【R18】傲慢な王子

やまたろ

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第七章 王太子の偏愛  王国騎士団 & 王国民

10・水面下で蠢く人々

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 ある宿屋の一室に男達が集まり、薄暗い部屋の中で密談をしていた。


 カチャカチャカチャチャラン


 一人の若い男が袋から貴金属を取り出して、テーブルの上に広げて見せた、それはイザベラの部屋から紛失した物だった。
 他国民の男は宝石を手に取り明かりにかざして、一つ一つ価値を見定める。


「これはこれは見事な宝石達だ」


「では報酬はこれで宜しいか?」


 若い男が他国民に聞いた、三人の他国民は顔を見合わせて頷き合うと、ネックレスや指輪、ブローチ等の宝石を袋にしまう。


「ええ満足です、私達は今夜中に旅立ってジュール王国へ向かいます、貴方方の復讐が成功する事を祈っていますよ、では失礼」


 各国を移動する他国民は報酬として宝石を受け取った、宝石は軽くて持ち運びが簡単な上に換金もしやすい。計画を立てるだけの彼等にはこれで十分だった。


 他国民の三人が部屋を出て行った後、薄暗い部屋に残っているのは、復讐心に燃える男達だけだ。


 彼等はアルジオン伯爵に恨みを持つ者達の集まりで復讐の機会を狙っていた、そんな彼等に絶好の機会が訪れる、王家が急遽貴族を集めて夜会を開くことなったのだ。


「僕達が手引きをする」
「俺達は金庫から金を奪う」
「私達は伯爵を拉致して命を奪う」


 ようやく宿願を果たす時を迎えた男達は、それぞれの役割や計画を確かめ合った。


 だが復讐計画を練り始めた最初から経過を見続ける者がいる事に、彼等は誰一人気付いていなかった。

  



 ◆◇◆◇◆◇





 目を開けると、見覚えはあるが名前が分からない男がアンナの顔を覗き込んでいた、朝食を運んできたようだ。


「アンナ、目が覚めたかな?」


 あの日アンナはこの男に拐われて、どこか分からない部屋に閉じ込められた。逃げ出せないよう片足を鎖で繋がれて、もう何日経ったのかも分からない。


「貴方は誰なの?、お願い帰らせて」


 男は殆ど家におらず、朝晩の食事を運んでくる時しか顔を合わせなかった、男は目覚めたばかりのアンナに優しい声で話しかける。


「もう君の帰る家は無いんだ、暫くこの家で暮らせばいい」


「嘘言わないで!、帰らせてよ」


 寝台の上でアンナは暴れて、近くに居る男の体をボカボカ殴る。


「一体貴方は誰なの、どうして私にこんな事をするの!?」


 男はアンナに殴られるがままで、怒りもせず抵抗もしない。これまでの所アンナに暴力を振るったりもしなかった。


「まだ僕の名前を思い出せないの?、早く思い出して名前を呼んでよ」


 男はアンナの質問には答えず、毎度自分の名前を思い出したか確認して来る。


「あ~時間切れだ、仕事に行くから僕が帰るまでに名前を思い出して」


 困惑するアンナを残して若い男は外出した。




 ◆◇◆◇◆◇




 東の辺境伯、ダーズリー伯爵は王家からの要請で夜会に出席する事になり、取り急ぎ王都を目指していた。
 伯爵は普段辺境に籠っている為、社交場で姿を見かける事は殆ど無いが、今回は王命なので欠席する事は許されない。


「やれやれ、厄介な事になった」


 馬車の窓から流れる外の景色を見ていた伯爵がボソリと呟く。


 ダーズリー辺境伯は容姿に恵まれず、領地も辺境なので中々女性と縁が無かった、後継者がいない事を心配した王家が、夜会で婚約者を探させる事にしたのだ。


「伯爵様、必ず花嫁を見つけて下さい」


 東の辺境を出立する前に、邸の者達からかけられた言葉を思い出す、彼等は悲壮感漂う表情をしていた。
 ダーズリーは己の不甲斐なさを恥じた、四十歳を過ぎても婚姻どころか婚約すら出来ず、使用人達にまで心配を掛ける有り様だ。


「仕方ない、どんな花嫁でも連れて帰るか…」


 ダーズリー伯爵は迷っていた王家の打診を受ける覚悟を決めた、健康で子供が産めるのなら他は大した問題ではない、どんな女性でも目をつぶろう。


 馬車が王都に着くとタウンハウスで着替えて王城へ向かう、事前に約束をしていたダーズリー伯爵は、直ぐに謁見の間へ通された。
 

 社交界に顔を出していなかったダーズリー伯爵は、高貴な二人と初めて間近に顔を合わせ、その佇まいに圧倒された。

 
 …まるで、太陽の化身と夜の化身 のようだ…


 並び立つ二人の王子の美しさに、ダーズリー辺境伯は目を奪われる、そんな彼に太陽の化身が声をかけた。


「ダーズリー辺境伯、遠路遥々よく来てくれた。早速だが返事を聞かせて貰おうか」


 圧倒的なオーラを放つ二人に、二方向から同時に見つめられた伯爵は、気圧されて暫く声を発する事が出来なかった。




 ◆◇◆◇◆◇




 イザベラは有頂天だった、水晶と琥珀石のアクセサリーを身に付けて、うっとりと鏡を眺めている。


 アンナに宝石を持ち逃げされて、夜会で身に付ける宝飾品がない事を聞いたダルトン殿下から、ジュエリーを模した試作品の魔導具を貸与されたのだ。


「本当に綺麗、とても魔導具には見えないわ」


 夜会を含めた数日の間身に付けて、試用感を聞きたいと渡されたのは、高級なジュエリーにしか見えない魔導具だった。
 あのメイドが持ってきた事と、石の色がダルトンではなく王太子の色な事以外は総じて最高だった。

 …それにしても、あのメイド本当に嫌味ね…


「イザベラ様、こちらは大変貴重な魔導具でございます、貸与するに当たって幾つかの書類にご署名を頂きます」


 にこりともしないメイドに、貸与を受ける借受書やら魔導具を使用する同意書やら、何枚もの書類に署名をさせられた。


「夜会の前日から五日間は必ず身に付けておいて下さい、問題が無ければ貸与期間の満了を持って、イザベラ様へ所有権が移ります、その後はご自由になさって下さい」
 

 全くもって美味しい話だった、数日の間ただ身に付けて過ごすだけで、見映えのする魔導具が手に入るのだ。
 大粒の琥珀石が三個と、その周りをダイヤに似せてカットした水晶が幾つも飾る豪華さは、イザベラの虚栄心を十二分に満たした。


「これはダルトン様から私への贈り物よね」


 妻がいるダルトンが他の女性に堂々とジュエリーを贈る事は憚られる、その為、魔導具として自分にプレゼントしてくれたのだと、イザベラは勝手に解釈していた。


 イザベラは明日の夜会が待ち遠しくて堪らない、このジュエリーを付けた姿を早くダルトンに見て欲しい、イザベラは夜空を見上げて宣言をする。


「ダルトン様、明日は最高に美しい私を見せますわよ」


 星が瞬く夜空は【夜の天使】の瞳を思わせ、イザベラの心をときめかせた。



 






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