【R18】傲慢な王子

やまたろ

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第七章 王太子の偏愛  王国騎士団 & 王国民

15・熱狂した特別試合

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 遂に御前試合の日がやって来た、スッキリとした晴天に恵まれて、特別試合に対する期待が一層膨らむ。


 王国民は皆んな朝からソワソワと落ち着きが無く、まだ早い時間から演習場の近くをウロついていた、抽選が始まる頃になると、中央の出入口付近にも人々の列が出来始める。


 それを演習場側から見ている二人の騎士がいた、雑用をこなすショーネシーとアーガンだ。


「副団長、ゾクゾクと人が集まってますよ、あの前に立つのはヤバいです、絶対駄目です、逆に争いが起きます」


「しかし、誰かが抽選に立ち会わなくてはならない。当たり外れで毎年喧嘩が起きるからな」


 不正防止の為に抽選くじは騎士が持って皆に引いて貰うが、スリや金銭と交換する者がいたり、当たりくじを奪い合ったりと、毎年小競り合いが起きる。


 団長が試合に出場する今回はショーネシーが警備の指揮をとる、揉め事が起きないように自分で抽選係をしようとしたら、アーガンに止められたのだ。


「副団長、自分がどれだけ人気者か知らないんですか?、野郎は良くても女の争いで下手したら血の雨が降りますよ?」


「……」


 アーガンだけでは無く、他の団員からも場が混乱して逆に警備がしづらいと、外に出る事を禁止された。


 …何だろう、厄介者みたいな扱いなんだが…


 彼は渋々会場の警備に回り、国王や王妃、王太子が座る貴賓席に異状が無いかを確認していた。


「どうやら、大丈夫だな」


 ショーネシーが一通り貴賓席の確認を終えた頃、抽選で入場券を勝ち取った人々が入ってくる、観客席がどんどん埋まっていき、やがて人々の熱気が演習場を覆いつくしていった。


 出場者するグリード、ジョン、チャーリーの三人は、演習場の建物内をグラウンドへ向かって移動していた。


「団長、お互い手加減無しですよ」


【氷の疾風】ジョン・スカルティが騎士団長のグリードに宣戦布告をする。


「勿論だ、遠慮は要らない、お前達も本気で向かって来い」


 これまで踏んで来た場数が違う【赤い悪魔】グリード・ベルクマンは余裕で答える。


「いや~、俺達を舐めてもらっちゃ困るっす、怪我しますよ、団長」


【炎の剛剣】チャーリー・ベアードがいつもと同じくフザケた感じで答える。


 試合前だというのに三人は全く緊張していない、強者達はワクワクした気持ちで試合開始を待っていた。


 三人はそれぞれ別の出入口からグラウンドに入場する予定だ、分かれ道にきた所でグリードが最後の声をかける。


「お前達と戦うのは最初で最後だ、お互い全力で戦い、全力で楽しもう、行くぞ!」


「「  おお!!」」


 ジョンとチャーリーが団長の檄に答える、その後三人は別れて自分の登場口へと向かった。





 ◆◇◆◇◆◇





「それで、試合はどうだったんだ?」


 御前試合が終わってその興奮も冷めやらぬ中、まだ夕方なのに庶民達は酒場に集まり始めていた。
 抽選に外れて観戦出来なかった人々が、運良く観戦出来た者達に試合の話をせがんでいる。


