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第六章 愛民の王太子 メイヴィス VS 仮面伯爵
12・煌く太陽は愛民の王太子
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フィッツバトン邸に潜入したイオニスとマーリオは、そこで二人の仮面伯爵と鉢合わせをする。
マーリオは仮面伯爵に頭部を殴打されて昏倒し、イオニスは絶体絶命の危機を迎えていた。
仮面の男がイオニスに向かって置物を振り上げた、そして振り下ろした。
「死ね!!」
イオニスは咄嗟に両腕で頭を庇うと、身を屈めて衝撃に備えた。だが、振り下ろされた筈の置物は、イオニスの頭上で止まっていた。
「どういう事だ!、何故当たらない」
「!!」
イオニスの上部に半円を描いて、風の防御壁が展開されていた。
……マーリオ!!、こんな事が出来るのはマーリオしかいない……
イオニスがマーリオを見ると、倒れたままで動けないようだが、ぎりぎりの意識でイオニスを護ってくれている。
「……嬢ちゃん…逃げろ」
「ちっ!、この黒髪、能力者だったのか、お前から始末してやる」
置物を持った方がマーリオに向かって歩き出した、イオニスは仮面の男を突き飛ばしてマーリオの元へ駆け寄ると、彼に覆い被さった。
「………嬢ちゃん……早く…逃……げ……ろ」
マーリオは段々意識が薄れていく
「マーリオを置いて逃げられないよ」
イオニスはマーリオを背後に庇い、正面を向いて仮面伯爵を睨みつけた、二人の仮面伯爵がゆっくり近づいてくる。
イオニスは護身用の短剣を取り出して構えた、男二人に不利な事は分かっている。
「くっ、そんな小さな剣じゃ何にも出来ないぜ」
「出来なくてもやるんだ!」
…怖くても、敵わなくても、今、マーリオを護れるのは僕しかいないんだ…
仮面伯爵の一人が馬鹿にして、イオニスに向かって長剣を振り下ろして来た。イオニスは短剣で受け止めたが、勢いは止められず剣を弾かれた、そしてそのまま切られる……
……今度こそ、殺される!!……
イオニスの身が切られる瞬間に胸のペンダントが光輝いて、剣撃ごと仮面伯爵を弾き飛ばした、役目を終えた守護石は砕けおちる。
「うううっ、クソっ、何が起きた」
「何だこれは?、一体どうなっている」
二人の仮面伯爵は不測の事態に困惑している、イオニスは砕けた琥珀石を見つめた。
…メイヴィス兄上がくれたペンダント、兄上が僕を守ってくれたんだ……兄上………
メイヴィスに感謝するイオニスの目の前で、黄金の魔法陣が展開され始めた、やがて床一面が金色に輝くと中央に光玉が現れる。
その姿をイオニスは見た事が有った、昔ダルトンと一緒に誘拐された時、助けに来てくれた姿と同じ、ずっと記憶に残る忘れられないあの姿だった。
黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥はバチバチと輝いている、周りには光の粒子が漂い煌めいていて、それは人間ではなく神々しい別の……
…ああ、兄上はやはり、煌く太陽なのだ…
「イオニス、無事か?」
メイヴィスが心配して確認してくるが、色々な思いが入り乱れたイオニスは、頷くことしか出来ない。そんなイオニスをメイヴィスは優しい顔で見る。
「そうか、少し待っていろ」
メイヴィスはそう声を掛けると、執務室まで後退していた二人の仮面伯爵の所へ足を踏み出した。
◆◇◆◇◆◇
この国には奴隷商人や誘拐犯に適用される、特殊な罰則規定がある。
[奴隷売買に関係した者及び誘拐を行った者に対する行いは全て不問に付す]
これは幼い頃に、第二王子と第三王子が誘拐された事に端を発して、新たに規定された罰則だった、王国民を護るために一般人にも力を貸して貰い、犯行を防ぐ事を目的として制定されたものだ。
この制定の裏にはメイヴィスがいる。
これを利用した過剰な懲罰行為を誘発する悪法だとの謗りも受けた、実際、幾つかそういった事例が見受けられたが、それよりも抑止力の方が大きいと考えている、制定前と制定後では明らかに行方不明者の数が違う。
かつて、イオニスやダルトンを狙ったのは各国を股にかけた犯罪組織だった、二人の他にも数人が攫われており、単なる金銭目的の誘拐では無く、ある者は人身売買オークションにかけ、ある者は奴隷として売るつもりだったと後に分かった。
王子を攫うほどの巨大な悪に、小さな善では負けてしまう、綺麗事だけでは人々は守れない、悪法であろうと何だろうと民を護る為に必要なら使う。
人々を護れるなら己が罵られようが悪に染まろうが構わない、メイヴィスはそう考えている。
そして今、此処、目の前にも悪がいる。
◆◇◆◇◆◇
金色に輝く綺麗な悪魔が近づいてくる。
グレアムとキッグスは近づいてくるメイヴィスに魂を奪われた、突然現れた自分達よりも明らかに高位で、神々しいほど美しい存在。
恐怖よりも畏怖、メイヴィスを凝視する二人は重苦しい何かを感じて動けなくなった。
やがて綺麗な悪魔の歩みが止まると、グレアムとキッグスは、ガクガクと体と脳を揺さぶる震動と、全身を突き刺す激しい痛みと痺れを感じて気を失った。
そして部屋からは金色の輝きが失われた。
遠隔魔法陣が消えてもメイヴィスはそこに留まりイオニスの方へ戻る。
「終わったよ、イオニス。もう大丈夫だ、よく頑張ったな」
「……兄上」
金色に輝く姿から普段の姿に戻ったメイヴィスが、マーリオの側にくっついたままのイオニスに声をかけた。
いつもと変わらない穏やかな微笑みに、イオニスは堪らなくなって、立ち上がってメイヴィスに抱きついた。
「ごめんなさい、メイヴィス兄上、僕、僕、ちゃんと出来ると思ったのに……ひっ、ひっく、マーリオにも迷惑をかけて……ひっ、ひっ、ひっく…ごめんなさい……ひっく、駄目だって言われたのに…」
イオニスは殺されそうになった恐怖と倒れたマーリオを心配する気持ち、突然現れて助けてくれたメイヴィスに対する思いと、心の中が ぐちゃぐちゃ に混乱して泣き出した。
「お前が無事だったなら、それだけで良いんだ、多分マーリオもそう思っている」
メイヴィスはかつてと同じく異母弟を護れた事に安堵して、腕の中の大切な存在を抱き締めた。
「主!、ご無事ですか!」
部屋にホーリィが駆け込んできた。
「ホーリィ、来てくれたのか、もう終わった」
メイヴィスの言葉を聞いたホーリィ事、ホーリィ・ダン・ジョン=スカルティは、ガックリと膝をついた。
…また主の黄金に輝く姿を見逃してしまった…
項垂れるホーリィの後から、アドとグリードが駆け込んできた。
「マーリオ、無事か!?」
「殿下、ご無事ですか!!」
アド事、アド・ベン・チャーリー=ベアードがマーリオに駆け寄る、マーリオは意識を回復しており何とか自力で動けている。
グリードとジョンが二人の仮面伯爵を捕縛し連行して行く、チャーリーは医療班の所へマーリオを連れて行った。
グレアムが行った奴隷売買の記録は後日精査する事になり、執務室を閉鎖して見張りを残すと、メイヴィスとイオニスは騎士団が用意した馬車で王宮まで戻った。
イオニスは疲れて眠っている、その寝姿を見てメイヴィスは自分が雷帝だと知った時の事を反芻する、狂王のような破壊神では無く、人々を護る守護神になろうと誓ったあの日の事を。
人々を護る為には善悪どちらも使う必要がある、ウィリアムやシャーロットは純粋な善、グリードは中間、ホーリィやアドはどちらかと言えば悪、そして自身はカメレオンだ。
異母弟達が攫われた時ホーリィやアドも攫われて同じ場所に囚われていた、運良く二人を助ける事が出来たのは幸運だった、攻撃魔法が使える彼等は使い捨ての傭兵として売られる寸前だったのだ
偶然助けた二人は騎士となったが、同じ孤児院にいて攫われた他の子供達は、まだ殆どが行方知れずのままだ。探し続けて辺境伯領で奴隷落ちした二人をようやく保護する事が出来たのだ。
ホーリィやアドは奴隷売買に関係する事は過敏に反応する、一連の経験から私も奴隷売買に対して敵愾心がある。
多少やり過ぎの感もあるが、ホーリィやアドは人身売買に関して同じ熱意を持って闘う、ある意味同士の様な存在でもある。
国内で人身売買を根絶やしに出来るなら、手段は善でも悪でもどちらでも良いのだ。
単なる楽園の管理人を名乗ったサイラスでは無く、かつてダルトンやイオニスを攫い、ジャスティンを狙っていた、本物の管理人といずれ対峙する日が来るのかも知れない。
だがこの先何が起きても、護るべき存在を護る、ただそれだけだ。今日、異母弟を護ったように……イオニスは安心して眠っている。
その安らかな寝顔がメイヴィスに取って至福の褒美でもある。異母弟達の幸せ、周囲の人々の幸せ、王国民の幸せ、皆を護る為に雷帝の力がある。
……狂王と呼ばれた雷帝もいたが、自身が没した後には守護の雷帝と呼ばれたいものだ……
王宮につくと眠るイオニスを抱いて馬車から下ろす、小柄な彼は軽くてまだ若干幼さが残っている。
五歳のイオニス、七歳のダルトン、十歳の自分、誘拐犯から奪還した二人と寄り添って三人で眠った事を思い出した。
メイヴィスは、もう一人の異母弟ダルトンにも会いたくなる、星を散りばめた夜空の瞳が見たい。
……明日、イオニスと一緒に会いに行こう……
護るべき存在を護れた事に満足して、メイヴィスもイオニスの側で眠りについた。
ー 愛民の王太子 完 ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
* 関連話 *
私が護るべき存在【王太子は濃密】
マーリオは仮面伯爵に頭部を殴打されて昏倒し、イオニスは絶体絶命の危機を迎えていた。
仮面の男がイオニスに向かって置物を振り上げた、そして振り下ろした。
「死ね!!」
イオニスは咄嗟に両腕で頭を庇うと、身を屈めて衝撃に備えた。だが、振り下ろされた筈の置物は、イオニスの頭上で止まっていた。
「どういう事だ!、何故当たらない」
「!!」
イオニスの上部に半円を描いて、風の防御壁が展開されていた。
……マーリオ!!、こんな事が出来るのはマーリオしかいない……
イオニスがマーリオを見ると、倒れたままで動けないようだが、ぎりぎりの意識でイオニスを護ってくれている。
「……嬢ちゃん…逃げろ」
「ちっ!、この黒髪、能力者だったのか、お前から始末してやる」
置物を持った方がマーリオに向かって歩き出した、イオニスは仮面の男を突き飛ばしてマーリオの元へ駆け寄ると、彼に覆い被さった。
「………嬢ちゃん……早く…逃……げ……ろ」
マーリオは段々意識が薄れていく
「マーリオを置いて逃げられないよ」
イオニスはマーリオを背後に庇い、正面を向いて仮面伯爵を睨みつけた、二人の仮面伯爵がゆっくり近づいてくる。
イオニスは護身用の短剣を取り出して構えた、男二人に不利な事は分かっている。
「くっ、そんな小さな剣じゃ何にも出来ないぜ」
「出来なくてもやるんだ!」
…怖くても、敵わなくても、今、マーリオを護れるのは僕しかいないんだ…
仮面伯爵の一人が馬鹿にして、イオニスに向かって長剣を振り下ろして来た。イオニスは短剣で受け止めたが、勢いは止められず剣を弾かれた、そしてそのまま切られる……
……今度こそ、殺される!!……
イオニスの身が切られる瞬間に胸のペンダントが光輝いて、剣撃ごと仮面伯爵を弾き飛ばした、役目を終えた守護石は砕けおちる。
「うううっ、クソっ、何が起きた」
「何だこれは?、一体どうなっている」
二人の仮面伯爵は不測の事態に困惑している、イオニスは砕けた琥珀石を見つめた。
…メイヴィス兄上がくれたペンダント、兄上が僕を守ってくれたんだ……兄上………
メイヴィスに感謝するイオニスの目の前で、黄金の魔法陣が展開され始めた、やがて床一面が金色に輝くと中央に光玉が現れる。
その姿をイオニスは見た事が有った、昔ダルトンと一緒に誘拐された時、助けに来てくれた姿と同じ、ずっと記憶に残る忘れられないあの姿だった。
黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥はバチバチと輝いている、周りには光の粒子が漂い煌めいていて、それは人間ではなく神々しい別の……
…ああ、兄上はやはり、煌く太陽なのだ…
「イオニス、無事か?」
メイヴィスが心配して確認してくるが、色々な思いが入り乱れたイオニスは、頷くことしか出来ない。そんなイオニスをメイヴィスは優しい顔で見る。
「そうか、少し待っていろ」
メイヴィスはそう声を掛けると、執務室まで後退していた二人の仮面伯爵の所へ足を踏み出した。
◆◇◆◇◆◇
この国には奴隷商人や誘拐犯に適用される、特殊な罰則規定がある。
[奴隷売買に関係した者及び誘拐を行った者に対する行いは全て不問に付す]
これは幼い頃に、第二王子と第三王子が誘拐された事に端を発して、新たに規定された罰則だった、王国民を護るために一般人にも力を貸して貰い、犯行を防ぐ事を目的として制定されたものだ。
この制定の裏にはメイヴィスがいる。
これを利用した過剰な懲罰行為を誘発する悪法だとの謗りも受けた、実際、幾つかそういった事例が見受けられたが、それよりも抑止力の方が大きいと考えている、制定前と制定後では明らかに行方不明者の数が違う。
かつて、イオニスやダルトンを狙ったのは各国を股にかけた犯罪組織だった、二人の他にも数人が攫われており、単なる金銭目的の誘拐では無く、ある者は人身売買オークションにかけ、ある者は奴隷として売るつもりだったと後に分かった。
王子を攫うほどの巨大な悪に、小さな善では負けてしまう、綺麗事だけでは人々は守れない、悪法であろうと何だろうと民を護る為に必要なら使う。
人々を護れるなら己が罵られようが悪に染まろうが構わない、メイヴィスはそう考えている。
そして今、此処、目の前にも悪がいる。
◆◇◆◇◆◇
金色に輝く綺麗な悪魔が近づいてくる。
グレアムとキッグスは近づいてくるメイヴィスに魂を奪われた、突然現れた自分達よりも明らかに高位で、神々しいほど美しい存在。
恐怖よりも畏怖、メイヴィスを凝視する二人は重苦しい何かを感じて動けなくなった。
やがて綺麗な悪魔の歩みが止まると、グレアムとキッグスは、ガクガクと体と脳を揺さぶる震動と、全身を突き刺す激しい痛みと痺れを感じて気を失った。
そして部屋からは金色の輝きが失われた。
遠隔魔法陣が消えてもメイヴィスはそこに留まりイオニスの方へ戻る。
「終わったよ、イオニス。もう大丈夫だ、よく頑張ったな」
「……兄上」
金色に輝く姿から普段の姿に戻ったメイヴィスが、マーリオの側にくっついたままのイオニスに声をかけた。
いつもと変わらない穏やかな微笑みに、イオニスは堪らなくなって、立ち上がってメイヴィスに抱きついた。
「ごめんなさい、メイヴィス兄上、僕、僕、ちゃんと出来ると思ったのに……ひっ、ひっく、マーリオにも迷惑をかけて……ひっ、ひっ、ひっく…ごめんなさい……ひっく、駄目だって言われたのに…」
