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過去話2(sideアル)

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 お兄さん神様の話はこういうことだった。

 今目の前にいる二人以外にも神々は数え切れないほどおり、色んな仕事を分担しながら世界の管理をしている。
 管理といっても、個人に直接働きかけるような出来事はまず無く、世界を見守り、大きな調整を加えることが稀にある。というレベルの話らしい。

 仕事の一環として、地上に神々が降りることもしばしばで、その際は地上の生き物を観察するために、色々な生き物に擬態するのだそうだ。

 最初のきっかけは、お兄さん神様が地上に降りて、人の振りをしてスーパーに居たとき。
 すぐそばにいた、母親に抱っこされていた赤ん坊が突然甲高い声で泣いた。

 その声に周囲の人の視線が集まり、ちょうど商品を万引しようとしていた犯人がその手を止めた。
 今回が初犯で、ここで上手く行ってしまうと常習犯になりかねない状態だった犯人は、失敗に驚き懲りたのか、この後は一切窃盗に手を出すことはなく過ごしているそうだ。

 神様達は、こうして地上で気になった生き物の今後の動向を予見したり、その通りになるか観察したりしながら管理しているらしい。

 また、少し経って全く別の地域にお兄さん神様が降り立った際、今度は電車の中で同じく突然大声を出した赤ん坊が、盗撮を未然に防いだ場面に遭遇する。
 そこで神様は、この赤ん坊万引を止めたのと同じだと気づき驚く。それが、父親の転勤で転居していた俺だったのだそうだから、俺も驚いた。

 こうして、完全に俺に興味を持ったお兄さん神様は、度々俺の近くに降り立っては観察をするようになった。
 そして、成長するにつれて様々な犯罪や困っている人に引き寄せられる俺を見て、徐々に色々な場面設定を自ら演じながら、直接ちょっかいをかけてくるようになってしまった。

 俺自身に大きな影響がない範囲に気をつけて観察をしていたお兄さん神様だが、このお兄さん神様の行動に他の神様も興味を持ってしまい、それぞれが俺にちょっかいをかける。

 その結果、困っている人ホイホイと化した俺。俺が出くわしていた困っている人々の約半分は神様達だったらしい。
 いや、半分が神様たちでも、充分多い。これは元々の俺の運命か…。困っている人ホイホイの運命ってなんだ…。

 その話を聞いても、むしろやはり今回は俺が絡んだせいで他の人のケガが発生した可能性が高いので、それが心配なことは変わらない。
 今まで首をつっこんできたことは、多分他の人にケガをさせたり迷惑をかけるようなことはしていないと信じたい。

 おじさん神様は、ずっと背を撫でている。お兄さん神様を見つめる顔はずっと怖い。けど、ちょっと慣れてきた。

「続けますね」

 事故は本来であれば、スマホを操作していて黒っぽいスーツの酔っぱらいに気付かず、はねとばした運転手はパニックになり逃走。
 はねられたサラリーマンは打ちどころが悪く、また救護を受けられなかったためにそのまま亡くなることになる。

 運転手はその後捕まるが、ドライブレコーダーにより、歩道が赤信号だったことが証明され、罪の意識と逆恨みの意識とに苛まれながら生きていくことになるはずだった。

 しかし、俺が飛び出したことで人影に気づいてハンドルを切った車は、ガードレールにこすりながら停車。運転手は軽症を負ったものの、無事。
 酔っぱらいも俺に突き飛ばされて軽症を負ったものの、やはり無事。
 そこまで聞いて、俺はやっと安心して肩の力が抜けた。

 お兄さん神様はまだ泣き続けており、おじさん神様もなだめ続けている。お兄さん神様を見つめるおじさん神様の目が優しいことに気付き、ちょっとほっこりした。

 話の続きとしては、俺に突き飛ばされてケガをした酔っぱらいは、酔いのせいで状況を正確に理解できず、当初駆けつけた警官にいきなり若者に暴力を振るわれたと騒いだらしい。
 これを見た運転手は、自分が危険運転で事故を起こしかけたことがバレるにも関わらず、ドライブレコーダーの記録を自ら提出。
 俺に対する誤解を解いてくれた。

 サラリーマンも、酔いが醒めたあとは正しく状況を理解し、自分の行動を反省。断酒を決めたそうだ。

「じゃあ、二人共もとの運命?よりはマシな結果になったと思って大丈夫…?ですか…?」

 恐る恐る神様達に結論をまとめて尋ねる。
 二人とも、頷いてくれた。多少の苦労は背負うことになるが、本人達の心持ちが違う分、元の人生より遥かに充実した人生が送れるだろう…とおじさん神様が微笑みながら答えてくれた。よし。微笑みだと言い切れる。

「けど、まあそれなら別にお兄さん神様は悪くないですよね??俺が勝手にやったことで、他の人に悪影響がないなら、まあ俺の自業自得ということで」

 両親は悲しむかもしれないが、俺が悪いことをしていないと証明された。
 息子が人に暴力を振るったと思ってしまうよりはマシだろう。
 それに、俺は友達もいないので両親の他に悲しむ人はいない。――俺だって悲しくないんだからねっ――。

 なだめるつもりでそう口にしたのに、お兄さん神様は嗚咽を漏らしながら顔を伏せてしまった。
 それを見て悲しそうな顔をしたおじさん神様は、お兄さん神様の肩を抱き込むようにして、そっとその額に口づける。

 あ、これ海外ドラマでよくあるやつ。多分、見ない方がいいやつ。

 そっと俺は二人から目線を反らしたのだった。
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