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第七章 王太子の偏愛 王国騎士団 & 王国民
8・暗躍する異母兄弟
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その日ダルトンは珊瑚の指示で西口から離宮に戻った、居室に入ると楽な服装に着替えて、離宮内部の様々な報告書を読み始める。
「今日も毒花が待ち伏せをしていたのか、飽きない事だな」
ダルトンは珊瑚に話しかけた、彼女はメイヴィスが付けてくれた暗部の人間だ、メイドに扮した彼女がダルトンにお茶をサーブする。
「はい、熱意だけは素晴らしい方です」
「要らない熱意だがな、まあ、僕に絡んでいる間は兄上に手出し出来無いだろうから、良しとするか」
異母兄弟至上主義のダルトンは、自身の煩わしさより兄の平和な日常の方が大切だった。
紅茶を飲んで寛ぎながら報告書を読んでいたダルトンの口から呟きが漏れる。
「今日も母子共に順調だな…………女官長の処分をどうするべきか……兄上に相談するか」
女官長は自分の人事権を私的に使った罪はあるが、脅迫の被害者でもある。
「コーラル、イザベラの監視を頼むぞ、あの手の女は常識はずれな事を平気でしでかす、何かあったら私よりグレーシーを守れ」
ダルトンはこれまでの女性経験から、イザベラが危険な特異性の持ち主だと気付いていた。
「それは出来ません。メイヴィス殿下からはイザベラ嬢を監視する事とダルトン殿下をお護りする指示しか受けていません。第二王子妃殿下については離宮の警備の者の仕事です」
任務に忠実で融通の効かない珊瑚にダルトンは苦笑するが、実直な面は好ましくもあった。
「分かった、それも兄上に相談してみるよ、今日はもう下がって良い」
珊瑚はお辞儀して部屋を下がった。
イザベラは出仕してから色々と動いているが、未だダルトンとは接触出来ていない。
イザベラが離宮に上がる事を知ったメイヴィスが、離宮の警護を増やすと同時に暗部の者を潜り込ませたからだ。
特にダルトンの居室に行く通路の全てに警備の者が配置され、猫が迷い込む事すら不可能な状態だ。
……ふふ、兄上は心配し過ぎなんだよ……
ダルトンはメイヴィスの愛情が嬉しい反面気恥ずかしくもある、護ろうとした兄から過保護なほど護られて、じんわりと心が温かくなる。
「……兄上」
メイヴィスの事を考えるダルトンの表情は穏やかで、その顔には美しい微笑みが浮かんでいる。
その微笑みは幸福感に満ちており、見た者全てを虜にするほど魅力的だった。
自分一人しか居ない部屋の中で【夜の天使】は無駄にその魅力を発揮していた。
◆◇◆◇◆◇
頼まれていた魔導具を持参したギガは、執務室に入ると真っ先に質問した。
「メイ、あれ飲んでみたか?」
ギガの瞳はキラキラと輝いて、ウキウキそわそわニコニコと、とても楽しそうだった。そんな彼を怪しみつつメイヴィスは答える。
「いや、まだ飲んでいない」
あれとは蛍光ピンクの液体の事だ、まだ飲んでいないと知ると、ギガはガッカリして服用を促した。
「そうか、早く飲んだ方がいいぞ、薬も出来立てが一番だからな」
…怪しい、やはり碌な薬じゃなかったか…
メイヴィスは眼を細めて疑い深くギガを見た、ギガの体が急にびくんっとなる。
「あれっ、なんか今ピリッとした、メイ?」
軽く戸惑っているギガをメイヴィスが睨む、目力が半端なく強い、バチバチしている。
「ギガ、白状しろあの薬は何だ?」
「心配しなくても毒じゃない、あっ、今ビリっとした、メイ?」
早く白状すれば良いのに少し不安そうな顔をしながらも、ギガはまだシラを切るつもりらしい、メイヴィスは罪人を見る目つきでギガを見る。
「あ、あ、あ、あ、なんかビリビリしてる、痛い痛い、メイ!、言うよ、言うから」
メイヴィスの魔力で痺れたギガが、恨めしげにメイヴィスを睨んでブツブツと文句を言う。
「俺はメイの為にあの薬を作ったんだぞ!、俺の友情に対して電撃を返すとは本当に酷い奴だ、凄く痛かったぞ」
「いいから早く吐け、あれは一体何の薬だ?」
メイヴィスが催促すると、不満気だったギガの顔がニヤニヤ笑いに変わる。
「あれは飲んだらフェロモンの量が爆発的に増えて、ダルトン並みに女性にモテる薬だ」
「何だと!、お前そんな危険なものを私に飲ませるつもりだったのか?」
ギガが変人だと知ってはいるが、今までの薬の中でもかなり酷い部類に入る。
「この間、女性にモテない話をした時メイが悲しそうだったから作って見たんだ、モテるから早く飲んでみろよ」
「…………ギガ」
メイヴィスが飲んだら王城内が大混乱になったかも知れないのに、ギガはにこにこと自慢気だ、メイヴィスはげんなりした。
……知ってる、分かってる、ギガはこんな奴だって、だが危なかった……
ギガは変人で発想が少し変わっているが根は素直な良い奴で、全て善意から行動しているのは間違いない。
彼を良く知るメイヴィスは、ギガを責める事はせずに話題を変えた。
「試すのは今度にするよ、それより頼んでいた魔導具は出来たのか?」
「ああ、面白くて色々と作ってみた」
ギガが机の上に幾つも魔導具を並べた、どれもアクセサリータイプで見栄えも良く、堂々と付けても違和感がなさそうだ。
「凄いな、流石はギガだ」
メイヴィスがギガの才能に感嘆する、褒められたギガは鼻高々で説明を始める。
「まずこれだ、この腕輪を付けると他から見て別の人間に見える魔導具だ、ダルトンがつけたら他人の眼を欺く事が出来る」
「それは凄いな、その効果の持続時間はどの位だ?」
「今ここに有る物は全て10日間位かな、フルで使い続けたらその位で魔力が切れる、メイが魔石に魔力を入れればまた使えるけど、それで良かったか?」
「ああ問題ない、こっちの指輪は何だ?」
「それは対になっていて、首輪を付けた女性が指輪を付けた男性を見たら、男性が自分の好きな人に見えるんだ、本人から引き離す陽動とかに使えるぞ」
「凄いな、そんな物を作れるなんて、流石だよギガ、天才だな」
「そうだろう、そうだろう、もっと俺を褒めろ、メイ」
おだてに弱いギガはメイヴィスの褒め言葉に上機嫌で説明を続けて、残りの魔導具の説明も一通り終えると魔法省へ帰って行った。
◆◇◆◇◆◇
ギガから魔導具を受け取ったメイヴィスは、その日の内にダルトンと会って幾つか魔導具を渡した。
メイヴィスは魔導具の腕輪を手に取ると、最愛の弟を守ってくれるそれを自らダルトンの腕に付ける。
「この腕輪を付ければ、お前の姿が別人に見える筈だ、もうイザベラを気にせずに自由に離宮を出入り出来るぞ」
嬉しそうに腕輪を付けるメイヴィスを見て、ダルトンは照れくさくなる。
「兄上、少し過保護では有りませんか」
「何を言うダルトン、お前に何かあったらどうする、用心するに越したことは無い」
弟に意見された兄は自分の意見を押し通す、ダルトンは相変わらずな兄に心が和む。
昔からメイヴィスはダルトンの事になると自分の意見を押し通した、そして様々な外圧から護ってくれた、だからダルトンも自分に出来る唯一の方法でメイヴィスを護ってきた。
カリスマオーラを持つメイヴィスは、女性よりも男性から崇拝される事が多い、だが女性にモテない訳では無い、変な女性が近づかないようにダルトンが常に牽制をしていたのだ。
ダルトンは昔から女性達の興味を引いた、それは淡いものから性的なものまで幅広い、メイヴィスを好きな女性でもダルトンが迫れば大抵は堕ちた。メイヴィスを護りたいダルトンが持つ唯一有効な手段がハニートラップだった。
第二王子は魔性の魅力を持っている、ハニートラップをしていた事も有って、ダルトンの女性遍歴は多岐に渡る、イザベラごとき何でもないが、兄に関心を持たれるのはとても嬉しい。
「僕より兄上の方が心配です、あの女が何か仕掛けてくるかも知れません、注意して下さい」
ダルトンは最愛の兄を心配する、何しろ憎々し気に睨まれていたのは彼の方なのだ。
メイヴィスは自分を心配してくれる最愛の弟を慈愛に満ちた微笑みで安心させる。
「大丈夫だダルトン、御前試合の頃には落ち着くさ、もう少しの辛抱だ」
メイヴィスとダルトン、異母兄弟至上主義の思想を持つ二人は、いつも通り兄弟愛が濃密な時間を過ごしていた。
「今日も毒花が待ち伏せをしていたのか、飽きない事だな」
ダルトンは珊瑚に話しかけた、彼女はメイヴィスが付けてくれた暗部の人間だ、メイドに扮した彼女がダルトンにお茶をサーブする。
「はい、熱意だけは素晴らしい方です」
「要らない熱意だがな、まあ、僕に絡んでいる間は兄上に手出し出来無いだろうから、良しとするか」
異母兄弟至上主義のダルトンは、自身の煩わしさより兄の平和な日常の方が大切だった。
紅茶を飲んで寛ぎながら報告書を読んでいたダルトンの口から呟きが漏れる。
「今日も母子共に順調だな…………女官長の処分をどうするべきか……兄上に相談するか」
女官長は自分の人事権を私的に使った罪はあるが、脅迫の被害者でもある。
「コーラル、イザベラの監視を頼むぞ、あの手の女は常識はずれな事を平気でしでかす、何かあったら私よりグレーシーを守れ」
ダルトンはこれまでの女性経験から、イザベラが危険な特異性の持ち主だと気付いていた。
「それは出来ません。メイヴィス殿下からはイザベラ嬢を監視する事とダルトン殿下をお護りする指示しか受けていません。第二王子妃殿下については離宮の警備の者の仕事です」
任務に忠実で融通の効かない珊瑚にダルトンは苦笑するが、実直な面は好ましくもあった。
「分かった、それも兄上に相談してみるよ、今日はもう下がって良い」
珊瑚はお辞儀して部屋を下がった。
イザベラは出仕してから色々と動いているが、未だダルトンとは接触出来ていない。
イザベラが離宮に上がる事を知ったメイヴィスが、離宮の警護を増やすと同時に暗部の者を潜り込ませたからだ。
特にダルトンの居室に行く通路の全てに警備の者が配置され、猫が迷い込む事すら不可能な状態だ。
……ふふ、兄上は心配し過ぎなんだよ……
ダルトンはメイヴィスの愛情が嬉しい反面気恥ずかしくもある、護ろうとした兄から過保護なほど護られて、じんわりと心が温かくなる。
「……兄上」
メイヴィスの事を考えるダルトンの表情は穏やかで、その顔には美しい微笑みが浮かんでいる。
その微笑みは幸福感に満ちており、見た者全てを虜にするほど魅力的だった。
自分一人しか居ない部屋の中で【夜の天使】は無駄にその魅力を発揮していた。
◆◇◆◇◆◇
頼まれていた魔導具を持参したギガは、執務室に入ると真っ先に質問した。
「メイ、あれ飲んでみたか?」
ギガの瞳はキラキラと輝いて、ウキウキそわそわニコニコと、とても楽しそうだった。そんな彼を怪しみつつメイヴィスは答える。
「いや、まだ飲んでいない」
あれとは蛍光ピンクの液体の事だ、まだ飲んでいないと知ると、ギガはガッカリして服用を促した。
「そうか、早く飲んだ方がいいぞ、薬も出来立てが一番だからな」
…怪しい、やはり碌な薬じゃなかったか…
メイヴィスは眼を細めて疑い深くギガを見た、ギガの体が急にびくんっとなる。
「あれっ、なんか今ピリッとした、メイ?」
軽く戸惑っているギガをメイヴィスが睨む、目力が半端なく強い、バチバチしている。
「ギガ、白状しろあの薬は何だ?」
「心配しなくても毒じゃない、あっ、今ビリっとした、メイ?」
早く白状すれば良いのに少し不安そうな顔をしながらも、ギガはまだシラを切るつもりらしい、メイヴィスは罪人を見る目つきでギガを見る。
「あ、あ、あ、あ、なんかビリビリしてる、痛い痛い、メイ!、言うよ、言うから」
メイヴィスの魔力で痺れたギガが、恨めしげにメイヴィスを睨んでブツブツと文句を言う。
「俺はメイの為にあの薬を作ったんだぞ!、俺の友情に対して電撃を返すとは本当に酷い奴だ、凄く痛かったぞ」
「いいから早く吐け、あれは一体何の薬だ?」
メイヴィスが催促すると、不満気だったギガの顔がニヤニヤ笑いに変わる。
「あれは飲んだらフェロモンの量が爆発的に増えて、ダルトン並みに女性にモテる薬だ」
「何だと!、お前そんな危険なものを私に飲ませるつもりだったのか?」
ギガが変人だと知ってはいるが、今までの薬の中でもかなり酷い部類に入る。
「この間、女性にモテない話をした時メイが悲しそうだったから作って見たんだ、モテるから早く飲んでみろよ」
「…………ギガ」
メイヴィスが飲んだら王城内が大混乱になったかも知れないのに、ギガはにこにこと自慢気だ、メイヴィスはげんなりした。
……知ってる、分かってる、ギガはこんな奴だって、だが危なかった……
ギガは変人で発想が少し変わっているが根は素直な良い奴で、全て善意から行動しているのは間違いない。
彼を良く知るメイヴィスは、ギガを責める事はせずに話題を変えた。
「試すのは今度にするよ、それより頼んでいた魔導具は出来たのか?」
「ああ、面白くて色々と作ってみた」
ギガが机の上に幾つも魔導具を並べた、どれもアクセサリータイプで見栄えも良く、堂々と付けても違和感がなさそうだ。
「凄いな、流石はギガだ」
メイヴィスがギガの才能に感嘆する、褒められたギガは鼻高々で説明を始める。
「まずこれだ、この腕輪を付けると他から見て別の人間に見える魔導具だ、ダルトンがつけたら他人の眼を欺く事が出来る」
「それは凄いな、その効果の持続時間はどの位だ?」
「今ここに有る物は全て10日間位かな、フルで使い続けたらその位で魔力が切れる、メイが魔石に魔力を入れればまた使えるけど、それで良かったか?」
「ああ問題ない、こっちの指輪は何だ?」
「それは対になっていて、首輪を付けた女性が指輪を付けた男性を見たら、男性が自分の好きな人に見えるんだ、本人から引き離す陽動とかに使えるぞ」
「凄いな、そんな物を作れるなんて、流石だよギガ、天才だな」
「そうだろう、そうだろう、もっと俺を褒めろ、メイ」
おだてに弱いギガはメイヴィスの褒め言葉に上機嫌で説明を続けて、残りの魔導具の説明も一通り終えると魔法省へ帰って行った。
◆◇◆◇◆◇
ギガから魔導具を受け取ったメイヴィスは、その日の内にダルトンと会って幾つか魔導具を渡した。
メイヴィスは魔導具の腕輪を手に取ると、最愛の弟を守ってくれるそれを自らダルトンの腕に付ける。
「この腕輪を付ければ、お前の姿が別人に見える筈だ、もうイザベラを気にせずに自由に離宮を出入り出来るぞ」
嬉しそうに腕輪を付けるメイヴィスを見て、ダルトンは照れくさくなる。
「兄上、少し過保護では有りませんか」
「何を言うダルトン、お前に何かあったらどうする、用心するに越したことは無い」
弟に意見された兄は自分の意見を押し通す、ダルトンは相変わらずな兄に心が和む。
昔からメイヴィスはダルトンの事になると自分の意見を押し通した、そして様々な外圧から護ってくれた、だからダルトンも自分に出来る唯一の方法でメイヴィスを護ってきた。
カリスマオーラを持つメイヴィスは、女性よりも男性から崇拝される事が多い、だが女性にモテない訳では無い、変な女性が近づかないようにダルトンが常に牽制をしていたのだ。
ダルトンは昔から女性達の興味を引いた、それは淡いものから性的なものまで幅広い、メイヴィスを好きな女性でもダルトンが迫れば大抵は堕ちた。メイヴィスを護りたいダルトンが持つ唯一有効な手段がハニートラップだった。
第二王子は魔性の魅力を持っている、ハニートラップをしていた事も有って、ダルトンの女性遍歴は多岐に渡る、イザベラごとき何でもないが、兄に関心を持たれるのはとても嬉しい。
「僕より兄上の方が心配です、あの女が何か仕掛けてくるかも知れません、注意して下さい」
ダルトンは最愛の兄を心配する、何しろ憎々し気に睨まれていたのは彼の方なのだ。
メイヴィスは自分を心配してくれる最愛の弟を慈愛に満ちた微笑みで安心させる。
「大丈夫だダルトン、御前試合の頃には落ち着くさ、もう少しの辛抱だ」
メイヴィスとダルトン、異母兄弟至上主義の思想を持つ二人は、いつも通り兄弟愛が濃密な時間を過ごしていた。
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