イオニスは殺されそうになった恐怖と倒れたマーリオを心配する気持ち、突然現れて助けてくれたメイヴィスに対する思いと、心の中が ぐちゃぐちゃ に混乱して泣き出した。
「お前が無事だったなら、それだけで良いんだ、多分マーリオもそう思っている」
メイヴィスはかつてと同じく異母弟を護れた事に安堵して、腕の中の大切な存在を抱き締めた。
「主!、ご無事ですか!」
部屋にホーリィが駆け込んできた。
「ホーリィ、来てくれたのか、もう終わった」
メイヴィスの言葉を聞いたホーリィ事、ホーリィ・ダン・ジョン=スカルティは、ガックリと膝をついた。
…また主の黄金に輝く姿を見逃してしまった…
項垂れるホーリィの後から、アドとグリードが駆け込んできた。
「マーリオ、無事か!?」
「殿下、ご無事ですか!!」
アド事、アド・ベン・チャーリー=ベアードがマーリオに駆け寄る、マーリオは意識を回復しており何とか自力で動けている。
グリードとジョンが二人の仮面伯爵を捕縛し連行して行く、チャーリーは医療班の所へマーリオを連れて行った。
グレアムが行った奴隷売買の記録は後日精査する事になり、執務室を閉鎖して見張りを残すと、メイヴィスとイオニスは騎士団が用意した馬車で王宮まで戻った。
イオニスは疲れて眠っている、その寝姿を見てメイヴィスは自分が雷帝だと知った時の事を反芻する、狂王のような破壊神では無く、人々を護る守護神になろうと誓ったあの日の事を。
人々を護る為には善悪どちらも使う必要がある、ウィリアムやシャーロットは純粋な善、グリードは中間、ホーリィやアドはどちらかと言えば悪、そして自身はカメレオンだ。
異母弟達が攫われた時ホーリィやアドも攫われて同じ場所に囚われていた、運良く二人を助ける事が出来たのは幸運だった、攻撃魔法が使える彼等は使い捨ての傭兵として売られる寸前だったのだ
偶然助けた二人は騎士となったが、同じ孤児院にいて攫われた他の子供達は、まだ殆どが行方知れずのままだ。探し続けて辺境伯領で奴隷落ちした二人をようやく保護する事が出来たのだ。
ホーリィやアドは奴隷売買に関係する事は過敏に反応する、一連の経験から私も奴隷売買に対して敵愾心がある。
多少やり過ぎの感もあるが、ホーリィやアドは人身売買に関して同じ熱意を持って闘う、ある意味同士の様な存在でもある。
国内で人身売買を根絶やしに出来るなら、手段は善でも悪でもどちらでも良いのだ。
単なる楽園の管理人を名乗ったサイラスでは無く、かつてダルトンやイオニスを攫い、ジャスティンを狙っていた、本物の管理人といずれ対峙する日が来るのかも知れない。
だがこの先何が起きても、護るべき存在を護る、ただそれだけだ。今日、異母弟を護ったように……イオニスは安心して眠っている。
その安らかな寝顔がメイヴィスに取って至福の褒美でもある。異母弟達の幸せ、周囲の人々の幸せ、王国民の幸せ、皆を護る為に雷帝の力がある。
……狂王と呼ばれた雷帝もいたが、自身が没した後には守護の雷帝と呼ばれたいものだ……
王宮につくと眠るイオニスを抱いて馬車から下ろす、小柄な彼は軽くてまだ若干幼さが残っている。
五歳のイオニス、七歳のダルトン、十歳の自分、誘拐犯から奪還した二人と寄り添って三人で眠った事を思い出した。
メイヴィスは、もう一人の異母弟ダルトンにも会いたくなる、星を散りばめた夜空の瞳が見たい。
……明日、イオニスと一緒に会いに行こう……
護るべき存在を護れた事に満足して、メイヴィスもイオニスの側で眠りについた。
ー 愛民の王太子 完 ー
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私が護るべき存在【王太子は濃密】
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