47 / 88
第五章 王太子の愛情 メイヴィス×シャーロット❷
8・ザカリー辺境伯邸
しおりを挟む
このラグランド王国には、かつて狂王と呼ばれた雷帝がいた。狂王は近隣の三ヵ国の王城をたった一人で襲撃すると、僅か三十日で三ヵ国の王城を支配して雷帝の恐ろしさを世に知らしめた。
ラグランドに於ける辺境伯とは名ばかりの存在だ。本来なら国境を守護する為の武力に長けた者達の筈だが、かつて三十日戦争を起こした狂王を知る国々は、この国に雷帝がいる限り攻めてはこない。
名ばかりの辺境伯ザカリーは武力とは縁もなく、背も低くて小太りな男だった。そんなザカリーにとって隣国との緊張感がない辺境は、王都の役人の目が届かない楽園と化していた。
好きなだけ不正を行い金を儲けて贅沢な暮らしをしていたが、聖女の巡回治癒に同行してきた王太子が地方視察に帯同させた監査官によって、次々と不正が暴かれて隠していた書類を証拠として突き付けられた。
そして今ザカリーは邸の一室に軟禁されて、扉の前には見張りが立っている。
・・・・・やはり、あの王太子は馬鹿に出来ない男だった、恐らく巡回治癒と地方視察はザカリーが怪しまない為の隠れ蓑で、真の目的はザカリーの監査だったのだろう。そうで無ければ監査官を帯同したりはしない。・・・・
「どうやらかなり狡猾な男だったか」
・・・・我が領下に来れば我が邸に滞在するのは普通で誰もその事を疑いもしない。来た時にはもう証拠も揃っていた、いつ探られたのかも解らない。雷帝として派手な動きをしないのも計算のうちか?・・・・
「だが、まだだ。あの男の弱みを握ればこの状況を覆せる、あの企みが役に立ちそうだ」
軟禁されているのはザカリーとガラムの二人で、それぞれ別々の部屋にいるが、他の者はある程度の自由が与えられている様だ、ならばプリシラは動ける筈だ。
ノックの音がして代理執事のマオが入室して来た。
「旦那様、王太子殿下と聖女の一行が邸に到着されました、当初の予定通りのお部屋へ案内をしております」
「マオ、お前は自由に動けるのか?」
「はい、私は代理執事でまだこちらの邸での日が浅い為、普段通りに業務をこなす様にと申し渡されました」
「そうか、プリシラは如何している?」
「はい、プリシラ様は出入り禁止になっている旦那様の書斎と私室以外は、自由に動かれております」
「では、これをプリシラに渡してくれ」
ザカリーはマオに手紙をわたす、それを受け取ったマオは他に用事が無いかザカリーに確認すると部屋を出ていった。
部屋を出たマオは一度自室に戻った。そしてザカリーの手紙を盗み読みをすると笑い出した。
「あはははは、こりゃいいや。このまま黙ってやらせるか?、くっくっくっくっ」
マオはひとしきり笑った後で厨房に行き、紅茶を用意すると特別貴賓室へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
ザカリー邸の特別貴賓室で寛いでいたメイヴィスは、マーリオからの報告を聞いていた。
「奴隷として扱われていた人々は無事に救助出来たんだな?」
「ああ、問題ない、健康状態もそう悪く無かった。食事を取らせて今は邸内の空いていた部屋で休ませている」
マーリオから事前に連絡を受けていたグリードが部下に命じて彼らを救助させていた。今回のザカリーに関係した一連の事はメイヴィスが邸に入る前に全てが終わっている。
「それで、探し物はみつかったのか?」
「ああ、二つな」
「そうか、良かったな」
紅茶を飲んでいたメイヴィスはマーリオが愉快なそうな顔で笑いを噛み殺している事に気付いた。
「何だ、マーリオ、何が可笑しい?」
ニヤニヤしながらマーリオが手紙を差し出してくる、それを受け取って中を見たメイヴィスは危うく紅茶を噴き出す所だった。
「なっ何だ、これは!!」
「本当はそれ、教えたく無かったんだけど、でも後で叱られるのは嫌だからな、くっくっくっくっ、どーする?、主」
もはや笑いを噛み殺す気も無くなったマーリオが笑い声を上げながら聞いて来る。自分に対するとんでもない企てを知ったメイヴィスは渋面顔で指示を出した。
「取り敢えずこれは預かる。お前は一旦下がってグリードに来る様に伝えてくれ」
「了解、どうなるのか楽しみだなあ」
苦虫を噛み潰した様な顔のメイヴィスとは反対に、マーリオは益々ニヤニヤしながら茶器を下げて部屋を出た、そして入れ違いにグリードが入室して来る。
「メイヴィス殿下、お呼びですか?」
グリードは苦々しい顔をしているメイヴィスを見て、何か問題が起きた事を察するが、メイヴィスはちらっとグリードを見るだけで言葉を発しない。
「殿下、何か問題が生じたのですか?」
グリードが訝しげに問いかけると、メイヴィスは嫌そうな顔をして無言で手紙を渡して来た。それを受け取り読んだグリードは複雑な顔になる。
「まず殿下のお考えをお聞かせ下さい」
「考えるまでも無いだろう!、このままコレを握り潰せばいいだけの事だ!」
珍しく激昂したメイヴィスが強い口調でグリードに話す、まあ手紙の内容的に殿下が憤慨するのは仕方がない。
「チャーリーに相手をさせましょう、今の所あの女は捕縛出来ませんが、これに便乗すれば罪状を追わせる事が出来ます」
メイヴィスはグリードの言葉に不承不承頷いた。
「・・・分かった。グリードこの件はお前に任せる、手筈が整ったら教えてくれ」
ザカリー達の不正を知って尚、止める事もなく贅沢をしていた女も同罪だ。多少の犠牲を払っても女を処罰出来るのなら致し方ないとメイヴィスは諦めた。
ラグランドに於ける辺境伯とは名ばかりの存在だ。本来なら国境を守護する為の武力に長けた者達の筈だが、かつて三十日戦争を起こした狂王を知る国々は、この国に雷帝がいる限り攻めてはこない。
名ばかりの辺境伯ザカリーは武力とは縁もなく、背も低くて小太りな男だった。そんなザカリーにとって隣国との緊張感がない辺境は、王都の役人の目が届かない楽園と化していた。
好きなだけ不正を行い金を儲けて贅沢な暮らしをしていたが、聖女の巡回治癒に同行してきた王太子が地方視察に帯同させた監査官によって、次々と不正が暴かれて隠していた書類を証拠として突き付けられた。
そして今ザカリーは邸の一室に軟禁されて、扉の前には見張りが立っている。
・・・・・やはり、あの王太子は馬鹿に出来ない男だった、恐らく巡回治癒と地方視察はザカリーが怪しまない為の隠れ蓑で、真の目的はザカリーの監査だったのだろう。そうで無ければ監査官を帯同したりはしない。・・・・
「どうやらかなり狡猾な男だったか」
・・・・我が領下に来れば我が邸に滞在するのは普通で誰もその事を疑いもしない。来た時にはもう証拠も揃っていた、いつ探られたのかも解らない。雷帝として派手な動きをしないのも計算のうちか?・・・・
「だが、まだだ。あの男の弱みを握ればこの状況を覆せる、あの企みが役に立ちそうだ」
軟禁されているのはザカリーとガラムの二人で、それぞれ別々の部屋にいるが、他の者はある程度の自由が与えられている様だ、ならばプリシラは動ける筈だ。
ノックの音がして代理執事のマオが入室して来た。
「旦那様、王太子殿下と聖女の一行が邸に到着されました、当初の予定通りのお部屋へ案内をしております」
「マオ、お前は自由に動けるのか?」
「はい、私は代理執事でまだこちらの邸での日が浅い為、普段通りに業務をこなす様にと申し渡されました」
「そうか、プリシラは如何している?」
「はい、プリシラ様は出入り禁止になっている旦那様の書斎と私室以外は、自由に動かれております」
「では、これをプリシラに渡してくれ」
ザカリーはマオに手紙をわたす、それを受け取ったマオは他に用事が無いかザカリーに確認すると部屋を出ていった。
部屋を出たマオは一度自室に戻った。そしてザカリーの手紙を盗み読みをすると笑い出した。
「あはははは、こりゃいいや。このまま黙ってやらせるか?、くっくっくっくっ」
マオはひとしきり笑った後で厨房に行き、紅茶を用意すると特別貴賓室へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
ザカリー邸の特別貴賓室で寛いでいたメイヴィスは、マーリオからの報告を聞いていた。
「奴隷として扱われていた人々は無事に救助出来たんだな?」
「ああ、問題ない、健康状態もそう悪く無かった。食事を取らせて今は邸内の空いていた部屋で休ませている」
マーリオから事前に連絡を受けていたグリードが部下に命じて彼らを救助させていた。今回のザカリーに関係した一連の事はメイヴィスが邸に入る前に全てが終わっている。
「それで、探し物はみつかったのか?」
「ああ、二つな」
「そうか、良かったな」
紅茶を飲んでいたメイヴィスはマーリオが愉快なそうな顔で笑いを噛み殺している事に気付いた。
「何だ、マーリオ、何が可笑しい?」
ニヤニヤしながらマーリオが手紙を差し出してくる、それを受け取って中を見たメイヴィスは危うく紅茶を噴き出す所だった。
「なっ何だ、これは!!」
「本当はそれ、教えたく無かったんだけど、でも後で叱られるのは嫌だからな、くっくっくっくっ、どーする?、主」
もはや笑いを噛み殺す気も無くなったマーリオが笑い声を上げながら聞いて来る。自分に対するとんでもない企てを知ったメイヴィスは渋面顔で指示を出した。
「取り敢えずこれは預かる。お前は一旦下がってグリードに来る様に伝えてくれ」
「了解、どうなるのか楽しみだなあ」
苦虫を噛み潰した様な顔のメイヴィスとは反対に、マーリオは益々ニヤニヤしながら茶器を下げて部屋を出た、そして入れ違いにグリードが入室して来る。
「メイヴィス殿下、お呼びですか?」
グリードは苦々しい顔をしているメイヴィスを見て、何か問題が起きた事を察するが、メイヴィスはちらっとグリードを見るだけで言葉を発しない。
「殿下、何か問題が生じたのですか?」
グリードが訝しげに問いかけると、メイヴィスは嫌そうな顔をして無言で手紙を渡して来た。それを受け取り読んだグリードは複雑な顔になる。
「まず殿下のお考えをお聞かせ下さい」
「考えるまでも無いだろう!、このままコレを握り潰せばいいだけの事だ!」
珍しく激昂したメイヴィスが強い口調でグリードに話す、まあ手紙の内容的に殿下が憤慨するのは仕方がない。
「チャーリーに相手をさせましょう、今の所あの女は捕縛出来ませんが、これに便乗すれば罪状を追わせる事が出来ます」
メイヴィスはグリードの言葉に不承不承頷いた。
「・・・分かった。グリードこの件はお前に任せる、手筈が整ったら教えてくれ」
ザカリー達の不正を知って尚、止める事もなく贅沢をしていた女も同罪だ。多少の犠牲を払っても女を処罰出来るのなら致し方ないとメイヴィスは諦めた。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話
Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します!
R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!
「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。
古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。
まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。
ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。
ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。
【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話
なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。
結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。
ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。
「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」
その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ!
それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。
「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」
十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか?
◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。
◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。
夫のえっちな命令に従順になってしまう。
金髪青眼(隠れ爆乳)
◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。
黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ)
※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います!
※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。
ムーンライトノベルズからの転載になります
アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜
ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……?
※残酷な描写あり
⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。
ムーンライトノベルズ からの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる