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9話
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フレデリックが部屋を連れ出されたあと、アルフレッドとギルバートは改めてお茶を入れ直し、向かい合って話をしていた。
「まさか、フレディにあそこまで心配されてるとは思わなかったよ…」
「まあ、フレデリック様は旦那様によく似てるからな」
ギルバートが苦笑気味に答える。
「うーん…。と、なると父上にも反対されるのかなぁ」
「アルが旅に出た方が良いと判断したなら、旦那様は反対はしないだろうな」
心配はするだろうけど。と付け足しながら、ギルバートは席を離れる。
「うーん…。ギルがいれば、大丈夫だと思うけどなぁ」
「お前がそう言うなら、大丈夫だよ」
すぐに戻って来たギルバートは、柔らかく微笑みながらアルフレッドの前に小さな箱を置いた。
「とりあえず急ぎのこれ、できたぞ。まだ試作だから一対しか無いけど、フレデリック様に渡せばいい」
「出来たの?!さすがギル!ありがとう!」
「これで、時々やりとりが出来ればまだ安心してもらえるんじゃないか?」
「良かった~。どうしても、手紙は苦手意識が消えなくて…。フレディに約束出来ないからどうしようかと思った…」
眉を下げながらアルフレッドは大事そうに箱を抱えている。
ギルバートは、アルフレッドの頭をポンポンと撫でるとソファーの隣にそっと座った。
「前世、で約束を破られ続けたんだろう?嫌になっても仕方がないさ。フレデリック様も旦那様も、理由はわからなくても、お前が嫌がることを無理にさせたりなさらないよ」
「それはわかってるけど…。だからといって、旅に出て音沙汰無しっていうのも申し訳なかったからね。本当にありがとう」
アルフレッドは箱を抱えたまま、隣に座ったギルバートの肩に寄りかかるようにして微笑んだ。
「とはいえ、まだどれくらいの距離まで使えるかは分からないからな。この旅でこれの実証実験も兼ねることになる」
「それでも本当に良かったよ。ありがとう」
改めて、お礼を言いながらギルバートに改めて向き合う。
「で、本当に一緒に来てもらって良いのかな?ギルが一緒にいてくれることを当たり前に思っちゃってて、ごめんね…」
箱を机に置いて、両手を膝の上でぎゅっと握る。目は少し背の高いギルバートを見上げるように見つめているが、眉はしょんぼりと下がっていた。
「それでいい。俺もそれが当たり前だと思ってたから、何も言わなかったんだから」
柔らかい表情と声で、まっすぐに見返しながらスルリとアルフレッドの頬を撫でる。
ニヘッと表情を緩めたアルフレッドが、甘えるようにギルバートの手に頬を擦り付けると、ギルバートはニヤリと口の端を上げた。
「むしろ、あれは何だ?俺を置いて他の誰かを連れて行くなんて、俺が許すと思ったのか?」
スリスリと甘えてくる頬を、キュッとつまんでアルフレッドの目を覗き込む。
口調は拗ねているように、軽い響きを乗せているものの、その目は言い訳を許さない強さを持っている。
「ほへんにゃひゃい」
両頬をつままれたまま、瞬いたアルフレッドが素直に謝ると、ギルバートはふっと笑い声を漏らしてその手を頬から頭に移してクシャクシャと撫でた。
「フレデリック様のことを言えないな。俺も、置いて行かれるならすがり付いて泣いてやろうかと思ったぞ」
「え?!やっぱり置いて行こうかな?」
冗談とも本気ともつかない口調の訴えを聞いたアルフレッドがふざけて返す。
「させるようなことをするなと言っただろ」
デコピンで答えたギルバートの口調と表情が拗ねたものになっていたので、「聞いてたのと違う」という訴えを自分の心にしまっておくことにしたアルフレッドは、おでこを押さえたまま再び素直にごめんなさいと謝ったのだった。
アルフレッドが自分のおでこをさすり、ギルバートがクシャクシャになったアルフレッドの髪を整えていると、ドアを叩く音がする。
すぐにギルバートが対応に出る。父が早く戻り、夕食前に話をしようと呼んでいるとセバスが伝えに来たらしい。
ならば、ということでセバスに付いてさっそく父の部屋へ向かうことにした。
「失礼します。アルフレッド様をお連れ致しました」
呼びかけに対してすぐに返事があったので、セバスに続いてアルフレッドと先程の箱を抱えたギルバートが入室する。
その部屋は伯爵の執務室のはずだが、当の伯爵はソファーに疲れたようにもたれて座り、その後ろの執務机の立派な椅子には、なぜかフレデリックをしっかり膝の上で抱えた伯爵夫人が座っている。
「あちらは気にするな。会話の邪魔はしないように約束させている」
アルフレッドの視線に気付いたのか、伯爵は疲れた声を上げた。
「はい?わかりました」
アルフレッドは、不思議そうな顔をしながらソファーに座る。チラリと視線を向けてみたが、抱きしめられるというよりも羽交い締めに近い形で母に抱えられ、拗ねた顔をしたフレデリックとは目が合わない。
しかし、父はそんな次男は放っておくと決めたようで、向かいに座るアルフレッドに向けて真剣な口調で話題を切り出した。
「話があるとのことだが、それはお前が旅に出るという話だな?」
「そうです。俺が王都に残って、色々と騒がしい世間に巻き込まれるのも面倒なので、ちょうどいいかなと思うんですよ」
アルフレッドのあっさりとした返答に、フレデリックが何か言いかけるが、素早く母に口を塞がれた。
「お前が気にしていないと思って、話は終わらせたが…。お前が不快なのなら、今からでも報復するか…?」
「いやいやいやいや!そういう話じゃなかったですよね?!」
真剣な口調で言い募る父が、片手を上げて部屋の隅にいるセバスに合図を送りかけたので、アルフレッドは止めようと慌てて立ち上がる。
勢いよく立ち上がったので、テーブルの上のお茶が揺らめいた。
「それなら!なんでパパを置いて旅に出るなんて言うの?!やだよ!置いてかないで!?」
「わっ?!」
向かいの席で、勢いよく立ち上がった父がテーブル越しにアルフレッドにすがり付いた。
ガチャンと大きな音を立てて、倒れたカップが父の服を濡らし、小さく「アチっ」とつぶやいたが、アルフレッドを抱きしめる腕は緩めない。
「父上!火傷するので、離して下さい!セバス、早く手当を!」
父の様子に慌てたアルフレッドが必死でもがきながら助けを求めると、さっとやってきたセバスが有無を言わさず伯爵を引き剥がして隣室へと連れ出していった。
それを落ち着いて見ていたギルバートは、咄嗟に避けていたアルフレッドの分のお茶をテーブルに戻しながら「やっぱり親子そっくりですね」とつぶやいたので、フレデリックが再びモガモガと騒ぐはめになったのだった。
「まさか、フレディにあそこまで心配されてるとは思わなかったよ…」
「まあ、フレデリック様は旦那様によく似てるからな」
ギルバートが苦笑気味に答える。
「うーん…。と、なると父上にも反対されるのかなぁ」
「アルが旅に出た方が良いと判断したなら、旦那様は反対はしないだろうな」
心配はするだろうけど。と付け足しながら、ギルバートは席を離れる。
「うーん…。ギルがいれば、大丈夫だと思うけどなぁ」
「お前がそう言うなら、大丈夫だよ」
すぐに戻って来たギルバートは、柔らかく微笑みながらアルフレッドの前に小さな箱を置いた。
「とりあえず急ぎのこれ、できたぞ。まだ試作だから一対しか無いけど、フレデリック様に渡せばいい」
「出来たの?!さすがギル!ありがとう!」
「これで、時々やりとりが出来ればまだ安心してもらえるんじゃないか?」
「良かった~。どうしても、手紙は苦手意識が消えなくて…。フレディに約束出来ないからどうしようかと思った…」
眉を下げながらアルフレッドは大事そうに箱を抱えている。
ギルバートは、アルフレッドの頭をポンポンと撫でるとソファーの隣にそっと座った。
「前世、で約束を破られ続けたんだろう?嫌になっても仕方がないさ。フレデリック様も旦那様も、理由はわからなくても、お前が嫌がることを無理にさせたりなさらないよ」
「それはわかってるけど…。だからといって、旅に出て音沙汰無しっていうのも申し訳なかったからね。本当にありがとう」
アルフレッドは箱を抱えたまま、隣に座ったギルバートの肩に寄りかかるようにして微笑んだ。
「とはいえ、まだどれくらいの距離まで使えるかは分からないからな。この旅でこれの実証実験も兼ねることになる」
「それでも本当に良かったよ。ありがとう」
改めて、お礼を言いながらギルバートに改めて向き合う。
「で、本当に一緒に来てもらって良いのかな?ギルが一緒にいてくれることを当たり前に思っちゃってて、ごめんね…」
箱を机に置いて、両手を膝の上でぎゅっと握る。目は少し背の高いギルバートを見上げるように見つめているが、眉はしょんぼりと下がっていた。
「それでいい。俺もそれが当たり前だと思ってたから、何も言わなかったんだから」
柔らかい表情と声で、まっすぐに見返しながらスルリとアルフレッドの頬を撫でる。
ニヘッと表情を緩めたアルフレッドが、甘えるようにギルバートの手に頬を擦り付けると、ギルバートはニヤリと口の端を上げた。
「むしろ、あれは何だ?俺を置いて他の誰かを連れて行くなんて、俺が許すと思ったのか?」
スリスリと甘えてくる頬を、キュッとつまんでアルフレッドの目を覗き込む。
口調は拗ねているように、軽い響きを乗せているものの、その目は言い訳を許さない強さを持っている。
「ほへんにゃひゃい」
両頬をつままれたまま、瞬いたアルフレッドが素直に謝ると、ギルバートはふっと笑い声を漏らしてその手を頬から頭に移してクシャクシャと撫でた。
「フレデリック様のことを言えないな。俺も、置いて行かれるならすがり付いて泣いてやろうかと思ったぞ」
「え?!やっぱり置いて行こうかな?」
冗談とも本気ともつかない口調の訴えを聞いたアルフレッドがふざけて返す。
「させるようなことをするなと言っただろ」
デコピンで答えたギルバートの口調と表情が拗ねたものになっていたので、「聞いてたのと違う」という訴えを自分の心にしまっておくことにしたアルフレッドは、おでこを押さえたまま再び素直にごめんなさいと謝ったのだった。
アルフレッドが自分のおでこをさすり、ギルバートがクシャクシャになったアルフレッドの髪を整えていると、ドアを叩く音がする。
すぐにギルバートが対応に出る。父が早く戻り、夕食前に話をしようと呼んでいるとセバスが伝えに来たらしい。
ならば、ということでセバスに付いてさっそく父の部屋へ向かうことにした。
「失礼します。アルフレッド様をお連れ致しました」
呼びかけに対してすぐに返事があったので、セバスに続いてアルフレッドと先程の箱を抱えたギルバートが入室する。
その部屋は伯爵の執務室のはずだが、当の伯爵はソファーに疲れたようにもたれて座り、その後ろの執務机の立派な椅子には、なぜかフレデリックをしっかり膝の上で抱えた伯爵夫人が座っている。
「あちらは気にするな。会話の邪魔はしないように約束させている」
アルフレッドの視線に気付いたのか、伯爵は疲れた声を上げた。
「はい?わかりました」
アルフレッドは、不思議そうな顔をしながらソファーに座る。チラリと視線を向けてみたが、抱きしめられるというよりも羽交い締めに近い形で母に抱えられ、拗ねた顔をしたフレデリックとは目が合わない。
しかし、父はそんな次男は放っておくと決めたようで、向かいに座るアルフレッドに向けて真剣な口調で話題を切り出した。
「話があるとのことだが、それはお前が旅に出るという話だな?」
「そうです。俺が王都に残って、色々と騒がしい世間に巻き込まれるのも面倒なので、ちょうどいいかなと思うんですよ」
アルフレッドのあっさりとした返答に、フレデリックが何か言いかけるが、素早く母に口を塞がれた。
「お前が気にしていないと思って、話は終わらせたが…。お前が不快なのなら、今からでも報復するか…?」
「いやいやいやいや!そういう話じゃなかったですよね?!」
真剣な口調で言い募る父が、片手を上げて部屋の隅にいるセバスに合図を送りかけたので、アルフレッドは止めようと慌てて立ち上がる。
勢いよく立ち上がったので、テーブルの上のお茶が揺らめいた。
「それなら!なんでパパを置いて旅に出るなんて言うの?!やだよ!置いてかないで!?」
「わっ?!」
向かいの席で、勢いよく立ち上がった父がテーブル越しにアルフレッドにすがり付いた。
ガチャンと大きな音を立てて、倒れたカップが父の服を濡らし、小さく「アチっ」とつぶやいたが、アルフレッドを抱きしめる腕は緩めない。
「父上!火傷するので、離して下さい!セバス、早く手当を!」
父の様子に慌てたアルフレッドが必死でもがきながら助けを求めると、さっとやってきたセバスが有無を言わさず伯爵を引き剥がして隣室へと連れ出していった。
それを落ち着いて見ていたギルバートは、咄嗟に避けていたアルフレッドの分のお茶をテーブルに戻しながら「やっぱり親子そっくりですね」とつぶやいたので、フレデリックが再びモガモガと騒ぐはめになったのだった。
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