる