【R18】傲慢な王子

やまたろ

文字の大きさ
上 下
1 / 88

令嬢の婚約者は眠っている

しおりを挟む
 私は、グレース・ランバート。
 ランバート侯爵家の長女だ。
 今、王城の広い廊下をダルトン第二王子殿下の執務室へと向かって歩いている。


 ダルトン殿下とは、側近を務めている婚約者のジャスティンを通して知己を得て以来、友人の一人として接する許可を頂き、親しくさせて貰っている。
 殿下は優しい方で、私の事も色々と気遣って下さる。


「やあ、グレース、よく来てくれたね、変わりは無いかな?」


 殿下は穏やかな笑顔を浮かべて出迎えてくれた、どうやら執務机の上にある大量の書類の処理をしていた模様だ。


「ダルトン殿下、執務中にお邪魔をして申し訳ありません」


「良いんだグレース、僕が君を呼んだんだから、気にしないで。ジャスティンには早く元気になってもらわないと、このままだと僕は書類の山に埋もれてしまうよ」


 ダルトン殿下は青みがかった黒髪に青紺色の瞳の美形で、いまは優しい笑顔を浮かべて、私にソファーを勧めている。


「ジャスティンの様子はどうだい?」


 婚約者のジャスティンは、先週、殿下と執務室で紅茶を飲んだ後、急に昏倒し、眠り病を発症して今も意識が戻らず眠ったままだ。


「相変わらず、目覚める様子も無く、眠ったままです」


 眠り病は、緩やかな死の病として貴族の間では有名で、目覚め無ければ徐々に体が衰弱して、死に至るのだ。
 治療薬は無く、人によって症状の重さが違う、謎の多い病である。


「君は、ジャスティンとの婚約をどう考えているのかな? 解消しないの?」


「そんな事は、考えておりません。私達の婚約は政略的な物でしたが、時間をかけて気持ちを育み、いまではお互いを大切に思っております」


「でも、ジャスティンがこのまま目覚めなかったら、君は父である侯爵から、新たな婚約を結ばされるのではないのかな?」


「私は、彼が目覚めるまで待ちます。彼に万が一の事があれば、私は修道院へ行き、祈りを捧げます」


「・・・・・ふうん、健気だね。思ったより君達の絆が深いな・・・・これは、はっきりさせた方が良いかもね?」


 ダルトン殿下が思わせぶりだが、意味の分からない事を呟きながら、席を立ち執務机を回って、私の正面へ移動してきた。


 私はソファーから立ち上がり、殿下と向き合う。
 殿下はかなり近くまで来て、まるで内緒話をするかの様に顔をよせてきた。
 そして、甘える様に鼻先で耳たぶを擦りながら言った。


「ジャスティンとの婚約が解消するまで待ってやろうと思ったんだが、覚えておくと良い、あいつの生死には関係なく、グレース、君は俺の婚約者になり、俺の女になるんだ」


 いつも一人称は僕だった殿下が、急に荒ぶり俺と言う、普段の殿下とは別人みたいで、話した内容も含めて違和感と若干の恐れを感じて、距離を取るため下がろうとした。


 私の動きを見た殿下は、いきなり覆い被さるようにして、私を腕の中を閉じ込め、両手で私の尻をグッと掴み自分の方へと引き寄せた。


 顎を私の肩にのせて、体の前面を密着させ、尻肉をソフトに揉みしきだきながら、私の下腹部に己の昂りを押し付け腰をゆるく動かしてくる。


「ねぇグレース、分かる?、君といると、僕の体はいつもこうなんだ・・・グレース・・・君が欲しい・・・」


 あからさまな殿下の行動に驚き、私の顔は赤くなるが、側近、しかも友人として長く付き合ってきたジャスティンの命よりも、自身の欲望を優先する酷薄さに恐怖心が増す。


 本当にこれが優しかったダルトン殿下なのか、信じられない、裏切られた気持ちで涙が溢れてきた。


「泣いている君も、美しいね」


 ダルトン殿下の顔が近づき、流れた涙を吸い取る様に、目尻に、頬に、唇が触れるキスをしてきた。


「どうか、おやめ下さい、殿下」


 抱き寄せられ密着した体の間にある腕で殿下の胸板を推し、引き離す様に突っ張ると、意外とあっさり解放された。
 私は、殿下の顔を睨むように見据える。


「ジャスティンは必ず目を覚ますと信じています」


 綺麗な顔に魅惑的な微笑みを浮かべた殿下は、天使のごとく美しい。
 だが、私の耳たぶを喰みながら、吐息混じりに囁いたのは、悪魔の言葉だった。


「ふふ、どうだろうね? 結構強めの薬を使ったから、目覚め無いまま死んじゃうかも、、ね?」

「!!」

 怖気で身体が震えた。
 やはりこの男がジャスティンに薬を盛ったのだ!
 おかしな状況だと思っていた、疑いはあったが証拠はない。


 私は怒りが込み上げてきて、ダルトン殿下を睨むように見つめた。
 そして殿下も、私を見つめていた。


 私を見つめる殿下の瞳に、情欲がともっている。
 ・・・・いつからこんな瞳で私を見ていたのだろうか
 まさか、私を手に入れる為にこんな事を?
 このままでは、ジャスティンは目覚めるどころか、殺されるかもしれない。


「今日はもう帰るといい、グレース、君の気持ちを確認したかっただけだから。でも僕は君を諦めないよ、だから君は諦めて僕のものになって?」


 私は、彼と同じ部屋にいる事に耐えられず、退室の挨拶もせずに、執務室を飛び出した。


「またね、グレース、愛してるよ」


 扉が閉まる前に、殿下の甘い声が聞こえた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話

Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します! R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話

なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。 結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。  ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。 「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」 その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ! それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。 「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」 十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか? ◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。 ◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。 夫のえっちな命令に従順になってしまう。 金髪青眼(隠れ爆乳) ◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。 黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ) ※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います! ※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。 ムーンライトノベルズからの転載になります アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...