「まて、先に一口飲ませてくれ」

「俺も喉がカラカラだ」


 演習場から出て来た者達は、叫び過ぎたり熱気にやられたりと喉が乾いていた、ゴクゴクと喉を潤すと一部始終を語り出す。


「まずは登場した所からだが、三人とも登場から派手だった、三者三様の演出で俺達観客を魅了したんだ」


 抽選を外れた者達や、仕事で試合が見られなかった若者達が話に食いつき先を急かす。


「それで、一体どんな登場だったんだ」


「まず【氷の疾風】ジョンは、登場すると同時に細氷ダイヤモンドダストを撒き散らした、それが太陽の光に照らされて演習場がキラキラと輝いた」


「幻想的でキレイだったな、演習場の温度が少し下がって気持ち良かった」


 観戦していた者達は皆んな同意して深く頷く、見ていない者達が羨ましがる。


「スゲェな、見たかったな~」


「本人の涼やかな容姿と相まって、女供の黄色い悲鳴がうるさかったのなんの」


 その時の事を思い出したのか、語り部達は顰めっ面をしている。見てない者達は更に先を知りたがる。


「チャーリーも何かしたのか?」


「勿論だ【炎の剛剣】は小さな火の玉を幾つも出すと、それを踊らせて最後は一つの大きな火の玉にして、バーンって空で爆発させたんだ」


「流石は炎の男だぜ、小さく纏まらない所がチャーリーの良い所だからな」


 観ていた男達は満面の笑顔で、顔を合わせてうんうん頷きあってある。観戦出来なかった者達は皆んな悔しそうだ。


「うわ~派手だな、見たかったな」


「爆発も飛び散る火花もとにかく豪快だった、男供は大興奮でチャーリーに野太い声援を送ってた」


 話を聞いている間に、観戦帰りの人々が本格的に酒場に集まり始めた、客がどんどん増えて店の中は超満員になる。


「団長もなんかしたのか?」


 観戦してない男達の興味が、久し振りに御前試合に出場したグリード団長に移った、すると観戦者たちの様子が変わる。


「ああ、グリード団長は演習場の地面に文字を浮かび上がらせた……鳥肌が立ったよ……」


「ああ、煙が立ったなと思うと、白砂の地面が黒く焼かれて文字になったんだ」


「あれには心が震えたよ」


 先程までと違い、男達は味わった感動に再度浸っているのか静かに話す。観戦していない者達が話の先を催促する。


「なんて文字だよ?」


「……俺は戻って来た……だよ」


「あん時の会場の雰囲気は凄かったな、皆んな足を踏み鳴らして、団長コールが巻き起こったんだ」


「皆んなずっと団長の勇姿を観たかったんだ、団長の文字宣言には痺れたよ」


 遠くを見つめていた男達は試合を語る役目を思い出したのか続きを話し出す。


「で、その後直ぐに試合開始が宣言されて、まずチャーリーが口火を切ってグリード団長に斬りかかった」


「おお!、やるなチャーリー」


「グリード団長は二本の剣を交叉して剛剣を受け止め、片足でチャーリーを蹴り飛ばした」


「カッケェ、団長は二刀流なのか!」
「グリード団長、強いんだな」


「だが、団長の直ぐ後ろにはジョンが迫っていて、跳躍して頭上から細剣を振り下ろしてきたんだ」


「二人とも団長狙いなのか?」
「それで、どうなったんだ?」


「団長はすかさず振り返ると、二本の剣を並行にして剣撃を受け止めた、そしてジョンごと横にはらい飛ばしたんだ」


「カッケェ!!、何だよそれ」
「うわっ、それ見たかったな~」


「凄いのは二人の攻撃を受け止めた団長が、殆どその場を動いていないってとこだ」


「嘘だろ、あの二人の攻撃だぞ?」
「チャーリーの剛剣を受けてもか?」


「その後、ジョンとチャーリーは共闘してグリード団長に挑んだが、団長を脅かす事も出来なかったよ」


 グリード団長の事をよく知らない若者達は、半信半疑で観戦者に疑問をぶつける。


「おいおい、二人には魔法攻撃があるだろ?、それも駄目だったのか?」


「お前、団長の二つ名を知らないのか」

「知ってるよ【赤い悪魔】だろ?」

「何でそう呼ばれてるか分かるか?」

「夕日色の髪と瞳が由来だろ?」


「いや違う、グリード団長は特殊な火魔法の使い手なんだ、ジョンの氷なんて直ぐに溶けて攻撃にもならない」


 言い返された若者は、むむっと眉を顰めると反論を試みる。


「でも同じ火魔法のチャーリーだったらイケるんじゃないか?」


「チャーリーの火魔法よりグリード団長の火魔法の方が火力が上だ、だから【赤い悪魔】なんだよ」


「あの人は剣の腕も立つし魔法攻撃にも強い、グリード団長は騎士団で最強の男なんだ」


「…………」


 若者達は初めて聞くグリード団長の凄さに驚いて声も出ない。若者の代わりに年配の男達が勝負の行方を聞いた。


「それで試合の勝敗はどうなったんだ」


「三人とも剣も落とさず、倒れ伏したりもせずに時間切れになった。判定でグリード団長が勝利したよ」


「当然だな、グリード団長は圧倒的に強かったからな」


 そこから酒場ではグリード団長の凄さが話題の中心となり、団長を敬愛する男達が熱く語り合う。

「相変わらず凄かったなグリード団長」

「ああ、カッコよかった、あの強い二人が子供みたいだったよ」

「団長は鬼強いからな」

「今年の御前試合は最高だったな」

「予選が中止になった時は盛り下がったけど、結果として特別試合が見られて良かったよ」

「久し振りにグリード団長の勇姿を見れた、今日の酒は美味いな」

「痺れる試合だったな」

「誰だか知らないが、グリード団長に試合をさせた奴に感謝だな」

「情報通によると王太子様の発案らしいぞ」

「たまには良い事するじゃないか」

「俺、団長の絵姿を買っちまったぜ」

「お前もか、恥ずかしながら俺もだ」

「楽しかったな、明日からも頑張るか」


 急遽の開催となった特別試合は大好評で、試合を観戦した者も観戦出来なかった者も、皆一様に楽しそうだ。


 グリードの活躍は庶民達に活力を与えた、今では予選の事を話題に出す者は殆どいない、酒場の夜は興奮する男達のお喋りで賑やかに更けていった。

 ただ、残念な事に新星ニュースターと【水の貴公子】の名前を口にする者は一人もいなかった。











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