【R18】傲慢な王子

やまたろ

文字の大きさ
上 下
8 / 88
第ニ章 王子の盲愛  ダルトン with メイヴィス

第三王子は憂いている

しおりを挟む
 この国には王子が三人いる。
 第一王子にして、王太子のメイヴィスと第二王子のダルトン、第三王子のイオニスである。


 三人とも母親の違う異母兄弟だが、驚くほど兄弟仲は良く、これまでも後継者争いなどは全く起こらなかった。


 そして二年後に、王太子である第一王子が即位し、新しい国王が誕生する事が決定した。それと同時に、急遽、新国王の結婚式も執り行われる事になり、異例の事態に国全体でお祝いムードが高まっている。


 王城内は、即位式や結婚式の準備に追われて、大臣や文官、武官や侍従やメイドに至るまで、其々がこれまでにない忙しさで、動き回っていた。活気に満ち普段より少し騒めいている中、主役である第一王子の執務室は静かだった。


 長兄メイヴィスの執務室を訪れたイオニスは、呆れて溜息をついた。何故なら、メイヴィスは横長のソファーに寝転がりながら、明らかに執務と関係のない流行りの本を、読んでいたからだ。


「ふぅ、兄上、少しゆったりし過ぎではありませんか?、ウィリーも困ってますよ」


ウィリーと呼ばれた側近のウィリアムは、確かに困り顔をしている。


「良いではないか、どうせ私のやる事は何も無い、私はお飾りだからな。」


 そう言うメイヴィスの見目は麗しい、肩上までの濃い金髪は柔らかなクセ毛で、目力の強い琥珀色の瞳、すっきりした鼻筋に鮮やかな唇、迫力のある美形だ。華美な装飾の式典衣裳に身を包めば、確かに綺麗な人形になるだろう。


 異母兄弟達は、それぞれ美しい容貌をしていた。母親が違うため髪色や瞳の色は全員違っていて、それぞれの持つ色合いから、長兄は金獅子、次兄は黒豹と呼ばれている。


 ちなみに僕は、白猫。
 獅子、豹ときて、猫って何?・・・僕、馬鹿にされてるのかな?・・・・・・もしそうなら、男の子だけど僕泣いちゃうぞ?


「何を言っているのですか、兄上が主役でしょ、即位式と結婚式をするのですよ、準備する事は山程あるはずでは?」


「あるなぁ、でも大体はダルトンに丸投げして任せている。あいつは凄く有能だから私がやるより処理も早くて、宰相や大臣、文官も皆喜んでる。」


 悪びれもせず、呑気な態度の長兄に苦笑する。


「いや、まあ、確かにダルトン兄上は執務能力においては、格別に有能ですからね。」


 女性関係は問題が有りすぎるが、その一点を除けば、ダルトンは完璧だった。主に外交は長兄、内政は次兄が担っている。


「そうだね。で、私は時間に余裕が出来たし、急に聖女と結婚する事になったから、聖女に対して市井はどんな感情を持っているのか知りたくて、聖女関連の本を読んでいた訳だ。」


「聖女関連って、それ単なる流行りの恋愛本ですよね?、よくある王子と聖女の結婚する前までの恋物語。兄上が聖女と関わるのは結婚後でしょ、何の参考にもならないような。」


 尊敬出来る兄だが、全てに於いて感情の揺れが少ない人で、自身の結婚についても他人事のような態度を見せている、だがイオニスは大好きな長兄には、絶対幸せになって欲しいと願っている。


 メイヴィスが長兄でなかったら、弟兄弟は今とは比べ物にならない程、殺伐とした悲惨な日々を過ごしていた筈だ。
 メイヴィスの母は正妃で、彼は血統も能力も全てに於いて優秀だった。弱い立場の弟達を可愛がり自分の庇護下に置いて、様々な悪意や危険から守ってくれた。

 
 イオニスは子供の頃ダルトンと共に攫われた事がある、イオニスは5才、ダルトンは7才だった。

 
 第二王子と第三王子と言う立場は第一王子に比べると警備も甘く、内部に手引きをした者がいた事も有り、簡単に城の外へ連れ出された。
 幸い発見が早かった為、事なきを得たが、いち早く駆け付けて助けてくれたのが、当時10才のメイヴィスだった。
 
 可笑しな話だが、自分達は攫われて怖かったとかは全く覚えていなくて、記憶に有るのは、犯人と対峙した兄の、黄金色の髪が逆立ち、琥珀色の瞳は苛烈な色で輝き、まさに怒れる金獅子のオーラを纏ったメイヴィスの美しい姿だけだ。


 その時の兄上の姿は、未だにイオニスの脳裏に焼き付いて離れない、恐らくダルトンもそうだと思う。そして二人はメイヴィスに対して崇拝に近い気持ちを持っている。

 
 メイヴィスの性格は普段は飄々として掴みどころが無いが、清濁を合わせ持ち、視野の広い賢王になると皆が期待している、後は、似合の王妃が欲しいところだ。


「兄上、好きな女性とかいないの?」


 長兄は元々、自分は政略結婚に決まっていると醒めていて、急に結婚相手が変わっても全く動揺していない。


「特には。国の利害関係で政略結婚するだろう私が、恋愛とかしたら周りが迷惑だろう、多分当人達も報われないし。ま、でもお前は遠慮せずに好きにしろよ。」


「兄上・・・」

 イオニスは何とも言えない気持ちになる、切ないような、もどかしいような・・・自分には叶わない自由を弟には与える、メイヴィスはどこまでも優しい兄だった。


 彼は12才の時に、隣国の姫と婚約を結んだが、つい最近、隣国の事情により婚約が解消された。急遽、国内から婚約者を探す事になったが、年齢の釣り合う令嬢は皆もう婚約や婚姻済みで、仕方なく神殿との関係強化の名目で、聖女との婚姻が決まったのだ。


 イオニスは大好きな長兄の結婚を心から祝いたいのに、残り物の花嫁を迎えるような気がして、何となく憂いてしまうのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話

Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します! R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話

なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。 結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。  ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。 「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」 その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ! それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。 「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」 十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか? ◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。 ◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。 夫のえっちな命令に従順になってしまう。 金髪青眼(隠れ爆乳) ◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。 黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ) ※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います! ※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。 ムーンライトノベルズからの転載になります アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...