【R18】傲慢な王子

やまたろ

文字の大きさ
上 下
80 / 88
第七章 王太子の偏愛  王国騎士団 & 王国民

8・暗躍する異母兄弟

しおりを挟む
 その日ダルトンは珊瑚コーラルの指示で西口から離宮に戻った、居室に入ると楽な服装に着替えて、離宮内部の様々な報告書を読み始める。


「今日も毒花が待ち伏せをしていたのか、飽きない事だな」

 ダルトンは珊瑚コーラルに話しかけた、彼女はメイヴィスが付けてくれた暗部の人間だ、メイドに扮した彼女がダルトンにお茶をサーブする。


「はい、熱意だけは素晴らしい方です」


「要らない熱意だがな、まあ、僕に絡んでいる間は兄上に手出し出来無いだろうから、良しとするか」


 異母兄弟至上主義のダルトンは、自身の煩わしさより兄の平和な日常の方が大切だった。
 紅茶を飲んで寛ぎながら報告書を読んでいたダルトンの口から呟きが漏れる。


「今日も母子共に順調だな…………女官長の処分をどうするべきか……兄上に相談するか」


 女官長は自分の人事権を私的に使った罪はあるが、脅迫の被害者でもある。


コーラル珊瑚、イザベラの監視を頼むぞ、あの手の女は常識はずれな事を平気でしでかす、何かあったら私よりグレーシーを守れ」


 ダルトンはこれまでの女性経験から、イザベラが危険な特異性の持ち主だと気付いていた。


「それは出来ません。メイヴィス殿下からはイザベラ嬢を監視する事とダルトン殿下をお護りする指示しか受けていません。第二王子妃殿下については離宮の警備の者の仕事です」


 任務に忠実で融通の効かない珊瑚コーラルにダルトンは苦笑するが、実直な面は好ましくもあった。


「分かった、それも兄上に相談してみるよ、今日はもう下がって良い」


 珊瑚コーラルはお辞儀して部屋を下がった。


 イザベラは出仕してから色々と動いているが、未だダルトンとは接触出来ていない。
 イザベラが離宮に上がる事を知ったメイヴィスが、離宮の警護を増やすと同時に暗部の者を潜り込ませたからだ。
 特にダルトンの居室に行く通路の全てに警備の者が配置され、猫が迷い込む事すら不可能な状態だ。

 ……ふふ、兄上は心配し過ぎなんだよ……


 ダルトンはメイヴィスの愛情が嬉しい反面気恥ずかしくもある、護ろうとした兄から過保護なほど護られて、じんわりと心が温かくなる。


「……兄上」


 メイヴィスの事を考えるダルトンの表情は穏やかで、その顔には美しい微笑みが浮かんでいる。
 その微笑みは幸福感に満ちており、見た者全てを虜にするほど魅力的だった。


 自分一人しか居ない部屋の中で【夜の天使】は無駄にその魅力を発揮していた。





 ◆◇◆◇◆◇




 頼まれていた魔導具を持参したギガは、執務室に入ると真っ先に質問した。


「メイ、あれ飲んでみたか?」


 ギガの瞳はキラキラと輝いて、ウキウキそわそわニコニコと、とても楽しそうだった。そんな彼を怪しみつつメイヴィスは答える。


「いや、まだ飲んでいない」


 あれとは蛍光ピンクの液体の事だ、まだ飲んでいないと知ると、ギガはガッカリして服用を促した。


「そうか、早く飲んだ方がいいぞ、薬も出来立てが一番だからな」


 …怪しい、やはり碌な薬じゃなかったか…


 メイヴィスは眼を細めて疑い深くギガを見た、ギガの体が急にびくんっとなる。


「あれっ、なんか今ピリッとした、メイ?」


 軽く戸惑っているギガをメイヴィスが睨む、目力が半端なく強い、バチバチしている。


「ギガ、白状しろあの薬は何だ?」


「心配しなくても毒じゃない、あっ、今ビリっとした、メイ?」


 早く白状すれば良いのに少し不安そうな顔をしながらも、ギガはまだシラを切るつもりらしい、メイヴィスは罪人を見る目つきでギガを見る。


「あ、あ、あ、あ、なんかビリビリしてる、痛い痛い、メイ!、言うよ、言うから」


 メイヴィスの魔力で痺れたギガが、恨めしげにメイヴィスを睨んでブツブツと文句を言う。


「俺はメイの為にあの薬を作ったんだぞ!、俺の友情に対して電撃を返すとは本当に酷い奴だ、凄く痛かったぞ」


「いいから早く吐け、あれは一体何の薬だ?」


 メイヴィスが催促すると、不満気だったギガの顔がニヤニヤ笑いに変わる。


「あれは飲んだらフェロモンの量が爆発的に増えて、ダルトン並みに女性にモテる薬だ」


「何だと!、お前そんな危険なものを私に飲ませるつもりだったのか?」


 ギガが変人だと知ってはいるが、今までの薬の中でもかなり酷い部類に入る。


「この間、女性にモテない話をした時メイが悲しそうだったから作って見たんだ、モテるから早く飲んでみろよ」


「…………ギガ」


 メイヴィスが飲んだら王城内が大混乱になったかも知れないのに、ギガはにこにこと自慢気だ、メイヴィスはげんなりした。


 ……知ってる、分かってる、ギガはこんな奴だって、だが危なかった……


 ギガは変人で発想が少し変わっているが根は素直な良い奴で、全て善意から行動しているのは間違いない。
 彼を良く知るメイヴィスは、ギガを責める事はせずに話題を変えた。


「試すのは今度にするよ、それより頼んでいた魔導具は出来たのか?」


「ああ、面白くて色々と作ってみた」


 ギガが机の上に幾つも魔導具を並べた、どれもアクセサリータイプで見栄えも良く、堂々と付けても違和感がなさそうだ。


「凄いな、流石はギガだ」


 メイヴィスがギガの才能に感嘆する、褒められたギガは鼻高々で説明を始める。


「まずこれだ、この腕輪を付けると他から見て別の人間に見える魔導具だ、ダルトンがつけたら他人の眼を欺く事が出来る」


「それは凄いな、その効果の持続時間はどの位だ?」


「今ここに有る物は全て10日間位かな、フルで使い続けたらその位で魔力が切れる、メイが魔石に魔力を入れればまた使えるけど、それで良かったか?」


「ああ問題ない、こっちの指輪は何だ?」


「それは対になっていて、首輪ネックレスを付けた女性が指輪を付けた男性を見たら、男性が自分の好きな人に見えるんだ、本人から引き離す陽動とかに使えるぞ」


「凄いな、そんな物を作れるなんて、流石だよギガ、天才だな」


「そうだろう、そうだろう、もっと俺を褒めろ、メイ」


 おだてに弱いギガはメイヴィスの褒め言葉に上機嫌で説明を続けて、残りの魔導具の説明も一通り終えると魔法省へ帰って行った。




 ◆◇◆◇◆◇




 ギガから魔導具を受け取ったメイヴィスは、その日の内にダルトンと会って幾つか魔導具を渡した。
 メイヴィスは魔導具の腕輪を手に取ると、最愛の弟を守ってくれるそれを自らダルトンの腕に付ける。


「この腕輪を付ければ、お前の姿が別人に見える筈だ、もうイザベラを気にせずに自由に離宮を出入り出来るぞ」


 嬉しそうに腕輪を付けるメイヴィスを見て、ダルトンは照れくさくなる。


「兄上、少し過保護では有りませんか」


「何を言うダルトン、お前に何かあったらどうする、用心するに越したことは無い」


 弟に意見された兄は自分の意見を押し通す、ダルトンは相変わらずな兄に心が和む。


 昔からメイヴィスはダルトンの事になると自分の意見を押し通した、そして様々な外圧から護ってくれた、だからダルトンも自分に出来る唯一の方法でメイヴィスを護ってきた。


 カリスマオーラを持つメイヴィスは、女性よりも男性から崇拝される事が多い、だが女性にモテない訳では無い、変な女性が近づかないようにダルトンが常に牽制をしていたのだ。


 ダルトンは昔から女性達の興味を引いた、それは淡いものから性的なものまで幅広い、メイヴィスを好きな女性でもダルトンが迫れば大抵は堕ちた。メイヴィスを護りたいダルトンが持つ唯一有効な手段がハニートラップだった。


 第二王子は魔性の魅力を持っている、ハニートラップをしていた事も有って、ダルトンの女性遍歴は多岐に渡る、イザベラごとき何でもないが、兄に関心を持たれるのはとても嬉しい。


「僕より兄上の方が心配です、あの女が何か仕掛けてくるかも知れません、注意して下さい」


 ダルトンは最愛の兄を心配する、何しろ憎々し気に睨まれていたのは彼の方なのだ。
 メイヴィスは自分を心配してくれる最愛の弟を慈愛に満ちた微笑みで安心させる。


「大丈夫だダルトン、御前試合の頃には落ち着くさ、もう少しの辛抱だ」


 メイヴィスとダルトン、異母兄弟至上主義の思想を持つ二人は、いつも通り兄弟愛が濃密な時間を過ごしていた。


 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】絶倫にイかされ逝きました

桜 ちひろ
恋愛
性欲と金銭的に満たされるからという理由で風俗店で働いていた。 いつもと変わらず仕事をこなすだけ。と思っていたが 巨根、絶倫、執着攻め気味なお客さんとのプレイに夢中になり、ぐずぐずにされてしまう。 隣の部屋にいるキャストにも聞こえるくらい喘ぎ、仕事を忘れてイきまくる。 1日貸切でプレイしたのにも関わらず、勤務外にも続きを求めてアフターまでセックスしまくるお話です。 巨根、絶倫、連続絶頂、潮吹き、カーセックス、中出しあり。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...